祈り/力をください
2007年に祈る
力をください。
ぼくらに力をください。
主よ、あなたの心に従い、
この世の幸のために生きたいから。
主よ、あなたが愛される人々のために、
ぼくらも心から生きたいから。
いまそこで放っておかれる人たち、
まずしさにあえぐ人たち、
飢え、渇き苦しむ人たち、
孤独のなかに嘆く人たち、
病苦に一人傷む人たち、
あなたの愛されるすべての人のために。
ぼくらがこの身をささげる力を、
献げ尽くし、捧げ尽くして生きる力を、
死を恐れず、苦痛をいとわず、
この身を投げ出す勇気といっしょに、
ぼくらにください。
この世を愛する力をください。
この世を支え、この世をいたわり、
いつかこの世を変えてゆく力。
小さな、小さな一歩となるように、
小さな 小さな愛の一歩となるように、
ぼくらに力をください。
主よ、あなたの力をください!
[POEM-詩稿集『神への想い』から改]
満たすもののない
満たすもの、満たすものを、
この肉体を充足させるなにかを、
求めてやまぬ心が、ここにある。
これは欠落の感じ。
これは空腹の感じ。
魂が渇いて、いのちが飢えて、
そしていつまでも、いつまでも、
ぼくから削ぎ落とせない、脱け落ちない。
湧き上がる欲望に、
どんなにたっぷりこたえてやっても、
どれほど濃密に愛を交わしても、
決して癒えることがない、ぬぐい去れない。
それは、ないものねだりのような、
絶対なるものへの渇望と、
とてもよく似た感情。
あらゆるものの虚無性の彼岸に、
ゆるぎない充足を願っている思い。
情動する不定の大地の最果てに、
不変の安寧を求めている祈り。
小さな安らぎでは支えきれない。
妻や子との幸せな家庭でも、何かが足りない。
気晴らしや慰めではとうてい追いつかぬ。
ありとあらゆる地上の音楽を、
美しい調べ、純なリズムを、
この口一息に飲み込んでさえ、
まだその先に、
手の届きそうで届かない何か、
その何かが、そこにあることを、
すでに知ってしまったから。
たとえ千の絵、万の彫刻を、
理想の美しさ、願わしい純朴を、
そこに描き出し、彫り出してはみても、
求める濃度には、請いつづける密度には、
およびもしない。近づきもしない。
一心に満たそうと、ひたすらに満たそうと、
阿闍梨の千日行にも似て、
大峰めぐりにも似て、
荒行のように身を揺すり、
心をしぼり、肉の餓えに抗して、
身を削ぎ、たえにたえてもまだ、
満たしはしないこの不充足。
隙間だらけの無聊。
このむなしさを湖のごとく湛えている、
このうつろな心の静寂の中。
そこに映えるのは天空の青。
憧れの空の色。
その悲しみをこらえこらえて、
その絶望の深さを生きること。
そのように生きられる勁(つよ)さを、
今は願おう。
[POEM-詩稿集『神への想い』から]
悲しみははるかに
この悲しみの遠さをはかっている。
この胸をしめつけるはるけさ、
それはどこからやってくるのか?
そのはるけさの先には、
つのり、つのって、もう、
かなわぬほどの遠き想い。
ぼくらの若さが味わっていたもの。
幸せを追い求めて、
追い求めすぎてきたぼくらの、
かなえられなかったいくつもの願い。
支えられなかった手に余るほどの愛。
悲しみはもう手の届かぬほどかなたから、
見えない過去の眩暈の中から、
糸のように細いビームとなって、
ぼくらの心を突き刺している。
その鋭い痛みに、ぼくは耐えきれるのか?
いくつもの突き刺す痛み。
突き刺して、血をしたたらせるものも、
かすかな痛みで通りすぎるものもあって、
それらはどれも、絶え間なく思い出されるいとしみであり、
消え去ることのない愛の繰り言でもあり、
無数に投げかけられる幸せの問いかけでもある。
うがたれ、うがたれつづけるこの傷のひとつひとつを、
いまこの身に引き受けるとしたら?
逃げまどうこともせず、ここで雄々しく、
受け止めるとしたら、
ぼくの若さは許されるだろうか?
若さがおかした不服従、不決断、不信の日々、
ぼくがぼくを裏切ってきたその若き日々を、
背に負うことなどかなうはずもなく、
唯々として磔刑に処される殊勝などあろうはずもなく、
ぐずぐずとなお女々しく生きるのだろう。
イエスのように、いとしい者への、
無償のやさしさにしびれきることなどできはせぬ。
血をにじませた胸を広げ、
はるかなはるかな旅の果てに、
あのユダヤの一人の男のように、
その悲しみに殉じることなど、
このぼくにできようはずもないではないか。
その根源を知らぬ者には、
すべては見放された悲しみ。
ついえてしまった夢の重なり、夢の蜃気楼。
無数の痛みに涙しながら、
小さく声をあげるほかないのだろうか?
ほんのわずかな、無意味なあらがいのように、
結局はなにもかも受け入れて、
一人ひそかに死なねばならないと知りながら、
それでもなおつぶやくように、
ひとりごちるように、
浅はかな抗議のように、
悲痛な声を上げるのだろうか?
神よ、おお、わが神よ、
われを、われを見捨て給うのでしょうか?と。
悲しみから逃れるすべもなく。
[POEM-詩稿集『神への想い』から]