YS Journal アメリカからの雑感

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Citizens United v. Federal Election Commission

2010-02-06 06:37:59 | アメリカ政治
今年1月21日に アメリカ最高裁で "Citizens United v. Federal Election Commission" の判決が出された。オバマ大統領が一般教書演説で批判した事、今年11月に早速中間選挙があること等で、判決内容が特に選挙にどのように影響されるかが注目されている。

この裁判は、非営利団体であった Citizens United が、2008年1月に、当時上院議員で民主党の大統領候補であったヒラリー・クリントンのドキュメントをケーブルテレビのオンデマンド(このドキュメントを見るために申し込んだ上に別料金掛かる)で放映しようした所、Federal Election Commission(FEC: 連邦議会選挙委員会)が、超党派選挙キャンペーン改革連邦法 (BCRA: Bipartisan Campaign Reform Act) 違反となった事を争うものであった。

ワシントンDCの地方裁判では、BCRA違反の判決が出てドキュメンタリーは放映されなかった。30日以内に行われる連邦政府の選挙立候補者について賛成ないしは反対の一般公開を前提としたキャンペーンに、個人以外は直接には出資出来ないので(政治行動団体 (PAC: Political Act Committee) を通してなら出来る)、非営利団体が資金提供をした事がBCRA違反との判決であった。(放映の宣伝は、30日以前、放送予定は30日以内であった)

Citizens Unitedが狭義にはBCRA違反にならないと控訴し、又、ワシントンDCの裁判所もこの判決を修正憲法第一条の「言論の自由」を侵害するかどうかの判断をしなかったため、最高裁で争われる事になった。

論点は以下の通りだ。
(1)政府によるBCRAの運用方法が確立していない。
(2)よって、BCRAの運用が恣意的になる。
(3)個別案件をいちいち審査する事で、選挙プロセスで重要な要素である言論が制限される。

判決内容と論議は以下の通りだ。
(1)政府が政治キャンペーンに対しての企業出資に制限を設ける事を廃止する。
(2)議会が「言論の自由」を制限する法律を作る事を禁じ、政府が恣意的に「言論の自由」を制限する事を禁じる。
(3)「言論の自由」を守る事で、出資企業の見解が公的に支持されるという事は見られない。よって企業の株主が外国企業である事の議論は杞憂である。
(4)報道機関と一般企業の間に法的な違いが無い以上、企業に「言論の自由」を与えないと政府にる報道規制の可能性がある。
(5)選挙キャンペーンに影響力が有るとしても、汚職とは直接の関係はない。
(6)BCRAは合憲である。よって本件では、この映画は立候補者を扱っているので政治キャンペーンとしてあるかわなければならず、放映に当たっては出資者の公開等の必要がある。

自分でも判決文を読みながら書いていて、分かり難いと思うので、簡単に要約すると次の通りだ。(最高裁の判決文なんて、日米を問わず、生まれて初めて読みました)
(1)企業も政治的スピーチにいくら出資しても良いですよ。政府が制限すると報道規制の可能性が出てきますよ。
(2)出資額が汚職に直接繋がった証拠が無いし、「言論の自由」は出資額の多寡とは関係ありませんよ。
(3)しかし、BCRAは合憲なので、明らかに連邦政府選挙に立候補する人に関してのコミュニケーション(今回は映画)や、選挙前の30日になったら、BCRAで定められた出資者等の情報の公開が必要ですよ。

結論としては、

最高裁判決は、政府が恣意的に政治的スピーチを制限する事を一番心配しているおり、制限対象として報道規制も含まれてくるので、修正憲法第一条の「言論の自由」で個人そして企業を(組合や非営利団体等も含む)守ろうとしている。

巷では、企業がもの凄い出資をする事で、議員が買収され、汚職がはびこり、資金力の大きな企業や外国資本の企業(つまりよその国)に操られると言った話になっている。(判決に反対する裁判官の意見書にも書いてある)これらの心配については、アメリカ人の常識に信を於く事に根拠を求め、過去の例から政治的スピーチの影響を軽微もしくは関連性が薄いとしている。

基本的に、修正憲法は、第13条(奴隷の禁止)を除き、市民を政府から守る事主眼としている。そういう精神からしても、今回の判決は妥当だったのではないかと思う。

この裁判については、私のブックマーク(追記:ejnewsさんとは、結局まともな議論にならないと判断せざるを得ず、ブックマークも削除しました)にある英語日本語ニュースのejnewsさんと議論をして、その続きの意味合いもありますので、英語日本語ニュースのエントリーとコメントも併せて読んでいただければ、幸いです。

追記:冒頭のオバマ大統領の批判に戻るのですが、わざわざ、一般教書演説で批判を行う必要があったか疑問を持たざるをえない。この判決は5対4での採決であり、反対意見も当然ある。オバマは弁護士(憲法専門ではないが)でもあるので「言論の自由」を政府から守る事が判決の中心に来ている事を理解出来ないはずが無いのに、枝葉末節な部分を取り上げて判決全体を批判する事は、何か別の意図があるか、アメリカ憲法を曲解もしくは誤解しているとしか考えられない。「遠慮深謀」か「論語読みの論語知らずか」か、何とも分からない。まさか、判決批判派へのリップサービスと言った下卑たものでない事を祈る。


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9 コメント

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Citizens United v. Federal Election Commission (ejnews)
2010-02-06 18:24:55
McCain–Feingold Actマケインファインゴールド条令によって法律違反だったヒラリークリントンの偽ドキュメンタリーを法律違反を認識しながら放映し様とした事は既に右翼弁護士を使って法律の覆しを狙っていたのではないのかとも思われる右翼の連携作業でしたね。
言論の自由と言っても色々な言葉がテレビ報道で言え無い事は如何思いますか?厳密には私は言論の自由を奪っている事になると思いますよ。Bill Maher ビルマーのPolitically Incorrectポリティカリーインコレクト1997~2002ABC番組がキャンセルされたのもビルマーが9・11テロに関して『テロリストは卑怯者だが米軍の巡航ミサイルで攻撃したい敵と見なされた人々を遠隔操作で暗殺するのも卑怯な行為だ!』とい売った発言が元で企業がコマーシャルを差し控えてキャンセルにさせたのも言論の自由を妨げている行為になるのですが、ビルマーの事件は別に問題にされないのです。つまりアメリカ社会は資本力が簡単に集中でき彼等が嫌う番組、出演者、主題は絶対にテレビには出て来ないのです。つまり言論の自由においては保守右翼企業が支配していると言う事なのです。民主主義は本当に脆弱でヒットラーが政権を握る前のワイマール共和国も右翼と進歩派の鬩ぎ合いでしたが右翼企業資本層に指示されたナチス(突撃隊・ブラウンシャツとも言う・が投票所の前に並び投票者を威嚇したり共産、社会、アナキスト、ユダヤ人、外国人を脅し)がしたい放題で政権を奪ってしまったと言う歴史がありレーガン以降は特にジョージブッシュ以降アメリカはワイマール共和国後期のドイツに似てきたと多くの歴史に詳しい人々は心配しています。

此の問題はMcCain–Feingold Actマケイン ファインゴールド条令又はBCRA: Bipartisan Campaign Reform Actで方が付く問題なのでした。おめでとうございます。
個別案件 (ysJournal)
2010-02-06 21:40:43
ejnewsさんが、コメントで例を挙げている自体が、「言論の自由」守られている証拠では無いでしょうか?テレビ放映だけでなく、ネットを始め、その他のメディアでの自由に情報が流されているわけですから。

テレビ報道でいろんな言葉が言えない事は、今回の判決とは関係ない事だと思います。記憶では、電波系だけで放送していた時の自主規制だったと思います。(例えばボルノ放送もしないといった感じの)、ケーブルではいいたい放題な訳ですし。

個別案件は、判決とは外れますので控えます。但し,ナチの選挙妨害の件は、全く関係ない事なので、理解に苦しみます。

このドキュメントに関しては、BCRAを合憲とした上で適用を求めるものとなっております。

何がおめでたいのかは分かりませんが、一応ありがとうございます。
脆弱な民主主義 (ejnews)
2010-02-06 22:54:14
現在の企業は元々米合衆国建国当時は存在せず最高裁は歴史的に非常に保守的で多くの場合企業側ですから徐々に現在の企業と個人を態と混同させる様な最高裁判断が続き、今回の判断は多くの人が此の件が始まった当時から予測していました。だから保守派である貴方の思いどうりの判断が下って『おめでとう!』と言ったのです。
ワイマール共和国の歴史が現在のアメリカの状態と似通っているので思い出したのですがブラウンシャツの選挙妨害はブッシュ時代のコンピューター投票機の結果操作等や共和党員や議員の秘書等を州から州へと送り込んで選挙への嫌がらせをした事等は直接な民主主義への犯罪で、最高裁の保守裁判官達による論理の捻じ曲げはアメリカの保守化の一環だと思います。
 ブッシュ時代の政府機関によるインターネットでのデータマイニングや電話会社での米政府の情報機関による違法盗聴事件等もケネディー、ジョンソン政権時代民衆の政治運動で確立した現代的米民主主義が少しずつシロアリに食べられている家のようだと私は感じています。
 唯この様なニュースを知っているアメリカ人が少ない事に問題があるのですが----------。
 “言論の自由”は共産主義者社会主義者、アナキスとなんかには適用されないどころか“レッドパージ”の対象になりましたよね。支配者層が許す人々だけに本当の“言論の自由”が与えられているのではありませんか?
兎に角、此の判断は保守派、富裕層、保守資本層、右翼にとっては吉報ですね。
Hebbの学習則 (Drなかがわ)
2010-02-07 01:08:06
「繰り返し刺激される神経回路は、刺激されるほどにその神経線維そのものが太くなり、伝達速度も速くなる(Hebbの学習則)」という生理学の常識があります。
また、
「異なるモダリティの感覚情報を複数同時に入力したときのほうが単独モダリティの場合よりも記憶が定着しやすい」という生理学的現象もあります(モダリティ=五感のそれぞれの感覚を指す)。

TVによって繰り返し、繰り返し、同じ情報が展開されるとき、その情報に対する「記憶」が高まります。
色や輝度や音のリズムなどで、視聴覚情報の喜怒哀楽・快不快はコントロール出来ます。何かを期待させるワンフレーズの言語的メッセージもヒトの記憶に強く残させるためにはとても大切です。

2000年頃から、こういった脳科学や行動科学の知識を駆使した映像作りが行われるようになり、それは、企業のニーズと一体化し、ブレインマーケティングというジャンルを生み出しました。

検索回数が多いほどに上位に上がってくる仕組みに飼い慣らされたわれわれは、自身が自主的に選択しているという感覚をもちながら、実際には、Webシステムの仕組みに踊らされて、人気YouTUBEをクリックしている面がありますし、予算を掛けてコマーシャルすればどんな駄作でもベストセラーになります。

ヒトの生理を考慮した判断が求められる時代です。
蛇足になりますが、プリウスのブレーキ問題。1秒弱のタイムラグといってそのラグを感覚の問題として当初処理しようとしたその考えは間違いです。ヒトの生理で言うと0.3sec未満でなければならないのです。
パソコンのキーボードは、0.2sec未満になるようにどんな陳腐なものでもそれが守られているように・・
意識の高い?善良ドライバーの目印としてプリウスが、乱暴な運転もするあまりエコには関心がないドライバーにまでそのマーケットを広げたことを忘れて、2代目までのプリウスの時のマーケティングを見て、拡大していくユーザーにそなえての基本である0.3未満を押さえなかった。そこに大きな問題があるのでしょう。本気でF1やレースをやってこなかった企業のセンスはそんなものなのだとおもいます(といっても実際には私の愛車はトヨタ車ですが・・)。

話は戻しますが、
繰り返し音と映像で訴えることができる手段と金。それが選挙結果を大きく左右する可能性が極めて高いという生理学的見地からの意見も存在するということです。
中間選挙に注目です (ysJournal)
2010-02-07 13:01:31
ejnewsさま、Drなかがわさま、

別の意味で、中間選挙が楽しみになってきました。

判決論評で、資金を注ぎ込んであるメッシージを大量に流す事で人々が懐疑的になると言う研究も紹介されておりました。

ejnewsさま

レッドパージは、マッカイシー上院議員、つまり政府側による弾圧行為であったのでは。冷戦中でスパイ行為についての話で、「言論の自由」とは関係無いのでは。

ブッシュ時代の事については、だから政府から市民を守らなければならないという結論になると思います。

Drなかがわさま、

TVの様な受動的なメディアでは、大量に流されると一方的に受け取るばかりになりますが、YouTUBE等は、一回目は別として、2回目以降は本人が選択出来るので、ちょっと違和感があります。プロモーションにお金をつぎ込んでも、製品、メッセージが悪ければ売れない気がします。

ハイブリッドのブレーキソフトの問題、人間の時間感覚との関係で、技術的に非常に興味があります。車、もっと言えばオートバイでの危機的状況での一秒は、無限とも言える感じだと思います。

ガソリン車であるカムリで、搭載コンピューターに変な学習能力を持たせており、燃費向上のために、普段急加速しない運転手の車は、突然のアクセル踏み込みを取り敢えずは間違いと判断して何秒間か受け付けない様に学習する事が、報道されてました。高速合流で急加速が必要な時にエンジン(プラグラム上で)が躊躇するという問題が出て、希望の人にはプログラムの変更をするという事がありました。

部品製造、プログラムの問題、同根の様な気がします。
ワインドアップ現象 (Drなかがわ)
2010-02-07 14:06:35
刺激頻度が1秒間に1回から5回くらいだと脳はその刺激に対して活性化し、20回を越えると無反応になります。

>メッシージを大量に流す事で人々が懐疑的になる
という意見も生理学的には正しい見解です。

>2回目以降は本人が選択出来る
ネットにおける反芻とは、例えばブログでの引用や評判も含まれますし、既存メディアでの取り上げも同じです。
自身が能動的に選択していると錯覚しがちですが、実際の人の行動は経験値からそれほど離れないところで似たような情報を好んで集めてしまう傾向があります。

愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。
学習プログラムのコンセプトの根っこに何が設定されていたかいなかったかが今回の分かれ目だったのでしょう。

しかし、ドッグイヤーどころではない情報洪水とテクノロジーの進歩は歴史に学ぶことさえ愚者のふるまいになりつつあります。

愚者は経験に学び、賢者ぶるものは歴史を振りかざし、良識あるものは自らの感性を大事にする・・・ということしか対策はありません。

PS
時計は、クォーツ→電波としてここに来て再び手巻きにもどりました。自分が時間に厳格すぎることが部下にとってのストレスと最近やっと自覚したからですが・・・
直感 (ysJournal)
2010-02-07 23:49:10
Drなかがわさま、

乱暴な結論ですが、懸命にいろんな事を学習した後、自分の思うままに振る舞えという感じでしょうか?

孔子の「心の欲する所に従って、矩を踰えず」という心境でしょうか?七十では遅すぎる様な気もしますが。
養生訓かマキアベリズムか? (Drなかがわ)
2010-02-08 08:45:47
生理学的なニューロンのふるまいからは、「中庸」ということばが導き出されます。
個々のニューロンがそれぞれに傍若無人に振る舞っていても心臓のように一つの鼓動を生み出し、結局は良い方向に収束することも事実です。
カオス理論から生まれた利益誘導型金融システムが破たんしたのは、みなが一斉に同じソフトで動いたから。
乗りおくれまいとする気持ちの中に中庸はありません。
学び尽くした者だけが真の「中庸」をしるのでしょう。

神経システム的には、どのように思うままに振る舞っても自身が収束していくように人は設計されているようです。問題は自身が傷つきながら前に進むか、傷を負わずにすすむかということで、扁桃体の過活動が生じにくい適度な老人ならかっとなることもなく「矩を踰えず」となるのは自然の摂理のようにも・・・
ドッグイヤーの時代ですから、10歳にして心の欲する所に従って、矩を踰えずでOKでは(ケンタ流解釈?)
?????? (ejnews)
2010-02-08 10:23:55

レッドパージは、マッカイシー上院議員、つまり政府側による弾圧行為であったのでは。冷戦中でスパイ行為についての話で、「言論の自由」とは関係無いのでは。

ブッシュ時代の事については、だから政府から市民を守らなければならないという結論になると思います。

?????
そうですよ。私は何時もそう言っているでしょう。唯言論の自由は単なる法律上の問題ではなくパットロバートソンがウーゴチャヴェスの暗殺をテレビ番組で提唱しても全く問題にならず、テレビのコメディアンが一寸本気で物を言うと番組をキャンセルされるのですから民主的な国ですよね。そしてテレビ局は誰によってコントロールされているのですか????

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