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八王子市の滝山保全地域のタヌキの食性

2024-04-16 11:47:44 | 最近の論文など
東京都八王子滝山里山保全地域

豊口信行氏が東京都八王子滝山里山保全地域でタヌキのため糞があるのを発見したということで、2023年12月から糞を採集してもらうことになった。以下、逐次報告する。

調査地は東京都八王子滝山里山保全地域である(図1)。

図1 調査地の位置と空中写真

ここは里山として管理され、クリやコナラ、イヌシデなどの林が広がる(図2)。その東側にある竹林内で10個の糞を回収した(図3)。糞は0.5 mm間隔のフルイで水洗し、残渣をポイント枠法で分析した。

図2 保全地域の景観(棚橋さん撮影)

図3 竹林内のタヌキのため糞を採集する(棚橋さん撮影)

<12月>
結果は図4の通りであった。検出物の写真は図A-12に示した。


図4 タヌキ糞組成

12月の糞組成で最も多かったのは果実で48%を占めた。種子は12%で、このうちエノキが10.4%を占めた。少量ながらヒヨドリジョウゴの種子も検出された。農作物は全てコメで、コメ、稲籾、糠層(果皮、種皮)を合わせて15.0%を占めた。人工物としては、3例からゴム手袋の破片、プラスチック片などが検出され、4%を占めた。その他、昆虫(4%)、支持組織(繊維、6%)などが検出された。
 このような組成をみると、本調査地のタヌキの12月の食性は、保全地域内の落葉樹であるエノキの果実などを主体に果実を食べ、時に農地でコメを食べ、場合によって人工物も口にするというものであると考えられた。


図A-12 2023年12月の検出物

<1月>
1月も基本的に似たフン組成であり、果実、農作物、種子が重要であった。果実でも種子でもイヌホオズキが大きい割合を占めた(図A-1)。種子としてはエノキが多かった。


図A-1 2024年1月の検出物

<2月>
2月になると、やや変化が見られ、果実はこれまでの40%台から24.3%に減少した。農作物が20%前後から31.7%に大きく増加したが、その主体はコメであった。コメには籾殻がついたものもつかないものもあったので(図A-2)、保全地域に隣接する田んぼ(図4)に残った落穂を食べている可能性がある。また人工物が5.8%に増加した。内訳としては化学繊維のネット、ゴミ袋などにある黒いポリ袋、ブヨブヨの柔らかいプラスチック製品などがあった。これらの結果は、林内のエノキなどの野生植物の果実が少なくなって、タヌキは田んぼに出て落穂を食べたり、人家に接近して人工物などを食べるようになったと考えられる。


図4 保全地域(右側)に隣接する池と田んぼ(棚橋さん撮影)


図A-2 2024年2月の検出物

写真の一部は棚橋早苗さんの撮影によるものです。

<3月>
分析結果は図4に、検出物は図A-3に示した。分析結果を見ると、2月と似ており、果実が23.5%農作物が23.1%と多かった。農作物はやや減少した。逆に緑葉が増えたが、ほとんどはイネ科であった。種子にはエノキ、ヨウシュヤマゴボウ、センダンなどがあった(図A-3)。作物の多くはイネであったが、アズキも検出された(図A-3)。人工物としてはゴム手袋が検出されたが(図A-3)、量的には少なかった。
 このように3月は基本的に果実とコメを中心に冬の食物を食べていたが、昆虫とイネ科のはが少し増えたことは早春の到来を反映していた。

図A-3. 2024年3月の検出物

<4月>
 4月になると、いくつかの変化があった(図4)。検出物は図A-4に示した。一つは昆虫の増加で、3月には12.2%であったが、4月には20.4%になった。次に果実の減少である。タヌキは前の年の秋に実った果実を食べて、冬のあいだも食べるだけでなく、翌年の春にも食べ続けることがあるが、滝山では大きく減少し、エノキの種子が少数検出に過ぎなくなった。作物は3月(23.1%)よりやや増加したが、2月(31.7%)とほぼ同じレベル(29.4%)であった。内訳はコメが主体であった。人工物としてはティッシュとポリ袋が検出された。また不透過物が増え、「不明」が21.8%になった。
 これをまとめると、4月になって昆虫が出現してタヌキは昆虫を食べるようになったが、果実類は少なく、また作物も米くらいしか食べられないため、ティッシュやポリ袋など人工物も食べているという状況にあるようである。

図A-4. 2024年4月の検出物
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