高槻成紀のホームページ

「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

もくじ

2017-01-06 08:26:07 | もくじ
プロフィール
日々の自然日誌はこちらをどうぞ

最近の動き
2月7日
 南アルプスの農鳥岳は3000mクラスの高山ですが、ここで山小屋の番人をしている深沢さんという方がおられます。ここにもシカが見られるようになり、いまでは高山植物が荒らされているそうです。深沢さんはいろいろ自然観察をしておられ、キツネやテンの糞が小屋のまわりで見られるということで、2013年から採集してもらって分析をしています。ひとつのポイントはライチョウの羽毛が出てくるかどうかということですが、いまのところ出てきていません。
 深沢さんは去年は足をケガされたので5個しか拾えなかったということでした。その中に色の薄い(ほとんど白に近い淡褐色)哺乳類の毛がたくさん入っているサンプルがありました。この薄い毛はこれまでにも何度か見ていて、「ノウサギかカモシカかな?」と思っていました。ネズミなどは焦げ茶色で明らかに違うし、シカは直線的で先端は焦げ茶色なのでそれとも違います。今回、この毛の中にノウサギの歯が出てきたので、ノウサギのものであることがわかりました。写真の上が上顎の切歯、その下が下顎の切歯、下にならんだのは臼歯類です。


ノウサギの歯、格子間隔は5mm

2月5日
かながわ森林インストラクターの会で「日本の森林とシカ問題」という演題で講演をしました。80人くらいの会員が集まり、熱心に聞いていただきました。シカ問題は農林業被害という基準で始まり、自然植生への影響も問題視されるようになりましたが、しかし、植生が変化することが、そこにすむ昆虫類や鳥類、あるいは動植物のリンクまで波及するということについてはまだまだ認識が足りないという話をしました。 

1月6日 
津田塾大学で「こどもタメフン観察会」をしました。こどもの心に何かが残ってくれたらいいなと思いました。


タメフンの説明


タヌキの解説


フンの検出物をルーペで見る

2016年を振り返りました。
 仕事
 講演など
 著作など

カヤネズミの地表巣
11月23日に山梨県北部の乙女高原(1700m)で草刈り作業をしているときに半場さんという人がカヤネズミの地表巣を発見しました。さがしたらかなり見つかりました。これまでこのあたりでは800mくらいから下にしかいないということになっていました。また山梨県の最高記録は1200mくらいとされていました。だから大幅な記録更新です。これまで気づかれていなかったのは「カヤネズミは1mくらいの高さに空中巣(空中に浮かんでいるのではないので茎上巣というべき)を作ること「だけ」が注目されていたためで、実は地表にも作ることが見過ごされてきたためと思われます。これについては私のブログをご覧ください(その1その2その3)。


カヤネズミの「地表巣」 直径15cmくらいのドーム状。中には細かいイネ科の葉が敷かれている。乙女高原にて。

私の著書
最近の論文
最終講義
退職記念文集「つながり」
唱歌「故郷」をめぐる議論


研究概要
 研究1.1 シカの食性関係
 研究1.2 シカと植物
 研究1.3 シカの個体群学
 研究1.4 シカの生態・保全
 研究2 調査法など
 研究3.1 その他の動物(有蹄類)
  その他の動物(食肉目)
  その他の動物(有蹄類、霊長目、齧歯目、翼手目)
  その他の動物(哺乳類以外)
 研究3.2 その他の動物(海外)
 研究4 アファンの森の生物調べ
 研究5 モンゴル(制作中)
 研究6 野生動物と人間の関係
 研究7 教育など

業績
 論文リスト
 書籍リスト
 総説リスト
 書評リスト
 意見リスト

エッセー
 どちらを向いているか:小保方事件を思う
 皇居のタヌキの糞と陛下 new!

2015年の記録
2014年の記録
2013年の記録
2012年の記録 6-12月
2012年の記録 1-5月
2011年の記録
コメント (2)
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書作など

2016-12-31 03:38:33 | 最近の動き

<公表した本、論文など>
 2016年に出版された本は以下の3冊です。
「タヌキ学入門--かちかち山から3.11まで 身近な野生動物の意外な素顔」、誠文堂新光社。

これは一般向けにタヌキのことを紹介したもので、生物学の話だけでなく、昔話などにも言及しました。


「玉川百科 こども博物誌 動物のくらし」、玉川大学出版部。

これは小学生の低学年を対象にしたもので、哺乳類だけでなく、鳥類、寮生爬虫類、魚類も含み、それぞれの専門家にわかりやすく書いてもらいました。イラストがすばらしく、よいできになりました。



「増補版野生動物管理−理論と技術−」,羽山伸一・三浦慎悟・梶光一・鈴木正嗣,編、文英堂出版,東京。

これは専門書で、このなかにつぎの2つを書きました。
生態系と野生動物のインパクト.:117-142.
食性分析.:295-297.

 論文は4編書きました。
足立高行・植原 彰・桑原佳子・高槻成紀.2016.
 山梨県乙女高原のテンの食性の季節変化.
 哺乳類科学,56: 17-25.
足立高行・桑原佳子・高槻成紀,2017
 福岡県朝倉市北部のテンの食性−シカの増加に着目した長期分析.
 保全生態学,21: 203-217.
 この2つは大分の足立さんがテンの糞を長いあいだ根気強く分析されたもののまとめをお手伝いしたもので、乙女高原のテンの糞は植原さんが採取したものです。福岡のものは11年間におよぶもので、そのあいだにシカが増えて、テンが食べる昆虫や低木の果実などが減ったことがわかりました。

Yamao, K, R. Ishiwaka, M. Murakami and S. Takatsuki. 2016
Seasonal variation in the food habits of the Eurasian harvest mouse (Micromys minutus) from western Tokyo, Japan.(東京西部のカヤネズミの食性の季節変化)
Zoological Science, 33: 611-615.
 これは日の出町廃棄物処分場跡地に復活したススキ群落にもどってきたカヤネズミの食性を糞分析で解明したもので、夏の昆虫、冬の種子と季節変化があることが初めてわかりました。またダンゴムシやシデムシなど地表を歩く昆虫などが食べられているという意外なことも初めて明らかになりました。

Morinaga, Y., J. Chuluun and S. Takatsuki. 2016.
Effects of grazing forms on seasonal body weight changes of sheep and goats in north-central Mongolia : a comparison of traditional nomadic grazing and experimental sedentary grazing, (伝統的遊牧と固定飼育によるヒツジとヤギの体重の季節変化の違い:モンゴル北部での事例)
Nature and Peoples, in press
 これは伝統的な遊牧で育てた場合と実験的に固定飼育した場合、ヒツジやヤギの体重がどう違うかを比較したもので、固定するとやせることがわかりました。私たちは事情を知らないで「モンゴルは土地面積に対する生産性が低い」と批判する声があるのを、それには意味があるのだということを示したいと思いました。

書評
高槻成紀, 2016.
日本のイヌ- 人のともに生きる 菊水健史・長澤美保・外池亜希子・黒い眞器.
JVM. 69: 197. 
高槻成紀,2016.
「女も男もフィールドへ」椎野若菜・的場澄人(編)(2016)古今書院
哺乳類科学, 56: 293-295.

エッセー、解説など
高槻成紀, 2016. いきものばなし10, ニホンジカ. ワンダーフォーゲル,2016.2: 156-157.
高槻成紀, 2016. 唱歌「ふるさと」から里山の変化を考える. 環境会議, 2016春: 40-45.
高槻成紀, 2016. 麻布大学いのちの博物館を語る. 日本農学図書館協議会誌, 181: 7-14.
高槻成紀, 2016. 東京のタヌキ。東京人, 372(2016年7月): 7.
高槻成紀, 2016. 子供たちに動物の息吹を伝えたい.週間読書人,2016.8.5
高槻成紀, 2016. シカ研究者がみた最近の日本の山. 木の目草の芽, 125: 1-4.

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講演など

2016-12-31 02:37:09 | 最近の動き
<講演など>
振り返ってみれば、「こんなに?」というほどたくさんお話ししており、われながら驚きます。

1月15日 かわさき市民アカデミー、「シカと植物の関係」
2月13日 相模原・町田大学地域コンソーシアム、「麻布大学いのちの博物館ができるまでとこれから−大人も子供も学べる場を目指して」
3月10日 TBSラジオ「荻上チキSession22」
3月19日 B&B、「動物博士! うんちを集めてるって本当ですか!?」
4月18日 武蔵野美術大学、「玉川上水のタヌキを調べる」
4月23日 アースデイ東京2016、「森の再生」「地域創生」
4月24日 国立市公民館環境講座、「動物の言い分〜都市生活と野生動物〜」
4月25日 武蔵野美術大学、「生き物のつながり、1. 花と虫」
4月25日 武蔵野美術大学、「生き物のつながり、2. 分解昆虫」
5月18日 御岳山、
7月12日 かわさき市民アカデミー、「野生動物の言い分」
9月01日 森林インストラクター東京会、「森林と動物−シカを中心に動植物の
つながりを考える -」
9月09日 ラディッシュボーヤ、「森から海へ」
10月02日 館山猟友会、「シカ問題を考える」
10月29日 兵庫県養父、「シカ問題とその背景」
11月15日 武蔵野美術大学、「玉川上水調査 これまでにわかったこと」

このときの講演の動画はこちら

11月18日 かわさき市民アカデミー、「森林管理と生き物のつながり」
11月20日 相模原市立博物館、「東京西部に生息するテンとタヌキの食性比較」
11月24日 早稲田大学エクステンションセンター、「唱歌ふるさとの生態学」
11月25日 日本山岳会、「シカ研究者がみた最近の日本の山」
11月27日 桐生自然観察の森、「シカと植生と人間について」
11月29日 かわさき市民アカデミー、みどり学1「シカ問題を考える」
12月01日 早稲田大学エクステンションセンター、「野生動物の言い分ータヌキやクマに語らせたら・・・」
12月06日 かわさき市民アカデミー、みどり学フレッシュ「身近な野生動物−タヌキを例に−」
12月21日 Darwin Room, 「玉川上水調査 これまでにわかったこと」


Darwin Room で清水さんと


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仕事

2016-12-31 01:33:14 | 最近の動き

<仕事>

 2015年3月の定年退職し、4月からは「麻布大学いのちの博物館」設立のお手伝いをすることになりました。博物館は2015年9月に開館したのですが、半年は専任の人はおらず、派遣職員の方に受付や資料整理などをしてもらっていました。それが2016年4月からは事務職員がついて、本格的に動き出しました。私は上席学芸員という立場です。


麻布大学いのちの博物館外観

常設展示のほかに企画展として「ロードキル」、「動物の目」を実施しました。また新規収蔵展示として「須田修氏の遺品」の展示をしました。


ロードキル展


動物の目 展


須田修氏遺品 展

これとは別に夏に「夏休み子供教室」として動物の骨の勉強をしてもらいました。


夏休み子供教室

団体来館もあり、解説をしました。またミュゼットという学生の博物館支援サークルがあり、毎週土曜日に「ハンズオンコーナー」として、動物の骨をさわってもらう活動をしてもらいました。オープンキャンパスや大学祭では展示解説をしてもらいました。このほか増井光子資料の登録作業などをしています。


<調査>
 今年の3月から武蔵野美術大学の関野吉晴先生が進めておられる「地球永住計画」の活動の一環として玉川上水の動植物を調べることを始めました。タヌキを「主人公」にし、食性、糞を利用する糞虫を調べるほか、訪花昆虫や動物散布される果実の調査などをしました。毎月観察会をし、参加者の協力をえて調査をしました。玉川上水にはほぼ毎週、夏には週に2、3回通いました。


解説をする

 これまでの継続調査も続けられるものは続けています。タヌキの糞分析の比重が大きく、仙台の海岸のタヌキは知人が毎月糞を送ってくれています。東松島でニコルさんたちが進めている「復興の森」にいって観察したり、タヌキの糞を採取したりしています。長野の黒姫にあるアファンの森でもタヌキの糞を集めています。今年からは明治神宮でもタヌキの糞集めをできるようになりました。なおタヌキの糞分析といえば陛下が皇居のタヌキの食性を糞分析であきらかにしたすばらしい論文を書かれたことも私にとって重要なことでした。
 乙女高原は昨年の終わりから今年にかけてシカの影響を防ぐために大きな柵が作られたので、その群落調査に行きました。11月の草刈りのときにカヤネズミのものと思われる地表巣を発見しました。


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最近の論文

2016-12-01 08:52:09 | 私の著作

2016.12.10
Effects of grazing forms on seasonal body weight changes of sheep and goats in north-central Mongolia: a comparison of nomadic and sedentary grazing
Nature and Peoples, in press
[放牧のしかたがモンゴル北部のヒツジとヤギの体重季節変化におよぼす影響:遊牧群と固定群の比較]
 この論文はモンゴルのヒツジとヤギの体重を調べたものです。モンゴルですごしていると遊牧生活のすばらしさを、自分の生活と対比として、しみじみと感じます。そのことを文章で表現するという方法もあるでしょうが、私たちはそれを自然科学的表現をしたいと思いました。どういうことかというと、モンゴルは広いことで知られた国です。人口密度は2人/km2ほどで、日本の340人/km2とは200倍も違います。それは「無駄が多い」ことでもあり、それだけしか住めないということは「土地生産性が低い」ともいえます。農耕民である中国人はそのことを「劣っている」とみなしました。モンゴルを「蒙古」といいますが、蒙はバカということ、古は古いです。ひどいものです。今でも一部のヨーロッパ研究者にはモンゴルに対して土地生産性をあげるための「提言」をする人がいます。でも乾燥地で土地を耕すことは長い目でみれば土地を荒廃させることが明らかになっています。私たちはモンゴル人と交流するなかで、頑固だなと感じることもありますが、この頑固さがこの土地と生活を守ってきたと賞賛したくなることがあります。
 そうしたことの一つが遊牧です。農耕民の生活とこれほど違うことはありません。広い土地を季節ごとに移動する - 農耕民からすれば落ち着かない貧しい無駄の多い生活です。でもそれには根拠があるのではないかと私たちは考えました。そこで通常の遊牧をする群れと、牧民にお願いして群れを一箇所で動かさないように頼み、その体重を1年追跡してもらいました。牧民は家畜を名前をつけて一頭づつ知っています。その体重を毎月測定してもらったのです。
 ヒツジの群れはスタート時は遊牧群と固定群で体重に違いはなかったのですが、冬の終わりになると固定群のほうがどんどんやせていき、違いが出ました。翌年の回復期にはつねに固定群が軽くなりました。

ヒツジの体重変化 nomadic 遊牧、 sedentary 固定

 ヤギのほうは最初(6月)、遊牧群のほうが少し軽かったのですが、8月には追いつき、その後は違いがなくなり、2年目は逆転しました。
 これらの結果は、表面的に「土地を有効に利用して高密度に家畜を飼うべきだ」という発想がモンゴルのような乾燥地では合理性がないことを示しています。放牧の体制はさらに複雑なシステムですが、体重ひとつとっても伝統的な遊牧に合理性があることを示せたことはよかったと思います。

ヤギの体重変化 nomadic 遊牧、 sedentary 固定

 2006年ですから10年も前のことで、ようやく論文になり、ほっとしました。

2016.9.4
論文ではありませんが、「須田修氏遺品寄贈の記録」を書きました。これは麻布大学の明治時代の卒業生である須田修氏の遺品をお孫さんの金子倫子様が寄贈されたことを機に、寄贈品について私とやりとりをしたことを含め紹介したものです。麻布大学は昭和20年に米軍の空襲により学舎を消失したので、戦前の資料は貴重です。それを博物館ではありがたくお受けしたのですが、それに添えるように2つの興味ふかいものがありました。ひとつは「赤城産馬會社設立願」で、須田氏のご尊父が群馬県の農民の貧困さを憂え、牧場を作ることを群馬県に提出したものです。その文章がすばらしく、文末に当時の群馬県令揖取素彦の直筆サインがありました。また「夢馬記」という読み物があり、これは須田氏が誰かから借りて書き写したもののようです。内容を読むと、ある日、馬の専門家がうたた寝をしていたら、夢に馬が現れて「最近、日本馬は品質が悪くてよろしくないから品種改良をせよという声が大きいが、そういうことをいうものは馬のことを知らず、その扱いも知らないでいて、この馬はダメだといってひどい扱いをする。改良すべきは馬ではなく騎手のほうだ」といって立ち去った。目が覚めたら月が出ていた、というたいへん面白いものでした。こうした遺品についてのやりとりをしたので、金子様にも共著者になっていただいて、「麻布大学雑誌」に投稿しました。




牧場設立願いに書かれた揖取群馬県令のサイン

2016.7.25
 Seasonal variation in the food habits of the Eurasia harvest mouse (Micromys minutus) from western Tokyo, Japan(東京西部のカヤネズミの食性の季節変化)
Yamao, Kanako, Reiko Ishiwaka, Masaru Murakami and Seiki Takatsuki

という論文がZoological Scienceに受理されました。この論文の内容にはいくつかポイントがあります。カヤネズミの食性の定量的評価は不思議なことに世界的にもなかったのですが、それを奥津くんが解明し、論文にしました(Okutsu and Takatsuki, 2012)。この論文で、小型のカヤネズミはエネルギー代謝的に高栄養な食物を食べているはずだという仮説を検証しました。ただ、このときは繁殖用の地上巣を撹乱しないよう、営巣が終わった初冬に糞を回収したので、カヤネズミの食物が昆虫と種子が主体であることはわかり、仮説は支持されましたが、季節変化はわかりませんでした。今回の研究はその次の段階のもので、ペットボトルを改良して、カヤネズミの専門家である石若さんのアドバイスでカヤネズミしか入れないトラップを作り、その中に排泄された糞を分析することで季節変化を出すことに成功しました。もうひとつは、私にとって画期的なのですが、その糞を遺伝学の村上賢先生にDNA分析してもらったところ、シデムシとダンゴムシが検出されました。これまで「カヤネズミは空中巣を作るくらいだから、草のあいだを移動するのが得意で、地上には降りないはずだ」という思い込みがあったのですが、石若さんは、これは疑ったほうがよいと主張してきました。シデムシもダンゴムシも地上徘徊性で、草の上には登りませんから、カヤネズミがこういうムシを食べていたということは、地上にも頻繁に降りるということで、それがDNA解析で実証されたことになります。DNA解析の面目躍如というところで、たいへんありがたかったです。そういうわけで、目的がはっきりしており、結果も明白だったので、書きやすい論文でした。この論文は生態学と遺伝学がうまくコラボできた好例だと思います。


改良型トラップ

2016.7.14
 「福岡県朝倉市北部のテンの食性−シカの増加に着目した長期分析−」 足立高行・桑原佳子・高槻成紀
福岡県で11年もの長期にわたってテンの糞を採取し、分析した論文が「保全生態学雑誌」に受理されました。この論文の最大のポイントはこの調査期間にシカが増加して群落が変化し、テンの食性が変化したことを指摘した点にあります。シカ死体が供給されてシカの毛の出現頻度は高くなりましたが、キイチゴ類などはシカに食べられて減り、植物に依存的な昆虫や、ウサギも減りました。シカが増えることがさまざまな生き物に影響をおよぼしていることが示されました。このほか種子散布者としてのテンの特性や、テンに利用される果実の特性も議論しました。サンプル数は7000を超えた力作で、その解析と執筆は非常にたいへんでしたが、機会を与えられたのは幸いでした。


テンの糞から検出された食物出現頻度の経年変化。シカだけが増えている。このところ、論文のグラフに手描きのイラストを入れて楽しんでいます。

2016.6.2
マレーシア半島北部の熱帯雨林のアジアゾウの食性(Food habits of Asian elephants Elephas maximus in a rainforest of northernPeninsular Malaysia, Shiori Yamamoto-Ebina, Salman Saaban, Ahimsa Campos-Arcez, and Seiki Takatsuki )という論文がMammal Studyに受理されました(その後、2016年9月に掲載されました。Mammal Study, 41(3): 155-161.)。これは麻布大学の山本詩織さんが修士研究としておこなったもので、一人でマレーシアにいってがんばりました。滞在中に私も現地を訪問してアドバイスしました。


ゾウの糞を拾った詩織さん

アイムサさんはスペインから私が東大時代に留学し、スリランカでゾウの研究をして、現在はマレーシアのノッチンガム大学の先生になりました。アジアゾウの研究では第一人者になりました。この論文では自然林のゾウと伐採された場所やハイウェイ沿などで食性がどう違うかを狙って分析したもので、見事に違うことが示されました。ゾウはそれだけ柔軟な食性を持っているということが初めてわかったのです。


このグラフは上から自然林、伐採林、道路沿いでの結果で、左から右に食べ物の中身が示されています。grass leavesはイネ科の葉で道路沿いでは一番多いです。monocot leavesは単子葉植物の葉で逆に森林で多いです。banana stemはバナナの茎でこれは道路沿いが多いです。あとはwoody materialとfiberで木本の材と繊維ですが、これが森林で多く道路沿いで少ないという結果が得られました。つまり森林伐採をしてもさほど違わないが、道路をつけると伐採をするだけでなく、草原的な環境がそのまま維持されるので、ゾウは森林の木はあまり食べなくなって道路沿いに増えるイネ科をよく食べるようになるということです。このことはゾウの行動圏にも影響を与えるので、アイムサさんはたくさんのゾウに電波発信機をつけて精力的に調べています。
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最近の動き

2016-12-01 01:23:34 | 最近の動き

2016.12.21
下北沢にあるDarwin Roomで「玉川上水の生きもの調べ」という話をしてきました。50人近くの人が集まり、会場はいっぱいでした。



講演を終えて店長で司会をつとめてくださった清水さんと。なかなか雰囲気のある会場でした。

2016.12.18
津田塾大学でどこかにあるはずのタメフン場を探す人海戦術をしました。あきらめかけていたときに大きなタメフン場がみつかり、見つからなかったマーカーもありました。

みつけたタメフンを前に

2016.12.11
明治神宮でタヌキのタメフン探しをしました。



タメフン場

2016.12.12
日の出町の廃棄物処分場跡地でカヤネズミの地表巣の調査をしました。

巣の断面

2016.12.11
恒例の玉川上水の観察会をしました。紅葉はピークをすぎ、少し寂しくなりました。今月は果実の観察をしました。

記念撮影


集めた果実

2016.12.8
11月の下旬に卒業生の一人が長野県の美ヶ原でオコジョの交通事故死体を拾ったということで標本を博物館に寄贈してくれました。それを骨格標本にしていましたが、なんとか完成しました。頭骨が割れていたので、修復がたいへんでした。プロのように真っ白な骨にはしませんでしたが、まずますの出来かなと思います。


オコジョ 2016.11.21 美ヶ原

2016.12.8
東京都西部の日の出町に廃棄物処分場があります。ここは上に土をかぶせて、スポーツグランドにし、その一角に動植物がもどってくるように環境をとと乗せる努力がおこなわれています。私はそのアドバイスをしてきましたが、地元のひとも交えた説明会があり、招かれていきました。


処分場の内部。背景の雑木林にはタヌキやキツネもおり、今年はフクロウが雛を育てました。手前の草原にはカヤネズミやノウサギももどってきました。また写真ではみえませんが、池があり、カイツブリやカモ類が羽を休めています。

2016.12.5
アファンの森に調査に行きました。林の木々にはすでに葉がなくなっていました。順調にタヌキの糞が集まりましたが、その脇に立派なクマのものもありました。カメラにも写っていました。


2016.10.28

2016.12.4
NHKの視点・論点で話した「タヌキと日本人」がアーカイブにアップされました。

2016.12.3
麻布大学いのちの博物館でフクロウの食性分析作業をしました。学生にとっても、八ヶ岳自然クラブの人にとっても、楽しく充実した体験になったようです。


分析をする参加者

お礼に手作りの感謝状を贈りました(ただし高槻の個人的なもの)



最後に記念撮影

2016.12.2
「さくらサイエンス」プロジェクトという獣医学系のアジアの若手研究者の研修活動があり、麻布大学が中心となっています。今回は日本獣医生命科学大学で研修している韓国、台湾、タイの研究者が麻布大学いのちの博物館に来館したので、私が解説しました。





2016.12.1
早稲田大学エクステンションセンターで「野生動物の言い分」と題して講義をしました。

2016.11.29
かわさき市民アカデミーで「シカ問題を考える」と題して講義をしました。

2016.11.27
桐生市にある自然観察の森に招かれてシカの講義と野外観察、それに野生動物の糞分析の実習をしました。ここでもシカが増え始めたそうです。シカとテンの糞分析の手ほどきをしました。



2016.11.26
麻布大学いのちの博物館でフクロウの巣材からネズミの骨を取り出す作業の2回目をおこないました。


分析する八ヶ岳自然クラブのお二人


取り出した骨. 主要な骨の紙資料の上にシャーレをおいて、取り出した骨を集めた。

2016.11.25
日本山岳会で、「シカ研究者がみた最近の日本の山」という講演をしました。
NHKテレビの「視点・論点」で「タヌキと日本人」という話をしました。

2116.11.24
早稲田大学エクステンションセンターでおこなわれている「生命(いのち)のにぎわいを探る」のシリーズを担当し、「唱歌「ふるさと」の生態学−ウサギはどこへ行った?」という話をしました。

2016.11.23
山梨県の乙女高原では毎年勤労感謝の日に市民が集まって草刈りをしています。私もこの数年参加させてもらっており、今年も行きました。草刈り機や手鎌でススキを刈り取り、それをブルーシートにのせて引っ張ってゴミ収集車にのせて別の場所にもっていきます。老弱男女260人が集まり、作業が終わったらおいしい豚汁をいただきました。





2016.11.21
明治神宮に行きました。タヌキの糞探しをするために林に入る許可をもらっています。夏から毎月来ていますが、タメフンがみつからず、サンプルが集まらないでいました。どうやらタヌキが疥癬という病気で少なくなってしまったらしいのです。かなり歩きましたが、獣道がみつからず「いないなあ」と思っていました。ただ、前回のときに、人はいかないところなのにマヨネーズの容器とか、お菓子の袋などが多くあるところがあり、タヌキが使っていそうな場所が見つかっていました。そこに、ついにタメフン場がみつかったのです。ごく新しい糞はギンナンばかりが入っていますが、少し古いものは黒褐色で、一部には鳥の羽毛が入っているものなどがみつかり、今後分析します。これまでがんばって探してきた甲斐がありました。


タヌキの糞を拾う

2016.11.20
相模原市立博物館で「学びの収穫祭」があり、おもに地元の生徒、学生、市民、大学人などが発表をする活動がおこなわれていますが、そこで話をするように要請されました。そこで「東京西部のテンとタヌキの食性」について話をしてきました。なかなか活発なようでした。

2016.11.19
博物館で「フクロウの食性分析」をおこないました。学生9人と八ヶ岳自然クラブの人2人が参加し、ネズミの骨の勉強をしながら、小骨を取り出しました。


分析をする


八ヶ岳自然クラブが提供くださった写真パネルと標本箱に並べたネズミの骨。パネルはネズミをとらえる瞬間のフクロウなどすばらしい写真があります。ネズミの骨はかつて同じ八ヶ岳のフクロウの食性分析をしたときに作った標本です。

2016.11.18
かわさき市民アカデミーで「森林管理と生物のつながり」と題して講義をしました。

2016.11.15
武蔵野美術大学で玉川上水で調べてきたことの報告をしました。その内容はこちら



2016.11.13
明治大学で今年のモンゴルでの調査報告会議があり、群落調査の報告をしました。



2016.11.7
宮城県東松島でニコルさんたちが子供たちのために「復興の森」を準備しています。来春開校する「森の学校」に隣接する森で、アファンの森を参考にしています。今年から動植物の基礎資料をとるためにときどき行っています。ツリーハウスというおもしろい家があり、子供がよろこびそうです。木を整理して明るい林を作っていますが、その材木を取り出すために岩手県のウマが来ていました。


ツリーハウス


材木を出すためにきているウマ

2016.11.6
玉川上水の観察会をしました。少しポカポカのとても気持ちのよい日で、参加者が少なく、近い距離でゆっくりと自然の観察や調査ができました。果実の季節になったのでその生態学的解説をしたあとスケッチをしました。さすがに美大生だけあってうまいものです。




木暮さんのスケッチ


清原さんのスケッチ


高槻のスケッチ


観察した果実

2016.10.29
兵庫の養父(やぶ)というところの有志にお招きいただいて、シカについて講演をしてきました。兵庫県はシカが増えて年間4万頭以上を駆除してもうまくいっていないそうです。私も少し山をみせてもらいましたが、アセビやイワヒメワラビなどが目立ち、下生えは貧弱になっていました。京都からおりて少し、と思っていたのですが、時間的にはそこから福知山まで、福知山からまた養父までととても長く、えらく奥まったところだなあという感じでした。地図で見るともう鳥取に近いくらいでした。実際、警官は私の育った米子あたりとまったく同じという感じでなつかしく思いました。熱心な議論があり、同じロッジに泊まった方もおられて、くつろいで話ができました。

2016.10.22-23
大学祭なので、博物館も来館者が増えます。学生に展示の勉強をしてもらい、解説をしてもらっています。展示だけと、解説つきでは全然違うようで、好評です。600人ほどの来館があったようです。あしたも続きます。



アンケート記入

2016.10.20
いのちの博物館にかわいい来館者がありました。近所の幼稚園さんが30人ほどきてくれたのです。どのくらいわかるのか見当がつきませんでしたが、私は「子供こそホンモノを見分ける目をもっている」と信じていますから、本物を展示している我が博物館の標本をみて、きっとゾウの大きさやキリンの背の高さや天井の高さなどをそれなりに感じとってくれたと思いました。


2016.10.19
毎月行っている明治神宮に行ってきました。タヌキのタメフン場を探すのが目的ですが、まだ見つかっていません。糞はひとつだけみつかったのですが、タメフンはだめです。タヌキが疥癬病で死んだと言われています。かなり歩いていますが、「気配」が感じられません。獣道もほとんどなく、やはりほとんどいないようですが、粘りつよく続けるつもりです。

 

2016.10.15
津田塾大学にはタヌキがすんでいますが、そこでいくつかの調査をしています。タメフン場がみつかっているのですが、これまで一箇所だけでした。そこで、人数を集めてローラー作戦で探すことにして、ついにもう1箇所見つけました。成果によろこんでパチリ!



2016.10.10-11
アファンの森に行きました。10日は卒業生の望月さんが来てくれました。


もう秋のよそおいで、花はほとんどなく、いくつか実がなっていました。


 セットしていたカメラにツキノワグマが写っていました。


2016.10.9
毎月の玉川上水観察会で集まりましたが、雨のため中止とし、よい機会なのでこれまでのこと、これからのことについて話しあいました。

2016.10.2
千葉県館山の猟友会に招かれて講演をしてきました。館山にはまだシカは少ないようですが、イノシシが多くていろいろ問題になっているそうです。私が書いた「シカ問題を考える」を読んだ方が、「ハンターがただシカやイノシシを殺すことを目的とするような感じになってきていてよくない。先生の本には動植物を大切にする心があるので、それを伝えてほしい」ということでした。また、動物や植物のことだけでなく、農山村の人のこと、社会のことも考えないといけないことを書いたのですが、そのことにも共感してもらえたようです。
 館山は房総半島が下向きの瓶の口のように突き出したあたりで、ヤシの木などがあって暖かい土地であることをうかがわせました。久々に晴れたので、帰路のバスからみた夕焼けが実にきれいでした。

2016.10.1
麻布大学いのちの博物館で企画展示「動物の目」を始めるため、本日展示準備をしました。動物の目の構造などの解説をし、治療法などについて、動物病院の印牧先生にご指導いただいて、完成しました。サルとラクダの視野の違いをアクリル板を使って表現しました。



眼圧計やエリザベス・カラーのイラストを描きました。

 

 



2016.9.18
乙女高原は今シーズン柵で囲われました。そして驚くほど植物が回復し、ワレモコウ、アキノキリンソウ、マツムシソウ、オミナエシなどが増えました。やはりシカの影響が強かったことが証明されたことになります。私たちはその柵の中でこれまでおこなってきた草刈りをしました。柵をつくって植物がシカから守られたからこそ、刈り取りがどういう影響を与えるかを示すことができると考えたからです。今日はあいにく小雨でしたが、刈り取りも、去年調べてマーキングしていた固定枠の群落調査も終えることができました。

 

2016.9.11
恒例の玉川上水観察会をしました。先月は夏休みで武蔵美の学生さんがいなかったのですが、今回は後期の授業がはじまって大学にもどってきたので多めでした。午前中に野草観察ゾーンで訪花昆虫の記録をとりました。秋の花が咲いていたので、シラヤマギク、センニンソウ、ツルボ、アキカラマツなどの花の前に立ってもらい、訪れる昆虫を記録してもらいました。午後は朝鮮大のほうで植生調査をしました。




訪花昆虫を記録する


「そっちはどうだった?」

カリガネソウがちょうど花の旬で、まっていたらクマバチがきました。背中にたくさん花粉をつけていましたが、観察していると体重が重すぎて、雄しべがハチの背中をたたくということはなく、ハチがおしべの上にのりかかるという感じでした。
 
カリガネソウとクマバチ


ツルフジバカマ

2016.9.9
「らでぃっしゅぼーや」という会社に頼まれて「森から海へ」と題してお話をしてきました。東京オペラシティなどという行ったことにないところだし、聞く人もビジネスの世界の人なので場違いな感じがしていましたが、「それなりに通じる」どころか、オーガニック製品の物流に関心のある人たちなので、私のいう「生き物のつながり」の大切さは十分に理解してもらえたと感じました。私は海もことは知らないのですが、「動物を守りたい君へ」を書いたとき、サケのことを勉強したので、その話を紹介しました。アラスカのトンガス国立公園で、サケの成分が木の中にあるこたがわかってきました。クマが食べて森で糞をするからです。それは新発見ですが、アイヌが川の源流を「川のおわるところ」、河口を「川のはじまり」というのは、サケの立場になれるからで、サケが生態系に重要な働きをしていることを知っていたのだと思います。それがおもしろかったと感じた人が多かったようです。

2016.9.4
乙女高原に行きました。半年前の冬に草原が柵で囲われました。柵の中にはいると、マツムシソウ、ワレモコウ、アキノキリンソウ、タチフウロなどこれまであまりなかったり、あっても少ししかなかった虫媒花(昆虫に受粉してもらう花)が増えていました。驚きました。マルハナバチがたくさん花に来ていました。


オミナエシとマツムシソウ


マツムシソウ


カワラナデシコ


ツリガネニンジン


ハナイカリ


ヒメトラノオ

2016.9.1
森林インストラクター東京会というところに招かれて東京ドームの近くで「森林と動物」と題して講演をしました。40人あまりの森林に関心のある方が集まって熱心に聞いてもらいました。シカと植物の話が主体でしたが、2時間もあったので、タヌキやそのほかの野生動物の話をしました。シカと植物のところではスライドで植物の写真を出して名前を聞いたのですが、さすがによくご存知の方が多く、会場がもりあがりました。動物についてもいろいろと質問があり、楽しい時間をすごすことができました。

2016.8.23
日本・アジア青少年サイエンス交流事業によって来日したアジアの若手研究者・院生が来館しました。国は中国、韓国、台湾、ベトナム、タイ、マレーシア、インドのほか、一人ながらモンゴル、カンボジア、ラオス、ミャンマー、シンガポール、フィリピン、インドネシア、ブルネイの人もあり、文字通りアジアを広くカバーしていました。私が展示解説をし、病理学などは黄教授の補足説明がありました。ロードキル展、プラスチネーション、ゾウとハムスターの対比、歴史などが印象に残ったようです。博物館が国際交流に役立てるのはすばらしいことだと思いました。



2016.8.1-8.15
モンゴルで調査をしてきました。アイラグ(馬乳酒)プロジェクトの下での群落調査を担当しました。私事ながら、今年は結婚40周年でもあり、私も現役を退いたことなどを考えて、カミさん同行を実現しました。研究チームで同じところに宿泊しての毎日だったので、皆さんからもよくしてもらい、楽しい滞在となりました。調査の記録係もしてもらい、私自身も助かりました。



2016.8.5
「動物のくらし」を作る過程について「週刊読書人」に書いた記事が紹介されました。



2016.7.27
今日までの3日間、麻布大学いのちの博物館で夏休みこども教室をおこないました。小学4年から6年生までが対象でした。まだ幼さの残る子もいるし、6年生には中学生みたいな子もいて、成長のいちじるしい年齢なのだと思いました。話をしていて、自分のことばが、輝く瞳を通してこどもの心に入っていくような不思議な感覚をもちました。
 終わって仕事をしていると
「先生、田口さんという方がご挨拶をしたいということです」
「田口さん?」
とくに思い当たるフシはない。誰かなと思っていると
「去年、先生に骨のことを教わったということで・・・」
「あ、田口くん?」
 実は去年、私が「このは」という雑誌に骨の解説を書いたとき、お母さんを通じて小学生から質問が来ました。20くらいの質問があり、自分でよく考えたよい質問でした。私はすべての質問に詳しめの返事を書きました。
 しばらくしてその少年(田口くんという名前でした)からはがきが届き、骨のことを調べて夏休みの作品を提出したら、なんとそれが文部科学大臣賞をもらったということで「高槻先生、ありがとうございました」と結んでありました。田口くんがふつうの子と違うのは、ころんで頭を強打して病院に連れて行かれたときに、「僕の頭が壊れなかったのはどうしてだろう」と考え、その答えを求めて、骨のことをいろいろ調べたということです。その疑問をお母さんが私に伝えてくれたというわけです。
 その田口くんが夏やすみこども教室に来ていたのです。そのときにもらったはがきに写真がついていましたが、そのときとはずいぶん成長し、メガネをかけていたので、気づきませんでした。
 私は田口くんに返事を書くときに、あることを思い出していました。中学2年生のときに、蝶の食草について、蝶の種分化と食草の種分化に対応関係があるのではないかと考え、そのことを私の愛読書であった「日本原色蝶類図鑑」の監修者である九州大学の白水隆先生に手紙に書いたのです。いなかの中学生に大学の先生が返事をくれるかどうかまったくわかりませんでしたが、しばらくして返事が来たのです。読みやすい字で「君はとてもおもしろいことに気づきました」という意味のことが書いてありました。その感激は私の中にずっと残っていました。私はそのときに科学者に対するあこがれのような気持ちを抱きました。
 自分の少年時代と重なるような気持ちもあり、不思議でうれしい出会いとなりました。


 

田口くんと。右は2015年2月の田口くん

2016.7.26-
 麻布大学いのちの博物館で「夏休みこども教室」としてシカとタヌキ(アライグマ)の頭骨の観察体験をしてもらうことになりました。私が解説をし、学生2人にも展示場の解説とアシスタントをしてもらうことになりました。実際の骨に触る機会はなかなかありませんから、それだけで得難い体験だったろうと思います。少し緊張気味にふれていました。私は子供の自由な絵が好きなので「自由に描いていいよ」といったのですが、小学生の場合、ある程度のガイドをしないと、何をどうしてよいかわからないのかもしれず、むずかしいものだと思いました。大学での体験がなんらかの形で子供たちの心に残ってくれたらよいなと思います。

骨のスケッチをする子供たち(公開の了解をもらっています)


2016.7/18-19
 C.W.ニコルさんが中心になって宮城県の東松島につくっている「森の学校」は校舎が木造であるだけでなく、森に隣接しています。その森は「復興の森」とよばれています。その森の生き物の調査をしていますが、今回は計画されている道路の影響を調べるための群落調査でした。森の一角には「ツリーハウス」があり、大人には「妙な家」にみえますが、訪れた子供は大喜びするそうです。



2016.7.17
 私が麻布大学に移った年に入学した学年とは特別に中がよくて、卒業後も交流があります。昨年はモンゴルに同行しました。ことし4月に玉川上水の散歩をし楽しい1日を過ごしましたが、違う季節もいいねということになり、7月17日に散歩しました。ちょっといい感じのレストランで昼食をとり、玉川上水に行って、のんびりと歩き、植物を観察したり、雑談をしたりと、楽しく過ごしました。そのあと、鷹の台近くの喫茶店で昔話などをしました。

 


説明をする私(宗兼さん撮影)

2016.6.21
日の出町の谷戸沢廃棄物処分場跡地では、ゴミを埋めて土をかぶせたあと、一部はサッカー場、一部は動植物がもどってくる場所にしています。私は生物調査のお手伝いをしてきましたが、6月21日にオオムラサキの観察会があり、あわせて講演をすることになりました。当日は天気がよくなかったのですが、多くの人が訪れ、熱心にきいておられました。その後、オオムラサキの放蝶会があり、みなさんうれしそうでした。


飼育され、羽化したてのオオムラサキ


ケースに入ったオオムラサキをみる参加者

2015.6.19
乙女高原に昨年、巨大な柵がつくられ、シカの影響を排除することになりました。これまで私たちは「シカが増えたために花咲き乱れていた草原がススキ原になった」という声を検証するために、ススキ群落を違う時期に刈り取るなどの実験と、虫媒花の刈り取りなどを組み合わせてそれが事実であろうと言えるようになりました。柵ができたので、もう食べられることもないし、観光目的のシカ排除は実現したので、実験はもうしなくてもよいようなものですが、私はその「観光」はただ景色をみて楽しむだけでなく、動植物の関係を学ぶという要素をもってもらいたいと思います。そのために、柵の中でさらに刈り取り実験をすることで、刈り取りをするとススキ原がこうなるということを示すことも重要だと思いました。そこで、6月19日にこれまでどおり刈り取りをしてもらいました。


刈り取り実験を手伝ってもらいました。


仕事がおわって一休み

2016.6.13
お伝えした「視点・論点」で「日本の山とシカ問題」の放映が6月14日早朝4:20となりました。13:50にeテレで再放送があります。お時間がありましたら、録画してみていただければありがたいです。


2016.6.8
NHKに「視点・論点」という地味な番組があり、見たことがあるような、ないような、なのですが、そこから「日本の山とシカ問題」と題して話してくれとオファーがあり、収録がありました。なんと「化粧」をされました(みんなしてるのかなあ、とてもそうは見えない人もいるけど・・・)。そのとき「これ長いので切りますね」、何のことかと思ったら私は父からの遺伝で眉毛に長ーいのがときどき生えます。ふつうの人は切ったりするんでしょうが、私は鏡なぞ見ないので気付きませんでした。「は、はい、お願いします」と苦笑い。あの番組をみているとなんとなくわかるのですが、目の前の画面に手元においた原稿が写っているんですね。1ページを読み終わると次のものに変えるのですが、手元は見えないようになっています。長さはけっこう適当だと思っていたのですが、3000字くらいといわれ、そうして、そのまま読みました。9分30秒くらいが理想で、多少早くても遅くてもいいです、と言われていましたが、時間モニターを見る余裕などなく、終わってからみたら、なんと9分32秒でした。それから、初めと終わりにお辞儀をするのですが、私の前にいる人がそのタイミングでお辞儀をするのに合わせてしなさいと言われたので、そのようにしました。あれを横から見ていたらお互いがお辞儀をするのでおかしかろうと思いました。14日放送ということでしたが、なんと夜中の4時台で、だれがこんな時間にみるだろうと思います。再放送がeテレビで、これはまともな時間のようですが、あまり見ないチャンネルです。

2016.6.1
御嶽山で「御嶽山でシカ問題を知る」という講義をし、その後現地観察会をしました。御嶽山はレンゲショウマが有名でそれをめあてに訪れる人も多いのですが、ここにも西のほうから広がってきたシカがすむようになって、レンゲショウマも食べられてはたいへんと柵で囲ったそうです。シカのことを勉強したいということで企画されたようですが、熱心な質問があり、有意義な会になりました。


御嶽山での観察会を終えて

2016.5.20
このたび玉川大学出版部から「動物のくらし」という本がでました。これは「玉川百科 こども博物誌」というシリーズの1冊で、その最初のものとして出版されました。A4版で厚さ2cmくらいのハードカバーです。旧友の浅野文彦さんのすばらしいイラストで、これまで日本のこの種の本ではないできばえになったと思います。小学校低学年向けということで本作りの面ではむずかしさもありましたが、内容は充実しており、大人が読んでも楽しめるものになりました。関心のある方はぜひ一度ご覧になってください。


出版案内

少し紹介します。ここをクリック

2016.5.15
玉川上水で観察会をしました。


(棚橋早苗さん撮影)

2016.4.25
麻布大学いのちの博物館に渕野辺高校の2年生が訪問し、見学しました。私が概論を解説し、その後、展示をみてもらいました。



2016.4.18
武蔵野美術大学で「玉川上水を探検する」というシリーズの「玉川上水のタヌキを調べる」という講演をしました。会場には地元の市民の方も大勢参加されました。玉川上水で調べたタヌキのこと、私たちにとってタヌキとはどういう存在なのかという話をしました。



2016.4.10
玉川上水の4月の観察会をしました。



2016.4.9
卒業生4人が玉川上水を訪問してくれて、いっしょに散策しました。とても楽しい時間でした。



2016.3.26
国立市の公民館で「動物の言い分」という講演をしました。

2016.3.21
武蔵野美術大学の仲間と玉川上水の観察会をしました。アマナ、バイモ、ミミガタテンナンショウなどがあり、皆さん熱心に観察していました。








2016.3.19
下北沢のB&Bという本やさんでタヌキのトークショーをしました。20人くらいでしょうか、お客さんが来ていました。自分からいうのもなんですが、タヌキのウンチの話を有料で聞きにくる人なんかいるのかなと思っていましたが、いました。世の中、いろいろな人がいるものです。司会の嶋さんという人が上手に流れを作ってくださったので、2時間近くいろいろな話ができました。頼まれてタヌキの糞をアクリスケースに入れて持参、皆さんに回覧しました(これも思えば不思議なことです)。それからタヌキ、アナグマ、シカ、ニホンザルの頭骨と、シカのいろいろな骨も紹介し、さわってもらったりしました。全体になごやかで、楽しい雰囲気で、質問もありました。

2016.3.12

今朝の朝日新聞の「be」(赤版)の「ののちゃんのDo科学」は動物の骨粗鬆症のことが取り上げられています。この記事の取材を受けて、情報や写真を提供しました。博物館の標本が役立ってうれしかったです。



2016.3.2
「タヌキ学入門」関連で仙台の河北新報が記事を書いてくれました。私のところにタヌキの糞を送ってくれている平泉さんが取材を受けました。



2016.2.22
3月19日に下北沢の本屋さんでタヌキのお話をすることになりました。

本屋でのトーク・イベント


2016.2.11
10日の深夜、TBSラジオ「荻上チキ・セッション22」のゲストとして「タヌキ学入門」の話をしました。事前にリクエスト曲を3つと聞いていたので、竹内まりやの「元気を出して」、エリッククラプトンの「Tears in Heaven」、それに小田和正の「風のように」をあげました。ところが、話がもりあがって、最後に楽しみにしていた小田の曲は紹介されず、残念でした。でも知らないことをするというのはおもしろいもので、楽しみました。
YouTubeにアップされているので、YouTubeを出して「タヌキ学入門」とすると聞けます。

2016.1.15
かわさき市民アカデミーで「シカ問題を考える」と題して同名の新書の解説をしました。
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フクロウの食性分析

2016-11-01 11:16:02 | その他
麻布大学いのちの博物館でおこなう「フクロウの巣残存物の分析」作業に参加する人のために説明を書いておきます。

 八ヶ岳では、地元の自然愛好家のグループ(八ヶ岳自然クラブ)がフクロウの巣箱かけをして、営巣、巣立ち確認のデータをとっておられます。フクロウはネズミ食に特化した猛禽ですが、ある人がその巣に残された小骨を集めてネズミの下顎から識別をしました。その人はその後その調査をしなくなったので、八ヶ岳自然クラブは巣材は捨てたそうです。それはもったいないということで翌年からは麻布大学動物応用科学科の野生動物学研究室でそれをもらいうけて分析することにしました。鈴木大地くんという皆さんの先輩が卒論を書き、「牧場の近くではハタネズミが多いが、森林になるにつれて減少する」ことを明らかにし、これは国際的な雑誌の論文になりました。


八ヶ岳の牧場からフクロウ巣の距離と残存物に占めるハタネズミの割合.牧場に近いほどハタネズミの割合が高い.Suzuki et al. 2013 より。論文を希望される方は高槻にご連絡ください。takatuki@azabu-u.ac.jp

この経緯などは「動物を守りたい君へ」(岩波ジュニア新書)に書いたのでよんでください。その後は落合さんがひきついで分析を続けてきましたが、彼女は今年の春で修士を修了しました。八ヶ岳自然クラブはその後も分析を期待しており、今年度は麻布大学いのちの博物館で分析することになりました。そこでミュゼットを含む麻布大学の学生に共同作業をお呼びかけています。

 作業は巣の残存物をフルイを使って大きな破片を除き、残りのものからネズミの骨をピンセットで取り出すというものです。これは教育的にもたいへん効果の大きいもので、数年前に高校生を対象におこなったことがあります。分析したことの意味を考えると、たいへん奥行きのあることがわかります。このときのことは麻布大学雑誌に記録をしたほか、一般に向けて紹介しました。
 こうして取り出した骨は標本箱に配列し、博物館の資料として保管します。


フクロウの巣から検出されたネズミの骨の標本

 そのために、ネズミの骨の勉強をしてもらい、識別能力をつけます。さまざまな骨が検出されるので、勉強になりますが、分析に使うのは下顎で、これは分析能力のすぐれた落合さんに確認してもらいます。

 八ヶ岳自然クラブから6つの材料が届いているので、2つを3回にわけて作業します。日程は下記のポスターをみてください。1日2つを2班に分けておこないます。2時間くらいですむと思います。


報告 11月19日に第1回目の分析をし、順調に進めることができました。
学生9人と八ヶ岳自然クラブの人2人が参加し、ネズミの骨の勉強をしながら、小骨を取り出しました。


分析をする学生


八ヶ岳自然クラブが提供くださった写真パネルと標本箱に並べたネズミの骨。パネルはネズミをとらえる瞬間のフクロウなどすばらしい写真があります。ネズミの骨はかつて同じ八ヶ岳のフクロウの食性分析をしたときに作った標本です。

八ヶ岳自然クラブの田中様からのお便り
高槻先生
 3回にわたって行われたフクロウ巣材分析のワークショップ、高槻先生にはいろいろとご配慮をいただき本当にありがとうございました。八ヶ岳自然クラブとして3回の催しで延べ10名の者が参加させていただいたことになりますが、参加者全員が非常に満足したとの感想を述べて帰りました。
 私たち”高齢者グループ”にとっは、若いはつらつとした学生さんたちとの交流は何十年前の学生生活に返ったような楽しい時間でした。そして、”現代っ子”の皆さんが、あのような一見ジミな作業に黙々と真面目に取り組まれている姿を見て、現代若者像の別の側面を見たような嬉しい体験でした。
 分析素材の前処理、ワークショップ運営の立案・準備、等々、高槻先生は大変なことだったろうとお察ししますが、お陰さまで私たちは貴重な体験をさせていただきました。改めまして心からお礼申し上げます。
また、気持ち良く共同作業をしていただいた学生さんたちにも感謝申し上げます。どうぞよろしくお伝え下さい。

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その他の骨

2016-11-01 08:16:53 | その他
ネズミの骨の主要なものです



肩甲骨、尺骨(左)と上腕骨(右)

  
寛骨、大腿骨、脛骨
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作業手順

2016-11-01 05:33:22 | その他
サンプルは6個ある。

1)分析するサンプルを決める。
2)フクロウの巣箱は底にチップを入れてあるので、ふるいを使うなどしてこれを取り除く。
3) 残りの細かな残存物を容器にとりだし、そこから小骨、羽毛をピンセットで取り出して、シャーレに入れる。
4) シャーレは「頭骨」「下顎」「寛骨」「四肢骨」「その他」くらいに分け、取り出したものをそれぞれのシャーレに入れる。
5) 取り出したらチャック袋にサンプル番号、骨の部位などを書いて納める。
6) このチャック袋を大きいチャック袋に納める。
7) このとき、標本の骨と見比べてどこの骨かなどを確認すると勉強になる。

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ネズミの下顎

2016-11-01 01:45:43 | その他
ネズミの頭部は下の図のようになっていますが、フクロウは飲み込んで分解しますから、頭部と下顎は別々になってでてきます。頭部は割れていますが、下顎はだいたいそのままでてきます。


     ネズミの頭部

下の写真はフクロウの巣の中から取り出したネズミの下顎です。実際にはこれ以外の骨もたくさんでてきます。



おもに出てくるのはアカネズミの仲間とハタネズミの仲間です。アカネズミの仲間は森林にすむので「森ネズミ」と呼ぶことにします。いっぽう、ハタネズミの仲間は草原にすみますから、八ヶ岳では牧場によくいます。歯をみるとその違いがよくわかります。森ネズミのほうはヒトの歯とも共通な歯根をもっていますが、ハタネズミのほうはダンボールのような「壁」が上から下まで続く特殊なものです。これは歯の摩滅に対する適応と考えられています。アカネズミは果実や動物質など栄養価が高く、消化率のよい食物を探して食べますが、ハタネズミは草の葉や地下茎など硬い食物を食べ、腸も長く、盲腸が発達するなど、粗食に耐えることができます。歯はそういうことを反映しています。
 このことから下顎があれば、ネズミの種類を判別できるのです。

 
左 アカネズミの下顎、 右 ハタネズミの下顎


左 アカネズミの歯、 右 ハタネズミの歯

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フクロウ実習

2016-11-01 01:25:14 | その他




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落合さんによる分析

2016-11-01 01:25:10 | その他
これは八ヶ岳自然クラブの写真展で、分析内容を紹介してほしいという依頼があり、それに応えて作成したものです。



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皇居のタヌキの糞と陛下

2016-10-01 21:20:38 | 私の著作
2016.10.8

 明仁天皇陛下を筆頭著者とする皇居のタヌキの食性に関する論文(英文)が公表された。このことが報じられてから、複数の人から「タヌキの食性を調べるってどういう意味があるんですか」とか「新種発見とか絶滅危惧種ならわかるんですが、タヌキって珍しくないんじゃないですか」といった質問をもらった。それは私自身に対する質問でもあるような気がした。多くの人が興味を持ちながら、学術論文であるからと敬遠して目にすることがないのは残念なことだ。そこで、タヌキの食性を調べてきた者として解説と感想を記してみたい。
 タヌキの食性、つまり「何を食べているか」を調べることはタヌキに関する生物学のひとつの項目である。分類学、形態学、生物地理学、行動学など、それぞれの分野についてタヌキで調べる価値がある。食性解明は、生物学の類型でいえば生態学の項目のひとつといる。調べた結果、「タヌキには果実が重要で、冬には哺乳類、夏には昆虫も増える」などの事実が明らかになる。食性解明には、そういう動物学的な情報のひとつを提供するという意味があり、それを目的に調べられてきた。これは遡ればギリシア時代からの博物学の延長線上にある。
 生態学が発達してくると、生態学の目的である「生物と環境との関係」についての理解が深まってきた。個別の生き物の生活史を解明するだけでなく、その生き物が生態系の中で果たしている機能や担っている役割を解明するという視点が生まれてきた。植物は光合成をする生産者で、その葉を食べる草食動物がおり、その草食動物を食べる肉食動物がいるとみられるようになった。そういう視点に立てば、それぞれの階層内のバッタとシカは、葉を食べるという同じ役割をしているとか、フクロウとキツネはネズミを食べるという同じ役割をしているという見方がなされるようになった。これはイギリスのエルトンが提案したアイデアで、そのように見ると生き物は鎖でつながっているように見えるので「食物連鎖」と名付けられた。重要なのは個々の種の情報でなく、生態系の構造と機能をとらえるようになったということである。
 そのように考えると、「タヌキの食性」を調べることにも、図鑑的な知識をひとつ加えるという研究もあれば、タヌキが生態系の中でどういう役割を担っているのかという視点に立つものまでさまざまである。私たちも「タヌキの食性」を糞を集めて分析したが、興味はタヌキの種子散布という役割の解明にあったので、糞から検出される種子に注目し、識別するだけでなく、数も調べ、さらには実験的にソーセージの中にプラスチックのマーカーを入れて、タヌキの移動距離を解明するなどの工夫もした。
 つまり、同じ「タヌキの食性」という課題でも目的意識によって相当違うものになるということである。その意味で、今回公表された皇居のタヌキの論文が、どういう目的で研究されたかを紹介したい。
 論文の導入部である序ではまず、タヌキは日本列島にすむ中型の食肉目で、東京では1950年代までは捕獲されるほどいたが、1970年代の都市化によって減少したことが書かれている。それに続いて、しかし最近は都内でも回復し、1990年代後半の調査では皇居に定着していることが確認されたとある。こうして日本列島レベルから東京、千代田区への絞り込みがおこなわれている。
 これに続いて、タヌキは決まった場所でトイレのように「タメフン」をすること、2006年から翌年にかけて調査をして皇居のタヌキの食性が明らかになったことが書かれている。ただし、1年きりの調査であり、年次変動については調べてないということが添えられている。実際、ツキノワグマやニホンザルでは年によって果実の豊作、凶作があって、それに応じてクマたサルの食性が大きな年次変動をすることが知られている。これが皇居のタヌキではどうであろうかというのが解明すべき課題であるとする。
 この論文の序は、科学論文としての一般的な形を踏み、過不足なく書かれていると思う。しかし、私にはもう少し聞きたいことがある。それは、天皇陛下が皇居で調査をされたことに触れて欲しかったということである。日本中で、あるいは世界中で、自分のすむ場所の生き物のことが知りたくてコツコツと調べている人がいる。それはもちろん学問の世界に科学的に調べた情報を提供するという意味をもつが、同時に「自分のすむこの土地にあるもの、いるもののことを知りたい」という人間ならだれでも抱く好奇心に発したものであり、陛下の場合はそれが皇居でされたということなのだと思う。
 陛下はハゼの分類学者でもあり、動物がお好きなのだと思う。その陛下が皇居内にタヌキがいて、タメフンを調べれば食べ物がわかると知られたときに、「これを調べてみたい」と思われたと察する。私は論文全体を読んで、行間からそのことを感じた。
 この論文を読んで、私にとって印象的だったことがいくつかある。まず糞から検出された種子が種または属まで識別され、その数が58にもおよんでいることである。これは一箇所での結果だから、これまでの研究と比べて破格の値である。識別は植物分類学者の門田裕一氏が担当したようで、私も個人的に知っているが、植物の知識は桁外れの人だ。専門家なのだから当然といえば当然だが、糞から検出される微細な種子を同定するのはたいへんなことである。
 さて、この分析でどういうことがわかったかというと、皇居のタヌキの食性においては森林に生える植物の果実が重要だということである。出現頻度の高かったのはムクノキ、クサイチゴ、エノキ、クワ属、イヌビワなどクサイチゴを除けば高木あるいは亜高木である。クサイチゴはキイチゴの仲間でも明るい場所に生えるモミジイチゴやニガイチゴと違って暗い林に生える。このうちムクノキ、エノキなどは何ヶ月にもわたって出現するが、クサイチゴ、クワ属などは短期間にしか出現しなかった。
 東京郊外の里山的環境のタヌキの食性ではヒサカキやジャノヒゲのように森林の内部に生える植物の果実も重要だが、明るい場所に生えるヤマグワやサルナシなどの果実もよく利用される。これに対して、皇居のタヌキの食性では森林の樹木や低木が主体を占めていた。このことが皇居のタヌキの食性の最大の特徴だと思われる。ただし、このことは2008年の論文でも指摘されていた。
 この論文で重要なのは5年間調べてもタヌキの食性にあまり違いがなかったことが明らかになったことである。私たちは長野県黒姫のアファンの森や仙台の海岸のタヌキの糞を3年ほど調べているが、年によってかなりの違いがある。そもそもタヌキの食性は場所によっても、季節によっても、年によっても大きく違い、その柔軟性こそがタヌキの特性といえる。東京のような大都市の中にでも生き延びていること自体が、タヌキが状況に応じて臨機応変に生活様式を変えることができることを反映している。そのタヌキの食性が5年間安定していたことの意味はどういうことであろうか。
 私は皇居には行ったことがないが、写真集などをみると鬱蒼とした森林があるようである。明治神宮には何度か行ったが、高いクスノキやカシ類が覆う鬱蒼とした林なので、皇居の林もそれに近いのだと思う。タヌキは里山によくいる動物だが、里山の林は雑木林や人工林である。人工林は暗くてタヌキの食べ物になるようなものもあまりないが、雑木林は食べられる実のなる低木やつる植物も多く、昆虫なども豊富である。また雑木林は季節によって大きく様相が変化し、生える植物や昆虫なども変化し、年によっても大きく変化する。タヌキはそういう環境で生き延びてきた動物なのである。「狸」という字は日本でタヌキを指す漢字だが、文字通り「けものへんに里」、その特性をよくとらえている。
 ところが皇居では5年間、基本的にはムクノキ、エノキ、タブノキなどの森林の植物の種子が毎年同じように出続けた。これはタヌキの食性としてはユニークなことといってよい。この事実から、この論文ではタヌキの食性の安定性は、皇居の森林が安定した食物供給ができるからだと締めくくっている。つまり、タヌキの食性解明を目的にしているが、その結果を生息地との関係性において捉え、動物の生活が環境の影響を受けることを、皇居の森のもつ特徴との関連で示したものとなっている。
 ところで、私が感銘を受けたのは、論文の最後に添えられた付表である。そこには縦に植物の名前、横に糞を採集した日付がずらりとならび、一番下に「同定不能」としてその種子数もあげてある。これが書いてあるおかげで、全体で何個の種子が出て、そのうちどれだけが識別できたかがわかる。それは「要するに何がわかったか」には現れて来ないことだが、同じ研究をしている我々には、いわば論文の質をうかがう重要な情報となる。それに、この表には回収をしなかった日はグレーにしてある。結果に関する情報としては、回収日だけで十分なのだから、回収しなかった日が明示されるのはあまりないことだ。それを全部示すことで、5年間にどれだけの日数に採集しなかったかが一目でわかる。これを見て、実際に糞の採集をした私は、残りのこれほど多くの日に採集されたのかと圧倒されるような思いを抱いた。この表を掲載したのは共同研究者の意向なのか陛下の意向なのか測りかねるが、私には陛下の誠実なお人柄が反映されているように思えた。

 以上が私の解釈を添えながらの論文の紹介である。これを読んで私が感じたことはすでにいくつか書いたが、この論文から直接読み取れる生物学的成果を離れて、もう少し書いてみたいことがある。
 皇居はもともと江戸城であり、明治の近代化によって日本の首都になった東京に天皇家がお住みになることになり、そのお住まいとしてここが選ばれた。東京の街は関東大震災や太平洋戦争の大空襲で壊滅的な被害を受けた。しかし、その度に不死鳥のように蘇った。もっとも蘇ったというのは人の目から見たことで、戦後の復興は、失われた家屋の再建や、バラックをビルに建て替えることであると同時に、森林や田畑を宅地やビル街に変えることでもあった。それは人口を増やし、住民の生活の利便性をあげることだったが、野生動物にとっては住処を奪われることだった。シカやイノシシは江戸時代の末にはいなくなったと思われるが、キツネは戦後もかなり後までいたし、イノシシも郊外にはいたはずである。しかし1964年のオリンピックのあと、キツネはいなくなり、ひとりタヌキだけが生き延びた(もっとも最近ではハクビシンやアライグマもすむようになったが、これらは外来種である)。そう考えると、タヌキは東京の発展の中で例外的に生き延びた日本の野生動物ということができるだろう。その末裔が幾多の歴史的出来事を見てきた皇居に生き延びているということがこの研究の背景にある。
 皇居の森という東京に残された貴重な森林の価値を考えて研究者が調査をするというのはありえることで、実際、皇居の動植物の調査がおこなわれた。これにより皇居にタヌキが生活していることが確認され、そのことがこの研究の契機となったようだ。私は、ここで重要なのは「皇居の住人」である天皇陛下が調査地の提供をされただけではなく、自らが主体となって調査をされたことにあると思う。お忙しいご公務、とくに東日本大震災のあとは、ご高齢を顧みず被災者を励ます活動をされながらのことなのだから、タヌキの調査は誰かに任せてもよかったはずであるが、そうはなさらなかった。しかもバードウォッチングなど、よくある自然愛好者のするような調査ではなく、タヌキの糞を採集して分析するという、ふつうの人なら敬遠するような調査を進んでおこなわれたのである。私にはそれがどのくらい大変なことなのか、想像すらできない。たくさんのタヌキの糞を採集して分析した者としていえば、強烈な匂いのする糞を拾うのも、水洗するのも、とても忍耐力と根気のいることである。それはやった者でなければわからない。私のように並外れて動植物が好きで、大学をリタイアして時間のある者でさえ、ときにうんざりし、ときに「明日でもいいか」と棚上げにしがちな作業である。それだけに、これをお忙しい日々の中で5年間も継続された陛下に、大いなる敬意と、強い共感を覚えないではいられない。世界にはいろいろなロイヤルファミリーがあり、能力や人徳で慈善事業活動をする人や、才能があって芸術やスポーツに長けた人もおられるに違いない。生物学に詳しい人がおられることはイギリス王室などの伝統として知られている。しかし自らが野生動物の糞を拾って顕微鏡を覗く人はいないに違いない。
 冒頭にふれたように、生物学は素朴な博物誌の時代を経て、厳密な実証性と高度な機器を使う精緻なものになった。また論理性の展開により、個々の種を見るのではなく大きい系を把握する視点ももたらされた。しかし、どのように形を変えてもその根源にあるのは対象を知りたいという好奇心にあることは変わることはない。とくに自分が住む場所の地形や鉱物や動植物を知りたいというのはわれわれの本能的な欲求ではないだろうか。しかし、そのことを私たちは現実の生活の中で置き忘れがちである。そのことを、天皇陛下は皇居のタヌキの糞を分析するという直球勝負で遂行された。
 共著であるこの論文の執筆過程を私は知らないが、かなりの部分を専門家がお手伝いしたことは想像される。しかし筆頭著者として最終的な責任は陛下が持たれるわけであり、最終原稿を読まれて、これは書かない、これを追加してほしいと言われることはあったに違いない。科学論文としてできあがった序に何の不足もないが、願わくば、この研究をどういうお気持ちで始められ、続けられたかを聞けたらどんなにかすばらしいことだろうと思った。
 冒頭にこの論文の価値や意義を問う声があることを書いた。それはひとつには「役に立つ研究」という価値観から発せられるものであろう。あるいは類稀れなものは価値があるが、ありふれたものは価値が小さいという発想によるものであろう。だが、タヌキの糞分析はそのどちらでもない。狭い意味で世の中に役に立つわけではないし、珍しいものでもない。これを調べさせたのは、素朴な知的好奇心そのものである。同じことをしている私は、タヌキを含むすべての命には等しく価値があり、それぞれが懸命に生きていることから感じる、敬意に似た思いがある。そういう考えからすれば、珍しいものは大切にするが、ありふれたものは顧みないという姿勢に批判的な気持ちがある。陛下にそういうお気持ちがあったかどうかは知る由もないが、私には、陛下もすべての生物に対する等しい価値を見出されているように思える。
 この論文について考えてきた。天皇陛下にとっては、原生自然の貴重な生物を研究されることも可能であろうが、そうではなく、日本列島にありふれたタヌキを選ばれた。それは生き物に対する博愛的な姿勢によるものであろう。そしてそれを正確に長期的に分析するという科学的姿勢で遂行され、論文を完成された。翻って、今の日本社会は経済を最優先し、効率こそが重要であるとし、しばしば利己的になり、自分に有利なものを優先し、そうでないものを軽んずる。この論文はすべての点でこれらとは対極的なものである。もし、そのことの意味を考え、この社会の在り方について立ち止まって考える契機になるとすれば、これほど「役に立つ」ことはないだろう。私にはこの論文には、そういう広く、深い意味があるように思える。
 さらに付け加えれば、私はどうしても裕仁昭和天皇のことを思ってしまう。裕仁天皇も生き物がお好きだった。しかし昭和という時代はこの国が戦争に突き進んだ時代であり、裕仁天皇がタヌキの糞をお調べになることを許さない時代だった。そのことを思えば、人の運命を思わずにはいられない。明仁陛下は類いまれな純粋さで自分の求める生き物への好奇心を持ち続けられ、ご高齢になられても、なおそれを実行された。それは明仁陛下であるからこそ成し得たことであるに違いないが、しかし、平和な70余年がなければ、実現されなかったことでもあると思う。この論文に接して、そういうことも思った。


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プロフィール

2016-05-01 20:25:36 | プロフィール
高槻成紀(たかつきせいき)

1949年鳥取県出身。1978年東北大学大学院理学研究科修了、理学博士。東北大学助手、東京大学助教授(1994-2007)、教授(2007)、麻布大学教授(2007-2015)を歴任。現在は麻布大学いのちの博物館上席学芸員。専攻は野生動物保全生態学。ニホンジカの生態学研究を長く続け、シカと植物群落の関係を解明してきた。最近では里山の動物、都市緑地の動物なども調べている、一方、スリランカのアジアゾウ、モンゴルのモウコガゼル、タヒ(野生馬)、モンゴル草原の生物多様性などの研究もした。著書に「北に生きるシカたち」(どうぶつ社)、「野生動物と共存できるか」「動物を守りたい君へ」(岩波ジュニア新書)、「シカの生態誌」(東大出版会)、「唱歌「ふるさと」の生態学(ヤマケイ新書)」、「タヌキ学入門」などがある。


このブログで研究のことを少しずつ紹介していきます。
ブログの内容は以下のとおりで、右下にある「カテゴリー」に対応します。
研究の概要:おもに時間経過的に内容を紹介します。
研究内容の紹介:動物の種類や地域に分けて内容を説明します。
業績:論文、単行本、報告などカテゴリーごとにリストします。


2016年1月1日
コメント (14)
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2015年4月より

2016-05-01 20:24:51 | 最終講義
 2015年3月で麻布大学獣医学部教授を退任しました。4月からはひきつづき麻布大学において「麻布大学いのちの博物館」運営のお手伝いをしています。またC.W.ニコルのアファンの森財団の「生きものしらべ室」でアファンの森の動植物の調査と教育活動をします。
 時間がとれるようになったので、執筆活動、自然観察に時間を使いたいと思います。講演、野外動植物観察の指導など声をかけていただければご協力します。
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