フランシスコの花束

 詩・韻文(短歌、俳句)

バッハの小フーガを聞きながら

2012-12-11 07:45:54 | POEMS(詩)

   バッハ小フーガを聞にながら

 木枯らしが舞う乾いた街道の
 人っ子一人いない町外れ
 仔犬が一匹
 自分のしっぽを追って
 くるくる廻る
 くるくる くるくる
 空には 光り輝く雲が
 ゆっくりと動いて
 日の微笑みを閉ざしては
 また開く その影は
 雲にも 日にも 美しく
 遙か地上の
 仔犬の戯れを 被い包む
 それは決して遊びではなく
 仔犬の苦悩
 仔犬の自我の空回り
 冷たい風の痛みを巻き込んで
 からからから 空回り

 憐れみ深き天の御父
 仔犬の必死を見つめておられた
 追っても 追っても
 つかめない自分というもの
 祝福されているとは思いもよらぬ
 哀しい自分というもの
 仔犬はむきになり
 ますますむきになり
 ぐるるぐるるぐるる
 歯をむき出して焦れてみる
 目をとがらして力んでみる
 ああ 憐れみ深き天の御父
 無情の北風に 花びら散らし
 雪と舞う いたわりのささやき
 仔犬はふっと立ちどまり
 見上げる天に雲の微笑み
 真青な空に
 映っているよ 愛の輝き

 バッハの小フーガ=フーガ、ト短調BWV578の通称。ここではトン・コープマンのオルガン演奏を聞いています。




カッチーニの“アヴェ・マリア”を聞きながら

2012-12-07 09:59:43 | POEMS(詩)

   カッチーニの“アヴェ・マリア”を聞きながら

 マリアよ すすり泣くマリアよ
 悲しみに沈んで
 少女のように泣き崩れ
 思いの丈をこの地の上に
 流して 流して
 愛の泉 枯れるばかりに
 あふれさせて
 それでも マリアよ
 あなたの愛の嘆きは終わらない
 御子の魂を
 抱きとめて すべての
 すべてのいつくしみを
 天の父に 捧げ尽くし

 マリアよ あなたの子は
 この世の使命のために
 命を捧げ あなたも
 あなたも その魂を捧げた
 だれの慰めもなく
 ただ一人 御子のからだを
 抱きとめる
 しのび泣くのは あなたの大地
 こみ上げる悲しみに
 空の色もしおれ
 鳥たちさえも うなだれ
 木立の影に うずくまる
 マリアよ あなたのつきぬ愛

 マリアよ いつくしみ
 いとしみ 養い育てた御子
 ガブリエルの知らせのときから
 共に 共に歩まれた
 この世の月日は
 またたく間に流れ去り
 あなたの苦しみと悲しみは深く
 ガリラヤの湖に
 御子が血の涙に苦しまれるとき
 あなたの胸は張り裂ける
 堪えることこそ
 堪えて従うことこそ
 あなたのうるわしき勲章

 マリアよ マリアよ
 あなたのために子らは歌う
 あなたの愛の冠をたたえ
 あなたの敬虔の日々を
 思い 慕いまつる
 真白に輝く御衣(みぞ)
 ラピスラズリ艶やかなマント
 虹色に輝く雲に乗って
 天にあげられしとき
 バラの風が地を這い
 ガリラヤの水辺に
 光の粒が降り注ぐ
 ああ マリア マリア ゆかしく





*カッチーニ=ジュリオ・カッチーニ(1545頃~1618)は、イタリアルネサンス期からバロック初期にかけての作曲家。大きな影響力をもった。しかし、この“Ave Maria”は彼の作曲ではなく、きわめて近代の作曲家による偽作と言われる。一般に「カッチーニのアヴェ・マリア」として多くの演奏がある。


光の球体

2012-12-06 01:36:38 | POEMS(詩)

   光の球体
      一人の女性の思い出のために

 あなたは光の球体だ
 あなたは満面の笑み
 あなたは満面の球体
 天の光をその肉体に宿して
 光の子を生む
 無数に飛び出る光の子
 きらきら世に満つる光の子

 あなたは愛の球体だ
 あなたは輝く包容
 あなたは包容の中の愛
 天の幸福をその魂にたたえて
 幸福の天使を育てる
 愛らしい天使を育てる
 天上の愛をこの世にふりまくため

 あなたは喜びの球体だ
 あなたの輝く頬に
 あなたの輝く額に
 あなたの輝く唇に
 天の光が跳ねる
 天の光が踊る
 あなたは無垢なる球体
 清浄なる愛の球体!

*人にはみな「仏性」があると仏教は教える。同じならいで人にはみな「光の種」があるとは言えまいか。女性の「光の種」はこの世に産み落とされて、この世の光となる。そのような「光の種」を宿した女性の典型が聖母マリアと考えてもよいのではないか。その聖母にまねぼうとするすべての女性はまたそのような「光の種」を宿すのではないか。思い出の中のかの人もまたそうである。