何とかあの方に近づきたいと思った”ちよ”は、その足で駆け出した・・・
そして近くの神社にお参りし あの方から頂いたお金 一ヶ月は有に食べていける全てをお賽銭として神様に差し出し、ハンカチだけは胸に入れ「もう一度あの方に会えますように」と念じて手を合わせた。
年月が過ぎ先に半玉(芸者の卵)になったのは”おかぼ”の方だった。
そして”初桃”と一緒に贔屓筋を周り一人前の芸者へとなって行ったが”ちよ”は未だ置屋の奉公を続ける日々が続いた。
そんな”ちよ”が15歳を迎えた頃、置屋「新田」へある人が訪ねて来た。
「しばらくご無沙汰いたしておりました」
「あら”豆葉”さんお忙しいのに何のご用かしら?」
「新田にはもうお婆様もお亡くなりになり もう女中はいらないんじゃないかと思って・・・」
「あら、そんな事を 気を使っていただいて もう少し早かったら”おかぼ”でも・・」
「いえその子じゃなくって・・」
「”おちよ”? 駄目駄目!あの子は手がかかり過ぎて何にもできないわ ”豆葉”さんに迷惑がかかるだけよ」
「でしたら・・あの子が見せ出しするまでの一切の費用は全部こちらで持たせて頂くという事では?」
「・・・・・・」
「そんな事をしたら”豆葉”さんが大損しちゃうわよ!」
「もし”ちよ”ちゃんが半年で見せ出しが出来なかったらその時は私がその倍をお支払いします」
どうしようか?と考えた新田のお母さんは「どうせ”ちよ”には無理」だろうと考えその条件をのんだ。
その後”ちよ”は”豆葉”の下で芸者になるための厳しい指導を受けみるみる成長して行くのだった。
そしてわずかな期間で芸者見習い、いわゆる半玉となり名前も”さゆり”と改め一人前の芸者へとなっていった。
ところが、それを妬ましく思う”初桃”は”豆葉・さゆり”が呼ばれる贔屓筋のお茶屋を付け回し”さゆり”の悪口を言いふらして行く
それを知った”豆葉”は絶対に邪魔させまいとある時相撲観戦に”さゆり”を連れて行った。
それには”豆葉”としての狙いがあり”さゆり”にある人物を会わせる目的のためだった。
そしてそこに居合わせたのは”のぶ”という堅物でとても相撲好きの社長と彼を命の恩人とした会長2人が升席で観戦をしていた。
「お招き頂き遅くなって申し訳ございません」
「今日新しく半玉となったこの子を紹介したく同席させて頂きました ご挨拶なさい」
”さゆり”は会長を見るなり・・あの時、橋のたもとで優しく声をかけてくださったあの方だと一瞬声を詰まらせながら
「”さゆり”と申します、よろしくお願いします」と芸者としての振る舞いの挨拶をした。
会長は気づいていたようだが差し障りなく「初めてだね?ここに来るのわ」
そして”豆葉”が”さゆり”に「”のぶ”さんの側にいって相撲を教えてもらいなさい」と小声で耳打ちをする
”さゆり”はできれば会長さんのもとに行きたかったが芸者としての仕事”豆葉”のいう通りに仕方なく社長のそばに移動した。
「”のぶ社長”私は相撲の事はよくわかりませの教えていただけますか?」
ぶっきら棒の”のぶ”は”さゆり”の顔をちょっと見た
”のぶ”は一瞬たじろいだが相撲について一生懸命語り出した
会長はその2人の会話を見て思いはあったが”のぶ”の今までにない表情に満足しながら冷めたおちょこの酒を喉に流した。
そこへ・・・どこで情報を得たのかまた”初桃”等が現れたので「じゃ〜この辺りで失礼します」と”豆葉”が2人に言った。
「なんだこれからがいいとこなんだ!この勝負が終わるまで待て!」と”のぶ”が2人を制した。
そして”のぶ”が応援していた力士が勝ち「”豆葉”またこの子を連れて来てもいいぞ」と顔を見ずぶっきら棒に言った。
これで”豆葉”の狙いは達成したのである。
つづく