止まらず一歩

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それを残していこうと思います

『戦後70年を読み直す 戦争と文学スペシャル』(集英社)

2015-08-16 14:34:09 | Weblog
(2015.08.15. リテラ)
     <無抵抗の捕虜を切り殺し、仲間の面前で敗残兵の首を切る・・・
      火野葦平が戦場で綴った日本軍の狂気>

 国民の声を無視した状態で安保法制を強行に進め、安倍政権は、戦後70年
の節目にも関わらず着々と日本を“戦争ができる国”に変えようとしている。
 そんな政権の動きに快哉を叫ぶネトウヨが後を絶たない。“戦争”という行為
を、まるで“英雄譚”のように語り 「武力を自由に使えるようになった今、よう
やく日本は独立国家になれた」 とのたまう輩まで登場してきた始末。しかし、
“戦争”というのは、本当にそんなに格好よく、綺麗事として語れるようなもの
なのだろうか。
 つい最近出版(集英社)された『戦後70年を読み直す 戦争と文学スペシャル』
には、そんな“戦争”を美化する彼らに是非とも読んでほしいテキストが掲載さ
れている。
 そのテキストとは、作家・火野葦平の「従軍手帖」。
火野は、1937年に招集されるが、従軍中に『糞尿譚』で芥川賞を受賞。陣中で授
与を受け、それを契機に報道部へ転属となった。
 以後は、報道班員として戦争の状況を記録し続け、戦地にて書き上げた『麦と
兵隊』はベストセラーとなっている。彼の作品は戦意高揚に寄与し、「兵隊作家」
として国民の人気を得るが、終戦後は戦地で見てきた悲惨な状況を鑑み、先の
大戦に対する戦争責任について言及するようになっていった。
 今回取り上げる「従軍手帖」は、戦争中、火野が肌身離さず書き記していた記
録帳。そこには作戦の概要、兵を率いる上長から受けた戦況報告といったこと
から、戦地での生活のなかで思ったちょっとした所感まで、ありとあらゆることが
メモされている。
 本稿では、『戦後70年を読み直す 戦争と文学スペシャル』に収録されている、
広東作戦(38年10月~39年1月)の日誌を紹介する。これを読んでも“戦争”は
格好いいものだと思えるだろうか。
 それでは、「従軍手帖」を読んでいきたい。戦中を振り返るときによく指摘され
るのが、補給路について考慮せず軍上層部が命令した無謀な行軍によってもた
らされた兵の疲弊であるが、火野のメモにも、その疲労の様子が随所に記され
ている。

〈足も身体もいたく、へとへとになり、装具をとき、のびてしまつた〉
〈兵隊皆、足をぴつこひき、引きずつてゐる〉
〈いたくて身体が動かない。足はめちやだ〉
〈命令受領の後で、食料の欠乏に付、モミガラを摺る講習を初めてゐる〉
 さらに、外地の環境に晒されることで風土病の恐怖にも晒された。
〈夜明とともに、がんがん照りつける暑さになる。兵隊何人もたほれる。やりきれ
 ない。隊列はばらばらである(コレラが多いからゼツタイに水のむな)〉
〈蚊がとんでゐる。食はれた。マラリアだから気をつけんといかん〉
〈マラリヤ蚊だとおどされ、塩酸キニーネを一粒づつのんで寝る〉
〈ここの水をのんで兵隊が二人死んだといふ〉
    こんな状態だから、戦う前から彼らはもうすでに消耗しきっていた。広東
    作戦はわずか10日余りで日本軍の勝利に終わった戦いなのだが、そん
    な有利に進んだ戦いにも関わらず、以下の文に見られるような消耗が
    兵士たちを襲っているのである。
〈歩きながら思った。いったい誰が戦はうとしてゐるのだ。皆へとへとに行軍に
 疲れ、歩くのが精一杯で戦ひどころではないやうに見える。敵に出会つても、
 ろくに戦も出来さうにない。それでも敵は撃退され、どんどん各要所が陥落す
 る。やつぱり、へとへとになつた兵隊がそれをやつてゐるのだ。何か、凄まじく
 恐ろしいやうなものがある〉
    ここまで銃弾が飛び交う、いわゆる“戦闘”についての描写は一切引いて
    いないのだが、それでも“戦争”の過酷さは余りあるほど伝わってくる。
    ここから実際の戦闘に関する描写を引用するが、その凄惨さは筆舌に尽
    くしがたい。
〈敵は手榴弾を持つて出て来ては、ボカンボカン投げて、引つこむ。危くて寄り
 つけなかつたです。出て来んのでガスでくすべたところ50人ほど出て来ました。
 中に11人ほど死んでゐましたが、自殺したらしく思はれました〉
〈頭をうたれた兵隊(田中勲上等兵)遂に戦死。(中略)サイゴダ、ミヅヲノマセテ
 クレ〉
〈「敵がまつ黒になつて、どんどん逃げよる。あんなのを初めて見た」と前線から
 引き返して来た兵隊云つてゐる。(敵ガ負傷者をカツイデイタガシマイニハホツ
 タラカシタ由)〉
    頭を撃たれた兵士が死の直前「最後だ、水を飲ませてくれ」と言うくだりに
    は言葉を失ってしまう……。ここまで読んでいてもかなりつらいものがある
    が、この広東作戦に関する「従軍手帖」で最も凄惨なのは、日本軍が現地
    の敗残兵と捕虜に対して行なった仕打ちであった。
〈捕虜がならんでゐる。(中略)眼の上がはれ、血がにじんでゐる。ついてゐる兵
 隊が「こいつは一つづつ叩かんと、やかましかとです」といつてゐる〉
〈兵隊が捕虜をつれてゐる。向ふの方では叩き切つてゐる〉
    無抵抗な捕虜を血がにじむほど激しく殴ったり、さらに切り殺すとは……。
    しかし、敗残兵に対して行なった仕打ちはさらに凄惨だ。当時の日本軍に
    は、まるでゲームのように人を殺す“狂気”が満ちていた。
〈附近の森の中を敗惨兵狩り。いくらでもゐる。皆殺す。段列長の曹長、刀を振り
 活発に指揮してゐる。敗惨兵を左手に拳銃をもち、右手に刀を抜いて斬る。
 「まだ居るぞ、やれ!」、と森を探させる。居る、居る、多多有、と兵隊を追ひ出
 す。曹長刀をふり、大得意である。つまらない兵隊だと思つた。色々遺棄品が
 ある。曹長の斬つた支那兵は女房の写真をがま口にはさんでゐた〉
〈前方の銃声絶え出発。又長いこと止る。敗惨兵のうろうろしてゐるのをこつちか
 らポンポン射つ。なかなか当たらぬ。もの好きなのが、わざわざ出かけ、遂に
 二人の敗惨兵を引きつれ、意気揚々と帰って来た。皆のゐる前で首を切る。い
 やな気がした〉
 
 従軍手帖も軍の検閲の対象となる。それにも関わらず、
 〈つまらない兵隊だと思つた〉〈いやな気がした〉といった表現を使った火野。そ
れだけ耐え難い光景だったのだろう。
 安倍首相と、そのまわりの人々は、もう一度こんなつらい思いをする時代に戻
したいのだろうか。
 最後に、火野が戦地で雑誌「キング」を読んだときの感想の部分を引いてみた
い。そこには、たまたま見かけた雑誌の口絵から、わが子に思いを馳せる火野
の姿があった。
〈キング七月号の口絵写真に、子供が柿をちぎつてゐる写真がある。(中略)女
 の子は美絵子に、男の子は英気に実に似てゐる〉
 いくら安倍が歴史を修正し、過去への反省から目をそらし、巧妙に謝罪を避け
ようとも、先の戦争で行なわれたことを雄弁に語るテキストがこうして存在する。
 彼はそれから目を背けるべきではないし、我々は、過去の歴史を書き換え、
もう一度戦争に突入させようとする国のトップに対し、このようなテキストを突き
つけてアンチテーゼを唱え続けなくてはならない。    (田中 教)


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2 コメント

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70年談話 (じーちゃん)
2015-08-16 17:22:28
仏つくって魂入れず  見たくれは立派だが魂の入っていない仏のようなだらだらした談話で国民は何を言いたいのか内容の分からない、言葉はいろいろ並んでいるが、理解出来ない。不戦を誓う  と広島、長崎、70年談話に発表しながら憲法違反の戦争法案を作ろうとしている。談話を聞いて安部総理の頭は、自民、公明党の議員の頭はーーー?。良識、良心の国民は理解出来ない。安部総理の普段の政治姿勢、信条との食い違いの談話、今後の行動に注視。世界の知識人は日本の政治の低度の低さを再認識したようだ。又国民をダマスつもりだろうがーーー?。政治家は低能でも国民は高等、ダマサレはしないぞ。
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創価学会員で安保法案反対? (じーちゃん)
2015-08-16 18:13:58
テレビ番組サンデーモーニング 創価学会員で良識、良心のある会員が安保法案を反対してデモをーーーー。山口委員長が顔色悪く記者会見している様子が映し出されていた。委員長はじめ幹部の一部は選挙で反対をしていた。ウソを付くような議員は宗教精神に反する次回落選させるべきだ。会員に良心、良識のある人がいる事に安心した。反対を盛り上げてほしい。
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