高槻成紀のホームページ

「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

2017年の論文

2017-12-31 18:50:24 | イベント
2017.12.25 
草食獣と食肉目の糞組成の多様性 – 集団多様性と個別多様性の比較
高槻成紀・高橋和弘・髙田隼人・遠藤嘉甫・安本 唯・菅谷圭太・箕輪篤志・宮岡利佐子

「哺乳類科学」, 57: 287-321.

 私は麻布大学にいるあいだに学生を指導していろいろな動物の食性を調べました。個々の卒論のいくつかはすでに論文になっていますし、これから論文にするものもあります。今回、それらを含め、個別の食性ではなく、多様度に注目してデータを整理しなおしました。多様度を、サンプルごとの多様度と、同じ季節の集団の多様度にわけて計算してみました。予測したのは、反芻獣の場合、食べ物が反芻胃で撹拌されているので、糞ごとの多様度と集団の多様度であまり違いがないだろうということです。そして、単胃でさまざまなものを食べる食肉目の場合、これとは対照的に、糞ごとに違いがあり、ひとつの糞の多様度は小さくても、集団としては多様になるだろうということです。実際にどうなっているかを調べたら、びっくりするほど予想があてはまりました。


サンプルごとの多様度(黒棒)と集団の多様度(灰色)の比較。草食獣は違いが小さいが、食肉目では違いが大きく、とくにテンではその傾向が著しい。

多くの学生との連名の論文になったのでうれしく思っています。下のグラフの1本の棒を引くために、山に行って糞を探し、持ち帰って水洗し、顕微鏡を覗いて分析し、データをまとめたと思うと、一枚のグラフにどれだけの時間とエネルギーが注がれたかという感慨があります。

2017.12.25
テンが利用する果実の特徴 – 総説
高槻成紀

「哺乳類科学」57: 337-347.

 テンが利用する果実の特徴を理解するために,テンの食性に関する15編の論文を通覧したところ,テンの糞から97種と11属の種子が検出されていることが確認された.これら種子を含む「果実」のうち,針葉樹3種の種子を含む89種は広義の多肉果であった.ただしケンポナシの果実は核果で多肉質ではないが,果柄が肥厚し甘くなるので,実質的に多肉果状である.そのほかの8種は乾果で,袋果が1種(コブシ),蒴果が7種であった.蒴果7種のうちマユミとツルウメモドキは種子が多肉化する.それ以外の蒴果にはウルシ科の3種とカラスザンショウ,ヤブツバキがあった.ウルシ科3種は脂質に富み,栄養価が高い.ヤブツバキは種子が脂質に富む.果実サイズは小型(直径 10mm未満)が70種(72.2%)であり,色は目立つものが76種(78.4%)で小さく目立つ鳥類散布果実がテンによく食べられていることがわかった.「大きく目立つ」果実は8種あり,このうち出現頻度が高かったのはアケビ属であった.鳥類散布に典型的な「小さく目立つ」果実と対照的な「大きく目立たない」な果実は3種あり,マタタビとケンポナシの2種は出現頻度も高かった.生育型は低木が41種,高木が31種,「つる」が15種,その他の草本が9種だった.これらが植生に占める面積を考えれば,「つる」は偏って多いと考えられた.生育地は林縁が20種,開放環境が36種,森林を含む「その他」が41種であった.こうしたことを総合すると,テンが利用する果実は鳥類散布の多肉果とともに,サルナシ,ケンポナシなど大きく目立たず,匂いで哺乳類を誘引するタイプのものも多いことが特徴的であることがわかった.

2017.10.10
A comparison of food habits between the Japanese marten and the raccoon dog in western Tokyo with reference to fruit use
東京西部のテンとタヌキの食性比較−果実利用に注目して

Seiki Takatsuki, Risako Miyaoka and Keita Sugaya
高槻成紀・菅谷圭太・宮岡利佐子
Zoological Science, 35: 68-74 こちら

 2014/15年に東京西部の多摩森林か学園で同所的なテンとタヌキの食性を糞分析により調べた。テンは一年中、果実に依存的で季節変化は不明瞭だった。タヌキはテンほどは果実に依存的でなく、春には哺乳類、夏と冬には昆虫をよく利用し、種子は一年中糞から出現した。テンはサルナシやキブシなど種子の小さな果実をよく食べたが、タヌキはギンナンやカキノキなど大きな種子をもつ果実も食べた。テンは林縁に生育する植物の果実をよく食べたが、タヌキは林内に生育する植物の果実をよく食べた。

 この論文のミソは同じ場所に住むテンとタヌキを比較したことにあります。テンとタヌキの食べ物は同じか?たぶん違うだろうが、どう違うのだろう?それはなぜ?という問いに答えを得ました。もうひとつのポイントは、これまで動物研究者のこの種の研究では果実の名前のリストがあるだけでしたが、今回、その果実をつける植物がどういう場所に生えているかということに着目して整理すると、非常にはっきりとテンは林縁植物をタヌキは林床植物をよく食べるということがわかりました。また残飯などの人工物を食べるのはタヌキだけだということもわかりました。





2017.10.02
>Comparison of the food habits of the sika deer (Cervus nippon), Japanese serow (Capricornis crispus), and wild boar (Sus scrofa), sympatric herbivorous mammals from Mt. Asama, central Japan
浅間山のシカ、カモシカ、イノシシの食性比較
Yoshitomo Endo, Hayato Takada, and Seiki Takatsuki

Mammal Study, 42: 131-140 (2017)
遠藤嘉甫、髙田隼人、高槻成紀

糞分析法により浅間山のシカ、カモシカ、イノシシの食性を比較した。3種のうち、イノシシははっきり違い、地下部や支持組織が多かった。シカはササが特徴的でカモシカはシカに近かったが、イネ科が少なく双子葉植物の葉が多かった。おそらく消化生理の違いによると思われるが、糞中の植物片のサイズ分布はシカとカモシカでは微細なものが多かったが、イノシシでは大きめであった。これは日本の同所的草食獣の食性を比較した最初の論文である。

2017.4.25
「Mammal Study」が産声をあげた頃
高槻成紀

「哺乳類科学」57: 135-138

日本哺乳類学会はMammal Studyという英文誌を刊行していますが、これは20年前にスタートしました。この雑誌は今や国際誌となり、質も向上し、たくさんの論文が世界中から寄せられ、きびしい査読を受けるようになりましたが、かつてはそうではありませんでした。最初のときに私が編集委員長をしたのですが、今年20周年を迎えるので、現在の編集委員長が当時の思い出などを書いてほしいということで依頼がありました。思い出しながら当時のようすを書くとともに、古い文献などもひもといて、学会の先人の志なども紹介しました。
 その一例です。
「哺乳類科学」の創刊号をひもとくと,九州大学の平岩馨邦先生が若手研究者に次のようなことばを贈っておられる(平岩 1961)。曰く「”Keep the fire burning”私たちのともした。いと小さい火を若いみなさんで、もりたてて大きく燃やして頂きたいものである」.
 最後につぎのようにまとめました。
 内田先生が「老いも若きも一致協力して邁進しようではありませんか」と呼びかけられたことが、こうした時代の流れとともに学会の実質的な体力を蓄えることにつながったと思う。ネズミの研究が主体であった我が国の哺乳類学は中型、大型の哺乳類も対象とするようになり、生態学や形態学、遺伝学などもカバーするようになってバランスもよくなってきたし、野生動物管理などの面も力をつけてきた(高槻 2008)。こうして学会という木が育つための土壌に栄養が蓄積し、水も光も得て力強く育ってきた。これにはよきリーダー、コミュニケーション手段の進歩、制度の改革なども大いに力になったが、しかし私は「このおもしろい哺乳類学を進める学会をよいものにしたい」という会員の情熱がそれを実現したのだと思う。まさに半世紀以上前に平岩先生が点(とも)された「いと小さい火」が大きな炎に育ったとみてよいだろう。
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2017年の記録

2017-12-31 07:02:24 | アーカイブ
2017.12.21
武蔵野美術大学1号館103号室(予定) 18:00から

自然の話が聴こえた—玉川上水の生きもの調べ 当日のようすなどはこちら



玉川上水で生き物調査を初めて2年が経ちました。ありふれた動物であるタヌキを軸にほかの動植物とのつながりを解明してきました。コツコツと作業を積み重ねてゆくうちに気づいたのは、都会に残された貧弱な緑地に生きるありふれた生き物たちが、いかに懸命に、そして理にかなった生き方をしているかということでした。そしてそのことが調査をして明らかになったとき「自然の話が聴こえた」と感じました。今回はこの生き物調べで明らかになったことと、作業をしながら考えたことなどをお話しします。


玉川上水のタヌキをめぐるリンク

 当日は最近出版された「都会の自然の話を聴く—玉川上水のタヌキと動植物のつながり」(彩流社)を頒価の20% OFFの2000円で販売します。そのほか著者の著書「野生動物と共存できるか」、「動物を守りたい君へ」(いずれも岩波ジュニア新書)も販売します。




2017.11.26
11月26日の玉川上水観察会は切り株の年輪調べをしました。今年になって切られた株を確認していたので、それを測定することにしました。鷹の台近くの久右衛門橋近くには4本のケヤキの切り株があり、直径は20cmほどから50cmほどまでばらつきがありましたが、いずれも60歳台でした。育った状況に大きな違いがあったようです。鎌倉橋の下流にあった直径60cmほどのケヤキは125歳で、この日調べたうちの最高齢でした。
 文献では江戸時代から戦前にかけて、玉川上水が上水として利用されていた時代は小金井のサクラ以外の木は落葉が上水に入らないように伐られたとされていますが、そうは思えない太い木があるので、そのことを知りたいと思っていました。この例はそのことを支持します。もっとあるはずなので、さらに調べてみようと思います。








2017.11.24
先のことですが、1月13日に多摩動物公園で「タヌキのポン!?」という話をすることになりました。

2017.11.23
「都会の自然の話を聴く—玉川上水のタヌキと動植物のつながり」(彩流社)の出版

 かねてよりお伝えしていた本の出版が遅れていましたが、いよいよ12月7日に出版されることになりました。本屋の店頭に並ぶのは多少前後するかもしれません。
 私は以前から玉川上水の動植物にも興味をもっていましたが、定年退職して時間もとれるようになったので、昨年から仲間とタヌキや植物などの調査をし、観察会を続けてきました。それによってわかったこと、観察会の記録などを通じて、玉川上水の現代的意義、ありふれた生き物をじっくり観察して知ることの大切さを感じました。
 このことをより広く知ってもらうことは、「都市にはたいした自然はない」と思っている多くの人に、じつはそうではないことを認識してもらう大きな意味があると思い、執筆してきました。
 書名は「都会の自然の話を聴く—玉川上水のタヌキと動植物のつながり」で、彩流社から出版されます。いっしょに観察会をしてきた武蔵野美術大学の関野先生が過分な推薦文を書いてくださり、ありがたいことでした。
 イラストも描いたり、楽しみながら作りました。


表紙とオビ


オビうら


観察会のようす


リンク(生きもののつながり)


300ページほどあるので値段が2300円(税抜き)とちょっと高くなってしまいました。

2017.11.22

観察会のご案内です。どなたでも参加できます。

「玉川上水の切り株から年輪を読み取る」観察会
 玉川上水の林を歴史的にみれば、かつては「上水」機能を優先させて、桜の木以外の木はなかったといわれており、茅葺の屋根を維持できるほどススキがあったといわれています。現在は市民のいこいの場として「保護」の方針で管理され、林が育っています。私たちが調べている「花マップ」の結果によれば、ススキがあるのは全体の半分程度の場所になっています。玉川上水に多いコナラやクヌギは大きいもので直径30cmくらいで、戦後に育ったものと思われますが、中には直径50cmを上回るものもあります。そうすると、お年寄りのことばとはちょっと違い、かなりの大木もあったのではないかと思われます。そこで、ときどき伐られている切り株の年輪を読み取ってみたいと思います。新しい切り株を探して物差しをあてて年輪数と中心からの径をよみとります。それによってその木が育った時代が推定できます。

日時    2017年11月26日(日)
集合    9:30 鷹の台駅
内容  玉川上水の切り株の年輪を数える
持ち物 筆記用具、あれば30cm以上の物差し
その他 少雨決行(本降り中止)



2017.11.19
 以下のようなシンポジウムがありました。

日   時 2017年11月19日(日) 
記念講演 高槻 成紀(麻布大学いのちの博物館上席学芸員)
「日本のシカ問題の現状について」
パネル討論 「シカをどうやって減らすか‐丹沢を蘇らせる道を探る」
パネリスト 高槻 成紀
 濱﨑 伸一郎(株式会社 野生動物保護管理事務所 代表)
      山根 正伸 (神奈川県自然環境保全センター研究企画部長)
川島 範子 (NPO法人 小田原山盛の会 副理事長) 
司   会 梶谷 敏夫 (丹沢ブナ党代表)
主   催 丹沢ブナ党 



丹沢の自然、とくに森林の現状に危機感をもつ人たちが集まりました。パネリストからはそれぞれの立場からの発言があり、フロアからもたくさんの質問がありました。表層的に「シカの数を減らせば問題は解決する」ととられがちなこの問題の根底にはシカを含む日本の自然が人のとどまることのない欲望の犠牲になっているのではないかという思いがあったように思います。私がそのような発言をしたとき、会場から拍手がわいたことはそのことを象徴しているように思いました。有意義なシンポジウムであったと思います。

2017.11.11
 高尾山のビジターセンターでシカについての講演をしました。少し前には考えられなかったことですが、高尾山にもシカが入ったようで、これをどう考えるべきかということがテーマでした。そのため、シカというのはどういう動物であるかという話、シカの影響とはいかなるものであるかという話をし、東京でのこの20年間ほどで分布が拡大したことなどを話しました。
 そのあとで、参加者と野外を歩いて観察会をしました。終わりに近づいたとき「ピャッ」というシカの声がしました。そしてしばらく歩いたらまた別のところから鳴き声がしました。ビジターセンターの人もこれまで聞いたことがなかったようで、驚いていました。
 高尾山という年間260万人もの人が訪れる大観光地にシカがいるというのはどういうことで、それにどういう姿勢で立ち向かうか、むずかしい問題です。私が強調したのは、相手を知ることと、明確なビジョンをもつべきだということです。



2017.11.1
10月31日から麻布大学いのちの博物館の企画展示が改まりました。今回は「シカの角のふしぎ」という展示です。10月30日に設営をしました。



ケース1にはシカの概論を紹介しました。いろいろなシカの頭部模型を並べました。



今回は予算の制約もあったので、手作りの展示品が多くなりました。紙粘土で10個あまりのシカの頭部模型を作りました。時間はかかりましたが、楽しい作業でした。



ケース2にはおもにニホンジカの標本を紹介しました。一生のうちでの角の発達、1年のうちの角の発達、ニホンジカの地域変異などを紹介しました。

 設営では職人さんとの作業でしたが、いいかげんさを排除する気持ちのよいものです。上下関係がはっきりしていて、いまの大学人にはちょっと新鮮な違和感がありますが、決して無意味にイバッているのではなく、きちんとした仕事をしようということから来ています。だから展示について納得できないところは、来館者に見えないところにも徹底的に手間をかけます。そういう姿勢は見ていてとても気持ちよいものでした。





2017.10.31
岩波ジュニア新書の「野生動物と共存できるか」が8刷になることが決まりました。



2017.10.30
高尾山に行ったことのある人は多いと思います。私も行ったことはありますが、人が多いのであまり行きません。その高尾山にもシカが入ってきたので、そのことを勉強したいということで、講師の依頼がありました。興味のある人はご参加ください。詳しくはこちらをどうぞ。

東京都高尾ビジターセンター主催 自然講座 『高尾山とシカ:シカが増えたら山はどうなる?』

対 象:高校生以上(高尾山山頂まで自力で登山ができる方)
■ 定 員:20名 (応募者多数の場合は抽選)
■ 実施予定:13:30高尾ビジターセンター 集合 16:00高尾山山頂(大見晴トイレ前)解散
■ 参加費:100円
■ 申込締切:平成29年10月29日(日)消印有効
■ 実施場所:高尾ビジターセンター ・ 奥高尾一丁平までの登山道


2017.10.21-22
大学祭があり麻布大学いのちの博物館でも受け入れの準備をしましたが、今年は台風の影響で天気が悪く、来館者数は例年より少なかったようです。

2017.10.19
東京大学生圏システム学専攻の同窓会があり、なつかしい顔に会いました。



2017.10.19
明治神宮に行きました。


2017.10.14
地元の小平市の小川公民館の活動で「知られざる小川の歴史と自然」と題して、玉川上水を散歩しました。



2017.10.12
奥多摩でカモシカの会議があり、奥多摩の森林がシカによっていかに変化したかについて解説しました。

2017.10.8
玉川上水の観察会をしました。今回はいつもの小平ではなく、上流の拝島から西武立川までを歩きました。玉川上水の違うようすをみることができました。水の量を測定する試みをしました。









こちら

2017.9.26
かわさき市民アカデミーの講師をしていますが、たまには野外に出ようということで、玉川上水に来てもらいました。


2017.9.23
明治神宮に行きました。

2017.9.20
アファンの森に行きました。



2017.9.10
玉川上水で観察会をしました。こちら



2017.9.3-4
乙女高原でネズミの調査をしましたが、うまくいきませんでした。柵内の花が増えていて感激しました。


2017.8.27玉川上水で観察会をしました。こちら

ツルボの花に来る昆虫を記録する参加者



2017.8.13津田塾大学でタヌキのことを調べていますが、津田塾大学で出しているPlum Gardenというネット雑誌というのでしょうか、その編集にたずさわる学生さんから連絡があり、取材を受けました。その記事が公開されました。こちら



Plumとは梅のこと、津田梅子先生を記念した名前のようです。


2017.8.4
2013に出版された「動物を守りたい君へ」が増刷されることになりました。「野生動物と共存できるか」とともに中学校の入試問題によく使われています。



2017.8.13
予定通り8月13日に帰国しました。向こうではだいたい20度くらいで、カラッとしていて実に爽快でした。毎日地面に向きあって群落記述をする毎日でした。






2017.8.1
玉川上水でこども観察会「玉川上水にはフン虫がいるよ」をおこないました。こちら





2017.7.21
アファンの森に行ってきました。長野は涼しいと感じることが多いのですが、今日は東京並み(あるいはそれ以上に)く、山道を歩くのはかなりつらかったです。
 今日は日帰りでしたが、泊まるのはこのゲストハウスです。




2017.7.18
玉川上水の本の出版が決まりました。書名は「都会の自然の話を聴く」、副題が「玉川上水のタヌキと動植物のつながり」です。内容は観察会の記録、調査の内容、それをもとに都会の自然について考えたことなどです。
 彩流社さんのご厚意で、以下の条件で入手可能になりました。
・ 定価(消費税込み)の2割引き、2冊以上お買い上げの方は送料サービス(予価2300円ですので、このままいけば、税込価は2484円、2割引だと1987円)
・お申し込みの際は、高槻に紹介されたとお伝えください(電話、メールでも可)



以下、長いですが「まえがき」です。
 
 東京西部の空中写真を見ると、灰色に見える市街地が広がり、その中にところどころ緑色の塊りや、茶色の楕円形などが見えます。緑の塊りは雑木林で、茶色の楕円形はグランド、四角い学校の校庭なども見えます。薄緑のなかに白い丸や線があるのはゴルフ場でけっこう広いものです。こういう空中写真は都市郊外ではどこでも同じようなものですが、東京西部の場合、細い緑の線が東西に走っているのが目にとまります。実はこれは玉川上水という運河で、この本はこの玉川上水の動植物について書いたものです。
 この「細い緑の線」を空から眺めながら想像を働かせてみることにしましょう。江戸時代の初め、武蔵野台地と呼ばれるこの辺りに人は住んでいなかったそうです。だから空からみても緑色の林が広がっていたはずです。そこに玉川上水が掘られました。1653年といいますから今から360年ほども前のことです。これは江戸に水を送るために作られたのですが、同時に途中の土地に農業用水をもたらすことになったので、緑の台地に人が住むようになり、道ができ、集落ができました。そして農業が始まったために、林が切られ、畑が作られました。こうして空から眺めると緑の林が減り、茶色の畑が少しずつ増えて行きました。とはいえ、畑と雑木林が広がる景色は18世紀、19世紀、20世紀とそれほど変化しませんでした。19世紀末に中央線ができて沿線は徐々に変化をし始めましたが、少し北の玉川上水がある辺りではそれほどの変化は起きませんでした。この本の舞台となる小平辺りも畑と雑木林が広がり、太平洋戦争が終わってしばらくは富士山がよく見えたそうです。ところが1960年代に都心からの人口が爆発するように周辺に広がり、あっという間に畑が住宅地に変わっていきました。空からの景色でいえば、緑と茶色が減って市街地の灰色が広がって行きました。江戸時代からの景色を「早送り」するとゆっくりと緑が減り、茶色が広がってしばらくは同じような配色の景色が続きながら、最後のところで急に灰色が増え、緑や茶色が失われて行ったということになります。その中で玉川上水の「細く長い緑」はかろうじて保たれてきました。そこはすみかであった林を奪われた動物や植物たちの最後の逃げ場になったのです。
 さて、私は仙台で学生生活を過ごしてそのまま大学の研究者になり、40代になって東京に来ました。東京で接した自然は私には貧弱なものに感じられました。しかし、たまたま玉川上水のすぐ近くに住むことになり、上水沿いを散歩したりするようになって、次第にその魅力に開眼してゆきました。
 2015年に大学を定年退職しました。現役時代にも少し玉川上水の植物の調査をしたことはありましたが、なんといっても研究、教育に忙しくて、玉川上水は横目で眺めながら「退職したら調べるぞ」と思っていました。退職し、晴れて玉川上水の調査ができることになったのですが、ちょうどそのタイミングに、彩流社の出口綾子さんから、なにか命についての本を書いて欲しいと依頼がありました。私は前に書いた「動物を守りたい君へ」(岩波ジュニア新書)に野上ふさ子さんの『いのちに共感する生き方』(2012)を引用したのですが、野口さんの本は出口さんが編集したもので、そのことがあって私に声をかけてくださったということでした。それなら玉川上水のことは書けそうだと思い、お引き受けしました。
 玉川上水の動植物の観察活動は今後も続けるのですが、ひと区切りをつける意味で、その1年ほどで見聞きしたこと、明らかにしたことをまとめてみました。その過程で強い確信を持ったのは、都市にすむありふれた動植物の暮らしの中にも実にすばらしい命のほとばしりがあり、彼らの話は聞こうとする耳を持ちさえすれば聞けるのだということでした。この本では、観察会の中で交わした会話、調べてわかったこと、その過程で思ったことを表現してみました。
 大自然然の中で本格的な調査をする人も多勢おられますが、この本で扱ったのは都市のささやかな自然に生きる動植物のことです。こういう動植物についてどういうことが調べられるのか、それにはどういう意味があるかということも考えました。そのことが、都市に住みながら自然に興味をもつ多くの人の参考になれば幸いです。
 


2017.7.9
玉川上水の観察会をしました。なかなかよい保存林でコナラが優占する林でした。ここで20m四方の調査区を2つとって毎木調査をしました。

玉川上水にはヤマユリなどが咲いていました。


2017.7.3
麻布大学いのちの博物館の新しい企画展示「フクロウが運んできたもの」が始めるので、展示会場の設営をしました。9月末まで展示していますので、ご来館ください。


職人さんがテキパキと仕事をします


だいぶ形になってきました


フクロウが食べるネズミのコーナー


ネズミの骨のパーツを説明するための展示


写真を展示するギャラリー


2017.7.2
練馬にある牧野友太郎を記念した庭園で「牧野式植物図への道」という展示があったので、カミさんといってきました。感じのよい雑木林状の庭園の中に、これまた感じのよい展示館があり、牧野富太郎の原画が展示されていました。その繊細さはまさに超人的なものでした。室内は撮影禁止だったので写真はありません。


庭園のようす


展示館の外観


牧野の書斎

いまファーブルの本を読んでいるので、二人が重なりました。

2017.6.27
玉川上水のうち、小金井界隈は江戸時代からサクラの名所として知られています。それだけに臓器は伐ってサクラを植えるということに熱心です。それはそれでよいのかもしれませんが、小平あたりのコナラやクヌギ主体の林の下にはチゴユリなどの林床植物が生えるのに、イネ科牧草などがはびこっています。それは大きなサクラの木がまばらに生えているからだと考え、その裏をとるためにデータをとりました。



「モデル地区」と呼ばれる、上木を伐った場所で群落調査もしました。



2017.6.24
毎月通っている明治神宮にタヌキのタメフンを拾いに行きました。糞虫の活動が活発になるので、みつかる数は減りますが、タメフン場が2箇所みつかってので少しずつでも蓄積できれば、タヌキの食性の概要が見えてきます。


明治神宮の林のようす


タヌキの糞 この中にはウワミズザクラの種子が入っていました

2017.6.4
玉川上水の観察会で、保存林の毎木調査をしました。
 

 林の構造などを説明する


 記念撮影

2017.5.31
31日にはアファンの森を歩きました。荒山林業の施業を参考にしようというわけで、元林野庁の大槻さんと、京大林学の竹内先生、それにアファンの森の実際の施業をしている石井さんと歩きました。


遊歩道


林をみる石井さん、大槻さん、竹内先生


サウンドシェルターで

アファンの森はまだ春の終わりという感じで、小さな花が咲いていました。


2017.5.30
長野県大町の荒山林業の森を訪問しました。林業というと材木を生み出す産業というイメージですが、森全体のことを考えて100年単位の時間を考えて施業しておられ、とても勉強になりました。


北アルプスの見えるすばらしいところでした。


実はここに来たのはアファンの森の将来を考えるのに参考になりそうだということで、夜はニコルさんたちと談話しました。
 大槻氏撮影


2017.5.24
麻布大学いのちの博物館に団体見学や海外からの訪問者があると解説をします。23日は桜美林大学の学生さんが、24日にはスイス、ベルン大学のスプレング教授が来館しました。

桜美林大学の学生


スプレング教授と

2017.5.7
5月7日は乙女高原に行きました。山中湖の近くの明神山は1100-1200mで、カヤネズミがいることは確認されていますが、5月3日に行ったときは、「これはたぶんカヤのものだろう」というのはありましたが、「これぞカヤネズミの巣だ」と言い切れるものはありませんでした。糞があったので、DNA分析をしてもらうつもりです。乙女高原は1700mあり、まだ確実な生息が確認されていないので、明神山のような「カヤらしい」巣があって糞が拾えたらよいなと思っていました。
 乙女高原はまだ冬の終わりという感じで、緑はほとんどありませんでした。


5月7日の乙女高原

 地元で乙女高原のさまざまな活動をしておられる植原先生といっしょに歩きました。植原先生たちは去年の12月に50個以上の地表巣を確認しています。そこに目印がついていたので、そこを訪問しましたが、ほとんどは「空き家」のようでした。ただ、使っている可能性のありそうなものを観察してみたら、外側の粗い草の内側に細かい繊維で作った「内室」がありました。内室は球状で、底にも粗い草の層がありました。
 多くのものは、内室の底の「部屋の隅」に穴があり、外に通じていました。そのトンネルの径は2cmほどはあり、アカネズミでも通れる太さに思えました。ただ、それがいま使われているかどうかの判断はむずかしいようでした。明神山と違い、糞は見つかりませんでした。


ある「ネズミの巣」

なんとなく、「カヤネズミはここで越冬していたような気がしない」という印象で、それはそれで「ではどこで何をしているのか」ということになり、謎は深まりました。 


2017.5.5
5月5日にアファンの森に行きました。「子供の日」のせいか、いつもガランとしている黒姫駅に人がいっぱいいました。アファンの森のスタッフに連絡がとれなかったので、タクシーで行こうとしたのですが、電話をしたら「今日は予約がいっぱいで無理です」と言われました。こんなことはこれまでありません。それで歩いていくことにしました。この地には珍しい陽気で、25度以上あったと思います。歩いて1時間半近くかかりました。
 一汗かきましたが、おかげでよい景色を楽しむことができました。
 あとでわかったのですが、この日は小林一茶の日で、一茶を生んだ黒姫町のお祭りだったのだそうです。駅で待っていたら、若い女の子が「一休さんってここの人だったんだ」だと。





2017.5.3
5月3日に山中湖の近くにある明神山に行きました。去年の秋に、乙女高原で「カヤネズミの巣」を見つけ、そうであれば、これまで言われていたよりずっと高いところの確認ということになります。その段階で、私は巣の内側の細い繊維を見てカヤネズミの巣だと考えたのですが、そう断定するのはまだ早いという指摘を受けました。というのはアカネズミも似たような巣を作り、巣の直径が15cm以上のものはカヤネズミの巣ではない可能性が多いらしいのです。
 明神山は標高1100mくらいで、ここにはカヤネズミが住んでいることが確認されています。半場さんというここに住んでいる人が発見し、これまでの山梨の最高記録となっています。それを確認し、乙女高原で見たものとの比較をしたいと思いました。結論的にいうと、アカネズミのものだろうと思われるものも、まずカヤネズミのものと考えられるものの両方がありました。いずれにしても、改めてスタートラインにもどって乙女高原で確認作業をしたいと思っています。
 明神山の斜面は実に景色のよいろころで、富士山が真正面に見え、山中湖が手前に広がっています。4月14日に山焼きをしたそうで、ススキの株が黒く残っていました。まだ春は浅く、ヨモギなどが少し芽を伸ばしているところでした。ブナの葉は開き、コブシやフジザクラは咲いていましたが、ほかの木はまだでした。少し低いところでは緑が多く、これより高いところはまだ灰褐色の冬のようすでした。


明神山の斜面を歩く。背後は富士山と山中湖


2017.4.30
BBCが津田塾大学のタヌキの取材をしたことはお伝えしましたが、その作品が完成したと連絡をもらいました。You tubeで見ることができます。
1時間番組で「Springwatch in Japan: Cherry Blossom Time」(日本の春を見る:桜の頃)と題するものです。ほとんどはサクラで、そのなかに話題としてミツバチとタヌキが挿入されています。タヌキは45分07秒くらいから51分まで、6分ほどにまとめられています。内容としては日本人がサクラを愛する国民だという文脈のなかで、それはいなか、都会を問わない、都会といえば日本にはタヌキというおもしろい動物がいる。それをアナグマの研究をおこなったクリス・パックマンという人が紹介するという作りになっています。内訳は次のとおり。
 46:10から:東京の街中でカメラを設置してタヌキをまつ
 47:12から:クリスと私がタメフン場で話をする
 48:26から:拾った糞を水洗してあれこれ話をする
 50:00から:モニターカメラの前でまっているとタヌキが現れてよろこぶ

2017.4.21
明治神宮に毎月行ってタヌキの糞のサンプリングをしています。外国人の訪問者がとても多く、お祭りみたいです。私たちは許可をもらって人は歩かない林の中を流きます。冬のあいだたくさんあった糞が数が減ってきました。
 今回はクサイチゴ、ホウチャクソウ、キランソウ、スミレなどをみました。



2017.4.16

4月16日に観察会をしました。4月からはこれまでの解説中心のものから、調査要素を入れることにし、毎木調査をしました。そのあいだに樹木の説明をしました。初夏のような陽気で、とても快適でした。こちら




ミズキの特徴を説明する(豊口さん撮影)


樹木の周を計測(豊口さん撮影)


2017.4.10
玉川上水のほぼ全域でおもな花が咲いていたら撮影して集約し、「玉川上水花マップ」を作る活動を始めました。4月はスミレなどをとりあげました。毎月、「今月の花」を決めて進める予定です。たくさんの目で花マップができてゆくのが楽しみです。こちら

フデリンドウ、
クサボケ、 
タチツボスミレ


カヤネズミの地表巣
11月23日に山梨県北部の乙女高原(1700m)で草刈り作業をしているときに半場さんという人がカヤネズミの地表巣を発見しました。さがしたらかなり見つかりました。これまでこのあたりでは800mくらいから下にしかいないということになっていました。また山梨県の最高記録は1200mくらいとされていました。だから大幅な記録更新です。これまで気づかれていなかったのは「カヤネズミは1mくらいの高さに空中巣(空中に浮かんでいるのではないので茎上巣というべき)を作ること「だけ」が注目されていたためで、実は地表にも作ることが見過ごされてきたためと思われます。これについては私のブログをご覧ください(その1その2その3)。


カヤネズミの「地表巣」 直径15cmくらいのドーム状。中には細かいイネ科の葉が敷かれている。乙女高原にて。
コメント
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