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今日の筆洗

2024年09月10日 | Weblog
「遼」とは遠い距離を意味する。「広い視野と心を持ってほしい」。ご両親はそう願い、その名を選んだそうだ。囲碁の一力遼天元である▼国際棋戦「応氏杯世界選手権」で初優勝を決めた。主要な国際棋戦での日本勢の優勝は19年ぶり。日本のファンが長く待った快挙である▼「遼」という遠い道を想像する。平坦(へいたん)な道ではなかっただろう。2013年、勝てば最年少でのリーグ戦入りとなる名人戦最終予選決勝。優勢にみえたが、逆転を許し、「3目半負け」。「これほど辛(つら)い負けは経験したことがなかった」という▼七大タイトルを2度独占した、井山裕太三冠に歯が立たなかった時期もある。10を超える連敗。「よい選手になるには何百回と負けなければならない」。かつてのチェス世界チャンピオン、キューバのカパブランカの言葉だが、囲碁も同じか。数々の敗北と悔しさが遠い道を歩む者を鍛えあげ、国際戦優勝へと導いたのだろう▼新聞という仕事と囲碁の二刀流の人でもある。高校に進学せず、囲碁に専念する棋士は珍しくないが、大学まで卒業し、父親が社長を務める河北新報社に入った。その分、道をさらに険しく、複雑にすることもあったはずだ▼「遼」の「尞」とはかがり火のことらしい。韓国、中国勢がランクの上位を占める世界の囲碁界である。この優勝が日本勢の道を照らす大きな火となればと願う。
 
 

 


今日の筆洗

2024年09月07日 | Weblog

「縄文杉」をはじめ樹齢数千年の屋久杉が生きる鹿児島県の屋久島。山は深く、木の精「山和郎(わろ)」の話が語り継がれているという▼昔、木を探しに2人が山に入った。昼食休憩中、近くに巨木を見つけ「たんすにすれば立派なもんができるじゃろうなあ」と言うと急にゴッシン、ゴッシンと、のこでその木をひく音がしだしたそうな▼2人が顔を見合わせていると、次にバリバリバリと巨木が倒れる音がしたが、それは立ったまま。2人は青ざめ、またゴッシン、ゴッシンなどと聞こえ始めたため逃げ帰ったという。音で怖がらせ、切ってくれるなと訴えたのか。『屋久島の民話 第一集』(未来社)で読んだ▼台風10号の接近で強い風が吹いた屋久島で推定樹齢3千年の「弥生杉」が倒れた。高さ約26メートル、幹回り約8メートルの巨木。根元近くから約1・5メートル残して折れたという。山和郎が木を守ろうとしても、自然の強烈な破壊力の前には、なすすべがなかったか。観光地の「白谷雲水峡」にあり、登山経験の少ない人でも見に行きやすい木だったという。地元の人たちの落胆を思う▼屋久杉が長寿なのは、花こう岩の地に育つせいだという。栄養が乏しいために成長はゆっくり。年輪が密となり、樹脂も多くなって腐りにくく、長生きするという▼逆境ゆえの大器晩成とは立派。弥生杉の頑張りをたたえる言葉を山和郎にかけたくなる。


寄居町で見た動物

2024年09月06日 | Weblog


今日の筆洗

2024年09月06日 | Weblog
かけ算の九九。いつからか知らぬが、日本の子どもは「ニイチガニ、ニニンガシ、ニサンガロク…」と詩歌のように唱え暗記に努める▼2002年発行の船山良三著『数学が好きになる七つの話』によると、英国の小学校の算数の本を調べたら、縦に1から10、横に1から10まで区切った升目に積を書き入れたかけ算の表があるのみ。「ニイチガニ」のような言葉の表記は見当たらなかったそうだ▼ドイツ語、フランス語も数詞の発音の特性から、リズムの良い暗唱の詞を作るのは困難という。クラスで斉唱して暗記に努める学習はどこでもやっているわけではないらしい▼奈良県の藤原京(694~710年)跡から出た木簡が、役人が実務に用いた最古級の九九の早見表だったらしいと報じられた。役所に置いて、徴税の計算などに使ったようだ。暗記している役人もいたろうが、きっと仕事に正確を期すためだろう。九九の大切さを改めて示す話題と思える▼先の本によると終戦後、日本の教育全般を改めようと連合国軍総司令部(GHQ)の要請で米国の教育関係者の使節団が来日。小学2年の算術の授業を視察して九九の斉唱を見た際「こんな難しいことを教えている」と驚いたそうだ。米国はかけ算は表を見てやればよく、暗唱させるのはむちゃだと考えるらしい▼日本侮るべからずと九九が思わせたなら、少々誇らしい。
 

 


今日の筆洗

2024年09月05日 | Weblog

車いすラグビーの国際的スター、オーストラリアのクリス・ボンド選手がこの競技についてこんなことを語っている▼「車いすに乗っている人に対し、人々はこんな先入観を持っている。優しく包み込んであげなきゃ、彼らはか弱いのだから」。ボンド選手は言う。この先入観に挑戦しているのが車いすラグビーなのだと▼パリ・パラリンピックの車いすラグビーの決勝で日本は米国を逆転で破り、初の金メダルに輝いた。快挙である。世界ランク1位、オーストラリアの猛攻を堅守で防ぎきった準決勝も忘れられぬ▼車いすへのタックルが認められており、パラ競技の中で最も激しいボディーコンタクトの起こるゲームだろう。車いすが大きな音をたててぶつかる。ひっくり返る。またの名を「マーダーボール」(殺人球技)。恐怖さえ感じる荒々しいゲームを見ればこれがパラ競技であることを忘れるだろう。そして人間の強さをあらためて思う▼「選手それぞれに輝ける場面がある」。逆転のトライを決めた橋本勝也選手が語っていた。障害の重い選手は相手の攻撃を防ぎ、味方のために壁となり、トライへの道をつくる。男女混成で女性選手も巨体選手にぶつかっていく▼自分には何ができるか。それぞれができることを持ち寄り、考え、ひとつとなって勝利を目指す。この調和の競技での日本の「金」がうれしい。お見事。


今日の筆洗

2024年09月04日 | Weblog
英国統治時代のインドで猛毒コブラを減らそうとこんな手を使った。コブラの死骸を持ってくれば報奨金を出すと触れ込んだ。どうなったか。人々はお金欲しさで、コブラを飼育するようになったそうだ。困った政府は報奨金を廃止したが、この結果、人々は飼っていたコブラを放した。コブラは前よりも増えた▼打った政策が意図しない結果に終わることをこの話から「コブラ効果」という。こちらの政策にもコブラの鎌首を連想させるところがあったのではないか。東京圏の女性が結婚を機に地方に移住すれば、支援金を出すという政府の「移住婚」構想である▼女性に限定したことが差別的だと批判され、事実上の撤回に追い込まれたが、実現したとして果たして効果があったかどうか▼最大60万円という支援金は十分とは思えぬが、うまくいけば一時的には移住者が増えるかもしれない。だが、そのまま地方に住み続ける人がどれだけいるか▼コブラを退治するには報奨金より先にコブラの恐ろしさを人々に訴えるべきだったのだろう。若い女性の移住を促すには地方の魅力と利点を高めた上で粘り強く訴えていくしかあるまい▼しかも、この政策はまるで地方に住むことは「お金をもらわなければ割に合わないこと」と言っているようにも聞こえてしまう。そう聞けば、地方に住む若い女性はますます東京へと向かうだろう。
 
 

 


今日の筆洗

2024年09月03日 | Weblog

強打と俊足の野球選手で「球聖」と呼ばれたタイ・カッブが自伝の中で野球が変わったと嘆いていた。1940年代の話だろう。当時の強打者テッド・ウィリアムズ、スタン・ミュージアル、ジョー・ディマジオら4人の盗塁数を挙げ、1年間の合計でわずかに7個だったと指摘している▼カッブによれば昔の強打者は走れもしたが、長打力ばかりが注目され、盗塁が軽視されるようになったと。その傾向は今も変わらない。そもそも、盗塁自体が非効率な戦術という意見も最近はよく聞く▼つむじ曲がりと伝わる「球聖」も今年の大谷翔平選手には拍手を送るだろう。同一シーズンで本塁打40本と盗塁40個を記録する「40・40」を達成。さらに打って走って「43・43」の大リーグ新記録を打ち立てた▼日本ハム時代、当時の栗山英樹監督は大谷選手のけがを恐れ、盗塁を禁じたこともあったそうだ。滑り込み、野手と接触することもある危険な盗塁である▼大谷選手の盗塁に歓声を上げる一方で、あまり無理をしなくてもと心配するファンもいるか。けれどもこれが大谷選手の「野球術」なのだろう▼プレーする喜びが伝わってくる選手である。打ちたい、走りたい。今年は投げられなかったが、野球のすべてを楽しみたい。その熱と喜びが力となり、記録を残す。「50・50」の達成とともに無事を願う。まだポストシーズンもある。


今日の筆洗

2024年09月02日 | Weblog
イヌやネコの年を人間の年齢に換算してみるということはどの飼い主さんもよくやっているのではないか▼諸説あるが、だいたい人の7倍というからイヌの3歳は人間の年なら20歳前後か。そのころなら、いいな青春だなとうらやんだりもするのだが、10歳も過ぎれば人間の年齢に置き換えてはため息をつく。いつの間にか人間の70歳も超え、自分より年上に。急に老いていく友にしんみりもする▼パンダの年はだいたい3倍すると人間の年齢らしい。2頭とも19歳というからそろそろ還暦か。定年退職を機に故郷に帰る旧知のご夫婦のような気がして寂しくなる。東京・上野動物園のジャイアントパンダ、「リーリー」(オス)と「シンシン」(メス)が中国に帰るそうだ▼9月29日に中国へ返還というからずいぶん急な話に聞こえるが、2頭とも高血圧の症状があり、中国の専門施設で治療することになったそうだ▼いつまでも子どもっぽいしぐさのパンダだが、その年齢にはいろいろと悪いところも出てくるか。これもまた人に重ねて身につまされる。双子のレイレイとシャオシャオを残しての帰郷となる▼来日したのが2011年、東日本大震災の年で2頭はいずれも5歳だから、人ならば中学を卒業したころか。少年期から高血圧に悩む年まで、上野のお山で人々を楽しませてくれた。故郷での穏やかなシニアライフを祈る。
 
 

 


今日の筆洗

2024年08月31日 | Weblog

懐かしき若者向け雑誌『ホットドッグ・プレス』に作家北方謙三さんの人生相談『試みの地平線』があった。記憶する人は中高年以上の男性か▼いかにもモテそうな北方さんが生き方を説く。「彼女がデートなどの約束を守らなくて困っています」との相談には「張り倒せ」と答えた。掲載当時は昭和。今なら不適切と咎(とが)められそうだ▼「生きるのが限界で自殺のことを考えています」という悩みには、何でもいいから本を50冊読めと助言した。「50冊読むまでは死ぬな。50冊読んでみて、それでも死にたいと思ったら、また手紙をくれ」。本で時をやり過ごせとの趣旨である▼明日は9月。近く学校が始まる子は多い。いじめなどに悩み早まった行動をせぬかと心配する時期、学校が嫌なら逃げていいと唱える活動「#逃げ活」を展開する団体もある▼何から逃げたいかや、逃げたい時のやり過ごし方などを書きだす作業を勧め、必要な台紙なども提供する。ゲーム、昼寝、散歩など手段は多様だろうが、それで命をつなぐ戦略は「本50冊」回答と同じであろう▼北方さんは、読むなら小説もいいと作家の自負をにじませた。「俺は小説が世の中の役に立つなんて考えたことはないが、死にたがっている人間を止めるぐらいの時間を与えることはできると思う」。逃げ込んでくれたら本望だと言う人もいるのだから堂々と逃げていい。


今日の筆洗

2024年08月30日 | Weblog
自治体職員も能力がなければクビになる-。それを可能にする条例が大阪市にできたのは2012年。日本維新の会創始者の橋下徹氏が市長だった▼実際に、2年連続で最低ランクの評価を受け研修を経ても改善しなかったとして複数の市職員が後に、解雇に相当する分限免職処分となった▼かねて裏金問題など不祥事が相次いでおり、大なたを振るった氏は称賛もされた。既に政界から退いたが、公務員の怠惰を許さぬ行革は今も維新の看板である▼自治体職員の上に立つ首長に、維新は引導を渡すのか。パワハラなどの疑惑がある斎藤元彦兵庫県知事に対し、辞職を求めることもあり得ると維新共同代表の吉村洋文大阪府知事が踏み込んだ。県議会で今日ある斎藤知事の証人尋問の内容次第らしい▼知事選で自民とともに斎藤氏を推した維新は「まずは真相究明」と静観していたが、大阪府箕面市長選で維新系現職が敗れ、兵庫の話が響いたと慌てたらしい。焦点は報道機関などにパワハラなどを告発した元部下を知事が「噓(うそ)八百を流した」と断じ懲戒処分にしたことの適否。告発つぶしを狙い不当に大なたを振るったなら、次なる刃(やいば)は当人に向かう▼辞書によると、維新は世の中が改まりすべてが新しくなることで中国の『詩経』の<維(こ)れ新たなり>に由来する。知事を新たにするほかなしと各党が傾くのか、注目の尋問である。