僕の記憶に残る過去の人は、先ずは信濃さんというお婆さんです。
そのお婆さんは裕福な家庭に生まれましたが、心の病にかかっていて、産んだ子供を嫁ぎ先に残して実家に戻り、妹(新聞配達で生計を立てていた)と二人暮らしをしていました。
そのお婆さんは僕が子供の頃(5歳位)に、道の脇の湧き水で真っ裸で行水をしている事が度々有りましたが、僕がそのお婆さんに自分の祖父(僕が生まれる前に他界)の名前を出したらとても懐かしそうな話をし始めて、『米夫サの孫かな、良いものをやるからこっちにおいナ。』等と言い僕をお婆さんの家に招き入れて、確か50円以上(半端な金額だったと記憶)のお金をくれました。
今では50円というお金は大した金額ではありませんが、いまから60年以上も前でしかも幼い自分には大金でした。
お婆さんの家庭が貧しい事を知っていた僕は最初は断りましたが、お婆さんが何度も持って行けというので、そのお金を受け取りました。
そのお婆さんは帰る筈もない(確か戦死)自分の子供を迎えに、僕の家の前を通って駅まで通る姿を目にしました。
その人は住んでいた自分の家の火災で焼死してしまいましたが、何故か僕の幼い頃の記憶に残っています。
世の中には信濃さんみたいな弱い立場の人が沢山居ると思いますが、皆が安心して暮らせる日本になって欲しいと思います。
非正規雇用が当たり前の世の中で、大企業が内部留保に奔走する日本になってしまいましたが、其が打開される日はいつになるのだろう。