詩歌と歌曲の夕べ

2019年07月25日 | 日記
ようやく前期の授業が終わりました。長かった~~!これから試験、採点、評定があるので、夏休みまであと2週間ですが、ともかく授業が無事終わってホッとしました(まだ倫理学の授業が1コマだけ残っていますが)。これでようやくリサイタルの準備にかかれます。
今回のリサイタルは「詩歌と歌曲の夕べ」です。詩人で歌人の西川盛雄先生とコラボレーションすることになりました。10月5日(土)午後5時半から健軍文化ホールで。コンサートシーズン真っただ中ではありますが、たくさんの方にお聴き頂ければ嬉しいです。
今回のテーマは「愛の諸相」、コンセプトは「歌曲成立のプロセスの追体験」です。まず言葉(詩)があって、それにメロディが付いて、そこに伴奏楽器のサポートが入って...という風に、歌ができる過程をなぞってみよう、というわけです。なぜこんなことを考えついたかというと、昨年の「緑のそよ風コンサート」の後、西川先生がコンサートの感想を長い詩にして送って下さったことに遡ります。その詩には、プログラム全曲の作曲家と作品の特徴が織り込まれていました。私はいたく感激して、その時から、いつか西川先生とご一緒に何かをやってみたいと思っていました。そして、今回「愛の諸相」をテーマに決めた時、愛をテーマにした詩を西川先生に書いて頂き、その詩の朗読と私の歌を交互に上演していくスタイルにしようと思い立ちました。歌うたいにとって、詩(言葉)と音楽は切っても切れない関係です。そして、詩はそれ自体が聴覚的に体験されるものですから、音楽的な文芸形式でもあります。詩歌と歌曲を独立的に交互に並べ、「繋がっていない繋がり」を演出してみたらどうなるか、というのが私の関心になったのです。西川先生にこの計画を持ち込むと、「どうなるか見当がつきませんが」と仰りながらもご快諾下さったので、せっかくだから朗読のバックにハープを演奏して頂こう、ハーピストに歌の伴奏も何曲かお願いしよう、という具合に構想が膨らんでいきました。
西川先生はラフカディオ・ハーンと夏目漱石の研究者でもあります。ハーンと漱石はかつて熊本大学で教鞭を取っていました。漱石の『草枕』の冒頭に、印象深い一節があります。

 山路を登りながら、こう考えた。
 智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。
 住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。
 人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。やはり向う三軒両隣にちらちらするただの人である。ただの人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい。あれば人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は人の世よりもなお住みにくかろう。
 越す事のならぬ世が住みにくければ、住みにくい所をどれほどか、寛容げて、束の間の命を、束の間でも住みよくせねばならぬ。ここに詩人という天職が出来て、ここに画家という使命が降る。あらゆる芸術の士は人の世を長閑にし、人の心を豊かにするが故に尊い。

この世のままならなさは、愛の思いが簡単には成就しないという形でもしばしば体験されます。今回の選曲は、そんな「ままならない愛」を歌った曲を集めてみました。
ままならない世と、そこに生きる人の心をつかの間でも宥め、潤すがゆえに芸術は尊い、と漱石は言います。人の世と人の心を和やかにすることに、ほんの少しでもお役に立てれば望外の幸せです。


奇跡

2019年07月11日 | 日記
ドイツで倒れ、意識不明の重態だったU先生が帰国されました。
経過が逐一Facebookで報告されていたので、帰国できる見通しが立ったというお知らせを読んだ時点で、私も胸をなでおろしていましたが、先ほどFacebookを見たら帰国後の顛末が綴られていました。昨夜遅くご自宅に戻られ、今朝、支援センターから担当者が来られてリハビリ入院を勧められ、評判の良い病院に連絡すると「すぐに来て下さい」と言われて急行、そのまま入院と相成ったそうです。病院側の対応も素晴らしかったようで、帰国後僅か1日ですべてが整うU先生の強運に感動を覚えました。そして、唐突な発想のようですが、この成り行きにはきっとU先生やご家族の人徳が深く関係しているに違いないと思いました。
よく思うのですが、私たちの身の回りは奇跡で溢れています。大きな奇跡、小さな奇跡、目に見えない奇跡。間一髪、という経験は案外しょっちょうありますし、毎日無事に過ごせていることも、考えようによっては奇跡です。そして誰もが、人生に何回かは大きな奇跡を経験しているのではないかと思うのです。かく言う私も若い頃、何度も交通事故に遭い、そのうちのどれかで命を落としていても不思議ではありませんでしたし、私の弟も、真冬の夜にバイク事故で九死に一生を得たことがあります。これほどシリアスな話でなくても、不思議なご縁で物事が良い方向に進展することってありますよね。それを「不思議だなあ」と感嘆、感謝するか、当然視するかは人それぞれかもしれませんが。
私は、人は日々奇跡の中に生かされている、とよく思うのですが、今回、U先生の一連の出来事を通してその思いを新たにしました。私も、いろんなことがありながらも、今日も歌が歌えることは奇跡ですし、それは何にも代えがたい幸せでもあります。U先生のことは、その感謝を忘れてはいけない、というメッセージなのかもしれません。


祈り

2019年07月06日 | 日記
オイリュトミストのU先生が意識を回復されたそうです。ベルリンで公演の練習中に倒れられてから3週間。意識不明の重体から蘇生されて、本当に良かったです。私も昼夜を問わず祈っていましたが、たくさんの方の祈りを頂かれて回復されたものと信じます。
祈りの力は、近年は科学的にも研究され、実証もされています。アメリカの医学専門誌に掲載された有名な実験の話をご存じの方も多いでしょう。心臓病の患者約400人を被験者として、彼らを2つのグループに分け、片方のグループにだけ、患者さん達を直接は知らない方たちから祈りを送ってもらうという実験を行ったところ、このグループでは病状が悪化した人の割合が5%弱だったのに対して、他方のグループでは約24%だったとのこと。他の州でも1000人の患者を母集団として同様の実験を行ったところ、祈ってもらったグループの患者さん達の方が10%も回復が早かったという結果が出たそうです。祈る側の宗教や信仰の有無は様々で、祈り方も統一されてはいなかったそうです。
ともあれU先生の魂がこの世に戻ってきて下さって安堵しましたが、奥様の投稿によると、保険でカバーできない高額の医療費がかかるとのことで、窮状を知った日本の皆さんが「応援する会」を立ち上げられました。U先生のリハビリを経済的に支援していくための会です。皆で志を同じくして功徳を積むことを指す「多数作善」という仏教用語がありますが、こういうクラウドファウンディングも現代の多数作善ですね。ご協力下さる方がありましたらどうぞご一報ください。今度は、一日も早く元のように元気になって頂いて、また熊本に来て頂けることを祈りたいと思います。