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日本作曲家選輯/橋本國彦

2005年03月14日 18時41分26秒 | クラシック(20世紀~)
 もはやクラシックの廉価盤レーベルというには、あまりにメジャー化し、かつ巨大化したナクソスですが、同レーベルで個人的に最も注目しているのが、「日本作曲家選輯」という、戦前から現代に至る日本の作曲家の作品にスポットライトを当てたシリーズです。先日、とりあげた伊福部先生のアルバムもその一枚ですが、日本のレコード会社の邦人作曲家への冷遇ぶりを尻目に、この香港のレーベルは将来的に数十枚のオーダーでこのシリーズを出す計画なのだそうで、資料的な価値はもちろんのこと、一種の文化事業としても素晴らしい企画だと思います。

 今回聴いたのは、橋本國彦の作品集(沼尻竜典指揮/東京都交響楽団)です。この人は戦前の楽壇をリードした存在らしいのですが、なんでも第二次大戦中の国策に音楽でもって協力したということで、その音楽は近年まではほとんど封印状態だったらしく、このアルバムに収録された2曲、交響組曲「天女と漁夫」と交響曲第1番は、いずれも世界初録音となっています。
 この2曲から感じられる彼の作風は、ミもフタもない表現をしてしまえば、「平安朝な旋律をロマン派の形式と管弦楽で表現した」ってところですかね(怒られそうだな-笑)。当時の日本の状況からすると、もう少し西洋コンプレックス丸出しの泥臭い音楽を展開しているのではないかとも予想しておったのですが、なかなかどうして、非常に洗練された音楽になっていて、西洋音楽の巧みな換骨奪胎ぶりは、加工文化ニッポンの面目躍如といったところでしょうか。

 交響曲第1番は、全3楽章、46分に渡る堂々たる作品で、第1楽章はマーラーやツェムリンスキー、そしてワーグナーあたりを思わせる瀟洒なオーケスレーションでもって、淡麗な日本な旋律を見事にうたいあげ、第2楽章は、両端に沖縄の旋律、真ん中にスケルツォを挟んだ複合的楽章(通常の2楽章と3楽章を統合化)で、両端におかれた沖縄風のパートはちょっとポロディンの「中央アジアの草原にて」風、中間部の日本的な祭りの音楽とスケルツォの融合といった感じで前楽章が「ドイツロマン派の鋳型に流し込んだ日本の情緒」だったとすると、この楽章はロシア音楽の鋳型に流し込んだそれという感じ。ハイライトである第3楽章は、伊沢修二の「紀元節」を主題とした変奏曲で、ブラームスの「ハイドン変奏曲」やエルガーの「エニグマ演奏曲」あたりを彷彿とさせる堂々たる仕上がり、終盤のフーガで「紀元節」のテーマがほぼ原型どおりに再現するあたりの盛り上がりなど感動的です。

 一方、交響組曲「天女と漁夫」については、ロシア~スラブ音楽+印象派的なムードに、日本的情緒を溶け込ませたような作品で、基本的には前述の交響曲と同じようなコンセプトで作られているようです。ただし、もとがバレエ音楽というだけあって、素材の取り扱いは自由ですし、ドメスティックな土俗的ダイナミズムが強調されるところもあったりして、趣としてはかなり奔放な作品という感じがしました。

 そんな訳で、この2曲は一聴して気に入り、以降お気に入りになりました。ライナーを読むと橋本國彦はこの2曲の他にも興味深い作品がいろいろあるようなので、これを機会に是非他の作品も聴いてみたいところです。
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