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「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

タヌキの糞からドングリ

2018-03-18 19:20:26 | 報告
ちょっと意外というか、不思議に思っていることがあります。クマはドングリが大好きで秋の糞びはドングリがいっぱい入っています。ドングリはでんぷん質だから、脂肪に変えて冬眠に備えるわけです。津田塾大学にはシラカシがたくさんあって大量のドングリが落ちています。それを同じ食肉目のタヌキが全く食べません。私は去年100個以上の糞を分析しましたが、全く出て来ませんでした。だから論文に次のように記述しました。

津田塾大学の森林で最も優占するシラカシや個体数が少ないので調査区には出現しなかったコナラやスダジイなどは大量の堅果類(ドングリ)を実らせ,林床に多数落下するにもかかわらず,タヌキの糞からは検出されなかった.タヌキがドングリの種皮・種皮を食べないで,種皮を除いて子葉部だけを食べるとか,飲み込まれた子葉部が完全に消化されて糞に出現しないとは考えにくい.したがって,津田塾大学の森林での供給量の豊富さを考えれば,タヌキは実質的にドングリ類を食べていないと考えられる.ただ,東京都八王子市でのタヌキの糞分析例では少数例で,微量のドングリの種皮が検出されたことがある(Takatsuki et al., in press).ほかにも皇居でシイ・カシ類の種子片が出現しているが,出現頻度は8.8 %にすぎない(酒向ほか, 2008).そのほかの多くの分析事例ではドングリは検出されていない.これらの情報から,タヌキはドングリが豊富に供給されても,ごく少量を低頻度にしか利用しないと思われる.このことは,同じ食肉目のツキノワグマUrsus thibetanusがドングリ類を好んで採食すること(橋本・高槻, 1997)を考えれば,興味ある現象である.例えば,コナラ属の堅果の出現頻度は,秩父山地のツキノワグマの場合, 25 %(1993年)または67 %(1994年)であったし(Hashimoto, 2002),岩手県では95 %〜100 %であったし(坂本・青井, 2006),中国山地では85 %(9月),28 %(10月),47 %(11月)であり(大井ほか, 2012),いずれもタヌキよりもはるかに高頻度であった

 その結論は変わらないのですが、今年はマーカーのチェックのために、分析はしませんが、ふるいで水洗しています。すでに50個以上は調べました。そうしたら3月2日に回収した糞の中の1個からドングリの破片が出て来ました。中身(子葉)が一部欠けた状態で、外側の殻もありました。ほとんど未消化の状態なので、どれだけ栄養になっているかわからないし、150個以上見た中のわずか1個ですから、「ほとんど食べない」という結論は変わりませんが、ごく稀には食べることがあるという「小さな発見」があったということです。林には今でも大量のドングリが落ちています。


津田塾大学のタヌキの糞から検出されたドングリ。上は殻の破片、下の2つが中身(子葉)。格子間隔は5mm

以上の報告を書いた後、1月10日に拾っていたタメフン3と読んでいるタメフン場の大量の糞を3月10日に全て水洗しおわりました。潰れたり、くっついたりしていてどれが1個かわからなくなっているので、およその量しかわかりませんが、60個くらいです。たくさんのカキとブドウの種子が出てきましたが、その中に1個だけ、シラカシのまったく未消化なドングリが出てきました。同じ結論ではありますが、「タヌキはドングリを食べないわけではない、ただしほとんど未消化だ」ということです。


タヌキの糞から出てきたシラカシのドングリ

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奥多摩軍畑のタヌキの糞からシカの毛が出た

2018-03-12 22:47:36 | 報告
奥多摩軍畑のタヌキの糞からシカの毛が出た

高槻成紀

日本各地でシカが増加しており、植物に強い影響を及ぼすようになった。そのことは波及効果として、植物を利用する小動物などにも影響するし、植物がなくなったために表土の流失が進むなどの間接的な影響も起きるようになった。一方、シカがいることで糞が供給されて糞虫が増えるとか、死体が供給されてシデムシ類が増えるといったこともある(高槻, 2015)。シカの死体は冬から春にかけて多くなるが、それは食肉目が最も食料が得にくくなる時期でもあり、食肉目は当然、利用すると推察されるが、これまで情報が乏しく、ヒグマ(Sato et al. 2004)と九州のテン(足立ら, 2017)における事例しか知られていない。
 私は野外でタヌキやキツネの糞を見て、おそらくシカであろうと思いながら、サンプリングまではしないでいたが、最近そのことが気になり始めた。そんな時、2018年1月に御岳レンジャーの福田真司さんから、御岳ビジターセンターの宮田浩さんを通じてタヌキの糞8個が送られてきた。0.5mm間隔のフルイで水洗し、検出物を確認したところ、6例からシカの毛と思われるものが検出された。DNAによる確認をしているが、まず間違いないので、その意味などを考えてみたい。

 奥多摩には過去20年くらいでシカが増加し、ワサビや植林木に被害が発生している。シカの分布は拡大傾向があり(御手洗, 2014)、現在八王子の高尾山や埼玉県の飯能などでも確認されるようになった。古くからシカが生息し、高密度でもある奥多摩では冬から春にかけてシカの死体が供給され、それを食肉目が利用することが予測される。
 検出物は表1のようであり、8例中6例でシカの毛が検出され、しかも4例では非常に多量であった。このほかマンリョウとスゲ属の種子が検出された(表1、図1)。

表1 奥多摩のタヌキの糞からの検出物頻度(n = 8)



図1 奥多摩のタヌキの糞からの検出物


 サンプル数が少ないとはいえ、冬に当地のタヌキがシカの死体を高頻度に利用し、かなりのサンプルではシカの毛が優占していたということは、タヌキの冬の食性に大きな変化が生じていることを示唆する。
 福岡県のテンは10年ほどの継続調査により、シカの増加とともに、糞中に占めるシカの出現頻度が高くなったことが知られており、同様なことが奥多摩で起きていることは十分にありえる。
現状では、これが少数の特例であるかどうか判断ができない。奥多摩から東にかけてもさらに多くの場所で分析が行われることを期待したい。

文献
足立高行・桑原佳子・高槻成紀. 2017.福岡県朝倉市北部のテンの食性−シカの増加に着目した長期分析.保全生態学研究,21: 203-217.
御手洗 望.2014. 多摩川・秋川流域の低山丘陵地におけるニホンジカの分布拡大についての研究.公益財団法人とうきゅう環境財団報告, 217. こちら
Sato, Y., K. Aoi, K. Kaji and S. Takatsuki. 2004. Temporal changes in the population density and diet of brown bears in eastern Hokkaido, Japan. Mammal Study, 29: 47-53.
高槻成紀. 2015. シカ問題を考える. ヤマケイ新書

付記:タヌキ糞の情報
採取日時:2018年1月9日
採取場所:高水三山の惣岳山から軍畑駅方面へ下る平溝尾根
緯度経度:北緯35.81735 東経139.19323
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