以下は感動させられた一郎(仮名)さんの話です。
一郎さんが中学生の頃、母は何かあるごとに、一郎さんに「親に感謝しなさい」というので、一郎さんは「親が子供に親への感謝を強要するとはなんと都合のいいことか!」と思っていた。
やがて一郎さんは高校3年生となり、大学受験のため土日も家で勉強するようになり、母の日常を目にするようになった。すると、母が普段言っていることと、やっていることの差が目に付くようになり、ますます心の中で母を批判するようになっていった。
ところが大学生になったとき、結婚当初の話を父から聞かされたという。
≪父の話≫
母は独身時代はとても元気な人だった。しかし、結婚後、第一子を流産し、第二子は死産、第三子は2歳で亡くし、それから気弱になり床に伏せる日が多くなった。そして思い悩んでいた時、近所の人から勧められ、『生命の実相』を読むようになった。
『生命の実相』を読んで親に感謝することの大切さを知り、母の両親は仲が悪くて、その原因は父にあると思って父を嫌っていたが、父に感謝するようになってから元気を取り戻した。そして第四子が生まれ、第5子が生まれた。それが一郎さんだという。
一郎さんは今まで母が床に伏せっていた姿など見たことがなかったので、父からこの話を聞かされて、母にこんな過去があったことを初めて知った。
そしてくどいほど「親に感謝しなさい」と言っていたのは、母自身の辛い体験から生まれた、子を思う「母の切なる願い」だったということを知り、母を裁いていたことを心から反省したという。
わたしの母親は休む暇もなく働きづめだったが、梅雨時のように雨が降り続くときは家の中で縫物をしていて、母がゆっくり座っていることが嬉しく、また母がそばにいることが嬉しかったことが思い出された。
私が結婚するとき、母は結婚相手の家を探し、そしてその近所の人たちにその両親や家内のことなどを探偵の如く訊いていたということを、結婚した後で家内からきいた。当時はこれも親の愛とは思いつつも、恥ずかしく「余計なことを」思っていたが、今思えば、ただ有難いばかりである。
一郎さんの母は、私の母でもあるような気がして、いや、すべての人の母でもある気がして目頭が熱くなりました。