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「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

仙台の海岸に生息するタヌキの食性

2018-02-04 16:19:07 | 最近の論文など
2018.2.4 
仙台の海岸に生息するタヌキの食性

高槻成紀・岩田 翠・平吹喜彦・平泉秀樹
保全生態学研究, 23: 155-165.

「3.11」はこんなところにも影響していたという事例です。あの津波は仙台の海岸では高さ9mにもなって何もかもを飲み込み、なぎ倒しました。この海岸にはタヌキも住んでいたのですが、流されたに違いありません。私の友人たちはその海岸の動植物の回復を記録してきました。その一人平泉さんは、東北大学時代の後輩ですが、鳥類の調査をしているときにタヌキのタメフンを見つけました。2013年6月のことですから、津波の2年後ということになります。タヌキは内陸まで津波でさらわれて、おそらく死んだはずですから、「戻ってきた」というより、新たな個体が海岸に住みついたものと思われます。ということは、タヌキが暮らせる環境が戻ってきたということです。そのタメフンが私のところに送られてきて分析をしました。そうしたら、テリハノイバラとドクウツギ、それにヨウシュヤマゴボウの種子がたくさん検出されました。テリハノイバラとドクウツギは砂浜に生える低木で、津波を受けたにもかかわらず、少なくとも地下部が残っていて復活したものと思われます。ヨウシュヤマゴボウは外来種ですが、かき回すように荒れた環境が好適だったようで、その後は少なくなったそうです。このほかコメや大麦、ポリ袋なども出てきたので、農業地帯の人工的な食物も食べていたことがわかりました。これはタヌキという動物の、環境が変わってもその環境に合わせて生きてゆくたくましさを示す好例だと思います。私は糞を分析しながら、そのことを感じ、不思議な感動を覚えました。

要約:これまで知られていなかった東北地方海岸のタヌキの食性を宮城県仙台市宮城区岡田南蒲生と岩沼市蒲崎寺島のタヌキを例に初めて明らかにした。このタヌキは2011年3月の東北地方太平洋沖地震・津波後に回復した個体群である。南蒲生では防潮堤建造、盛土などの復興工事がおこなわれ、生息環境が二重に改変されたが、寺島では工事は小規模であった。両集団とも海岸にすむタヌキであるが、魚類、貝類、カニ、海藻などの海の生物には依存的ではなかった。ただしテリハノイバラ、ドクウツギなど海岸に多く、津波後も生き延びた低木類の果実や、被災後3年ほどの期間に侵入したヨウシュヤマゴボウなどの果実をよく利用した。復興工事によって大きく環境改変を受けた南蒲生において人工物の利用度が高く、自然の動植物の利用が少なかったことは、環境劣化の可能性を示唆する。また夏には昆虫、秋には果実・種子、冬には哺乳類が増加するなどの点は、これまでほかの場所で調べられたタヌキの食性と共通であることもわかった。本研究は津波後の保全、復旧事業において、動物を軸に健全な食物網や海岸エコトーンを再生させる配慮が必要であることを示唆した。

キーワード:津波、テリハノイバラ、ドクウツギ、糞分析、ヨウシュヤマゴボウ


タヌキの糞から検出された種子。1)ドクウツギ、2)テリハノイバラ、3)サクラ属、4)ノブドウ、5)クワ属、6)ヨウシュヤマゴボウ、7)イヌホオズキ、8)ツタウルシ、9)ヘクソカズラ、10)ギンナン(イチョウの種子)、11)コメ(イネの種子)、12)ウメ。格子間隔は5mm
コメント
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