第30回口頭弁論で意見陳述をしていただいた原告の谷内直さん(石川県教組執行委員長)の陳述原稿を紹介します。
原告団HPにはすでに谷内さんの陳述原稿(裁判所に事前に提出したもの)や上申書、第56準備書面、そして被告が提出した「弁論の更新に当たっての意見書」がアップされていますが、谷内さんの当日の陳述は、事前提出の原稿の趣旨を変えない範囲で、さらに強く思いを込めたものでしたので、下記に紹介します。あわせてご覧ください。
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意 見 陳 述 書
2020年7月13日
原告 谷内 直
1.子どもたちとの環境教育
「あなたたちは空っぽの言葉で、私の夢そして子供時代を奪いました。私たちは大量絶滅の始まりにいます。それなのにあなたたちが話しているのは、お金のことばかり。恥ずかしくないんでしょうか!」
これはスウェーデンの16歳の環境活動家であるグレタ・トゥーンベリさんが国連で行ったスピーチの一部です。もう少し続けます。
「あなたたちは、私たちを失望させている。しかし、若い世代はあなたたちの裏切りに気づき始めています。未来の世代の目は、あなたたちに向けられている。私たちは決して許しません。私たちはこのまま、あなたたちを見逃すわけにはいかない。今この場所、この時点で一線を引きます。世界は目覚め始めています。変化が訪れようとしています。」
私は今教職員の組合の仕事をしていますが、もともとは小学校の教員です。学校では子どもたちと環境問題について話し合う授業にとりくんできました。いろいろ話し合っていると、子どもたちが、
「環境のこと考えると、結局キャンプみたいな生活がいいのかな?」
「ケータイ使えないのは無理かも」
「二酸化炭素のことを考えると車にも乗れなくなるよ。」
「電気だって使いすぎに注意しんなん。」
などと言い始めます。そして考え始めます。そこから子どもたちなりのリスク・許容範囲を手がかりに対策などが出てきます。考えることに重点を置いた授業なので、私の方から答えを示唆することはありませんが、このままでは自分たちの未来に赤信号が灯っていることにはすぐに気づき始めます。
2.子どもの思いに寄り添えなかった経験から
私が授業で環境教育にとりくむきっかけになったのは、学校のバス遠足で子どもたちを石川県羽咋郡志賀町にある北陸電力の原子力発電展示・PR施設「アリス館志賀」に連れて行ったときにある子どもが書いた作文を読んでからです。「アリス館志賀」は芝生広場があり、遊具も多く、かつ学習も深められるということで私が若い頃はバス遠足の定番コースでした。もちろんすぐ近くで稼働している志賀原発には何の恐怖も感じなく、子どもたちと楽しくお弁当を食べていました。しかし翌日ある子どもが書いた作文には、
「先生、どうして原爆を落とされた日本で原発が動いているのですか?原爆も原発も同じ原子力じゃないのですか?私は昨日ちょっと怖かったです。」
と書いてありました。私はその作文に「事故の心配はあるかもしれないけど、安全対策はしっかりしてあるし、建物もものすごく頑丈だよ」とコメントを書きました。しかしその後、私は自分の書いたコメントに不安を感じ、原発についていろいろ調べてみることにし
ました。86年のチェルノブイリ原発事故のこと、使用済み核燃料処理のこと、隣県福井県の高速増殖炉もんじゅのこと、そして志賀原発での数多くの事故やトラブルについて・・・・・。その後2011年3月11日には東京電力福島第一原発事故が起きました。
私は子どもの作文にいかに無責任なことをコメントしてしまったのか、自責の念に駆られました。今から思えば、私の行動は、勇気をふりしぼって国連でスピーチしたグレタさんに対して、「友人と懐かしの映画でも見に行くべきだ」と応えたどこかの大統領と重なります。
3.今を生きる大人として子どもたちのためにできること
便利だから、楽だから、安いから・・・何気なく使っているものや安易な気持ちでやっていることが、自然環境にどのように影響しているのか、一度立ち止まって考えてみよう、そして、10年後20年後50年後の石川県を、日本を、地球を考えてみよう。そんな気持ち
で子どもたちと環境教育に取り組んできた私にとって16歳のグレタさんのスピーチは心に突き刺さりました。
グレタさんの「あなたたち」は、大人を指していると思います。つまり「あなたたち」の中には当然私も含まれていると思っています。だから私は今この場所に立つことを決めました。私と関わった子どもたちの未来を考えたとき、地球上の子どもたちの未来を考え
たとき、原発は、子どもたちに胸を張って「絶対安全だから大丈夫だよ」と言えますか。「核の平和利用は永遠に続くよ」と言えますか。「安全神話」は完全に崩壊したのです。事故が起きたときは、完全に人間がコントロールできる状態ではなくなるのです。
私は原発が規制基準に合うか合わないかを論じ合うのではなく、原発はいかに危険であるか考えてほしいと思っています。グレタさんの言うような「あなたたちは私たちを失望させている」という言葉を、これ以上子どもたちの口から発せられることがないように、
最後にグレタさんのスピーチとともに考えたい、もう一人の少女の言葉を追加で紹介させてください。1992年ブラジルリオで開催された国際会議で世界の指導者を前に語った、当時12歳のセヴァン・スズキさんのスピーチです。
「こんな大変なことがものすごいいきおいで起こっているのに、私たち人間ときたら、まるでまだまだ余裕があるようなのんきな顔をしています。まだ子どもの私には、この危機を救うのになにをしたらいいのかはっきりわかりません。でも、あなたたち大人にも知ってほしいんです。あなたたちもよい解決方法なんてもっていないっていうことを。どうやって直すのかわからないものを、つづけるのはもうやめてください。
私はここにいる私たちみんなが同じ大きな家族の一員であることを知っています。そうです。50億以上の人間からなる大家族です。国境や各国の政府がどんなに私たちを分けへだてようとしても、このことは変えようがありません。私はこどもですが、みんながこの大家族の一員であり、ひとつの目標に向けて心をひとつにして行動しなければならないことを知っています。自分の気持ちを世界中に伝えることを、私はおそれません。あなたたちは、私たち子どもの未来を真剣に考えたことがありますか。」
もう30年前のスピーチですが、グレタさんのスピーチとともにもう一度考えたいスピーチです。このように裁判で争っていますが、私たちはひとつの家族なんです。そして子どもの未来に責任を持つ大人です。子どもの未来をみんなで真剣に考えましょう。
子どもたちにこれ以上「負の遺産」を増やさないようにするためにも、司法の責任として、原子力規制委員会の判断を待つことなく、賢明な判決を出してくださることをお願いします。
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