映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「あなたの顔の前に」 ホンサンス

2022-06-29 16:53:18 | 映画(韓国映画)
映画「あなたの顔の前に」を映画館で観てきました。


映画「あなたの顔の前に」は韓国の奇才ホン・サンス監督の新作である。米国に移住したある元女優が韓国に帰国した1日の動静を描く。映画の雰囲気は予想された通りで、主演のベテラン女優イへヨンが演じる尋常じゃない長回しのシーンをつなぎ合わせて、ひとつの事実に向き合う。

長いアメリカ暮らしから突然、妹ジョンオクの元を訪ねて韓国へ帰国した元女優のサンオク(イ・へヨン)は久しぶりに家族と再会を果たす。妹の息子夫婦に会ったり、思い出の地を訪ね歩いた後で、彼女に出演オファーを申し出る映画監督とランチをしながら人生と向き合っていく話である。

映画を見始めて女性同士の他愛のない会話が多く、男が観ても面白くないなあと思っていた。ところが、彼女が向き合っているものが徐々にわかっていくにつれ、見る目が変わってくる。映画監督と出演交渉で会うお店の名前が漢字で「小説」である。映画監督との会話の中に「短編小説」のような作品を作ってみようというセリフがある。サンオクの長い人生を断片で切った短編小説を読むような気持ちで映画を観るといいかもしれない。


⒈向き合うことって何?
母親が亡くなってから、アメリカから韓国へは帰っていない。今さらどうしたの?と妹も感じている。一緒に住んでいた姉妹だけど、お互い遠く離れている。2人きりになり公園で長話をしたり、甥っ子夫婦がやっている店に行ったあと、子どものころ育った家がお店になっていてそこの店主とだべってその子どもと抱きあう。そして、映画監督からの出演オーダーを受けに向かう。

想い出の足跡をたどるサンオクを見て、韓国に戻った理由を想像する。そして、その予想が間違いないとわかるのは、映画監督と会話している時だ。もし自分も同じ立場になったら、同じような行動をとるかもしれない。そんな気がした。


⒉超絶長回し
今回のイ・へヨンの長回し演技は尋常じゃない。よくこんなにセリフが覚えられるものかと感心する。一度だけの長回しでなく、自分の妹役や映画監督役と何度も時間をかけて会話を交わす。別に演劇のような大げさな演技ではない。ホンサンスの世界は常に日常に接近している。

イ・へヨン朴正煕大統領に似ている一昔前の典型的な韓国人らしい顔だ。60を過ぎている。ホン・サンス監督にとって同世代であるイ・へヨンの起用は意味のあることかもしれない。

そして、映画監督から出演依頼を受ける場面では、何気ない会話から秘密の一部始終を映し出す。ホン・サンス監督作品に、若い女性が3人の男を翻弄するソニはご機嫌ななめという映画があった。主人公のソニが焼酎のボトルを次々と開けながら酔ってしまい、クダを巻くシーンがあった。この作品でも、映画監督と元女優の2人が徐々に酔ってくる長回しシーンがクライマックスになる。2人のセリフ展開はホン・サンスがじっくりと練ったものと想像する。


⒊友人の死(私ごとだけど)
この間の日曜に通夜があった。幼稚園からずっと少年時代一緒だった男の葬儀だった。高校時代から吸っているハイライトのせいには彼はしたくないと思うが、肺がんだった。がんが発覚して2ヶ月しかたっていないようだ。ここのところ毎年のようにヘビースモーカーの友人が亡くなっている。中学の同級生のLINEグループに長い間ありがとうと奥様が死後投稿して突然の死が判明して、友人が教えてくれた。

幼稚園バスの同じ停留所で仲良くなった。小学校、中学校常に彼の方が成績は上で、途中自分が抜いた場面もあったが、一つのベンチマークになっていた。中学の卒業式の後彼の家で大酒を飲んで吐いて迷惑をかけた。高校時代から徹夜麻雀をずいぶんとやった。でも彼の父親は警察官だ。結局自分と同じ大学に通うことになったが、東大模試でも上位で合格ライン間違いないのに彼は落ちてしまう。彼が勤めた会社も名門中の名門だが、誰もがうらやむ超一流商社に内定していた。長男に海外に行ってもらっては困るとの母親の反対で勤めた会社に行くことになった。思いのほか出世はしていない。

自分の人生も後悔に次ぐ後悔であるが、あの時の選択は正解だったかときっと思ったであろう。でも、社内結婚だったので、商社へ行ったら、今の人生はない。若き日にはモテた彼が結婚した奥様はふくよかで、太めの息子と3人並んだ写真が不自然。でも、もともと意地悪い気性もあった彼が家族を大事にしているのがよくわかるメモリー動画を見て、60年近くにわたる交友関係のシーンが絵画のように浮かんでくる。

そんな想いを持ったあとこの映画を観て、自分自身のエンディングへの道を考えざるを得なくなった。
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映画「ベイビーブローカー」ソンガンホ&IU&是枝裕和

2022-06-28 17:45:19 | 映画(韓国映画)
映画「ベイビーブローカー」を映画館で観てきました。


「ベイビーブローカー」は是枝裕和監督が韓国でメガホンをとった新作である。カンヌ映画祭ではパラサイトで大活躍した人気者ソンガンホ主演男優賞を受賞していて、韓国映画の主演級が脇を固めている。是枝裕和監督作品はほとんど観ているし、好きな方だ。捨てられた乳幼児の人身売買が題材ということは分かっていたが、先入観なく期待感をもって映画館に向かう。

ある若い女性(IU:イ・ジウン)が赤ちゃんを教会にある安置ボックスの前に置いていく。その姿を張っている女性刑事(ぺ・ドゥナ)がパトカーから眺めている。その後、教会で働くドンス(カン・ドンウォン)とコンビを組むクリーニング屋を営むソンヒョン(ソン・ガンホ)の2人が赤ちゃんをひそかに連れ去る。子どもを必要とする親と売買取引をするためだ。

ところが、預けた女ソヨンが気が変わって教会に戻って引き取ろうとするが、見当たらない。それを見たドンスはややこしくなると感じて、ソヨンに事情を話して、一緒に良い引き取り手を探すことになる。それを現行犯逮捕を狙う刑事コンビが追跡するという話である。


確かにおもしろい。
伏線をばらまいて、途中で回収するセオリーに従っているにもかかわらず、ストーリーの最終場面の落ち着きどころは読みづらい。ただ、ものすごく期待していたことからすると、両手をあげてすばらしいというほどではない。5点はつけられず、4点プラスアルファのレベルだなあ。是枝裕和監督無難にまとめた感が強く、韓国クライムサスペンス特有の緊張感が少ない。刺激あふれるシーンや超絶ハプニングがない。自分にはそんな感じがする。ただ、その中でもIU(イジウン)は絶賛したい。


⒈IU(イジウン)
IUが韓国の若手アイドルスターであることをシリーズマイディアミスターをつい先日見て初めて知った。このドラマで大筋に大きくかかわる貧困育ちの派遣社員を演じた。これがまた実に上手かった。この映画では、いったん産んだ赤ちゃんを捨てた後に舞い戻り、ブローカーと引き取り手を一緒に探す旅に出る母親の役柄だ。IUのメイクは少し濃い目でいかにも日本の身近なオフィスにいそうなマイディアミスター」とイメージが違う。

天才的応酬話法を見せつけたマイディアミスター同様、ここでもトークが冴え渡る。乳幼児の買い手が値切ったり、分割払いにしようとした時に、相手に突っかかる勢いあるセリフに迫力を感じる。いかにも母親がもつ母性を感じさせるシーンも用意されている。ネタバレなので言わないが、2つの作品の役柄に1つ共通点がある。エグい話だ。今後もこういったサスペンス系での映画出演に期待する。


⒉ソンガンホ
この映画の登場人物はウソばかり話すインチキの塊のような連中ばかりだ。例えば、施設で育っていると兵役が免除されるとか、え!そうなの?というセリフが充満している。軍隊に行ったというが、実はその時は刑務所に入っているからとからかわれる。育ちが良いかどうかとウソをつかないかはあまり関係ないかもしれない。それでも虚構に生きるブローカーたちの育ちの悪さが各場面で強調される。

ソンガンホはカンヌ映画祭で主演男優賞を受賞したけど、これまでのすばらしいキャリアからすると、びっくりするような立ち回りを見せるわけではない。むしろ相棒のカンドンウォンの方がいい味を出している気がする。脚本でソンガンホの存在感を強調するような展開でもないので、格の違いに功労賞といったパターンかな。


⒊ぺドゥナ
是枝裕和監督とは以前空気人形でコンビを組んでいる。この女性刑事というのもおもしろい存在だ。警察がそれなりに活躍しないとサスペンスはひきしまらない。子どもを教会に置いていく時点から、ずっとベイビーブローカーになるであろう男たちと、産みの親をマークする。まさに張り込みで、家には帰らないで、コンビの女刑事と現行犯逮捕するまで粘ろうとずっとにらみを効かせている。でも、ずっと張り込んでシャワーも浴びていないようだ。本当にこんなことできるかしら?とも思ってしまうが、まあいいか。

ぺドゥナ刑事おとり捜査で、高い金を出して子どもを引き取る夫婦に演技をさせたり、やりたい放題だ。でも、単純な罠に引っかからないのが、ソンガンホのブローカーたちだ。悪知恵が働くやつは、自分が悪事を働いているので、相手の悪さも見抜く。この掛け合いの知恵くらべは最終の結末を読みづらくする面でおもしろい。


ただ、1つ疑問なのは実の母親がいて、金銭で相手先の親に売却するってダメなことなのかしら?映画朝が来るも似たような気がするけど。これって人身売買というのと違う気もする。境目はブローカーの介在ということ?捨てられた子どもを売却するのはだめっていうことなんだろうなあ。
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映画「炎の少女チャーリー」ライアン・キーラ・アームストロング

2022-06-20 17:52:36 | 映画(洋画:2019年以降主演女性)
映画「炎の少女チャーリー」を映画館で観てきました。


映画「炎の少女チャーリー」スティーヴンキングの原作「fire starter」の映画化である。1980年にドリューバリモア主演で公開された同じ題名の作品のリメイクである。前作は観ていない。ITツールを使い現代風に設定を変えている部分はあるが、世界的な超能力ブームになった頃の70年代B級映画の匂いがプンプンする。

少女は自ら発火する超能力をもっている。少し古いが、口から火を吹いているプロレスのザ・シークを連想する。想像していたよりもホラーやスリラーといった観客をびっくりさせる要素は少ない。

アンディ(ザック・エフロン)とヴィッキー(シドニー・レモン)には、生まれながらに不思議な能力を持つチャーリー(ライアン・キーラ・アームストロング)という娘がいた。彼女が成長するにつれ、その能力は覚醒し始め、多感な10代を迎える頃には、感情の揺らぎに呼応するようにチャーリー自身もコントロールできないパワーへと変化していた。父親アンディはその能力を懸命に隠し続けようとしたが、政府の秘密組織“ザ・ショップ”はついにチャーリーの存在に気づくのであるが。。(作品情報 引用)


超能力系スリラーをロードショーで観ることはめったにない。少女が際立った能力を持つという設定が気になり、他の映画を差し置いて勢いで観てしまったといったところだ。学校で少し変わっているキモい子と見られている子が、男の子にドッジボールでぶつけられたことに腹を立てて、トイレにこもる。慌てて担任がトイレに様子を見に行くと、その怒りが爆発してトイレのドアを破壊するシーンからチャーリーの炎が炸裂する。


このあとは、チャーリーことライアン・キーラ・アームストロングの独壇場だ。B級キャラクターヒーローを観ているような雰囲気で、立ち向かうところ敵なしだ。動物から人間まで次々に火に包む。炎を発する前の苦味をもった表情が脳裏に残る。アメコミ系のクロエ・グレース・モレッツ「キックアス」のような展開も予測したが、チャーリーには炎に包むという強い武器があり、ちょっと違う。結果的にはごくふつうの域を超えないB級映画。こういう少女が大暴れするこういう映画を見て、ふつうの小学生はどう思うのかな?大人より子どもが喜びそう
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Netflix映画「レスキュードッグ ルビー」

2022-06-19 09:21:01 | 映画(洋画:2019年以降主演男性)
映画「レスキュードッグ ルビー」は2022年のNetflix映画


レスキュードッグルビーはアメリカ映画で実話に基づく警察犬を扱う警官の物語だ。直近映画館で観た難民の物語「FLEE」は自分に合わず、感想が書けない。ドロドロした人間関係が続く韓国ドラマを見た後で、ほのぼのした映画を求める。勧善懲悪というよりも、悪人がいない作品で心を暖めてくれる映画を求める人にはおすすめだ。

警察犬部隊への入隊試験に7年連続で不合格だったロードアイランド州の警察官ダニエル・オニール(グラント・ガスティン)が、保護犬施設でなつかないので7回も返却された1歳のメス犬・ルビーを引き取る。ダニエルの家で警察犬に仕立てようと訓練しても、思い通りに行かないが、ルビーが徐々に才能を発揮し始めるという話である。

ロードアイランド州といってもピンと来ないだろう。マサチューセッツ州の隣で人口100万程度しかいない小規模なところだ。ダニエルは警察官で人の良さに満ち溢れているような20代の好青年である。今でも妻とはラブラブでヨチヨチ歩きの男の子と暮らしている。正直と粘り強さが取り柄だ。仕事は任務をきちんとする気のいい男だけど、勉強は大の苦手。警察官部隊に入隊できるのは30歳までで最終局面に入っている。


警察犬は1万ドルもするらしい。それなりに飼育するための経費もかかるからであろう。警察ではもう用意する余裕がなく、保護犬施設で賢いと勧められたルビーを引き取る。ただ、誰もが飼うのをあきらめたルビーは、ダニエルの家に行っても同じようなものだ。何度も予備テストで不合格になった後、本を読むことも苦手なダニエルが教則本を使って懸命に個人指導していく。


成長物語にありがちな清々しさと達成感が得られる。あとは、妻との仲が良く、かわいい子供もいて幸せなアメリカンファミリーといったところも心休まるのかもしれない。犬とヨチヨチ歩きの赤ちゃんの取り合わせも相性がいい。最後に向けて、思いがけないハプニングが起こる。実話というが、これが本当だとするとビックリだ。まさにgood girlだ!

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「マイ・ディア・ミスター(私のおじさん)」イ・ソンギュン&IU

2022-06-18 17:18:16 | 映画(韓国映画)
「マイ・ディア・ミスター(私のおじさん)」は2018年の韓国ドラマ


仕事で関係する女性税理士と雑談しているとき、映画好きの自分に韓国ドラマ「マイディアミスター」を勧めてきた。Netflixに人気韓国ドラマはたくさんあるけど、「イカゲーム」しか見ていない。題名をNetflixに見つけたので、見てみるかとピックアップする。

主役はアカデミー賞作品パラサイトで豪邸の主人役だったイ・ソンギュンである。全16話だし、一回あたりが1時間20分近くある。映画一本観るのとあまり変わらない。これは全部見るの無理かな?それでも、見始めるとおもしろいイ・ソンギュンの部下役の影のある派遣社員がいい味出していて、気がつくと毎日少しづつ見続けて16話終了した。

大手の構造設計の会社サムアンE&C で部長をしているパク部長(イ・ソンギュン)の元に、5000万ウォンの商品券が送られてきた。処置に困って机に入れたが、翌朝見当たらない。最終的に見つかるが、その紛失にはパク部長の部下のイ・ジアン(IU)が関わっていた。しかも、この商品券送付には社内の派閥争いによる足の引っ張り合いが関わっているようだ。社内の派閥と出世競争、不倫、貧困、借金取り立て、映画制作の暗闇など全16話20時間を超えるストーリーには題材は数多い。

⒈イソンギュン
構造設計のエンジニアで既存建物の安全性を確認する部門の部長だ。妻は弁護士事務所を主宰している。妻も現社長のトも同じ大学のサークルで一緒だった。家庭を顧みないパク部長に不満がたまっている時に、妻が現社長とくっついてしまう。不倫である。妻がこんなことになっているとは知らない。後輩の社長から見るとパク部長は目ざわりだ。社長やその茶坊主の役員を中心に攻撃を受ける。

パク部長は三人兄弟の次男である。兄は無職で妻に愛想尽かされている、弟は期待された映画監督だったが結局挫折して、実家に母親と2人住んでいる。ドロドロとしたストーリーと合わせて、掃除屋をはじめた2人兄弟にもスポットをあてる。軽いコメディ仕立てにもしているし、下町の人情モノのような肌合いもある。


宮部みゆき原作火車を韓国で映画化した作品、刑事役で出演したクライムサスペンス映画最後まで行くイソンギュンは知っていた。特に「最後まで行く」はドキドキもので韓国クライムサスペンスでオススメ作品だ。その後パラサイトで再び再会しておりなじみ深い。IUに裏があるけど、イソンギュンの役には裏がない。善人というのが似合うキャラなのかも?

⒉IU(イジウン)
パク部長の部に派遣社員で来た女の子イジアンを演じる。両親はいない。話ができない祖母を引き取っている。母が浪費でつくった借金が多額で、闇金融の男から取り立てにあっている。容赦なく、暴力も振るわれている。このあたりの暴力表現はきつい。パク部長が受けとった5000万ウォンの商品券を持ち去り、返済に充てようとしたがやめる。何で商品券が送り付けられたのか会社が大騒ぎだ。

他人と交わるのが苦手な孤独な派遣社員である。当初から地味だけど味のある演技をするなあと感心する。上司であるパク部長だけでなく、パク部長を追い出そうとする社長にも接触して、金銭報酬を得て盗聴もする。不幸なもとに育ったから、人生の荒波にさらされている設定だ。


ここでの見どころの一つに、IUの応酬話法のすごさがある。このドラマを通じて、社内の同僚上司や借金取りからひどいことを言われる場面が多い。どんな時でも、へこたれずに言い返すセリフがお見事で良くもまあ適切な言葉を選んでいる。脚本書いた人は悪知恵がはたらく。このドラマでの演技はかなり評価されるべきだと思う。

実は何も知らなかったけど、韓国でIUというのは10代の頃からとんでもない大スターなんだね。来週公開のソン・ガンホがカンヌ映画祭で主演男優賞を受賞した「ベイビーブローカー」にもIUは出ている。楽しみだ。

⒊緊迫感と予告編
社内の派閥と出世争いと不倫がキーになる。人間関係がドロドロしていて、暴力が振るわれる場面も尽きない。韓国クライムサスペンス風に緊迫感がでて思わず息を呑む場面も多い。画面分割の手法を多用する。それぞれの当事者がどう動いているのかを画面を分割して、同時に映すこの手法は緊迫感を高める。貧困と借金取りの物語はこれまで随分と韓国映画で見てきたけど、苦しめられているのが、華奢なIUなんで何故か気になり飽きないのかもしれない。


それぞれの回ごとに、次回の予告編で肝になる場面が出てくる。実際に次の回に出てくる場面なんだけど、ドキドキしてしまうシーンが多い。ストーリーの先行きが気になる。TVシリーズの楽しみなんだろう。でも、TVシリーズはずいぶんと時間とるなあ。さすがに疲れた。

ずっと見ていると、劇中の挿入歌のメロディが仕事をしていても耳について離れないし、舞台になるオフィスの構造まで目に焼き付く。そんなものかな?これを見たことで義理も果たせたんでシリーズものはもう当分やめよう。

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映画「君を想い、バスに乗る」 ティモシースポール

2022-06-12 18:48:27 | 映画(洋画:2019年以降主演男性)
映画「君を想いバスに乗る」を映画館で観てきました。


映画「君を想いバスに乗る(英題: Last bus)」は名脇役として数々のメジャー映画に出演してきたティモシー・スポール主演の英国縦断の旅に出る老人の話である。クライム系の映画が続くと疲れ気味で暖かい映画をカラダが欲している

若い人からパワーをもらいたいと思っているので、もともと老人主体の映画は敬遠気味である。ただ、老人の一人旅というと、いつも悪夢に満ちた作品が多い奇才デイヴィッドリンチ監督が例外のようにつくったロードムービー「ストレイトストーリー」が好きだ。もしかして同じような暖かいテイストをもった映画ではという期待を込めて映画館に向かう。

期待は裏切らなかった。映画全体にやわらかいムードが流れる心やさしい映画である。
映画ポスターを見ると、主役の老人の顔が気難しそうでこわい。たしかに映画でも、我を通して頑固な男である。でも、亡き妻と結ばれた60年以上前の2人の姿を映し出し、現代の映像に織り交ぜるのが効果的に効いている。周囲に支えられているのもひしひしと伝わる。

90をすぎて、愛妻と死別したトム(ティモシースポール)は妻とのある約束を果たすために、スコットランドから以前住んでいたイングランドの西端ランズエンドまで1350キロの旅に出る。路線バスをつないで行くわけだが、行く方々で数々の困難にぶつかるロードムービーである。

妻との約束は最後まで語られない。2人はランズエンドで結ばれて新婚生活を送っていたが、ある事情があって1952年に出来るだけ遠いところに行きたいという妻の希望スコットランドの北部の離れたところに引っ越したのだ。

⒈綿密な計画と数々の困難
トムはどのバスに乗ってどこまで行き、乗り換えるという綿密な計画を手帳に書き綴っている。行き当たりばったりに1350キロの旅に出るわけでない。自分も旅行は計画のディテールにこだわって実行していくタイプなので気持ちはわかる。

しかし、全部が筋書き通りにはいかないものだ。大事にしているアタッシュケースを盗まれそうになったり、バスを乗り越してしまってその日の目的地を通り過ぎて野宿をせざるを得なくなったり、混雑したバスの中で人種差別発言をする男に注意して絡まれたりする。絶えず計画の修正を余儀なくされる。ちなみに撮影時は侵攻前だったけど、ウクライナの移民も出てくる。


それでも、周囲との交わりの中で、老人が1350キロの旅をしていることがSNSで一般に周知されて良いように捉えられる。応援する人たちが出てくるのだ。人との出会いっていかに運をよくするかという見本のようなストーリーの流れがでてきて難題もこなせるようになる。


⒉ティモシー・スポール
1957年生まれで現在65歳、この映画を撮ったときは63歳くらいだろう。ティモシースポールはその年で90代の老人を演じている。不自然さはない。さすがだ。元自動車整備士で、正義感が強くまじめというのがトムだ。しかも、長年連れ添った妻への愛情に満ちあふれている。妻からの頼まれごとをなんとかこなそうという強い意思も感じられる。


映画を見終わり、ティモシースポールのキャリアを調べると、「ハリーポッター」や「ラストサムライ」などをはじめとして英国王のスピーチではチャーチルを演じている。名作と言われる多数の作品に出演していることがわかる。個人的には否定と肯定ホロコーストはなかったとする学者を演じて、レイチェルワイズと対決する悪役に徹した演技が印象深い。たしかに、映画ポスターを見て、一瞬この主人公の性格が悪そうだから観るのをどうしようと思ったくらいの人相だ。

それでも、往年のチャールズロートンを思わせる緩急自在の演技は天下一品である。観てよかった。
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映画「狼たちの墓標」

2022-06-11 06:10:36 | 映画(韓国映画)
映画「狼たちの墓標」を映画館で観てきました。


映画「狼たちの墓標」は韓国映画だ。日本のクライム系を2本連続で観て、クライムサスペンスの宝庫である韓国系が気になり新宿に向かう。出演者に馴染みはないが、新興勢力が利権を得ている町の組織に立ち向かうという設定がおもしろそうだ。観てみると、クライムサスペンスではなく純粋なヤクザ映画だ。昭和40年代の東映のヤクザ映画を現代韓国風に少し洗練させて撮ったというような作品である。

平昌オリンピック直前の韓国のリゾート地で、開発の利権をめぐって地元を仕切っていて警察とも繋がっている組織に、圧倒的武力で対抗する新興勢力が話し合いよりも暴力で解決して勢力を拡大しようとする話だ。

いきなり漂流船で死体を食い切って生き延びている男を見せつける。どんな意味かと思うけど、その男の残虐さを物語るつもりなんだろう。そして、しばらく経った後で、見た感じは優男に変貌しながらも、やることが義侠の世界を逸脱した新興勢力の親分を映画に放つ。

⒈冷徹で強い主人公
悪役は理屈のない暴力的で残虐な男の方が映える。ここではいかにもヤクザらしい面構えをした男でなく、普通にどこにでもいそうな若者風だ。スーツに刃物を忍ばせていつでも攻撃できるようにして、容赦なく相手に襲いかかる。圧倒的に喧嘩は強く、卓越した格闘能力を持っている。利権を得ようと話し合いしてもムリだとわかっている。お願いが受け入れられないと、ちょっとした隙に相手の親分を殺す。近くにいる取り巻きも皆殺してしまう。

そして、警察に出頭するのは本人ではない。もともと金融の仕事をしていて、多額の借金をしている男を身代わりに警察に出頭させる。


⒉地元の既存勢力
もともと地元を仕切っている組織自体も、内部の争いが絶えない。同じ組織の若者の結婚式に邪魔する場面がでてくる。それを会長と言われる老御大が抑えている。警察にも近い。ナアナアで悪さをしてきたのだ。よくある話だ。しかし、新興勢力の頭はそんな既存のしがらみを打ち消すように武力で持って皆殺しだ。会長にも手を伸ばす。この異常とも言うべき凶暴さがこの映画の見どころだ。


これでもかと攻めている新興勢力の頭の暴走と既存勢力の争いを見せる。それなりにはおもしろいが、既視感はある。韓国映画で時折あるパターンだけど、銃が出てこない。敵も味方も刃物である。戦前の任侠道を描いた映画で刃物を振り回して立ち回るのと同じだ。これは何か意味があるのであろう。

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映画「夜を走る」佐向大&足立智充

2022-06-07 17:56:11 | 映画(日本 2019年以降)
映画「夜を走る」を映画館で観てきました。


映画「夜を走る」は大杉漣の遺作教誨師でメガホンをとった佐向大監督の作品である。予告編から気になっている作品であった。題名から、事件をやらかして逃亡するロードムービーを想像していた。日経新聞の映画評でどうやら違うとわかり、しかも予測不能な展開らしい。観に行こうとしたが、上映館が少なく難しい。ようやくスキマ時間を見つけて観ることができた。

この映画はイケる!観て損のない価値がある。
先の読めない脚本はたしかに予測不能で、意外な展開が十分楽しめる。B級映画の匂いがムンムンするが、うまくまとめる佐向大監督の手腕に驚く。クライムサスペンスが基調であっても、ブラックコメディ的要素を持つ。内田けんじ監督運命じゃない人、三木聡監督亀は意外に早く動くのようなB級カルト映画になる可能性がある。

郊外にある金属のスクラップ工場で働く秋本(足立智充)は鉄クズの仕入に営業車で走り回る40歳の独身である。うだつが上がらず、会社業績に貢献できない。同僚の谷口(玉置玲央)と飲みに行ったあと、偶然駅で昼間産廃処理の営業に来ていた女性に出会う。一緒に飲み直した後、酔いが進んだ女性の介抱をしようとしてイザコザが起きる。その処理に慌てて隠蔽工作しようとして右往左往する話である。


ここから先の展開は言わぬが花であろう。改めて予告編を見直したが、介抱した後このようにストーリーが動くとは想像もつかない。かなり脚本が練られてつくられている。ネタバレにならないように、悪さを犯して隠蔽工作で逃げ回るロードムービーでないとだけ言っておこう。

⒈低予算映画丸出しと佐向大監督
有名な俳優は出ていない。せいぜい孤独のグルメの松重豊くらいだ。でもどこかで顔を見たことがある奴が多い。主演の足立智充にしても、出演作品を調べるとほとんど自分は観ている。どれもこれもどんな役だったかなと思う。他にも出演作を確認するとそんな連中ばかりだ。佐向大監督の手腕はなかなかのものだ。そういう役者たちを巧みに起用する。

しかも、脚本を書くときに、この映画で扱う仕事について調べて取材しているようだ。金属スクラップ工業の業界、夜の怪しい水商売系とそのバックの存在、新興宗教じみたカルト集団など。セリフにその職業独自のディテールがあらわれる。


単にスクラップ工場だけをとっても、主役の職業は鉄屑をいろんな事業所を回って買い取る仕事をしている。被害に遭う女性も産業廃棄物の処理に関する営業をしている。こんな仕事があることすら普通だったら知らない。クローズアップするにも取材しなければわからないだろう。

⒉善と悪の接点と偽善者たち
一般に映画では善と悪のバランスを取ることが多い。それこそ山田洋次監督の近作では悪人がいないことすらある。逆にここでは、善人はいない。あえて言えば、準主役の谷口の素直な幼い娘くらいか?不倫をしている妻が真っ当な顔をして、夫が外で女をつくったのを非難して私が悪いことしたのと平気で言っている姿や偽善的なカルト集団に所属する笑顔に満ち溢れる人たちなど善人そうな顔をしていても実は悪という人が数多く登場する。社会の縮図をうまく掴んで佐向大監督が描いている。


⒊冬薔薇との比較
たまたま「夜を走る」を観る前に、阪本順治監督の冬薔薇を観た。名優の活躍があり、レベルはそれなりだが、名監督阪本順治の脚本にはIT化の進んだ現代には時代錯誤的なものを感じた。ところが、ブログで先日自分が指摘した部分がこの映画ではちゃんとプロットに入っている。


クライム映画なのに警察が出てこないのはおかしいというコメントを書いた。冬薔薇では人が死んだり、半グレ同士の抗争があっても警察の存在がない「夜が走る」では行方不明の人物が出てくるわけだから当然警察が出てくるし、配役もある。聞き込みもされるし、取り調べもある。現代で考えれば当たり前の防犯カメラの捜索などもでてくる。普通であればそこまで考えるべきなのにそうでないのは怠慢というわけだ。

ここまで重層構造にできているとは予期していなかった。大杉漣が生きている時から、一緒に構想を練ったという。長年にわたっての構想が実ったようだ。個人的には教誨師」も好感を持てた。次作に期待する。
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映画「冬薔薇」 阪本順治&小林薫&余貴美子

2022-06-05 19:45:03 | 映画(日本 2019年以降)
映画「冬薔薇」を映画館で観てきました。


映画「冬薔薇」阪本順治監督脚本による若手の伊藤健太郎主演の新作である。港町で海運業を営む夫婦とグレている息子に起こるいくつかのできごとを描いている。公開されているいくつかの新作の中で、阪本順治作品ということでの期待を込めて観に行った。半世界以来のブログアップである。

三浦半島の岬にある港町で、土石の運搬をする海運業を営む渡口義一(小林薫)と妻(余貴美子)には淳(伊藤健太郎)という息子がいた。淳はファッションの専門学校に進んだが、ろくに学校に行かずオレオレ詐欺まがいの悪さをする半グレグループとつるんでいた。縄張り争いで別の不良グループとのイザコザで大けがをして抜けようとしたところで、自分の身内もからんだ事件に巻き込まれるという話だ。


もう一歩かな!
老優の名演技でポイントを上げても3.5の域は超えない作品である。クライムサスペンスと人情もの中間を狙ったと思うが、ストーリーに軽い起伏があっても物足りない。小林薫や余貴美子、石橋蓮司など登場人物のキャラクター設定は悪くない。ただ、この事件が昭和50年代から平成の初めに起きていたなら問題ない。IT化の進んだ現在に照らし合わせるとムリがある。

この映画クレジットを見ると女性プロデューサーだけど、たぶん、阪本順治監督の一人よがりでつくった内容に口出しできずに出来上がったのではないかという印象をもつ。現在の監視社会ではあり得ないことが多すぎる。阪本順治は80代ではなくまだ60代前半なんだから、昔の名前で出ていますではダメ。時代錯誤は何とかして欲しいなあ。


⒈名優の活躍
海運業を営む夫の小林薫は主人公の兄にあたる長男が亡くなってから、次男に対しては放任だった。面倒くさいことには関わりたくない。そんな細かい性格もよくわかる設定だ。妻の余貴美子について、仲野大賀演じる出来の悪い息子のおおらかな母親を演じた泣く子はいねえが同様に暖かいお母さん役だ。ダメ男に付属した母親の役柄に欠かせない存在になった。2人ともリアルな感じでうまい。



妻(余貴美子)は、山梨で粗相をした弟の息子をかばって、経済的余裕もないのに弟を船舶の乗組員で働かせる。その昔、故郷で商売に失敗した弟を自分の母が我が家の近くに住まわせ、我が家の家業で働かせたのを映画を観ながら思い出した。古今よくある設定だが、家族の絆が強かった時代の産物かもしれない。


石橋蓮司阪本順治作品には欠かせない俳優だ。2人の前作「一度も撃っていません」では主役を張ったが、正直言ってあまり面白くなかった。今や81歳、海運会社で働く老作業員を演じる。ともかく一言多い。ギャンブル好きで身内に見放されて今や1人という役だが、気の利いたフレーズを連発する。この映画では阪本順治の脚本に古さが目立ったけど、石橋蓮司のセリフだけは別物だ。


⒉ツッコミどころ多数(軽いネタバレあり)
息子の淳に関わる半グレグループが、自分たちに近づいてきた軽自動車に因縁をつけて、車の上に乗ったり嫌がらせ全開だ。その軽自動車にはドライブレコーダーが付いていて、一部始終が全部録音されている。しかも、SNSで公開されて拡散している。でも、その件でその後オトガメを受ける場面はない。これって今の時代もっと大騒ぎになるんじゃないかしら?

また、身内の男がお仕置きを受けるシーンがある。半グレグループの仕返しで、街にいる男がバットで殴られて、ワゴンで連れ去られる。これも防犯カメラが街にあるはずだから、わかるよね。その後、身内の男が悲劇を迎える。時間の関係があったかどうかわからないが、捜査されている気配が映画にない。警察の存在が全くないのはおかしい。

実は絶対に変というツッコミどころはもっとある。
老優の演技はいいし、ここにきて冴えまくる河合愛美ちゃんも出てきて、往年の山口百恵ばりのクールビューティーを見せつける。良いところいっぱいあるからご勘弁というところだね。


最後に向けての「本当の友だちって何?」という問いかけはいいんだけど、コイツといい友達になるということは法より掟を重んじる裏社会に行くこと。それっていいのかな?小林薫のコメントにラストがこれでいいのかと思ったと書いてあるが、たしかにちょっと微妙だね?

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映画「オフィサー・アンド・スパイ」 ロマンポランスキー&ジャン・デュジャルダン

2022-06-04 09:10:46 | 映画(フランス映画 )
映画「オフィサーアンドスパイ」を映画館で観てきました。


映画「オフィサー・アンド・スパイ」「戦場のピアニスト」「ゴーストライターの名匠ロマン・ポランスキー監督の新作である。高校の世界史教科書にも記載があるドレフュス事件を扱っている。19世紀末、ユダヤ系のフランス人将校がスパイ容疑で告発されるという有名な冤罪事件である。戦前にゾラの生涯という名作映画があり、作家のゾラからの冤罪告発が主体となるが、ここでは軍内部で真犯人がいると内部告発した将校の目で描いている。


1894年ユダヤ系のフランス軍ドレフュス大尉(ルイガレル)がドイツ軍に機密情報を流しているスパイ容疑で軍籍を外され、離島に島流しされた。諜報を扱うピカール少佐(ジャン・デュジャルダン)が、自分あてに送られた書類にドレフュスが告発された文書と同じ筆跡を見出す。上司の司令官や大臣に告発するが、一旦裁決されたことと混乱を恐れて取り合ってもらえない話である。

プロの映画人による上質の作品である。さすが!という印象を持つ。
当初は単なる歴史ものに見えるスタートで、淡々と事実を語っていくように見えた。しかし、主人公のピカール少佐が怪しいと感じて冤罪に気づく場面から、グッと引き締まってくる。しかも、すごい演技合戦を見せつける。探究心が告発に変わり上司の大臣や司令官に絡むシーンに迫力がある。

歴史ものは最終結果が分かっている訳だけど、ストーリーの先行きがどうなるんだろうと感じさせるスリリングな要素がある。ロマンポランスキーと名コンビのアレクサンドルデスプラの不安を感じさせる音楽もよく、スリラーのような恐怖も感じさせる。

数多いと思われるいろんな歴史上のエピソードもうまく選択して映画を構成している。フランス原題「J'accuse」ゾラの「私は弾劾する」とはいうものの、思ったよりもゾラやドレフュスの妻の出番が少ないのもこれはこれでいいと思う。


⒈ロマンポランスキー
キネマ旬報ベストテンでも1位になったゴーストライターは傑作だった。元首相の自叙伝のゴーストライターが気がつくと陰謀にハマるというストーリーをどんよりした暗いムードを基調に、スリリングに仕上げる。魅了された。あれから10年以上経つ。日本ではあまり注目されていない2017年のスリラータッチの告発小説、その結末エヴァグリーンの怪演がよく、自分は好きだ。

何よりロマンポランスキー組とも言える映画スタッフが卓越である。武満徹のように不安を呼び起こすアレクサンドルデスプラの音楽が画面の出来事にマッチし、ポランスキーの母国ポーランドのパヴェル・エデルマンの撮影も時代背景あふれる美術を的確に反映するショットで、編集のエルヴェ・ド・リューズも題材の多いこの映画でうまくまとめる。

優秀なスタッフが集まるとこうも違うなと感じさせる。プロの仕事ですばらしい!でも、2019年にフランスで公開されヴェネツィア映画祭で審査員大賞を受賞した作品が3年経って公開されるのはいくらコロナとはいえどうしてなのかな?


⒉ジャン・デュジャルダンとルイガレル
映画を観に行く前は、ロマンポランスキー、ドレフュス事件というワード以外は先入観がなかった。映画が始まってしばらくして、主役のピカール少佐がアカデミー賞映画「アーティスト」のジャン・デュジャルダンだと気づく。久々に見る。「アーティスト」の頃はマリオンコティヤールなどと一緒の恋愛映画が多かったが、ラッキーでアカデミー賞もらってから役に恵まれていない気がする。ここでの掛け合いセリフをはじめとした演技は絶妙だ。


映画見終わってからドレフュス大尉を演じていたのがルイガレルと知り驚く。彼には「ドリーマーズ」などフランス得意の前衛的現代劇のイメージしかない。映画監督フィリップガレルの息子で若い時から役には恵まれている。モニカベルッチが豊満なボディを見せた灼熱の肌マリオンコティヤール共演の「愛を綴る人」などの作品で大女優と共演しているが、力量不足は否めない。でも、チャラ男でなく迫害され続ける役で一皮剥けたのではないか。


主役のピカール少佐は政府高官の妻と不倫をしている。これが単なる歴史ものにしていない一つの要素でもある。その不倫相手を演じるエマニュエルセニエである。映画を観て彼女はすぐわかった。ロマンポランスキーの妻である。年齢の差30あるのもすごいけど、さすがにもういいおばさんで、ジャン・デュジャルダンよりも年上だ。「あんた映画つくるんだったら私も出してよ」と言われるんだろうが、不倫相手はもう少し若くて魅力的でも良かったのでは?若い時にきれいで今は年齢を重ねているが、監督の妻というだけで主役級になる女優にレネ・ルッソもいる。日本にも多い。困ったものだ。


⒊ユダヤ系と不思議なエンディング
ユダヤ系の迫害というと、日本人はナチスのユダヤ人迫害をすぐ思い浮かべる。でも、映画をきっかけに調べると、フランスでも反ユダヤ運動が激しかったようだ。欧州にはユダヤ差別が歴史的に根強いものがあるというのもこの映画でよくわかる。もともと軍人の報酬の20倍も収入あるドレフュス大尉が悪いことをするわけがないというセリフがある。スパイ容疑であったら、今の北朝鮮だったら即刻死刑だし、戦前の日本も同様だと思う。島流しですむのがフランス流なのか?


ネタバレなので言えないが、ラストワンシーンが実に印象的である。日本であった厚生労働省の村木事件も連想させると同時に、ドレフュスに対する率直な感想が作者にあるのを感じる。
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映画「帰らない日曜日」

2022-06-01 18:46:26 | 映画(洋画:2019年以降主演女性)
映画「帰らない日曜日」を映画館で観てきました。


映画「帰らない日曜日」は原題「mothering Sunday」の小説の映画化である。3月の日曜日にメイドが帰京することを許される日がmothering Sundayである。15禁映画で主演のオデッサヤングがバッチリ脱ぐが、名優コリンファースとオリヴィアコールマンが脇を固める。この2人の存在感は強い。

栄誉ある文学賞の受賞作家が,若き日にメイドだった1924年に身分の違う名家の御曹司と戯れる一日を描いている。いくつかの過去の時代の時制が激しく交差する。


緑あふれる草原の中に建つお屋敷が印象的な英国風の上質な肌あいを持つ映画である。ただ、シーンごとに時間が激しく移り変わるので,頭が混乱する。わかりづらい映画だ。ようやく時間が経って頭が整理されていくが,正直自分には合わない映画であった。


15禁映画なので、濡れ場がいくつかあると予測された。階級社会英国で高貴な人がメイドに手を出すという展開はいかにもどこかで既視感がある。いくつか意外な展開を示してストーリーの起伏をつくる。でも、大して驚くほどではない。2人の営みは激しい絡みというわけではない。ただ、だらんとした男のぺ◯スが何度も映像になるのには驚く。主人公オデッサヤングが全裸で書斎の中を歩き回る絵はきれいだけど、それだけだなあ。

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