北陸電力の電気料金値上げ認可申請に係る公聴会が今日(2月14日)、富山市の富山県民会館で開かれ、私も意見陳述人の一人として参加した。
陳述人は8人だったが、私を含め5人が北陸電力の経営責任を厳しく追及し、志賀原発の再稼働想定を盛り込んだ値上げ申請を批判した。
東日本大震災以降(実はその前からだが)の志賀原発の長期停止で北電の電源構成は8割が火電。世界的な資源価格急騰、円安も重なって燃料費はうなぎのぼり。値上げしないと大変だぁ~ということだが、火電8割にした経営陣の責任は棚上げ。
再稼働の目途が立たない志賀原発にじゃぶじゃぶお金をつぎ込みながら、「経費全般、最大限の効率化に努めてきた」と言われても「はい、そうですか」とはならない。
むしろ未曽有の経営危機を逆手にとって再稼働に突き進もうとしているのではないか。
原発再稼働時期の想定は値上げ抑制策でも経営改善策でもなく、経営陣の責任回避策ではないのか。
そんな疑問を北陸電力の松田社長にぶつけてみた。
以下は私の陳述原稿。ご笑覧を。
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昨年11月30日の「北電、電気料金45%値上げ申請」という衝撃的な報道に接し、その後、北陸電力が開催した「お客さま説明会」に参加し、認可申請に係る資料にも目を通してきました。納得し難い説明が数多くあります。今日は時間の関係もありますので、認可申請の大前提である値上げの背景、そして志賀2号機の再稼働想定の2点に絞って問題点を指摘し、最後に料金値上げに対する私の意見を述べさせていただきます。
まず「値上げの背景」についてです。
説明会資料をみますと、「値上げの背景、弊社の取り組み」ということで燃料価格の高騰や規制料金の燃料調整額の上限到達、電源構成の変化、そして効率化の取り組みなどが縷々記載されています。私なりに要約しますと「弊社は最善を尽くしてきたが、東日本大震災やウクライナ紛争、さらに円安といった外的要因が重なり、やむなく値上げの判断をした。何卒ご理解を」ということです。経営危機の原因を外的要因にのみ求め、経営判断の誤りを棚に上げ、経営責任の追及から逃れるための言い訳にしか聞こえません。
経営判断の誤りを2点指摘します。
まず1点目。今日、電源構成の8割を火力発電が占めているのは、気候変動対策の遅れと志賀原発のバックアップ電源として火力を維持してきたためであり、北陸電力の経営判断の下で作られたものです。東日本大震災以降、志賀原発が停止していることによる電源構成の変化が経営危機の一因であるかのようにも言われていますが、志賀原発は東日本大震災の前でも全国最低の設備利用率であり、臨界事故隠しによる長期停止やトラブルで停止するたびにバックアップ電源として火力が活用されてきました。原発重視は火力依存と表裏一体、現在の火力8割は経営判断を誤った結果に他なりません。
志賀原発の長期停止が、あたかも東日本大震災に起因するかのような説明も誤りです。新規制基準適合性審査の入り口段階の敷地内断層問題をいまだクリアできずにいるわけですが、1号機稼働からすでに30年、住民から見れば活断層との指摘は即座に否定できて当たり前。ところが、データがなくて敷地内あちこちでボーリングやトレンチを掘りまくってきたわけです。立地段階での国の審査の杜撰さもありますが、審査長期化の最大の原因は、断層の存在を知りながら活断層であることを否定するデータなしで運転してきた北陸電力の安全軽視の体質にあります。
経営判断の誤りの2点目は経営効率化の取り組みについてです。
人件費や需給関連、設備投資や修繕費、その他諸々の経費全般に渡り最大限の効率化に努めてきたとのこと。ならばなぜ、再稼働の目途が立たない志賀原発の安全対策工事費に1644億円という巨額の投資をしてきたのでしょうか。設備利用率が低いのならば、効率の良し悪しを議論しなければなりませんが、利用率ゼロの「発電しない発電所」への投資は効率を云々する以前の愚策です。仮に志賀原発の再稼働が必要との立場に立っても、再稼働の目途は立たず、仮に再稼働できるとしても何年も先のこと。普通の経営者が普通に判断するなら不要不急の投資に他なりません。1000億円の赤字見通しに大騒ぎする前に、1644億円の無駄な投資、100歩譲っても不要不急の投資の是非についてどれだけ真剣に議論してきたのでしょうか。
安全対策工事費だけではありません。決算時に公表される損益計算書をみますと、営業費用の中の原子力発電費は2012年から2022年の11年間で合計5165億26百万円と、2号機の建設費を大きく上回っています。聖域扱いされてきた志賀原発が経営を圧迫していることは明らかです。
かつて国の歳出改革が議論されたときに、時の塩川正十郎財務大臣は、「母屋でおかゆをすすっている時に、離れですき焼きを食べている」との名言を残しました。一般会計では赤字削減に一生懸命に取り組んでいるのに、特別会計では浪費が繰り返されていることを指摘したものです。いまの北陸電力は、現場で働く社員の皆さん、おそらくおかゆをすすっているんだろうと思います。しかし、本店の原子力本部に行くと能登牛や氷見牛を山盛りにしてのすき焼き宴会ではないですか。原子力本部のすき焼き宴会の請求書を一般家庭に回すなど到底納得できるものではありません。
次に、今回の認可申請にあたり、志賀2号機の再稼働想定を2026年1月としたことの問題点を指摘したいと思います。
適合性審査終了時期がいまだ見通せず、松田社長自身、ハードルはかなり高いと認める中、今回、なぜあえて再稼働想定を盛り込んだのでしょうか。電源構成に占める原子力の比率は3%となり、その分の火力の燃料費は抑えられますが、一方で申請原価に減価償却費や修繕費も盛り込まなければならず、値上げ抑制効果は2%程度とのこと。値上げ幅抑制のための数字のつじつま合わせにしては効果が少なすぎます。松田社長があえて再稼働想定を盛り込んだ狙い、それは料金抑制ではなく、今回の経営危機を突破口とした志賀原発再稼働ではないでしょうか。
今回の認可申請に絡んで、もう一つ重要な数字が明らかになりました。これまで安全対策工事費は1千億円台後半とし、詳細な数字の開示を求めても頑なに拒否してきました。ところが今回、これまでの安全対策工事費は1644億円、さらに追加で1396億円、合計は3040億円にのぼるとのこと、さらに対策区分ごとの工事費内訳も明らかにしました。値上げ申請で隠し切れなくなったわけですが、資金繰りが厳しくなる中、工事費確保も値上げの大きな目的ではないでしょうか。
今回公表された金額は最終の確定値ではありません。今後の審査で基準地震動が変われば建屋や配管の補強費は変わります。ベント装置など安全装置も審査の中でさらに設計変更を求められる可能性があります。実際、審査に合格した同じ沸騰水型の女川2号機の安全対策費は5700億円、柏崎刈羽6、7号機は合わせて1兆1690億円、1基当たり5845億円です。志賀2号機が3040億円にとどまるとは思えません。さらに今後、再稼働となれば数百億円規模の特定重大事故等対処施設の建設も求められます。一方で再稼働後、全国最低だった設備利用率が劇的に改善されるとも思われません。
北陸電力は公表しようとしませんが、もはや志賀原発は再生可能エネルギーと比較してもコストの優位性はなく、安定供給に役立たないことも明らかです。もちろん重大事故のリスクもあります。にもかかわらず停止期間中に多額の投資をし、多額の維持管理費も負担し、今後も多額の投資が必要となります。責任を回避したい経営陣にとって、再稼働こそが至上命題です。資源価格急騰で火力の発電コストが上昇したいまこそ志賀再稼働の必要性を世論に訴える絶好のチャンス、逆に言えば、今を逃せば、今出番がなければ、その機会がなくなるかもしれない。だからこそ「あえていま」再稼働想定を盛り込んだのではないでしょうか。
再稼働には規制委の審査合格に加え地元同意も求められます。志賀原発の再稼働で火力の比率を抑えなければもっと電気料金は上るのではないか、そんな「家計の危機」を人質にして世論に圧力をかけ、安全性を巡る議論を歪め、再稼働を進めるようなことは絶対にあってはなりません。
そもそも高コストであり地球温暖化を進める火力と、高コストで放射能汚染のリスクがある原子力を天秤にかけるかのような発想自体が、北陸電力の経営の行き詰まりを象徴しています。経営危機を逆手にとって志賀再稼働への道を突き進もうとする松田社長の決断は、本来北陸電力に求められる電源構成の転換とは真逆の対応と言わざるをえません。
以上を踏まえたうえで、気料金値上げについての私の意見を述べます。
想定できない外的要因があったことも事実です。事ここに至って、一定の値上げはやむを得ないとは考えます。しかし、問題だらけの値上げ申請をそのまま認可するなど到底納得できません。このままでは北陸電力の経営方針の誤りはなんら改善されることなく、問題はより深刻化していくのではないかと危惧します。
そこで最後に結論として3点申し上げます。まず北陸電力としてこの間の経営判断の誤りを認め、経営体制を刷新すること、2点目として、志賀2号機の再稼働想定を撤回し、今後の設備投資を見送ること、3点目として、これまでの志賀原発への無駄な投資を消費者に負担させることのないよう、値上げ幅を引き下げること、以上3点を要請して、私の意見陳述とさせていただきます。
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