「この人は、私の友達です!」
そう断言するミエの背中を見ながら、チョルは幼い頃のことを思い出していた。
父親の仕事の都合で何度も転校を繰り返していた、小学生の時のことを。
「もうここを出ていかなきゃならないんだ。引越しするからね」
体が大きいとか、頬にある傷のこととか、ヒソヒソと言われる。
中には直接聞いてくる無神経な奴もいた。
「おい、その顔の傷何?お前ヤンキーなの?」
「無視すんのか?」
「おい、なんとか言えよ!」
無言のチョルにイラついて、乱暴な男子が机を蹴る。
今よりもずっと子供のチョルは、感情のままに反抗する。
「あっち行けよ!」
そしてそのまま取っ組み合いの喧嘩になり、
体が大きく力が強いチョルは、ついやり過ぎてしまってよく相手を泣かせた。
「うわーん!先生〜〜!」
そんな学校も少し慣れたと思ったら、また転校。
「ほら、気をつけて」「上げて!」
転校先に、気の合う友達が出来ることもあった。
「こんちは」「一緒に遊ぼ!」
「また引越し?」「ごめんね、お父さんのお仕事の都合で」
柔らかな心が、だんだんと硬くなっていく。
中学に入ってからは、そうしなければ生きてはいけなかった。
「おい、お前前の学校で暴れたんだって?」「だから俺の言うことに歯向かったんか?」
「生意気だ」「ついてこいよ」
「あっ逃げるぞ!捕まえろ!」
バキッ!
自分は正当防衛のつもりでも、相手には、そして世間には、そうは映らない。
「四人殴ったって」「OO中の奴がめちゃやられたらしい」
「うっわ・・もう”大魔王”じゃん」
どこへ行っても、いつしか”大魔王”の影がついてくるようになった。
「また引っ越すの?めんどー」
「チョルも高句麗中で卒業できるわよ」
これで本当に最後、と母が言った。
チョルは心に鍵をかけたまま、最後の学校へと転校する。
そこは思いの外、悪くなかった。
恐れることなく声を掛けてくれたベ・ホンギュのお陰で、
いつしかチョルは友達に囲まれていた。
春、夏、そして秋。
サッカーに興じたのもこの頃だった。
休み時間の度にグラウンドへ出て、ただ皆とボールを蹴り合った。
こんな日々がずっと続けばいいと思っていた。
けれど”大魔王”の影が、ヒタヒタとチョルの背後に迫る。
ガク・テウクとの”あの事件”は、それまでの生活を一変させてしまった。
「出てけ!この低脳のヤクザ一家が!」
「なんで家の息子が転校しなきゃ行けないんだ!
「もう一体何日目?マジでしつこいんだけど。
親子代々のサイコじゃん・・留守電消しちゃえ」
鳴り止まないベルの音が、チョルの心を締め付ける。
両親はチョルが転校しないよう尽力してくれたが、もうそれも限界だった。
「もう・・俺転校したい・・」
そのチョルの一言で、張っていた父親の心の糸も緩んだ。
そうしてキム一家は、”最後”の地を離れることになった。
「・・そうだな。引っ越しもするか。
「今度こそ本当に最後だからな」
最後の場所で、チョルは最初から”大魔王”だった。
もう友達はいらない。
変な馴れ合いも必要ない。
”大魔王”に近寄ってくる人間は皆、
全て振り払う。
たった一人で。
先生が、親が、世間が言う。
「ここまで来たからには絶対に問題を起こすなよ」「大人しくしてるだけでどんなにいいか!」
たった一人で生きていた自分。
チョルは必死で戦っていた。
「人を殴って転校してきた奴が・・」
だからこそ先ほどの教師の言葉は、何よりも心を深くエグった。
固い意志で抑えていた怒りの抑制が、思わず外れそうになる。
たった一人の、真っ暗な世界。
煮えくり返る腹の底から、”大魔王”が立ち上がりそうになる————・・・。
「ちがーーーーーーーーーーうっっ!!!!」
「違う違う違うっ!!ちがぁーーーーーーうっ!!
この人はそんな人間じゃない!」
「この人は、私の友達ですっ!」
一人きりだった世界に現れた、小さな少女。
幼馴染のその子は、皆が見ている前で何も恐れることなく、”大魔王”の前に立った。
「友達なんですっ!!」
初めて自分を守ろうとしてくれたのは、その子だった。
”大魔王”はその小さな女の子の後ろで、何も言えずに立ち尽くした。
第五十九話①でした。
チョルの小さい頃からの思い出の後にこのシーンを見ると、なんだか感動しました。
チョルは、たった一人で戦ってきたんよなぁ・・
転校が多かったのも辛かったよね・・
うう・・泣きそう・・
第五十九話②に続きます
そもそもガタイが大きいってだけで色眼鏡で見る教師たちいったいなんなん!?ガク・テウクの親もたいがいヤカラですよね?そのせいで引越するはめになるなんて、訴えたいのはこっちじゃ!!ミエちゃんもっと言ったれー!!
本当、もう泣きそうですTT
転校が重なるだけでも辛いのに、体が大きいからって絡まれて・・本当辛い!!
ガクテウクの親は間違いなくヤカラでしょう!!キーッ!!
今のチョルができあがった理由、改めてよくわかりました。暗闇に一人いる中、光が射した感じ、
青田先輩の心の扉が開いた時のこと思い出しました。
おおお・・!あの伝説のプロローグですね!!
スンキさんはこういう描写上手ですよねぇ〜〜!
個人的にはモジンソプがどう変わって行くかも気になっています。