ささやんの天邪鬼 座右の迷言

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

佐藤優氏に物申す プーチンの出口戦略

2022-03-08 11:52:03 | 日記



天は自ら助ける者を助く。
ブログのネタが尽きて困っていたら、けさになって、雨もよいの曇天の空の向こうから、格好のネタが舞い降りてきた。

手助けをしてくれたのは、天ではなく、かの佐藤優氏である。
前回、私は本ブログで佐藤優氏の論考
(A)《プーチン大統領の目的は「ウクライナに傀儡政権を樹立すること」ではない》
(PRESIDENT Online 3月3日配信)
を取り上げたが、
彼はこの論考の続編ともいうべき新たな論考を、同じウェブサイト(PRESIDENT Online )に寄稿している。

(B)《「プーチンの精神状態は異常」という報道は、西側が情報戦で負けている証拠である》
(PRESIDENT Online 3月7日配信)

私がこの論考(B)の存在を知ったのは、けさのことである。さっそく目を通してみると、この論考(B)には、論考(A)に対して私が投げかけた疑問に対する答えが差し出されていた。

論考(B)の中で、佐藤氏は次のように述べている。

「前回も述べたように、ロシアの狙いはウクライナを傀儡国家に仕立てることではありません。こうした危機に瀕すると、どんな国でも『これ以上戦うのは無益だ。民衆の犠牲を増やさないために、相手国と折衝しなくてはいけない。自分は裏切り者と呼ばれても構わない』と考える人が、必ず政権の内側から出てきます。プーチン大統領はそうした『傀儡ではないが、融和的な人物』を擁立して、その下に軍事顧問や、それよりさらに多い教育顧問を送り込んでくるでしょう。」

前回のブログで、私は論考(A)に対して、次のような疑問を投げかけたのだった。
「プーチンのロシアに敵対的でなく、中立的な姿勢をとり、現実主義的な観点から、ロシアとの間で利害の調整を図ろうとする人物、なおかつ、ウクライナ国民の支持を集められる人物。だが、果たしてそんな都合の良い人物が見つかるのかどうか。(中略)ロシアにとって都合のよい人物、ーーそんな人物を探し出す作業は、川砂を採り、砂金を探し当てるのと同じ、気の遠くなるような作業になるに違いない。
プーチンは、そんな不確かな賭けに将来を託そうとするだろうか。」

この私の疑問に対して、佐藤氏は論考(B)の中で、端的に次のように答えているのである。「プーチンのロシアに敵対的でなく、中立的な姿勢をとり、現実主義的な観点から、ロシアとの間で利害の調整を図ろうとする人物」、つまり「ロシアにとって都合のよい人物」は、「必ず政権の内側から出てくる」はずだ、と。

佐藤氏は前回の論考(A)では、そのような人物の実例として、「ハンガリー動乱」の際のカーダール・ヤーノシュと、「プラハの春」の際のグスターフ・フサーク、という二人の具体名をあげていた。
今回の論考(B)では、彼は「第2次世界大戦後の日本」を例にあげている。

前回(A)とは違い、彼が今回(B)は敗戦後の日本に関して具体名をあげていないのが気になったが、実はこのことこそ、彼の論理の危うさを示すものではないかと私は考えている。

おそらく佐藤氏は、論考(B)を書いたとき、ぼんやりと吉田茂のことを念頭に浮かべていたに違いない。吉田茂は、敗戦後まもなく日本の政治的リーダー(内閣総理大臣)になり、現実主義的な観点から、GHQとの折衝に当たった人物である。

この吉田茂を頭に思い浮かべながら、佐藤氏はなぜその具体名を論考(B)の中に記さなかったのか。記せなかったのか。
それは吉田茂が、論考(B)の中で佐藤氏の提示する「融和的な人物」の条件に合致しないからである。

第一に、吉田茂はGHQが「擁立」した政治的リーダーではなかった。他の有力政治家が次々と公職追放によって姿を消していく戦後の混乱した政治状況が、彼を内閣総理大臣に押し上げたといってよい。

決定的に違うのは、新体制に対する国民の反応である。新体制(GHQ・吉田体制)を当時の日本国民が支持したのは、それが旧体制(軍部による支配体制)よりはるかにマシだと思われたからだろう。

2022年のウクライナの場合はどうか。ゼレンスキーの現体制は、今、国民から圧倒的な支持を受けている。現体制がロシアに倒され、新体制が樹立されるとき、旧体制となったゼレンスキー体制は、熱狂的な追慕の対象となり、ロシアも、ロシアが擁立する新たな政治的リーダーも、このリーダーが構築する新体制も、激しい憎悪の対象になるに違いない。

日本の敗戦後に言及して、佐藤氏は次のように述べるが、この言葉は、全くの絵空事だと言わなければならない。
「モスクワの与党幹部から得た情報によると、ロシアはいま、アメリカがドイツと日本で行った戦後処理について、深く研究しています。同じことを、“戦後”のウクライナで行おうとしているのです。」

しかし、である。ロシアは、「アメリカがドイツと日本で行った戦後処理」と「同じこと」を、どんな形でも行うことはできない。行おうとすれば、ロシアは手酷いしっぺ返しを食らうだろう。どう足掻いても、プーチンに出口はないのである。


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