映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「泥の河」 小栗康平&田村高廣

2018-04-25 22:30:55 | 映画(日本 昭和49~63年)
映画「泥の河」を名画座で観てきました。

宮本輝の原作は未読、キネマ旬報ベスト1などやたらに評価が高いのにDVDレンタルにはみあたらない。チャンスがなかったが、白黒映画特集でやっていることに気づく。仕事を抜け出して観てきました。


昭和31年の大阪のドブ川の側で暮らす小学校3年生の少年2人の友情を基調に、戦後を引きずった社会の底辺で生きる人たちを描いている昭和56年の作品だ。このころはエリアによってはまだ戦後を引きずったエリアがまだ残っていたのであろう。少年2人と少女をとらえるカメラアングルが巧みで、天神祭りの祭り船をふんだんに見せているところもよい。まさしく泥の河というように、主人公のうどん屋からも次から次へと生活雑排水や汚物が捨てられる。そんなシーンの連続に懐かしさをおぼえる。

昭和31年大阪のドブ川のほとりでうどん屋を営む一家を映し出す。夫板倉晋平(田村高廣)と妻板倉貞子(藤田弓子)と小学三年生の息子信雄で暮らしていた。店に食事に来ていた荷車のオッチャン(芦屋雁之助)が馬車にはねられて死んでしまう。荷車に積んでいた鉄を持ち去ろうとする少年がいた。その少年喜一は向こう側の岸にあるぼろい船で生活していた。父親はこれが廓船と気づいて、息子には行くなといっていた。

それでも、同じ年の子供どうし仲良くなって、向こう岸の船に遊びに行くことになった。うっかり信雄は船の側で転んでしまったが、姉の銀子がいてやさしくしてくれた。奥に母上がいるようだったが、出てこなかった。そのあと、逆に遊びに行っていいかと言われ、姉を連れて喜一がうどん屋に遊びに来た。娘のいない夫婦は大歓迎だ。ところが、食堂に飲みに来ていた心ない酔客があの船で客引きをやっている子供じゃないかという。夫婦はその酔客を追い出す。

喜一は学校に通っていないという。信雄は自分の小学校の学友を紹介しようとするが、拒否され憤慨する。そのあと信雄はまた喜一の船に遊びに行った。母親の声が聞こえる。こちらにおいでと言われて、入っていくとまばゆいばかりの美しいつやっぽい母親(加賀まりこ)がいた。

1.水上生活者
大映映画「女経」若尾文子が自由奔放に生きるホステスを演じるのは、下町の河で暮らす水上生活者の娘という設定だった。「女経」は昭和35年の映画だ。ここでも母と姉弟の3人で船暮らしている。船頭だった父親は亡くなっている。自分の感覚ではピンとこないけど、まだまだ昭和30年代には水上生活者っていたんだろうなあ。それと同時に川岸で暮らす主人公のような人たちもいるんだろう。でもこの川岸のうどん屋台風が来たら一発アウトって感じがするけど、どうなんだろう。

2.戦争の足跡
戦争を引きずるのはうどん屋の店主晋平だけでない。小学校3年生の喜一が軍歌を歌うのだ。「ここはお国を何百里 離れて遠き満州。。。」と戦友を1番だけでなく次も正確に歌ってみせる。それを聞いていた店主晋平が思わず、自分の満州の想い出に浸る。きっと少年喜一の父親が歌っていたんだろう。いくつかのシーンで戦争を引きずっている人が多数出てくる。「もはや戦後ではない」という有名な経済白書の新聞欄まで映し出すが、実際にはこういう川岸で生活する人たちにとっての戦後の終了は大阪万博過ぎまで変わらなかったのであろう。


3.加賀まりこの見せ方
映画「ジョーズ」では、サメに被害にあった海水浴客とかは映るがなかなかサメが現れない。1時間以上現れない。それとある意味一緒だ。食堂の息子信雄は友人喜一の船に行く。姉にも会うが、声が聞こえど母親が出てこない。しばらくはそれでストーリーが進む。そのあとでようやく出てくる。


はじめは着流しの浴衣を着た後ろ姿だけだ。そのあとでようやく妖艶としか言いようにない加賀まりこを見せる。この勿体つけ方がうまい。もう一度重要場面で現れるが、最初の見せ方はぴか一だ。
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映画「素敵なダイナマイトスキャンダル」 柄本佑&前田敦子

2018-04-18 17:58:44 | 映画(日本 2015年以降)
映画「素敵なダイナマイトスキャンダル」を映画館で観てきました。

昭和のエロ雑誌編集長末井昭の自伝の映画化である。ダイナマイトというのは主人公が子供のころ、母親が隣家の男とダイナマイトで心中をしたというところから出ている。母親が自殺したことは主人公のトラウマになっていたが、大人になってからダイナマイトでの心中が他人との話題のネタになっているので自虐的に取り上げた題名のようだ。


ピンサロの看板描き、エロ本、パチンコ必勝法雑誌の編集とともに主人公の歩んできた人生を描く。バックで示す昭和の猥雑な風景から独特の匂いが立ちこめている。昭和の風呂なしアパート、昭和20年代を感じさせる平家木造家屋、場末のホテルでのエロ雑誌撮影風景、ピンサロで半裸の女と客が抱き合う姿などが次から次へと出てくる。なかなかおもしろい。柄本佑はコミカルな動きをしていて好演、裸になってピンクのペンキを頭からかぶって道路にペインティングする。おかしい!妻役の前田敦子もかわいらしい妻を演じている。

まずは主人公末井(柄本佑)がエロ雑誌の露出度が強いと警察署で幹部(松重豊)に絞られているシーンからスタートする。


そのあとで、末井の回想がはじまる。1955年末井が育った岡山の山村エリアを映す。のどかなところだ。そこで末井の母親(尾野真千子)が隣家に住む男とダイナマイト自殺を図る。父親と懸命に方々探したのにあったのは粉々になった死体であった。その後、近所で白い目で見られたので1965年学校を出ると、すぐさま工員になるべく大阪に向かう。

大阪では徒弟状態でこき使われて、すぐさま川崎に出稼ぎに出ている父親のもとへ移る。川崎の工場も封建的な状態であった。父親は荒れた生活をしているので、イヤになり1人住まいをする。牛乳配達をしながら工員をやっていた。そのころ同じ下宿先で牧子(前田敦子)と出会う。そのあと、グラフィックデザインの専門学校に通学した後、デザイン会社に勤める。そこで仲良くなった先輩が描いたキャバレーの看板に魅せられ、キャバレーの広告作りに職を得て勤め始める。


独特なエロなタッチが受けて、ほかのピンサロからも描いてくれと言われる。そのあと、エロ雑誌の編集長になる。エロ写真に交じって、有名著述家からの書いた原稿が入った変わったエロ雑誌作りで次第に人気雑誌となるのであるが。。。


学校秀才でない裏街道まっしぐらの人物の話は楽しい。エロ雑誌サブカルチャー世界では成功者であろう。ピンサロ看板からエロ雑誌編集と少しづつ生活をランクアップさせている。自分の記憶にはないが、「写真時代」は30万部超も売れたようだ。羽振りもよくなる。そういう下半身産業での成長?物語にトラウマになったダイナマイト事件当時の映像を混ざらせ、雑誌社の新人社員との浮気や商品取引での大失敗や飲み屋のママからの無尽につきあって店の改装に散財させられるなどの荒れた生活も描いている。


こうなりたいという人物ではない。でも見ていて楽しい。

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映画「ウィンストン・チャーチル」 ゲイリー・オールドマン

2018-04-11 17:34:26 | 映画(洋画:2016年以降主演男性)
映画「ウィンストン・チャーチル」を映画館で観てきました。


ゲイリー・オールドマンがついにアカデミー賞主演男優賞を受賞した第二次世界大戦初頭の英国首相ウィンストン・チャーチルを描いた作品である。絶好調ナチスドイツが欧州制覇に乗り出し、当惑する英国国内の事情が映し出される。欧州に攻め入るナチスに対して、1938年のミュンヘン会談を経てネヴィル・チェンバレン首相がとった宥和政策は後世批判を浴びる譲歩といわれる。英国首相ウィンストン・チャーチルが就任した1940年5月の英国が舞台だ。

上記事実は世界史の教科書では有名であるが、ディテイルとなると知らないことが多い。チャーチル内閣と「英国王のスピーチ」で観たどもりの英国王ジョージ6世の関係を含め興味深く見ることができた。やっぱり歴史は面白い。

1940年5月、英国議会で野党労働党アトリーが高らかに演説しているシーンからスタートだ。ナチスに対して保守連立の挙国一致内閣で対抗するのは構わないが、ネヴィル・チェンバレン首相(ロナルド・ピックアップ)に対しては内閣不信任とすると。内閣不信任となると自分はやめるというネヴィル・チェンバレン首相から王室からも信頼の厚い外相ハリファックス(スティーヴン・ディレイン)が打診を受けるが、自分はその任にないと断る。そうしていくうちに海軍大臣ウィンストン・チャーチル(ゲイリー・オールドマン)にお鉢が回ってくる。


保守党と自由党を行ったり来たりしたウィンストン・チャーチルには敵も多かった。挙国一致内閣とはいえ、保守党内をまとめるためネヴィル・チェンバレン元首相と外相ハリファックスも閣内に残す。国王ジョージ6世(ベン・メンデルソーン)はむしろ外相ハリファックスを信頼していた。

そんな中もナチスドイツの侵攻はとまらない。デンマークを占領した後、オランダやベルギーも自分の配下にいれ、フランスも自軍の配下にいれつつあった。フランスのはずれカレー地方とダンケルクもすでにナチスドイツに包囲されている状況だ。フランクリン・ルーズベルト大統領に軍艦の出動を願ったが、中立性を大事にすると断られる。そんな中、イタリアのムッソリーニ総統より講和を仲介する打診が入る。当然noであるが、軍部に確認しても戦況打開の方策が見つけられない様子。外相ハリファックスは講和を進めるよう進言してきてチャーチルは悩み、条件付きで交渉を進めるように決意したとき、夜突如ジョージ6世がチャーチルに会いに来るのであるが。。。


恥ずかしながら、ネヴィル・チェンバレン首相ウィンストン・チャーチル内閣に入っていたという事実は知らなかった。というより世界史の教科書ではそこまで習わない。しかも、宥和政策をすすめていたネヴィル・チェンバレン首相と外相ハリファックスがイタリアを通じて再度ナチスドイツとの接近を図ろうとしていたことも当然知らない。英国史というのは奥深い。これらのことがあった後、半年後にネヴィル・チェンバレン首相は亡くなっているという。医療が今ほど進んでいないということもあるが、一国の首相というのはストレスに包まれているんだろうねえ。日本でも昭和天皇に解任された田中義一首相があっという間に亡くなっているのと同じだね。

1.ゲイリー・オールドマンとチャーチル
ベテラン俳優である。個人的には「レオン」で殺し屋ジャンレノと対決する麻薬捜査官役が最も好きである。手ごわい相手といった感じで、最後までドキドキさせられた。その後もいい役に恵まれたが、ここでは特殊メイクで議会演説は議会の騒乱とともに圧倒的な迫力をみせる。主演男優賞は当然の受賞であろう。


その裏側で、気難しさがある部分も見せる。映画「情婦」チャールズ・ロートン演じる弁護士と看護婦の関係を思わせるような妻役クリスティン・スコット・トーマスとの掛け合いが絶妙で味がある。緩急自在のチャールズ・ロートンの演技と同様にわがままでアクの強いチャーチルの実態をコミカルに演じる。タイピストのリリー・ジェームスに意地悪く接しながら、次第に仲良くなっていく姿も描く。Vサインの報道写真を前にしてチャーチルと一緒に笑うシーンがかわいい。

2.サインはV
映画を見るまで、ウィンストン・チャーチルのVサインというのをすっかり忘れていた。


自分が小学生のころ、バレーボールのスポーツ根性ドラマ「サインはV」はとてつもない人気だった。クラスの全員見ていた。それと同時に、当時少年だった我々のようなおじさんが誰もが知っている有名なシーンがある。「巨人の星」の星一徹のパフォーマンスだ。

星飛雄馬の青雲高校が東京都大会を勝ち抜き甲子園に出場が決まった後で、いったんは青雲高校の監督もやった父星一徹が、新幹線に乗って東京駅から旅立とうとする息子の前に現れ、Vサインを示すシーンだ。自分が初めてVサインを知ったのはこのときだ。いかにも梶原一騎らしい場面だ。

これを40年以上ぶりに思い出せたのも楽しい。
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映画「ペンタゴン・ペーパーズ」 メリル・ストリープ&トム・ハンクス

2018-04-08 18:01:29 | 映画(洋画:2013年以降主演女性)
映画「ペンタゴン・ペーパーズ」を映画館で観てきました。


メリル・ストリープとトムハンクスの超一流俳優の共演をスティーヴン・スピルバーグが監督する映画となれば、だれもが必見であろう。1971年ベトナム戦争が厭戦となっていた時代のアメリカで名門ワシントン・ポスト社の社主と編集主幹が報道の自由をめぐって政府に反発する姿を描いている。

メリル・ストリープとトム・ハンクスの軽めの長まわしシーンでの会話を聞いて、この映画ちょっと格が違うと2人のベテランのトークの掛け合いに引き寄せられる。「スリー・ビルボード」「シェイプ・オブ・ウォーター」も確かに傑作だが、この映画は実録物として違った意味での魅力を感じる。


いきなりCCRジョン・フォガティーの歌声が聞こえて1966年のベトナム戦線での地上戦の場面が出てくる。アメリカ国務省の本省からダニエル・エルズバーグ(マシュー・リス)が戦況を確認に現地地上部隊に同行している。報道とは反してベトコンゲリラ部隊に苦戦を強いられている姿を見てきた。帰りの飛行機の中で戦地を視察していたアメリカ国防長官マクナマラ(ブルース・グリーンウッド)に地上戦の戦況はよくないと報告する。しかし、マクナマラは帰国後の記者会見ではそうは言えない。

数年後のある夜。政府系シンクタンクのランド研究所に勤務するエルズバーグは、ベトナム戦争の経過を記録した機密文書をコピーする。トルーマン、アイゼンハワー、ケネディ、ジョンソンと4人の大統領政権にわたって隠蔽してきたベトナム戦争に関する事実が記録されていた。

名門ワシントン・ポスト社の社主キャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)は経営基盤が安定することを意図してニューヨーク証券取引所上場を目指していた。一方で編集主幹のベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)は購読者を増やすためのネタを探っていた。ライバルニューヨーク・タイムズの人気記者ニール・シーハンの最新記事がでないことを気にしていた。若い社員に潜入させ、特大ネタをつかんでいることを確認した。するとニューヨーク・タイムズに、何者かがリークした文書の一部が記事になることがわかる。しかし、ニクソン政権は連邦裁判所に、ニューヨーク・タイムズの記事の差し止め命令を要求する。


ワシントン・ポストの編集局次長のベン・バグディキアン(ボブ・オデンカーク)は、以前、ランド研究所に在籍していて、リークしたのが元同僚だったエルズバーグであることを突き止める。やがてバグディキアンは、文書の全文コピーを手にいれるのだが。。。

1.厭戦ムード
この当時思春期に入り始めていた自分はロックに目覚めた。ビートルズから入って、すぐさま当時流行のニューロックのとりこになる。ブラスが基調のシカゴは大好きだった。そのシカゴは「1968年8月29日シカゴ、民主党大会」とか反戦のメッセージが強い曲を当時つくっていた。そんなころを映し出した映画の一つが「ディアハンター」である。現地での北ベトナムとの激しい戦闘と主人公が捕虜になってからのロシアン・ルーレットのシーンは極めて気味悪く、クリストファー・ウォーケンの不気味さが印象に残る。戦闘に駆り出される前に故郷で長い壮行会のシーンには若き日のメリル・ストリープも出演している。

そんな独特のムードが立ち込める。ヒッピー風長髪の若者が騒ぐ姿を映し、新聞の印字や公衆電話など小道具を使って時代の古さを示す。日本でも学生運動のいやらしさがギリギリ残っていたが、実際に戦争に若者を送り込んでいるアメリカとは緊張感が違う。

2.グラハム女史の葛藤
ニューヨークタイムズが記事差し止めの裁判所判断を受けている。今回秘密文書を入手した後で、法的問題がないかどうかワシントン・ポストの顧問弁護士を呼び出す。もしこのネタが同じ出どころだったらダメだといわれる。下手をすると逮捕される可能性もあると。しかし、報道機関としてのワシントン・ポストの存在感を示すために編集主幹ベン・ブラッドリーは記事にすることを主張し、編集がされていない秘密文書を短時間で整理して記事にまとめる。経営幹部はニューヨーク証券取引所に上場したばかりで、万一経営に影響があると困るので記事にしてほしくない。輪転機は待機している。


そこでキャサリン・グラハム社主に伺いをたてる。この映画の一番の見どころである。そこから始まる一連の動きは映画を見てのお楽しみだが、さすが大女優という貫録を感じる。今回エンディングロールのクレジットの順番が気になったが、さすがに先輩に敬意を表してかメリル・ストリープトム・ハンクスより先だった。当然だろう。あとはスピルバーグは相変わらず子供の使い方がうまい。
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