映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「激怒」 川瀬陽太&高橋ヨシキ

2022-08-31 07:01:20 | 映画(日本 2019年以降)
映画「激怒」を映画館で観てきました。


「激怒」は園子温とともに狂気の傑作「冷たい熱帯魚」の脚本を書いた高橋ヨシキの監督作品である。ゴールデン街での知人が出演していることに加えて刑事役の川瀬陽太の武蔵野館でのデカイ看板が気になりチョイスする。強引な捜査をするはぐれ刑事が活躍するイメージで映画を観に行った。ところが、予想外の展開に流れていき驚く。

架空の街富士見町で、極悪犯を追いかけ強引な捜査をしている深間刑事(川瀬陽太)がゴミ屋敷立退に関わる事件対応で死者が出ていったん退く。そして、怒りを鎮める治療を受けに米国に向かうが、数年ぶりに帰国すると街の悪は一掃され健全な状況になっていた。そこには自警団の存在が関わっているという話だ。

バリバリのBC級バイオレンス映画なのに、普通と違う。
もともと、市民の意識が高い富士見町で、自警団が力を持つようになる。目の付け所はおもしろい自警団が存在する映画はいくつか観たが、ここまでクローズアップするのは珍しい。BC級ムードがぷんぷんして、映画としてのレベルは高いとは言えない。でもイヤじゃない。


富士見町って名前はどうして?と思ったら、履歴をみたら高橋ヨシキは暁星高校出身のようだ。映画の町と雰囲気は違うけど、暁星は千代田区富士見にある。たぶん発想の出所はそうだろう。

⒈自警団
暴力団(マフィア)が警察と癒着してという映画によくある構造にアナロジーを感じる。富士見町の自警団は暴力的だ。裏には、町の有力者と警察幹部の癒着がある。それまで、その日暮らしのチンピラのように夜の盛り場でブイブイ言わせていた連中が、自警団に手ごめにされる。「安全、安心の町富士見町」のキャッチフレーズだ。最近は影を潜めた自粛警察にも通じる。

法律上の「自力救済」という言葉がある。法律による手続きを踏まず、強引に実力行使を図るということだ。時代劇によく出てくる仇討ちは現代で言えば自力救済だ。心情的には自力救済する立場の味方になりがちだがアウトだ。この映画で自警団が行なっている行為は合法に見せつけながら明らかな自力救済である。


⒉BC級俳優と川瀬陽太
ただ、BC級俳優が勢ぞろいで、ハチャメチャに暴れるのも見ものだ。
いきなり「岬の兄妹」で共演した松浦祐也、和田光沙コンビが、近隣に迷惑をかけているゴミ屋敷の住人役で出てきて思わず吹き出してしまう。


主演の川瀬陽太は色んな映画にでずっぱりだ。由宇子の天秤」「夜を走るなどの出演作のリストを見ると、刑事役をやっている作品もある。顔つきからして、刑事役は似合っている。

夜を走るの主演の足立智充がストリップバーの絡み酔客でコテンパンに川瀬陽太にぶっ飛ばされる。他にもあいつあの映画で見たなあというのが大勢出てくる。知人も出てきた。BC級映画といっても、演技に劣るわけではない。たぶん低予算だろう。安いギャラでも出てやろうとする心意気はそれぞれに十分感じられる。
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映画「NOPE」ジョーダンピール&ダニエルカルーヤ

2022-08-30 19:36:58 | 映画(洋画:2019年以降主演男性)
映画「NOPE」を映画館で観てきました。


映画「NOPE」「ゲットアウト」でB級映画を大ヒットさせアカデミー賞脚本賞まで受賞したジョーダンピール監督がまたその創作力を発揮しているようだ。キモイ映画かと一瞬迷ったが、映画館に向かう。意外になじみやすい

ハリウッド映画に登場する馬を調教している牧場で、いきなり空から降ってきた物が牧場主の頭に当たる。目の前にいた息子OJ(ダニエルカルーヤ)が病院に搬送するが死亡する。OJと妹のエメラルド(キキパーマー)が牧場の跡を継いだが、馬が映画スタッフを蹴ってしまい出演話はながれてしまう。やむなく近くの西部劇テーマパークに馬を売ろうと行った時、経営者(スティーブユアン)が子役だった時の逸話を知る。


父親の事故の時に飛行体(UAP)が空を飛行するのを目撃していることもあり、2人は実際に撮影して動画にすれば儲かると企む。家電ショップでカメラを購入して牧場にセッティングする。その時から奇怪な現象が起きていくという話だ。


これからの話はさすがに言えない。
映画の途中から何かよくわからない不穏なムードが流れていく。どぎついシーンはさほど多くない。「遊星から物体X」のようなスプラッター的要素があると一気に引くがさほどでもない。怖さは徐々に増す。それでも、映画の進行に素直に身を任せていくと不快感なく観れていく映画だ。

⒈映画の格
低予算映画の「ゲットアウト」がウケたせいか、予算もふんだんにもらえたのではないだろうか?ヴィジュアル的にハリウッドの腕利きスタッフを起用しているのが映画を観てわかる。撮影にはホイテ・ヴァン・ホイテマという名カメラマンを起用する。音楽も洗練されており、映画の格は上がっている。

ゲットアウトのダニエル・カルーヤの起用はもちろん成功、ひょうきんな感じがいい。しばらくして、こいつ観たことあると感じる東洋人が出てくる。村上春樹原作の韓国映画バーニングで強い印象を残したスティーブ・ユアンだ。現地育ちの流暢な英語を話す。主人公の妹役のキキ・パーマーよくしゃべるせわしない黒人という感じが親しみもてる。メジャー俳優はいないけど、みんないい感じだ。


⒉謎を残す
最初にチンパンジーが出てきて、女性が倒れているシーンを見せる。横にはなぜか靴が立っている。その直後に牧場主が突如倒れるシーンが映し出される。これってどういうこと?と思いながら、映画が進行していく。その後も少しづつ謎が増えていく。冒頭のチンパンジーの事件については、映画内で詳細に伝えられる。

でも、映画を見終わっても、それぞれのシーンの意味がよくわからない。ネタバレサイトを観たら、いろんな解釈がでてくる。なるほどと思う反面、そこまで大それたことなの?と思ってしまう。どうにでも解釈できるように、やんわりとエンディングまで持っていく。


異類への遭遇(軽いネタバレ)
映画の中で語られるが、今はUFOと言わずにUAPと言うそうだ。「ジョーズ」のサメのように、映画が始まってしばらくはその姿を現さない。空を見上げるとずっと動かない雲があって何かおかしい。雲の中から、水族館にいるエイのような物体が姿を見せる。最終的には異類が出現する。スリラーから途中で怪獣映画のような展開になる。それぞれの登場人物を映すカメラワークが抜群にいい。かたずをのんで観ていく。
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映画「異動辞令は音楽隊」 阿部寛

2022-08-28 19:01:44 | 映画(日本 2019年以降)
映画「異動辞令は音楽隊」を映画館で観てきました。


「異動辞令は音楽隊」阿部寛主演で「ミッドナイトスワン」内田英治監督がメガホンを持つ。こういうタイプの日本映画はあまり観に行かない。それでも、えげつない雰囲気の作品を避け、ほのぼのハッピーエンドが予測されるこの映画を選択する気分だった。まさに直球のわかりやすい題名で、その通りストーリーが進んでいく。

はぐれ刑事で県警幹部に対して反抗的な態度をとる成瀬刑事(阿部寛)は、凶悪犯に対して強引な捜査をしてきた。同僚や後輩刑事(磯村勇斗)に対してきびしく接してきたが、パワハラのタレコミも本部に入っていた。そんな成瀬刑事に県警本部長(光石研)から広報付音楽隊勤務という異動辞令が下る。


命令なので、やむなく警察音楽隊の練習場に通うことになる。隊員たちは、いずれも通常業務と兼務で統制が取れていない。小学生の頃、和太鼓をやっていたので、ドラムを任せられる。しかし、これまで追いかけていた事件が気になって仕方がない。すでに所管外なのでアドバイスを拒まれる。戻る場所もなくドラムの練習に励むという話である。

心がやわらぐ成長物語である。
元来日本が得意とする結末が読めるような話であっても、自分にとっては心地よく時間が過ごせた。地方都市(豊橋とその郊外)が舞台で、時間がゆったり流れている雰囲気をもつ。若手の高杉真宙や磯村勇斗では役不足で、阿部寛の対になるような俳優がいない。阿部寛のワンマンショー的要素も強い。並行して捜査が進む事件の解決についても、ご都合主義で話が出来過ぎに見える。それでも好印象で映画を見終えた

⒈阿部寛
最初は護られなかった者たちへと同じような阿部寛スタイルで捜査を強引に進める刑事を演じている。1人暮らしの老人を狙って電話をかけて、家の中のどこに金があるのかを確認して強盗に入る事件が町で続いている。その主犯を追いかけていくのに、犯人につながる重要人物の家に令状もなく強引に入って痛めつけるのだ。

しかも、県警の本部長の訓示があっても、新聞を読んでいたり言うことを聞かない。若手には会議をやっても時間の無駄だから現場に出ろとアタマを叩きながら指導する。挙げ句の果て、本部もどこかに異動させざるを得ないのだ。


その後、認知症の母親の面倒を見ながら、ドラムの練習をスタートする。最初は停滞の様相が強いけど、徐々にいい感じになっていく。ある意味、年はくっていても成長物語でもある。この映画のためにドラムの猛練習をしたという阿部寛が試写会で初めて泣けたと言う記事を見た。自分自身の努力に対して感極まるのであろう。

⒉倍賞美津子
護られなかった者たちへのいずれも老婆役で出演していて、その老けぶりには驚いた今村昌平監督作品「復讐するは我にあり」では見事な入浴ヌードシーンを見せたり、神代辰巳作品での艶やかさなど誰もが認めるいい女だった。その過去の輝きにとらわれずに普通の老人役ができるのもすごいなと思った。

ここでは認知症を患っている母親役だ。すでに離婚している成瀬刑事の妻や亡くなった自分の夫が家に帰ってこないと家の前に出て待っている。忘れてはいけないことが家のあちらこちらに貼り紙してある。それでもダメだ。見せ場の一つに用意したのであろう。


⒊印象的なシーン
音楽を基軸に人間が成長していく。素敵な成長だ。そこでエピソードとしていくつかのセッションを映す。同じように練習を重ねたという清野菜名のトランペットと阿部寛の打楽器のからみあいが聴いていて瑞々しい響きを感じる。


刑事で犯人を追いかけることしか頭にない父親なので、離婚した妻とともに暮らす娘の頼み事もすぐ忘れる。娘がギターを弾くバンドの文化祭での発表も忘れていた。そんな娘とドラムの練習場でばったり会う。ラインの通信も断られて分断寸前だった2人の仲だったのに、バンド仲間と一緒にセッションをする。ここで聴く聖者の行進がいい感じだ。


音楽隊の演奏会で奏でる曲を聴いていると、名作「スイングガールズ」を思わせる高揚感があった。後味がいい映画だ。
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映画「ぜんぶ、ボクのせい」オダギリ・ジョー

2022-08-25 18:21:12 | 映画(日本 2019年以降)
映画「ぜんぶ、ボクのせい」を映画館で観てきました。


映画「ぜんぶ、ボクのせい」は予告編から気になっていた作品。下層社会を描いている。養護施設に預けられている少年が、男と同居している実の母親のところに行っても、この子親戚の子と松本まりか演じる実の母親が言うセリフが印象的な予告編だった。オダギリジョーがいかにも彼らしい自由人ぽいキャラクターで演じているムードが気になる。

川崎の養護施設で生活している中学生のユウタ(白鳥晴都)は、今は離れて暮らす母親(松本まりか)と同居することを望んでいる。でも、施設の担当者(木竜麻生)が何度連絡しても接触を持とうとしない。ある時、施設の個人ファイルで母親の連絡先を確認したユウタは、千葉の海辺の街に住む母親のところに向かう。


母親は久々の再会を喜んだが、男(若葉竜也)と暮らしているから邪魔なので施設に連絡して迎えに来てもらう。自堕落な母親でも離れたくないユウタは出迎えを振り切って飛び出してしまう。そこで、軽トラックの中で暮らすホームレスの坂本(オダギリジョー)と知り合い一緒に生活するという話である。

まあ普通かなという感じ。
天涯孤独ではなく、親に見放されて施設で育つ子どもってそれなりにいるんだろう。養護施設というとひと昔前でいえば、「タイガーマスク」の伊達直人を連想する。予告編を観ていると、無責任な母親との関係に大きく焦点をあてるのかと思ったらさほどでもない。いい加減極まりない社会の底辺を生きるオダギリジョーとの生活や彼と親しい高校生の女の子との触れ合いの方にウェイトを置く。ただ、数多くのエピソードをストーリーに織りまぜていくが、尻切れトンボになってしまった印象を受ける。

少年役の白鳥晴都は好演だが、セリフや行動に若干違和感を感じる。救われない立場に落としていこうとするのはわかるけど、もう少し光を与えて欲しかった。オダギリジョーはうさんくさい役をやらせると実にうまい


⒈オダギリジョーとの生活
主人公の少年は母親の家から追い出されて、養護施設の担当者を振り切りそのまま逃げた。野宿して行き宛もなく海岸で彷徨うとオダギリジョー演じる坂本に出会う。その日暮らしで、軽トラックで寝泊まりしている。そこに潜り込むのだ。

坂本は自転車の鍵を針金でほじくり開けて、その自転車を廃品回収に持っていく。それで金をもらって生活費にあてる。近所の人に見られると、息子のユウタが壊しちゃってと言っている。不法投棄と思しき電化製品もメシの種だ。そんな生活を繰り返す。

歩きスマホをしている男を見つけると、坂本がユウタに腕時計を持たせて「ぶつかれ!」と指示する。ぶつかって倒れると「骨折しているんじゃないか」「時計が壊れている」と坂本が慌てている男に言う。呼ぶ気もないのに警察呼びましょうか?と言うとスマホ男がお金を差し出すという構図だ。これっていわゆる当たり屋の手口だよね。


そんなワルをして生き延びる。こんな役柄やらせるとオダギリジョーは天下一品だ。

⒉裕福なのに屈折した生活をしている少女
姉は医学部に行っているし、家も裕福そうだ。でも、大人相手に売春をする。こんな小さな町では顔が割れちゃうからできるかな?と思ってしまう。この女の子が坂本をオッちゃんと呼んで慕う。母親は亡くなっていて、その影響か屈折して真っ当な生き方からずれている。似たような身の上だからか、3人で仲良くなっている。でも、この女の子の扱いがちょっと中途半端だった印象を受ける。

美少女だ。制服姿の高校生だけど、大人びた感じが素敵だ。川島鈴遥って「ある船頭の話」で重要な役割で出演した捨て子の少女だと見終わった後わかる。この映画2019年ではかなり良いと思っている作品で、オダギリジョーがメガホンを持った。傑作だと思う。おそらく今回もオダギリジョーの推薦だったんじゃないかな。先が楽しみだ。


⒊夢で逢えたら
予告編から大滝詠一バージョンの「夢で逢えたら」が流れていて、ずっと気になっていた。この曲を初めて聴いたのは高校生の時で、吉田美奈子のアルバムだった。なんてすばらしい歌だと思った。ラッツ&スターとかいろんなバージョンあるけど、吉田美奈子の歌がバックのアレンジを含めて最高だと思っている。でも、シングルカットしていない。人の歌が代表曲になるのは嫌だと吉田美奈子が言ったそうだ。

劇中に川島鈴遥がお母さんの想い出の歌だと言って海辺で歌う。そして、唐突だったエンディングの後で大滝詠一の「夢で逢えたら」が流れる。じんわり心に響く。誰も席を立たない。余韻に浸っているようだった。

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映画「みんなのヴァカンス」

2022-08-22 20:02:03 | 映画(フランス映画 )
映画「みんなのヴァカンス」を映画館で観てきました。


映画「みんなのヴァカンス」は公開まもないフランス映画の新作。日経新聞の映画評の評価もよく夏っぽい映画を観てみるかと映画館に向かうと、公開館が少ないせいか満席だ。

パリで知り合った女性アルマに惹かれた男フェリックスが、アルマがヴァカンスに旅立った南フランスの避暑地に、友人と相乗りアプリで知り合った男と3人で向かう。川沿いにある避暑地で過ごす若者の話である。



つまらない映画だった。
映画題材としての内容が薄すぎる。パリで知り合った女のところへサプライズで押しかけ嫌がられる話と、夫が多忙で幼児の女の子と2人取り残された美女に友人が近づいていく話の2つがキーとなる。いくつかのエピソードを織り交ぜるが、え!それだけという感じで、たいした話はない。南フランスというロケ地もスパニッシュタッチの建物群以外は特筆すべき美観は見当たらない。見慣れた日本のキャンプ地とたいして変わるところはない。残念な作品だった。


日経新聞の映画評では某仏文学者が5点をつけていたが、どこがいいのかなあ?この人たまにいいこと書くけど、感性を疑う。それとも仏文系のつながりで肩入れする事情があったのかもしれない。自分の隣の席の人はずっと寝ていた。金払ってそれでも良いのと思ってしまう。退屈だったのだろう。同じ夏の日々を取り上げた日本映画「サバカン」と比較してレベルの低さに驚く。
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映画「サバカン SABAKAN」

2022-08-21 20:58:22 | 映画(自分好みベスト100)
映画「サバカンSABAKAN」を映画館で観てきました。


映画「サバカン SABAKAN」は、ある作家の故郷長崎での小学生時代の想い出を描いた作品である。夏も終わりに近づき、季節にあった作品を探している中で見つけた作品。初めて知る子役2人が主役であるが、草なぎ剛や尾野真千子も出演しているので悪くはないだろうとチョイスする。これは正解であった。

離婚して娘と別々に暮らす作家久田孝明(草なぎ剛)が、生活のために書くゴーストライターの仕事に満足せず新作の構想を練っている。そんな時小学5年生だった1986年の夏休みの忘れられない想い出を振り返って書き綴る。


長崎の海辺の町で育った久田は、小学校5年生で父(竹原ピストル)、母(尾野真千子)と弟の3人暮らしだった。ある日、いつもみすぼらしい同じ服を着てクラス仲間になじめない竹本から、山の向こうにあるブーメラン島にイルカが漂流しているので一緒に見に行かないかと誘われる。最初は断ったが、竹本が久田のある秘密を握っていることがわかり、自転車の2人乗りでブーメラン島に向かう顛末とその後に起こる話が基調である。

心に響くすばらしい映画だった。
恥ずかしながら、今年観た映画の中でいちばん泣けた。自転車に乗ってブーメラン島に向かう2人のエピソードは、ビックリするようなハプニングや意外性はない。でも、心になぜか響く。そこでは、まだ精神的に成熟していない主人公を引き立てる登場人物が次々と加わってきて、ひと夏の物語を膨らませていく。

田舎の典型的な家庭の姿を描くのに尾野真千子をはじめとした配役が絶妙に起用される。ロケハンにも成功して、ドラマのポイントとなる場面に映る長崎の風景はこんな美しいところがあったのかと驚く。素朴な子ども目線でストーリーは流れていき、心が洗われるような気分になれる。必見である。

⒈美しい長崎
ほぼ全面的に長崎ロケである。といっても、長崎市内でなく大画面で観る長崎の長与は海と川が印象的な素敵な田舎町だ。おそらくは舞台となる1986年から30年以上の月日が流れても近代化されていないのであろう。田舎の匂いがぷんぷんする。ロケもやりやすそう。背景が巧みに描かれるので、登場人物にリアル感がでる。長崎県長与町出身の金沢知樹が監督・脚本なので、長崎県内の景色の良い場所からイイトコどりした感じもする。

海沿いを走るこんな鉄道路線が長崎にあるとは知らなかった。島原鉄道のようだ。海を見渡す駅は絶景である。大画面で観ると凄みが増す。


⒉絶妙な配役と竹原ピストル
オーディションで選んだのであろうか?主人公を演じる番家一路は、田舎育ちを感じさせる素朴さを持つ。坊主頭の弟役の子どもも含めて竹原ピストルと尾野真千子と食卓を囲んだシーンには本当の家族のようなリアル感がある。地元の方言も飛び交う。自分が知っている熊本あたりの言葉に通じてしまう。

一方相手役の竹本を演じた原田琥之佑には都会育ちのようなクールさを感じる。もっとも、役柄もつらく貧しい境遇の中で育っている設定で、これはこれで良いのかもしれない。その母親役が貫地谷しほりで、やさしいお母さん役が似合う年ごろになった。一世を風靡した「スイングガール」からもう18年経ったんだね。


主人公の父親役の竹原ピストルは、田舎の気のいい親父という感じをうまくかもし出す。いかにも地元の人のようだ。親父が斉藤由貴が大好きで、セガレもその影響を受けてカラオケを歌う。そこで時代を感じさせる。ボーナス2万円プラスビール券しかもらえないと、妻に罵倒される。主人公の弟にお父さんとお母さんもチュッチュしているのと言われて、尾野真千子と2人ニンマリ笑う姿がいい感じだ。


2人がブーメラン島に遠征して、ピンチでもうダメかという場面で助けてもらったお姉さんとお兄さんがいる。これがある意味謎の存在だけど、正体をほのめかすヒントをわれわれに与えながらミステリアスに巧みに使われている。特にお姉さん茅島みずきはモデルだけに美形だ。カッコいい。

⒊尾野真千子
こちらあみ子でもお母さん役をやっていたばかりである。あの時は遠慮気味の継母だったが、今回は長崎一おっかないお母ちゃんという肝っ玉母さんで口より手が先にでる。亭主も息子も叩きっぱなしだ。夫役の竹原ピストルと子役2人とのコンビネーションも抜群に良い。


こちらあみ子広島が舞台で「サバカン」長崎で、いずれも都会の匂いがしない海辺の田舎町だ。尾野真千子地方ロケを楽しんでいる感じもする。2021年公開作では主演女優賞をかっさらっていったが、往年の大女優と違い、偉ぶらずに主演にこだわらないその姿には感服する。小学生高学年の子どものお母さんを演じるには適齢ということもあるだろう。芸の幅がますます広がり、大女優の道を着実に歩んでいる。尾野真千子の出演作にハズレはない尾野真千子と竹原ピストルの最近の出演作をほぼ観ていることに気づく。

サバカンは、名のごとくサバの缶詰のことだ。ある場面で食卓に登場してから後半戦に向かって、効果的にうまく使われる。映画が終わり、エンディングロールに流れるテーマ曲が情感を高める素敵な曲だ。ただ、この曲は最後まで聴いてほしい。オマケの映像が2つあるのでご注意を。


映画館を出たら、若いお母さんと登場人物と同じくらいの小学生の男の子が歩いていて、泣き疲れたと思しきお母さんが息子に支えられながら、「泣いちゃった。この映画何度でも観たい」と息子に言っていた。その気持ちよくわかる。
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映画「ブライアンウィルソン 約束の旅路」

2022-08-16 17:16:12 | 映画(洋画:2019年以降主演男性)
映画「ブライアンウィルソン 約束の旅路」を映画館で観てきました。


映画「ブライアンウィルソン 約束の旅路」ビーチボーイズのブライアンウィルソンの往年の映像と直近のインタビューを中心に描いたドキュメンタリー作品である。個人的な2015年の映画ベストは、ブライアンウィルソン自身をポールダノとジョンキューザックが演じたラブ&マーシーで大好きな作品だ。ビーチムードあふれるサウンドで人気を集めたビーチボーイズの人気絶頂の時に、バンドの中心人物だったブライアンウィルソンが薬物に溺れて凋落していく姿を描いた。

今回のドキュメンタリーでは、年老いてまだ現役のブライアンウィルソンが自ら出演すると同時に、昔のビーチボーイズの映像も観られるようだ。早速映画館に向かう。驚いたのが、男性おじさん率が95%を超えるということ。お盆休みだからなおさらかもしれないが、一部若い男性音楽ファンがいてもカップルはほとんどいない。公営ギャンブルやプロレス会場並みの男性率の高さは映画館では近来稀に見る。

ブライアンウィルソンは、ビーチボーイズのウィルソン兄弟の長兄で作曲兼プロデュースの実質リーダーであった。1960年代に南カリフォルニアのムードを基調にしたサウンドでヒット曲を連発させた。徐々に精神に異常をきたして行き、長らくメンバーから抜ける時期もあった。数々の苦難を経ていまだミュージシャンとして現役である。


気難しいブライアンと気心が通じている音楽雑誌ローリングストーン誌のジェイソンファインが、自ら運転するクルマにブライアンを乗せ、想い出の場所を走り回る。すでに亡くなったブライアンの2人の弟の想い出を語ったり、強引なステージパパだった父親との確執やブライアンの主治医が薬漬けにした話なども混ぜていく。ブライアンウィルソンのファンであるエルトンジョンとブルーススプリングスティーンの2人の大物のインタビューも織り交ぜる。超一流のプロがここまで絶賛すると、ブライアンウィルソンの凄みも増す。聞き手の引き出し方も絶妙だ。


この映画も居心地のいい映画だった。
夏にはビーチボーイズというわけではないが、めったに乗らない車を運転すると、アルバム「エンドレスサマー」で初期のヒット曲を聴いている。映画が始まりモノクロで映る初期のビーチボーイズの姿にウキウキしてしまう。精神と体調を崩したブライアンウィルソンの最悪期を映画ラブ&マーシーほど触れているわけではない。あの映画は本来暗い題材なのに不快な感情がなかった。この映画も同様である。しかもブライアンは回復している。カラッとしたビーチボーイズのハーモニーがバックに流れているおかげで気分良く過ごせる。



ペットサウンズを聴きかえす。
名作アルバムと言われる1966年の作品である。歴史的にも評価が高い。ラブ&マーシーでもブライアンウィルソンがサウンド作りに凝りに凝って精神に支障をきたす姿を映し出す。この映画を観たのがいいきっかけなので、久しぶりに聴いてみる

サイケデリックロックなんて言う人もいる。でも、むずかしい曲が並ぶわけではない。あくまでビーチボーイズ特有の美しいハーモニーが基調である。曲の長さも一曲あたり3分台までで収まり簡潔だ。このリズムを聴いて「ペットサウンズ」なくして山下達郎や大滝詠一の存在があり得たのかとも思ってしまう。

スタートは「Wouldn't It Be Nice」で始まる。数多いビーチボーイズの曲の中でも大好きな曲だ。三木孝浩監督陽だまりの少女でテーマ曲として使われたのも記憶に新しい。その後に続く曲のメロディラインが美しい。映画の中でブライアンが「Caroline, No」を歌っていたのが印象的だった。アルバムをじっくり聴くと、アレンジに凝っているのがわかる。多彩な楽器が使われている。4ヶ所のスタジオで収録したなんてセリフもあった。まだシンセサイザー利用となる前の時期で楽器の音質の組み合わせを模索してひたすら音にこだわる。


ビートルズの「ラバーソウル」に影響を受けたという。初めてシタールが使われて、「in my life」ではプロデューサーのジョージマーチンが弾くバロック調のハープシコードの音色が流れる。多彩な音をバックに使うというのもテーマの1つなのだ。

こうやって「ペットサウンズ」を聴くと、ビートルズの「サージェントペッパーズ」に影響を与えたという世評はまんざら大げさでないのがよくわかる。アナロジーを多くの曲で感じてしまう


観客は男ばかりといったが、映画館を出ようとすると、数人の女性に出くわした。もちろん白髪混じりで迫力がある。音楽雑誌の元記者風か?共〇党を応援するバアさんとちょっと違うワル風で、この映画マイク・ラブのこと触れていないよねなんて話していた。確かにそうだ。このあたりの確執はむずかしいねえ。
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映画「キングメーカー 大統領を作った男」ソル・ギョング&イ・ソンギュン

2022-08-14 09:25:36 | 映画(自分好みベスト100)
映画「キングメーカー 大統領を作った男」を映画館で観てきました。


映画「キングメーカー」は韓国の名優ソル・ギョングパラサイトの主人公イ・ソンギュンが共演した新作である。韓国映画も当たり外れがある。おもしろそうと思って先日観た「なまず」は訳がわからない映画で大外れ、感想を書く気になれない。まあこんなこともあるだろう。押井守先輩じゃないが、「愚作駄作も回避せず観よ」という訳だ。

現代韓国史の暗部に踏み込んだ実話ものはどれもこれもおもしろい。この映画は金大中大統領が若き日に組んだ選挙参謀について描いている。直近ではいちばん興味深い映画で早速映画館に向かう。予想を裏切らず、久々の大当たりだ。

1961年国会議員選挙に落ち続ける政治家キムウンボム(ソル・ギョング)の演説を聞いて感銘を受けた薬剤師ソチャンデ(イ・ソンギュン)は選挙のお手伝いをしたいと志願する。選挙に勝つことに主眼をおいたソの発想で、対抗候補のスキをつき勝つとともに、1963年地元木浦選出の国会議員選挙に挑戦する。与党は負けてられないとばかりに多額の資金を投入するが、選挙参謀ソの巧妙な作戦でキムが優位となる。そういった選挙のエピソードと常にキムの影の存在であるソの心の彷徨いを描いていく。


実におもしろい!
実話に基づいたフィクションだというが、ブラックコメディ的な面白さが所々にみえる娯楽映画の最高峰である。2時間まったく飽きる場面はなく、スリリングに突っ走る。笑える場面も多い。時間も長すぎずに構成力よくまとめると同時に主演2人がともかくすばらしい。文句なしの5点満点だ。

⒈選挙参謀ソチャンデ
元々は小さな薬局を経営している。街頭で演説するキムウンボムは、選挙には弱い。理想国家を訴えても、選挙に勝てなくては仕方ない。ソがお手伝いしたいと言っても最初は断られるが、「負けたら善戦でもダメだ。」と訴えるソの心意気に押される。

やり方はキレイではない。ひと時代前の日本には似たような選挙戦の裏工作はあったかもしれない。1960年代までの韓国は朝鮮戦争が尾を引いて貧しかったと言われる。今と違い後進国だった。相手側は買収は日常茶飯事で、投票日に停電させて票を操作するなんてこともやる。そんな相手に対抗するのだ。


ソの思いつきは前近代的悪事だ。悪知恵がはたらく。要は対抗馬が自滅するように有権者に悪い印象を与えるインチキくさい手を使うのだ。1票増やすよりも相手の10票減らすことをめざす。自分の選挙運動員にライバル党の制服を着せるなんてありえない。その運動員にライバル党の悪態を有権者の前で演じさせるのだ。いずれにせよ、一時代前の日本もそうだったが、 田舎の従順な農村地域では有力者が推す候補者にみんな投票する。そこに狙い撃ちをかける。


イ・ソンギュンは韓国映画好きには最後まで行くの存在感が強いし、主役だったTVシリーズマイディアミスターやアカデミー賞作品パラサイトで日本でもお馴染みになる。国会議員に立候補したキムウンボムの対抗候補が「マイディアミスター」で対抗勢力の常務役だった俳優だと気づき、思わず吹き出す。でも、エンディングロールがハングルだと誰が誰だかわからないんだよなあ。


⒉政治家キムウンボム(金大中)
九段下のホテルグランドパレスからKCIAを使って、韓国の大統領候補金大中を拉致した事件は日本中で大騒ぎになった。新聞、TVいずれも金大中一辺倒だ。中学生だったけど、仲間との会話でもKCIAが日本人にとって恐ろしい存在となった。昨日のことのようによく覚えている。当然その時初めて金大中の名前を知ったわけで、そもそも日本では今のように韓国の大統領選挙は話題にもなっていなかった。映画KT金大中事件を取り上げた傑作だ。

この映画では金大中事件は取り上げられていない。むしろ、選挙に勝てない金大中がモデルのキムウンボム(金雲範)が汚い手を使うソチャンデを巧みに使って国会議員から大統領候補に這い上がる姿を描く。結局、ソチャンデがいなくては国会議員にもなれなかったという事実がわかる近代韓国史の側面を学習するいいチャンスだった。


韓国映画を代表する名優ソル・ギョングが実にうまい。天下国家を語る演説姿がすばらしい。Netflix映画夜叉の不死身の男もよく演じていた。すごい功績をあげた選挙参謀は悪どいやり方をとる汚れ役であくまで裏方だ。でも、そろそろ表舞台にとなった時に2人の葛藤が生まれる。そこが大きな見どころだ。脇役も含めて操縦するビョン・ソンヒョン監督の手腕を感じる。それにしても、実録政治ドラマを巧みにつくる韓国映画の凄みに圧倒される。
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映画「コンビニエンス・ストーリー」 成田凌&前田敦子

2022-08-10 17:54:41 | 映画(日本 2019年以降)
映画「コンビニエンス・ストーリー」を映画館で観てきました。


映画「コンビニエンスストーリー」は奇才三木聡監督の新作である。成田凌と前田敦子主演ということもあり映画館に向かう。三木聡監督は、いつもながらの十八番のギャグ続発が見られるかな?と、愛妻ふせえりや岩松了という常連も出ているのでまあハズレないだろうと期待していた。

三木聡の前作「大怪獣のあとしまつ」は、よくわからんと怪獣オタクからの酷評を浴びたけど、それは仕方ないだろう。三木聡監督の作品では自分は上野樹里主演の「亀は意外に早く泳ぐが好きで、今回もギャグ満載の三木聡ワールドに浸りたいと思っていたが、ちょっと評価が難しい作品になってしまった。そんなわけで作品情報をそのまま引用する。

スランプ中の売れない脚本家、加藤(成田凌)は、ある日、恋人ジグザグ(片山友希)の飼い犬“ケルベロス”に執筆中の脚本を消され、腹立ちまぎれに山奥に捨ててしまう。後味の悪さから探しに戻るが、レンタカーが突然故障して立ち往生

霧の中のたたずむコンビニ「リソーマート」で働く妖艶な人妻・惠子(前田敦子)に助けられ、彼女の夫でコンビニオーナー南雲(六角精児)の家に泊めてもらう。しかし、惠子の誘惑、消えたトラック、鳴り響くクラシック音楽、凄惨な殺人事件、死者の魂が集う温泉町……加藤はすでに現世から切り離された異世界にはまり込んだことに気づいていなかった。(作品情報 引用)


正直訳わからない映画だった。
売れない脚本家の加藤(成田凌)のパフォーマンスやその恋人ジグザグの血のりに染まったオーディション話はまだ三木聡のウケ狙いの世界と思って見ていた。ところが、犬を捨てに行って、訳の分からない世界に陥って前田敦子が出てくるようになってからがよくわからないホラー的要素もあるけど、中途半端な気もする。温泉地のパフォーマンスも奇妙でいい発想だと思うけど、結局これを全部悪夢というオチにするのはちょっと酷かなって感じだ。


成田凌も前田敦子やいつもながらの共演陣が悪いというわけではない。ただ訳がわからない。それにしても、ジグザグを演じていた片山友希茜色に焼かれる尾野真千子と一緒に風俗につとめていた女の子と後でわかってびっくりした。まったくイメージが違う。どこかの新進のモデルを連れてきたのかと思った。それにしても、HP作品情報で片山友希のプロフィールを1966年生まれとしていたのもジョーク?
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映画「今夜、世界からこの恋が消えても」福本莉子&道枝駿佑&古川真琴

2022-08-07 20:32:40 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「今夜、世界からこの恋が消えても」を映画館で観てきました。


映画「今夜、世界からこの愛が消えても」は最近多作の三木孝浩監督による青春ドラマである。ちょっとどぎつい映画を観て疲れた後で、新作映画のラインナップに観たい作品がない。ドツボの生活を描いたものや老人映画は生気が抜かれるので青春モノに注目する。一条岬の原作は当然未読、主要出演者も古川琴音以外はあまり知らない。消去法で選んだ作品だけど、若い子の恋愛ものはやっぱりいい

交通事故で眠ると前の記憶がすっかり抜ける奇病にかかった女子高校生真織(福本莉子)に、別のクラスの男子透(道枝駿佑)が付き合ってくれと告白する。事情があっての告白で本気ではなかったが、2人で申し合わせて、本気にならないことを前提に付き合うようになる。しかし、記憶をなくす病状は変わらず、親友の泉(古川琴音)が媒介していき、気持ちが徐々に本気になってくる。そこに思わぬ出来ごとが起きるという話である。

快適な時間が過ごせた。
損得を抜きにした恋愛物語はすっと入れる。必ずしもハッピーな展開ではない。でも、観終わって気持ちがすっとする。映画が始まりバックに江の島が映り、鵠沼に向かっての湘南エリアが舞台だというのもわかる。海浜公園や女の子2人が住む家も素敵でビジュアル的にもいい感じだ。三木孝浩監督作品では松本潤、上野樹里主演の陽だまりの彼女が大好きで、同じように江の島ロケが効果的に使われていたのを思い出した。


⒈福本莉子(真織)
朝気づくと前夜の記憶がない。今日起きたことを忘れないように日記に書く。そして、その日記を毎朝見るように部屋の中に貼ってある。うとうと昼寝をしてしまっても、記憶がなくなる。そんな真織にさわやかな男子が付き合ってくれという。本気ではないことがわかるけど、拒まずに付き合うのだ。

いくつもの主演作があるのにこんなかわいい子存在すら知らなかったフレッドペリーのポロシャツが似合う。会社の部下に福本莉子に似ている子がいた。かわいくて性格もいいので30代から40代の男性社員が鼻の下を伸ばしているのを見て、女子社員が悪口を告げ口してきたりした。たまたま一緒に食事に行った時は、いい歳して天に昇る気分になったものだ。現在は産休中でさみしい。その子も名前が◯織で藤沢の高校に行っていたなあと映画を観ながら不在をかなしむ。


⒉道枝駿佑(透)
クラスメイトにいかにもいじめられっ子といった男子生徒がいて、そのイジメを止めるのと引き換えにいじめっ子グループに言われた通り真織に付き合ってくれと告白する。気がつくとそれが実現してしまうのだ。透は小説家で身を立てる夢が捨てられない父親(萩原聖人)と2人暮らしだ。食事を作ったり家事も透がやっている。母親は若くして亡くなっていて、姉が面倒見ていたが今は一緒に暮らしていない。


その姉(松本穂香)が後半戦活躍しはじめる。いい感じだ。松本穂香と古川琴音が実際には同じ歳なのに、かたや高校生でかたや同級生の姉を演じているのにも注目する。

⒊古川琴音(泉)
真織の友人だ。病気のことをわかっているので、真織と透が付き合うと聞き、慌てて透のところに乗り込んでいく。おせっかいというわけではない。記憶をなくしてしまうので、トラブルが起きないようにしているだけだ。でもいい媒介役になると同時に、問題が起きてから行動力を発揮する。

「街の上」に出ていて、濱口竜介監督偶然と想像の第一話で存在感のある役柄を演じた。イヤな女の役柄だ。松本穂香と違い、古川琴音の近年の出演作はみんな観ている。美人ではない。ただ、こういうキャラクターなので起用されることが多い若手で重要な存在だ。毎回演技の腕を上げている印象を持つ。


この3人を中心に構成力よく、ビジュアルよく無難にまとめた。さわやかな恋に醸造するいくつかのエピソードが見どころだ。自分のような年齢層でも観て違和感を感じないよくできた青春モノだと思う。
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映画「女神の継承」

2022-08-04 18:39:17 | 映画(アジア)
映画「女神の継承」を映画館で観てきました。


タイ映画「女神の継承」は韓国のナ・ホンジンが原案を書き、プロデューサーに加わっている作品である。ナ・ホンジンといえば、「チェイサー」でわれわれの度肝を抜き、「哀しき獣」「コクソン」とクライムサスペンスの傑作を続けて世に出した名監督だ。

「女神の継承」はナ・ホンジン監督コクソンで描いたシャーマンの世界の延長上にあるようだ。「コクソン」では名優ファン・ジョンミンが祈祷師を演じて、人智を超えた何かに取り憑かれる世界を描いてわれわれを恐怖に陥れた。これは観るしかないと映画館に向かう。想像以上に観客は多い


タイの山奥の村落にいる祈祷師一族にスポットをあて、ドキュメンタリー映画っぽい展開で進む。一族の1人ミンという普通の女性が突然何かに取り憑かれるように狂い出す。周囲が解脱させようと懸命に試みるというストーリー展開だ。


正直自分には合わない映画だった。
クライムサスペンスのタッチはなく、どちらかというと実録ドキュメンタリーホラーTVのようなものだ。連想したのは「エクソシスト」である。主演のリンダブレアが緑色の嘔吐物を吐き出したシーンが衝撃的だった。自分が観たのは中学生の時だったけど、主役のミンが見せる狂気の姿は「エクソシスト」のエッセンスをかなり含んでいると感じる。今回のタイの監督バンジョン・ピサヤタナクーンはかなり意識したのではなかろうか?


一連のナ・ホンジンの映画は先を読ませないストーリーと予想外の展開に毎回驚かされた。でもこれはちょっと違う。ただ、気が狂っている女性を追うだけで物語の性質をあまり持たない。これでもかと次から次に凄いシーンをみせてくれる。でも、それだけなんだよなあ。悪霊に取り憑かれるミンは、白目をむいて発狂している姿を見せる。これが演技だとするとすごい。
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映画「C.R.A.Z.Y.」ジャン=マルク・ヴァレ

2022-08-03 17:30:22 | 映画(洋画:2000年以降主演男性)
映画「C.R.A.Z.Y.」を映画館で観てきました。

映画「C.R.A.Z.Y.」はダラスバイヤーズクラブジャン=マルク・ヴァレ監督の2005年の出世作で、当時日本未公開であった。昨年末ジャン=マルク・ヴァレ監督が亡くなったのがきっかけだったのか?こうして劇場で公開となる。実は自分がジャン=マルク・ヴァレ監督には不義理をしていて、作品3作の感想をブログアップしているが、ヴァレ監督の名前には触れていない。彼の出世作だけど主人公は1960年生まれで自分と同世代ではないか。観てみると60年代70年代のいい雰囲気を感じられてよかった。

1960年生まれのザックは軍人の父親をもつ保守的な家庭で3人の兄貴とともに暮らしている。長兄は本好きの秀才で、三男はスポーツ好きの一方で、次男はちょっとグレた問題児。クリスマス生まれのザックは特別な才能があると言われて育つが、周囲からは男色の気があるとからかわれて、ちょっと変わった目で見られて育っていくという話だ。

居心地よく最後まで観られる気分のいい作品だ。
カナダでも、フランス語圏だ。登場人物のいずれも自分には親しみを覚える。パーティになると、シャルルアズナブールの曲をしゃしゃり出て歌いみんなの失笑を呼ぶ父親、いつもやさしい母親、いつも2人はダブルベッドで仲良く寝る。仲もいいから子沢山だ。息子のザックが主役だけど、両親2人がストーリーを引っ張る。

ザックが歩んできた道を追っていくのに、時代を象徴する音楽が選曲よくバックで流れる。なんと著作権に60万ドルも支払ったという。ローリングストーンズの「悪魔を憐れむ歌」が特に高価のようだ。自分としては、ピンクフロイドの「狂気」のスキャットの歌が流れると心ときめく。FMでまだ日本で発売されていない新譜を紹介する番組で中学時代初めて聴いた。その時に自分が感じた衝撃が心によみがえる。


デヴィッドボウイの「スペースオデッセイ」も訳詞と一緒にみるのもいいもんだ。のちにザックはディスコのDJをやる。ダンスフロアで同じステップダンスでみんなが踊るシーンがある。日本のディスコでは70年代半ばまで見られた光景だ。でも気がつくと、父親がダンスフロアで十八番のシャルルアズナブールの曲を歌い出す。思わず声を出して吹き出してしまった。


真ん中の兄貴がヤンチャで何かとトラブルを起こすが、アッと驚くような出来事は起きない。安心して見ていられる中、快適な2時間を過ごす。
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