門出

2020年03月29日 | 日記
ピアニストとして充実した日々を送っていた友人Uさんが、何か心に期するものがあったのでしょうか、3年前の春、聖職者を目指して神学校に入りました。熊本地震から1年後のことでした。音楽家としてのキャリアの最後の記念に、と無理を言って伴奏をお願いし、モーツァルト協会の例会で歌ったのがつい先日のことのようにも思えます。そのUさんから、3年間の勉学を無事に終え、この4月から隣県の教会に赴任することになったという知らせを受け取りました。「大変な勉強量でしたが頑張りました」という文面に、20年前近く前、30代後半で博士課程に学んだ頃の記憶が蘇りました。30代だったから何とか頑張れたと思いますが、今もう一度あの勉強量をこなせるかと言われればまず無理です。Uさんは私とほぼ同年代。よほどのモチベーションがなければ貫き通すことは難しかっただろうと思います。脱帽です。牧師としての新たな人生はきっと、より充実した尊い奉仕の日々となることでしょう。彼女の健康が守られることを心から祈ります。加えて、ピアニストとしてのキャリアが、これからの伝道生活にも何らかの形で生かされますように。



ドイツ魂

2020年03月20日 | 日記
ドイツのメルケル首相が、コロナウィルス感染拡大の時局に鑑みて厳戒体制を敷くにあたり、国民に向けてメッセージを発信しました。この演説の、何と明快で徹底的で、しかも血の通っていることか!ドイツ魂の一端を垣間見る思いがします。日本を含め、全世界に向けてのメッセージと受け止めたいと思います。以下にご紹介致します。訳はSNSから拝借しました(一部修正しました)。

コロナウイルスは現在わが国の生活を劇的に変化させています。私たちが考える日常や公的生活、社会的な付き合い ― こうしたものすべてがかつてないほど試されています。
何百万人という方々が出勤できず、子どもたちは学校あるいはまた保育所に行けず、劇場や映画館やお店は閉まっています。そして何よりも困難なことはおそらく、いつもなら当たり前の触れ合いがなくなっているということでしょう。私たちはみな、これからどうなるのか疑問や心配事でいっぱいです。
私は今日、通常とは違った方法で皆様に語りかけています。開かれた民主主義に必要なことは、私たちが政治的決断を透明にし、説明すること、私たちの行動の根拠をできる限り示し、理解を得られるようにすることです。
市民の皆さんが、この課題を自分の課題として理解すれば、私たちはこれを乗り越えられると固く信じています。ですから言わせてください。事態は深刻です。あなたも真剣に考えてください。東西ドイツ統一以来、否、第二次世界大戦以来、これほど市民の団結が重要になるような課題がわが国に降りかかってきたことはありませんでした。
私はここで、現在のエピデミックの状況、連邦政府および各省庁がわが国のすべての人を守り、経済的、社会的、文化的な損害を押さえるための様々な措置を説明したいと思います。同時に、あなたがた一人一人が必要とされている理由と、一人一人がどのように貢献できるかについてもお伝えしたいと思います。
エピデミックについて、私がここで言うことはすべて、連邦政府とコッホ研究所の専門家、その他の学者およびウイルス学者との継続審議から得られた所見です。
世界中で懸命に研究が進んでいますが、コロナウイルスに対する治療法もワクチンもまだありません。この状況が続く限り、唯一できることは、ウイルスの拡散スピードを緩和し、数か月にわたって引き延ばすことで、研究者が薬とワクチンを開発するための時間を稼ぐことです。これが私たちのすべての行動の指針です。これはまた、発症した人ができる限り良い条件で治療を受けられるようにするための時間でもあります。
ドイツは素晴らしい医療システムを持っています。もしかしたら世界最高のシステムのひとつかもしれません。それが私たちの希望です。しかし、わが国の病院も、コロナ感染の症状がひどい患者が短期間に多数入院してきたとしたら、完全に許容量を超えてしまうことでしょう。
これは統計の抽象的な数字だけの話ではありません。お父さん、おじいさん、お母さん、おばあさん、パートナー、つまり生きた人たちです。そして私たちは、どの命もどの人も重要とする共同体です。
私はまず、医師として介護サービスやその他の機能でわが国の病院を始めとする医療施設で働いている方すべてに言葉を贈りたいと思います。あなた方は私たちのためにこの戦いの最前線に立っています。あなた方は最初に病人を、そして、感染の経過が場合によってどれだけ重篤なものかを目の当たりにしています。そして毎日改めて仕事に向かい、人のために尽くしています。私はあなた方の偉大な仕事に心から感謝します。
さて、重要なのは、ドイツ国内のウイルスの拡散スピードを緩やかにすることです。その際、これが重要ですが、1つのことに賭けなければなりません。それは、公的生活を可能な限り制限することです。もちろん理性と判断力を持ってです。国は引き続き機能し、もちろん供給も引き続き確保されることになるからです。私たちはできる限り多くの経済活動を維持するつもりです。
しかし、個人を、また共同体を危険にさらす可能性のあるものすべてを、今減らす必要があります。人から人への感染リスクを可能な限り抑える必要があります。今でもすでに制限が劇的であることは承知しています。イベント、見本市、コンサートは中止、とりあえず学校も大学も保育所も閉鎖され、遊び場でのお遊びも禁止です。連邦政府と各州が合意したこの閉鎖措置が、私たちの生活に、そして民主主義的な自己認識にどれだけ厳しく介入するか、私は承知しています。わが連邦共和国ではこうした制限はいまだかつてありませんでした。
私は保証します。旅行および移動の自由の権利を苦労して勝ち取った私のようなものにとっては、このような制限は絶対的に必要な場にしか正当化されないものです。そうしたことは民主主義社会において決して軽々しく、一時的であっても決められるべきではありません。しかしそれは、今、命を救うために不可欠なのです。このため、国境検査の厳格化と重要な隣国のいくつかへの入国制限令が今週初めから発効しています。
経済全体にとって、大企業も中小企業も、商店やレストラン、フリーランサーにとっても同様に、今は非常に困難な状況です。今後何週間かはいっそう困難になるでしょう。私は皆様に約束します。連邦政府は、経済的影響を緩和し、特に雇用を守るために可能なことをすべて行います。わが国の経営者も被雇用者もこの難しい試練を乗り越えられるよう、必要なものをすべて投入する能力があり、またそれを実行に移す予定です。
また皆様は、食料品供給が常時確保されること、たとえ1日棚が空になったとしても補充されることを信じ、安心してください。備えあれば憂いなしですが、どうぞ限度をわきまえてください。何かがもう入手できないかのような買い占めは無意味であるだけでなく、完全に連帯意識に欠けた行動です。
ここで、あまり感謝されることのない人たちにもお礼を言わせてください。このような状況下で日々スーパーのレジに座っている方、商品棚を補充している方は、現在ある中でも最も困難な仕事のひとつを担っています。同胞のために尽力し、お店の営業を維持してくださり、ありがとうございます。
さて、今日私にとって最も緊急性の高いものについて申し上げます。私たちがウイルスの拡散を阻止する効果的な手段を投入しなければ、あらゆる施策は無駄になってしまうでしょう。その手段とは私たち自身です。誰もが同じようにウイルスにかかる可能性があるのですから、今、誰もが協力する必要があります。まず第一の協力は、何が大切なのかを真剣に考えることです。パニックに陥らず、しかし、自分には関係がないなどと一瞬たりとも考えないことです。私たち全員の力が必要なのです。私たちがどれだけ脆弱であるか、どれだけ他の人の思いやりのある行動に依存しているか、それをエピデミックは私たちに教えます。また、それはつまり、私たちがどれだけ力を合わせて行動することで自分たちを守り、お互いに力づけることができるか、ということでもあります。一人一人の行動が大切なのです。私たちには対抗策があります。つまり、思いやりからお互いに距離を取るのです。ウィルス学者の助言は明確です。握手はもうしない、頻繁によく手を洗う、最低でも1.5メートル人との距離を取る、特にお年寄りは感染の危険性が高いので接触しないのがベスト、ということです。
こうした要求がどれだけ難しいことか私は承知しています。緊急事態の時こそお互いに近くにいたいと思うものです。私たちは好意を身体的な近さやスキンシップとして理解しています。けれども、残念ながら現在はその逆が正しいのです。これはみんなが本当に理解しなければなりません。今は、距離だけが思いやりの表現なのです。よかれと思ってする訪問や、不必要な旅行、こうしたことすべてを、現在は本当に控えるべきです。おじいちゃんおばあちゃんと孫は今一緒にいてはいけない、と専門家が言うのには理由があります。不必要な接触を避けることで、日々増え続ける感染者の世話をしているすべての方々を助けることになります。こうして命を救うのです。多くの人にとってこれはきついことでしょう。誰も一人にしないこと、声かけと希望が必要な方たちの世話をすることも重要になってきます。私たちは家族として、また社会として別の相互扶助の形を見つけるでしょう。すでに、ウイルスとその社会的影響に対抗する創造的な形態が出てきています。おじいちゃんおばあちゃんがさみしくないようにポッドキャストをするお孫さんたちがいます。私たちは皆、好意と友情を示す方法を見つけなければなりません。スカイプや電話、eメール、あるいはまた手紙を書くなど。郵便は配達されますから。自分で買い物に行けないお年寄りのための近所の助け合いの素晴らしい例も今話題になっています。まだまだ多くの可能性があると私は確信しています。私たちがお互いに一人にさせないことを社会として示すことになるでしょう。
皆様にお願いします。今後有効となる規則を遵守してください。私たちは政府として、何が修正できるか、また、何がまだ必要なのかを常に新たに審議します。状況は刻々と変わりますし、私たちはその中で学習能力を維持し、いつでも考え直し、他の手段で対応できるようにします。そうなればそれもご説明します。ですからお願いです、噂を信じないでください。公的な通知のみを信じてください。それは多くの言語にも翻訳されます。私たちは民主主義社会です。私たちは強制ではなく、知識の共有と協力によって生きています。これは歴史的な課題であり、力を合わせることでしか乗り越えられません。私たちがこの危機を乗り越えられるということについて、私はまったく疑いを持っていません。けれども、犠牲者が何人出るのか。どれだけ多くの愛する人たちを亡くすことになるのか。その大半は私たち自身にかかっています。私たちは今、一致団結し、現在の制限を受け止め、お互いに協力し合うことができます。
状況は深刻で、まだ見通しが立ちませんが、 それはつまり、事態は一人一人がどれだけきちんと規則を守って実行に移すかに左右されるということです。このような事態を今まで一度も経験したことがなくても、私たちは、思いやりを持って理性的に行動し、それによって命を救うことを示さなければなりません。それは、一人の例外もなく、私たち全員にかかっているのです。
皆様、ご自身と愛する人たちのお体に気を付けてください。ご清聴ありがとうございました。

アレクサンダー・テクニーク講習会終了

2020年03月08日 | 日記
今月予定されていたアレクサンダー・テクニークのレッスン、コロナウィルス禍で公共施設が使えなくなる中、友人Tさんのレッスン室を会場にして、当初の日程を短縮・変更して今日敢行されました。午前中は5人のグループレッスン、午後から個人レッスンの方がお一人、そのあと8人のグループレッスンが行われ、私は午前の部に参加した後、午後の部をオブザーバーとして見学させて頂きました。
アレクサンダー・テクニークは、外見上は体の動きのエクササイズですが、レスナーは体ではなく意識に働きかけているのであり、心と体、スピリットまで含む人間丸ごと全体を対象としています。レッスン後には確実に体が軽くなり、力が抜けてスッキリするのですが、その反面「これって、一体何だったんだろう??」という曖昧模糊とした割り切れなさ(S先生曰く「モヤッとした感じ」)が残ります。しかし私には、それよりもレッスンのたびに感じる不思議な解放感の方が印象的です。蝶やセミが羽化する時や、蛇が脱皮する時ってこんな気持ちかも(笑)?今日は、S先生のほんのわずかな誘導で背がすらっと伸びた方がお2人いらして、皆で驚きました。
次回は、今回の変更分の振り替えとして4月25日に来て下さるそうです。以前、管楽器の方たちのレッスンを見学したことがあり、楽器を演奏しながらのレッスンで音もテクニックもあっという間に変わったのが鮮烈だったので、あれを歌でやって頂きたいとお願いしたら快諾して下さいました。楽しみです。

学びの時間

2020年03月03日 | 日記
先月とあるイヴェントで、発声のワークショップのチラシを見ました。裏面いっぱいに箇条書きで発声の要諦が書いてあったのですが、その内容が、かつてW先生に教わったことや、私自身が日頃からレッスンやセミナーで言っていることとぴったり重なっていたので、興味を惹かれて参加してみました。コロナウィルス禍でかまびすしい中にも20名ぐらいの参加者があり、うちの合唱団の団員さんも2人お見かけしました。こういう場所でお会いするのは嬉しいですね。
私よりは若そうな講師のY氏は、柔らかな物腰と分かりやすい語り口で、詳しい図解を元に懇切丁寧なレクチャーを展開されました。私もセミナーでは図解を使いますが、ここまで詳細な資料を作ったことはあまりありません。コーカソイド(白人種)、ネグロイド(黒人種)、モンゴロイド(黄色人種)の頭蓋骨を比較するための写真(モンゴロイドの後頭部が絶壁で、口唇からの奥行きが明らかに他人種より短いことが一目瞭然)、田植えをしている人と馬に乗っている人の写真(農耕民族と騎馬民族の体の使い方の違いを説明するため)などもあり、口で説明するだけの私との違いに感じ入った次第。なかんずく興味をそそられたのは、母音の構音点を示す図解です。私が音大生の頃はまだディクション(歌詞の発音の仕方)のレッスンがなかったこともあり、ディクションは私のウィークポイントなのです。昨年のリサイタルのDVDを見て下さったW先生からも「もう少し音色の変化が出せると、表現力が増すと思うわ」と言われていて、これはつまり口腔内の形の変化が乏しいということだと思います。ドイツ語のディクションに関してはM先生が濃やかにご指導くださるおかげで、最近は母音の発音に以前よりは神経が使えるようになってきましたが、この領域は私自身まだまだこれからというところ。良いモチベーションになりました。
翌日は個人レッスンがあったので、レスナーとしての関心から聴講させて頂きました。合唱をなさっているお2人の女性のレッスンを聴かせて頂きましたが、発声上の課題に対するアプローチが、狙いがよくわかって参考になりました。大胸筋、前鋸筋、僧帽筋のストレッチなどは私もレッスンで頻繁に使いますが、Y先生はそれに発声を組み合わせておられます。例えば、後ろ手に組んだ両手を体から遠くへ離してmiの発音で声を出したり、肘〇体操をしながらuの発音で音階を歌ったり、腰に手を当てて少し反りながら高音でhoーーと伸ばしたり、両腕を前に伸ばして円を作り、少し前屈して声を出したり。私は声帯やその周辺のことはあまり説明しない(できない)のですが、Y先生は一つ一つのエクササイズをリードしながら、その都度声帯周辺のどの筋肉をどの方向に引っ張っているのか、図解付きで説明されます。なるほどね。
枠が空いているのでぜひどうぞとY先生に促され、私も譜読みを始めたばかりのバッハのカンタータでレッスンを受けてみましたが、ディクションを中心に懇切で的確なご指導を頂き、良い勉強ができました。W先生のご指導ともM先生のご指導とも矛盾せず、その両者を繋ぐような、不思議に体にしっくりなじむ感じ。ジグソーパズルのピースが嵌った感覚に似ています。
全国を飛び回っておられるY先生、熊本にも時々おいでになって合唱団の指導などなさっている由。うちの生徒さん方にも合唱をやっている方が多く、その話を聞くにつけ、熊本には発声に問題を抱えた合唱団が多そうな気配で、良いトレーナーが増えないといけないなあと陰ながら常々思っていたので、何だか嬉しくなりました。
今月は大学も春休み、合唱団もコーラス部も聖歌隊も練習中止、出演予定のコンサートもすべて中止、おまけに合気道の稽古も体育館が使えず休止で、何というか、牙を抜かれた猛獣のような気分でしたが(笑)、お蔭でちょっとスイッチが入りました。有難い学びの時間でした。
皆様のご参考に、母音の構音点の図表をアップします。解像度が悪いのはご容赦下さい。