YS Journal アメリカからの雑感

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坂の上の雲:司馬遼太郎

2010-01-03 12:56:46 | 書評
初めてこの本を読んだのは、二十歳の時である。それから折に振れ読んできたのですが,NHKスペシャルの第一回を観て、2回読み直しました。ドラマの方は、3回まで観て、そのご都合がつかず、特に録画する事もなく4回、5回は見逃しました。

伊予宇和島藩出身(といっても、高野長英が隠れていた卯之町からも遠くはなれた農村出身ですが)からすると伊予松山藩は、言葉(方言)も違うので、近くて遠い所です。愛媛という括りで郷土なので、正岡子規、秋山兄弟にも親近感はあるのですが、違和感のある親近感です。

読んだ事のない人は、ドラマだけで無く、キチンと読む事をお勧めします。もし、ドラマの時代考証(家並み、衣装)が正確であれば、イメージを膨らます上で、非常に役に立ちます。生前、司馬遼太郎が映像化を許さなかった事を改めて考えさせられます。

読み物として面白いのは、秋山真之が海軍学校に入る所までだと思います。子規が徹夜勉強の途中で壁にもたれて眠ってしまい、その寝姿を真之が鉛筆で縁取った事を思い出す場面が、クライマックスです。何回読んでも、思わずウルウルきそうになります。

執筆された後、やや時間が経っている事もあり、新しい史実が出てきたりしており、本質的な評価は変わらないものの、司馬遼太郎史観を鵜呑みする事の危うさを改めて思います。一番の例が、乃木将軍でしょう。司馬遼太郎の帝国陸軍嫌いは、有名ですが、「乃木希典」を読むと違った風景が見えてきたりします。

国家が若かった故、又、明治維新の立役者が国家運営をしていたために、お国のために色々と無理をして戦った事が、今日の日本に繋がっている事に感銘を受けます。海軍が予算無断流用で戦艦三笠を購入したこと例などは、本来国家としてはあってはならない事だと思います。これらを英雄的と考える人々が、未だに現代日本に居る事に(文芸春秋等で対談などで出てきます)、日本の政治的、軍事的な後進性を感じます。日本人の根底に超優秀な人による理想的な専制政治の願望がある様に思えてなりません。一方で、あの当時政治手順をキチンと踏んでロシアに負けていたらと考えるとゾッとしますが、歴史に「もし」は無いし、良し悪しも無いので、詮無き事です。

久しぶりに読み直して気づいたのは、司馬遼太郎は主要登場人物の中で、秋山好古が一番気に入っていたのではないかと言う事です。かれの臨終で話が終わって居る事が、それを示していると思います。日本の騎兵を創設した事も職務として当然と考えており自慢するでも無く、戦場でも常に落ち着いており,最後は陸軍大将にまでなりながら、地元の学校の校長先生で終わる人生に、威厳のある清々しさを感じます。

明治日本勃興のひたすらに懸命な日本の姿が、題名と相まって、高揚感をもたらすイメージをずっと持っていました。読み返してみて、幕末から日露戦争の時代が、現代と切り離れていない事に考えが及ぶに至って、日本が背負い続けている国際社会で分相応の主導権をつかむ事の出来ない宿命に寂しい気持になりました。


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5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
謹賀新年 (ejnews)
2010-01-03 22:44:03
明けましておめでとうございます。今年も又ブログ頑張って下さい。
司馬遼太郎は一冊も読んだ事が無いのでコメント出来ません。残念!
謹賀新年 (ChicagoKoi)
2010-01-03 23:37:03
あけましておめでとうございます。

一日、1ブログエントリー大変なことでしょうが楽しみにしてますので頑張ってください。
坂の上の雲はTVシリーズはイメージが崩れるので見てませんが、本は間を置いて2度ほど読みました。色々な話がかみ合ってますが、興味深く感じる部分が毎回違いました。日本と同盟を結んだ英国が老獪な手をつかいロシアの艦隊の進行を遅らせるあたり、秋山好古の豪傑的なところ、乃木大将の戦場に乗り込む児玉元帥(でしたっけ)、決戦の時が近づき晴天なれど波たかしと詩のような電報を打つ真之。。。。など記憶に残ります。

最近の文芸春秋のどなたかの文章で読みましたが当時日本は朝鮮半島がロシア占領されるのは横腹にどすを突きつけられているようなものだと恐れていが、海軍を増強して防げばよかったかも...と書いてありました。歴史にもしはありませんがどうだったんでしょうね。
司馬遼太郎 (ysJournal)
2010-01-04 00:31:44
ejnewsさん、今年も宜しくお願いします。
さて、16歳の誕生日プレゼントに叔父から「龍馬がゆく」を頂いてから、大学卒業するまで結構、司馬遼太郎は読みました。今でも、好きな作家の一人ですが、お年を召されるに連れて,歴史小説ではなく歴史エッセイみたいになったことと、違った視点の歴史小説等も読んだ事で、ちょっと距離が出来ました。大きく分けると戦国ものと幕末ものに分けれると思いますが、戦国ものは掛け値無く読む事を推薦します。
そんな意味でも「坂の上の雲」は特別な著作になるのですが、読んで於いて損は無いと思います。
皇紀 2670年 賀笑 (Drなかがわ)
2010-01-04 14:16:05
出身大学がテーマとなる「JIN-仁」と郷里が舞台の「坂の上の・・」。昨年の年末はすこぶる上機嫌で過ごすことができました。そして昨日は「龍馬伝」。良しも悪しくも今のメディアはなにかを誘導しようとしているそんな空気を感じます。
自民から民主への政権交代は、実のところ平成の大政奉還ではなく、忠臣蔵くらいの出来事なのでは・・・・
「時代の中にあっては、人はその出来事の意味を理解しがたい」。後の世まで生き延びて、亜細亜における核緊張の時代の意味を理解したいと思います。

それにつけても、異境の地で考えるYS氏の視点は、井戸の中のカエルである私にとっては大変重要な情報源。
ことしも楽しく読ませていただきます。
本年も宜しくお願いします (ysJournal)
2010-01-05 00:21:39
「坂の上の雲」と「龍馬伝」が何か象徴しているのではないかと言うのは同感です。(「JIN-仁」は観てません)

昨年の「天地人」でも感じていたのですが、昔の事とはいえ,貧乏、貧困の映像を臆面も無く放送している事に驚いています。企画は何年も前に決まっていたと思いますが、貧乏でも頑張れば良いではないかと言う機運が日本で高まってきているという事でしょうか?

国の借金(国債はほぼ国内でさばけているので、国民自らの稼ぎとも言えますが)で、かさ上げされた生活が終わるという事は悪くないと思いますが、では、貧乏でも良し(私の仮説が正しいとして)はちょっと短絡過ぎる様な気がします。

本年の宜しくお願い致します。

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