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重みづけ

 AI( Artificial Intelligence=人工知能)の普及は、産業革命の何百倍もの規模で、われわれの生活に破壊的変革をもたらすと予想されています。事実、今年5月に発表された最新のGPT-4o(omni)は、まるで「感情」を持つかのようといわれるなど、AIの驚くべき進化と普及速度が世界を揺さぶり続けています。 
 そのAI技術の根幹は、人間の脳の神経回路の働きを、計算機モデルに変換したニューラル・ネットワーク・モデルにあります。
 この神経回路の働きを最初に数値モデル化したのが、ローゼンブラットさんの提唱したパーセプトロンでした。それは神経細胞の情報伝達の仕組みを模したもので、入力層、中間層、出力層の三層構造からなり、外部からの信号が入力層に与えられると、中間層は入力層からの情報をもとに反応し、「重みづけ」を介して、最終的に出力層へと出力される仕組みとなっていました。
 ローゼンブラットさんは、このパーセプトロンを、神経細胞の情報伝達の仕組みをただ真似したものとしてだけでなく、画像のパターン認識を可能にする仕組みとして提案しています。そしてここで重要となるのが「重みづけ」という考え方です。
 「重みづけ」とは、ニューラル・ネットワークを語る上で欠かせないキーワードです。では、それはどのような働きをし、いかなる意味をもっているのでしょうか。それをもっとも簡便に説明してくれているチャーチランドさんの著作01を引用しながら探ってみたいと思います。
 まず簡単な例として3×3の9コマからなる小画面をチャーチランドさんはとりあげています。この小画面のひとコマひとコマが小さな網膜細胞からなる網膜グリットを構成していて、そこに丈字「T」が入力(投影)されたとき、それを「T」と認識するためにはどのような仕組みが必要となるのでしょうか。


パターン認識用の簡単な装置。右側の細胞は、Tが左側の「網膜」細胞のグリッドに投影された時、かつその時にのみ、最大に活性化される。*01

 その仕組みは、小さな網膜細胞から出る9個の軸索をひとつの大きな標的細胞につなぎ、そこにおける9個のシナプス結合を、その大きさは同じにして、極性だけが異なるように設定するところにあります。(上図を参照ください。黒く塗った所を、光を受容した部分とします。)
 具体的には、細胞A1,A2、A3、B2、C2からの結合はすべて正、つまり興奮性に、細胞B1、Cl、B3、C3からの結合はすべて負、つまり抑制性にするのです。
 標的細胞はT細胞がすべて光を受け、非T細胞がひとつも光を受けなかったときにもっとも大きく活性化され、画素をひとつ欠いたTや、あるいはT以外の画素が光を受けたときは活性化が少し弱まるように設定されています。非T細胞が光を受けると、その分だけ標的細胞を抑制し、その活性化レベルを下げるのです。
 そうすることによって、標的細胞は的の中心である完全なTの出現だけでなく、それとよく似たものでも、ややレベルを下げて活性化し、その出現を示すことができるのです。
 こうした標的細胞をT検出細胞と呼ぶとすれば、同じように標的細胞を複数設置し、網膜グリッドからそれぞれの標的細胞に投射される興奮性および抑制性のシナプス結合の配分を適切に調整することによって、それらを「U」や「L」、「O」などの検出細胞にすることができます。9個の要素から成るこの網膜グリッドでは2の9乗個の異なるバターンが可能ですが、どのパターンも標的細胞によって検出されるようにすることができるのです。
 これが神経細胞の情報伝達の仕組みが、入力された画像パターンを認識する仕組みでもあることを示したもっとも簡易な説明といっていいでしょう。個々の網膜細胞においては失われていた複合パターンは、それに焦点を絞って待ちかまえている下流の標的細胞によって拾い出されます。入力レベルでは分散していた特徴が、巧みに配分されたシナプス結合の選別活動(重みづけ)のおかげで、後続のニューロンによって誤りなく「抽出される」のです。
 このもっとも簡易な二層式のTパターン認識装置では、その9つのシナプス結合をどう配置、すなわちどう「重みづけ」の配置をすればよいかはすぐに特定できます。しかしながら本物の人間の顔を表現し識別できるようにするためには、もっと多くの、数千の画素細胞をもつ入力グリッドと、正と負だけではなくもっと細かく明度を示す画素を備えたシステムが必要となります。こうした、はるかに大きなネットワークでは、そのシナプス結合をどう配置(重みづけ配置)していけばよいのでしょうか。

01認知哲学-脳科学から心の哲学へ/ポール・M・チャーチランド/信原幸弘・宮島昭二訳/産業図書 1997.09.04

 

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