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「火の国の城 上」あらすじ

2022年11月22日 | 斜読
book543 火の国の城 上 池波正太郎 文春文庫 2002  斜読・日本の作家一覧> 


 だいぶ前になるがテレビドラマシリーズの「鬼平犯科帳」や「剣客商売」をよく見たので、池波正太郎氏(1923-1990)の名は知っている。どれも善悪がはっきりしていて、主役は腕が立つうえ人情味があり、気楽に見られる。
 「雲霧仁左衛門」も毎週見たが放映が終わったようなので、原作「雲霧仁左衛門」を読もうと図書館で見たら字が小さ過ぎた。代わりに単行本「鬼平犯科帳13」を斜め読みした(いずれ紹介したい)。池波氏の筆裁きがいい。
 続いて本書を読んだ。加藤清正(1562-1611)と徳川家康(1543-1616)の駆け引きに忍びを絡ませていて、歴史の表舞台の裏側での忍びの活劇が池波流の名調子で描かれている。


風呂の客  関ヶ原の戦い(1600年)の5年後、京都三条室町の風呂やで、奥村弥五兵衛と丹波大介が偶然に出会い、声を出さず読唇の術で話し合うところから物語が始まる。
 奥村弥五兵衛は信州真田家に仕えた伊那忍びで、真田昌幸・幸村が紀州・高野山に流罪となったのちも、京都で印判師・仁兵衛として商いながら昌幸・幸村につなぎをつけている。
 丹波大介の父は武田信玄に仕えた甲賀忍者だったが、武田家が滅んだあと甲斐・丹波に隠棲する。大介は丹波で生まれ、忍びを会得し、甲賀忍者の筆頭である山中俊房のもとで働くが山中俊房に嫌気がさし、丹波に戻って18歳の妻もよと暮らしている。
 30歳の大介は奥村弥五兵衛から忍び働きを勧められ、五体の血が騒ぐのを感じる、といった書き出しはなめらかで、大介の忍び働きを予感させる。


襲撃  大介は丹波に戻る途中、すでに焼け落ちている栗栖野の隠れ家に立ち寄り、焼土の中から手裏剣の一種である飛苦無(とびくない)を見つける。そのとき、襲撃者が現れ、大介は俊敏な動きで立ち回り、飛苦無を投げて三人を瞬時に倒す。
 襲撃者は伊賀忍びで、かつて大介が倒した小虎の弟・平吾と仲間だった。このあと、平吾たちが執拗に大介を襲う。
 
印判師・仁兵衛  奥村弥五兵衛は京都四条室町で印判師・仁兵衛になりきり、伊那忍びの向井佐助と住んでいる。池波氏は、以降、真田家のために働く弥五兵衛、佐助を真田忍びと呼ぶ。
 隣には足袋や才六が妖艶な出戻りの娘小たまと住んでいる・・池波流の伏線はさりげない・・。
 百姓女に変装した大介が、丹波へ帰る前に仁兵衛=弥五兵衛を訪ねる。仁兵衛の勧めで大介は忍びの血が騒ぎ、加藤清正の家臣・鎌田兵四郎と会うことになる。
 加藤清正は豊臣秀吉に仕え朝鮮征討で活躍し、肥後・熊本城主25万石の大名になった。秀吉没後、清正は石田三成と不和になり、関ヶ原戦争では東軍につき、戦後、徳川家康から54万石を与えられた。清正は家康に臣従しながらも、秀吉の恩義にむくいようと豊臣秀頼とは懇意にしていて、戦いのない世にしたいと願う。
 家康は清正の動向が気になり探りを入れているようで、清正も裏の駆け引きが気になり、鎌田兵四郎に真田親子を訪ねさせる。兵四郎は真田から奥村弥五兵衛を紹介され、奥村弥五兵衛は大介を紹介する。・・物語の構図が少しずつ分かってくる・・。


肥後屋敷  奥村弥五兵衛の案内で大介は宇治川の中州を利用した肥後屋敷に忍び入り、鎌田兵四郎と会う。大介は、池に潜って屋敷を探索をしていた伊賀?忍びを倒す。


加藤清正  大介は44歳の清正に会い、互いに信頼が生まれる。清正は戦は終わって欲しい、そのつもりで働くよう・・人々はふかい考えを秘め、糸を引き合い、謀ごとが二重三重に張り巡らされている・・わしの耳や眼のかわりをつとめてくれ、と大介に話す。
 このあと清正は幼友達で清正の重臣として仕える飯田覚兵衛と酒膳を囲む。ここで覚兵衛と真田親子のつながりや着工中の熊本城の複雑な思いが語られる。そこに、大介が見つけ出した忍びによる水門の抜け穴が報告される。池波氏は、清正と秀吉の間柄を記し、清正の心情を想像させる。
 酒膳の席に、5年前から清正の料理人を務める梅春の手料理が運ばれる。清正は梅春の料理を大いに喜んでいる。・・池波氏の筆はさりげなく伏線を仕込んでいる。


杉谷の婆  家康は豊臣秀頼に上洛を伝えているが母・淀が家康に頭を下げたくないと拒否、家康が重臣・本多正信に「これまで」と話す場面から始まる。家康は九度山の真田がもっとも怖い、清正もめんどう、いざとなれば、と正信に語る。
 家康が江戸に去ったあと、正信は甲賀忍びの頭領・山中俊房と会い、忍びの足袋や才六と小たまを印判師・仁兵衛の隣に住まわせ動きを探っているとの報告を受ける。正信は山中に引き続き真田、清正を内偵するよう指示する。以降、池波氏は俊房を山中忍びと呼ぶ。
 場面は大介に変わる。大介は、琵琶湖の東、忍びの頭領・杉谷の里に住む60歳を超えた於蝶=杉谷のお婆を訪ね、忍び働きの応援を頼む。忍び道具、忍び武器などをつくる道半、道半の孫で25・6歳の小平太も大介の忍び働きに加わる。


中山峠  大介たちに旧杉谷忍びの5名も加わり9名になる。池波氏は以降、彼らを丹波忍びと呼ぶ。
 大介とお婆は敵の正体を探ろうと、江戸に向かう加藤清正一行の前後に身を隠して付いていく。途中の中山峠で、清正一行は賊に襲われ血を流した若い女を助ける。女の父は、賊に切られ命を落としていた。
 身を隠して付いていたお婆は、伊賀忍び千貝の重左と娘で伊賀忍びの一世が仲間の伊賀忍びの新紋らに切られるのを目撃していて、伊賀忍びの一世を清正に近づけるための殺人劇と見破る。池波氏は、忍び術の第一歩である整息の術を紹介する。
 お婆と大介は、清正は情け深いから若い女を屋敷に奉公させ、若い女=一世は忍び働きを始めるに違いないと考え、お婆も加藤家の奉公人になって一世と背後の敵の動きを見張ることにする。


岡崎城下  お婆と別れた大介は旅商人に化けて岡崎城下に入るが、物乞いの乞食に変装していた小虎の弟・平吾と小虎の恋人・於万喜に見破られてしまう。於万喜は大介の挙動を探ろうと、遊女に変装し大介と寝る。
 翌日、乞食に変装した新紋(=一世の恋人)は於万喜に、平吾は頭領山中俊房の指示で加藤屋敷を見張るため江戸に向かい、於万喜は伊賀忍び5人とともに大介を追えとの指示を伝える。ところがその様子は道半と小平太に見張られていた。道半は於万喜を追い、小平太は平吾を追う。・・池波氏は忍び働きの駆け引き、変装の極意をさらりと描いている。


逆襲  大介は伊勢から近江に向かう。途中の千草越えで岩陰で休んでいると、道半が忍び声で於万喜と5人の忍びにつけられていると教える。大介と道半は追っ手を倒す作戦を練る。
 翌日は雨で霧もかかる。人の気配が消え、逆襲に好都合、大介は道半ととともに忍びを5人倒すが、於万喜に逃げられる。


江戸と熊本  清正に対する家康の仕掛けと清正の応答が語られる。表の裏の駆け引きに、一世、お婆の忍びが絡む。
 日本一の土木建築の大家といわれた清正の築城術も語られる。


高台院  清正は、家康が秀吉亡き後、ねね=北政所=高台院のために京都・雲居寺あとに建てた高台寺を訪ねる。
 ねねは清正を母親代わりに面倒を見たので、二人の信頼は深い。眼と眼で豊臣家の安泰を感じあうが、清正は万が一の書状を届けるためと鎌田兵四郎に連れてこさせた大介を高台院に目通りさせる。
 大介は、去り際に高台院を見張る曲者に気づく。


探索 大介は隠れ家の杉谷屋敷で道半に高台寺の曲者について話し、道半が探索を引き受けてくれた。


危急  大介は、小平太に熊本と伏見のつなぎを頼み、1年半ぶりに丹波村のもよに会いに行く。
 一方のもよは大介を探しに丹波村を出ていた。19歳の女の一人旅、山あいで牢人3人に襲われるが、偶然百姓に扮した於万喜に助けられる。もよの素性を聞いた於万喜は大介の女房と直感、彦根・佐和山で菜飯やを開いている山中俊房配下の忍び・長治郎に預ける。


 大介はもよを捜す手助けを頼もうと、商人に変装し京都四条室町の印判師・仁兵衛を訪ねる。佐助と話しているとき床下の曲者に気づく。佐助が手槍で仕留めるが曲者(山中配下の阿太蔵)は自害する。大介が調べると横穴が印判師の裏手の寺の木立に通じていた。
 真田父子に会いに出かけ戻ってきた弥五兵衛も曲者と横穴を確認するが、足袋や才六と小たまが山中忍びで、自分たちが見張られていることに気づかない。
 大介は、横穴を抜けてねぐらにしている伏見稲荷に向かうが、小たまにつけられているのに気づかない。小たまは伏見稲荷で大介を見失う。


追求  大介は、伏見で指物師を商う杉谷忍びの門兵衛、与七の家を訪ね、弥五兵衛からの合図が伏見稲荷・大師堂に届いていないか見てくれと頼む。
 老女に変装した才六が山中忍びの安四郎を供に、小たまが見逃した忍び(大介)を探すために伏見稲荷に現れ、門兵衛を見つける。才六は門兵衛のあとをつけて居所を確認したあと髪結いの老人に扮装し、与七とともに指物師の家の前に店を出す。
 小たまは才六の指示で弥五兵衛を家に招き、酒食をともにする。忍びの計画と気づかず弥五兵衛は小たまと寝てしまう。
 大介が指物師・門兵衛を訪ねたところを髪結いの才六に見つかってしまう。
 「危急」「耳」「追求」は、敵の忍びの動きが有利でハラハラさせられる。物語に読者を引き込む池波流の筆裁きのようだ。


忍びの世界  ハラハラはまだ続き、大介は才六につけられているのに気づかず、鴨川にかかる三条大橋の下に小屋がけをして乞食に扮装している杉谷忍びの馬杉の甚五に会いに行く。
 ・・このあと情に厚かった昔の忍びの世界、天下人とにならんとする家康の思いが語られる・・。
 乞食小屋に泊まった翌日、大介の衣装を着た甚五が大介の代わりに熊本にいる杉谷のお婆に会いに行く。
 甚五は大介と体つきが似ていたので見張っていた才六は大介と勘違いし、二人の忍び・宇六と鎌治に甚五のあとをつけさせる。


血闘  小たまが大介発見を頭領・山中俊房に伝えると、俊房は直ちに討ち取れと指示し、忍び5人を応援につける。小たまは頭領の指図を三条大橋下で乞食小屋を見張っている才六に伝え、小たまと忍び5人は大介(実は甚五)をつけている宇六と鎌治を追いかける。
 才六と弥平治が乞食小屋に押し込もうとするが、一瞬早く大介が気づき、弥平治を倒し、才六を死闘のうえ倒す。
 大介はようやく敵が山中忍びと気づき、大介に間違えられた甚五を助けるべく俊足で追いかける。
 大介の商人姿になった甚五は上牧村外れでつけられているのに気づき山林に逃げ込むが、宇六、鎌治、忍び5人、小たまの多勢に無勢、2人を倒したが隙を突かれ小たまに切られてしまう。
 小たまが大介(実は甚五)を討ち取った思っているところに牢人姿の大介が追いつき、忍び5人を倒すが、またも小たまに逃げられてしまう。
 大介がようやく本領を発揮したのだが、小たまに逃げられ、もよの行方も分からず、先行きの展開が見えないまま上巻が終わる。
 (2022.9)

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