Oceangreenの思索

主に、古神道、チベット仏教、心理学等に基づく日本精神文化の分析…だったはずなんだけど!

“慢”の国

2010-07-26 | 日本人の意識と社会
スリランカのお坊さま(アルボムッレ・スマナサーラ長老)によれば、
仏教の欲心、煩悩の一つである
“慢”は、比較することだという。

慢の尺度は三つ。
◎自分より優れている、
◎自分より劣っている、
◎自分と等しい。

これらが“自分”という意識を固定する上に、
さまざまな感情を生み出してしまうのだそうだ。

他人と比較して、自分の方が優れていると誇ることを“自慢”と言うし、
自分の方が優れていると思い上がることを“傲慢”と言う。

こうした事が、人間関係や社会生活の摩擦につながるだろうことは
明白だけれど、
自分を他人と比べて劣っているといじけること、
コンプレックスもまた、煩悩なのである。

スマナサーラ師は、
比べる事自体がいけないことだと知り、やめてしまえば済むのだという。

まったくその通りだけれど、それを実行するには、
やはりある程度の自己コントロール力が必要だと思う。

つまり、メタ認知のモニタリング機能により、“慢”が生じたと気付き、
メタ認知のコントロール機能により、思い方を変える、という力である。

スマナサーラ師に従えば、
“比べるのは煩悩の悪い心だから止めよう。
自分の良心に基づけばそれでいい”と
思い方を変えなさいということである。

“良心に恥ずかしい事はなにもしていないのだから”と
開き直るのもいいのでは、と思う。

こうしたやり方は、チベット仏教の“ロジョン”にもあり“対治”と呼ぶ。
我執や自己愛に基づく煩悩が生じたら、すかさず、
対抗する利他心や慈悲心にすり替えるのである。

だから例えば、慢によって優越感が生じてきたら、
相手が恥ずかしい事は何もしていないと思い出して、敬意を向け、
或いは自分の環境や成り行きへの感謝にすり替えてしまう、
というのでもいいと思う。

***

日本社会で生きていたら、技術なしで漫然と
“慢”を無くすことは不可能に近いと思う。

おそらく明治以降だと思うけれど、
日本人は基本的に“慢”に基づいた教育しか受けていないと思うのだ。

西洋列強に追い付き追い越さなくてはならない、
という明治維新の論理が既に、
“慢”に基づいたネガティブなエネルギーを利用した物なのである。

太平洋戦争もまた、欧米や他国への対抗心むき出しで、
明治以後コンプレックスを抱き続けたことの反動のように、
今度は“神国日本”で、欧米や他国に優越感を抱こうとしたのである。

軍隊だってもちろん、優秀な人間を引き合いにだし、
ダメな人間を戒め、吊し上げたり晒し者にするのは日常茶飯事であった。

戦後は、アメリカの豊かさと日本の貧しさ、みすぼらしさを引き比べて、
アメリカに追い付くために走り続け、
団地の妻たちに象徴されるように、
“みんなと同じ”が、日本中流の基本的な判断尺度となった。

誰かが優れていればやっかみ、劣っていればバカにする。
同じで安心して、人生これでいいのだと思う。

これが子供にも向けられ、
“○○ちゃんに比べてあなたは”という教育が普通に行われるのである。

もちろん、一時期あった、
駆けっこで、みんな手を繋いでゴール、みたいな事を肯定するのではない。
結果はきちんと出るのが公平なことだ。

そうではなく、その結果に対する、
思い方、考え方の問題である。

親が、結果を出して欲しくないという考え方をしていれば、
子供もそれを取り込み、同じようになりやすい。

あなたは精一杯頑張ったのよ、今度も頑張ろうね、と導けば、
子供もそう思うだろう。

子供が悔しがれば、もっと頑張れたと思う?と導き、
もっと早くなるにはどうしようか、と、共に考えればいいのだと思う。
子供が将来、自分で考えられるように、考え方を見せるのだ。

***

話がずれてしまったけれど、日本は“慢”の国だと思う。
自分と他人を比べることが、日常化してしまった国である。

卑下と傲慢が入り交じり、そこに自分を固定化する。
比べて対抗意識を燃やすことだけがモチベーションだと思う人さえいる。

長い間コンプレックスに凝り固まった人間は、
心がいじけ、押さえ込んできた怒り(瞋)を底に秘め、
他人に敬意を払うことすら、屈辱だと思う場合もある。

他人と比べずに良心に従う、というのが、
どういう事かさえも分からない。
生き方を知らないのだ。

良心と向上心、利他だけでは、
モチベーションにならないだろうか?

***

もっとも、スマナサーラ師も、“慢”を全面否定しているわけではない。
良心にしたがい、精進し、善を為す人間に引き比べて、
自分ももっと頑張らねば、と動機にする。

慢を使って、慢をなくす努力をすることまでは、
仏教でも否定されていないのである。

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