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※- iPS他家移植実施へ 2017年02月08日
2月08日、NHK website -: 将来の再生医療の実現に向けて大きな期待が寄せられているiPS細胞。
今月(2月)、国は、他人のiPS細胞を使って重い目の病気の患者を治療する「他家移植」と呼ばれるタイプの世界初の臨床研究の実施を了承しました。
iPS細胞の生みの親、京都大学の山中伸弥教授のグループが作った他人に移植しても拒絶反応をおこしにくい特殊なiPS細胞を使う新しい治療法です。
成功すれば治療コストを大幅に引き下げ、再生医療の普及につながると期待されています。
iPS細胞の可能性を広げる最新の研究についてお伝えします。(神戸放送局 安土直輝記者 京都放送局 春野一彦記者)
< iPS細胞の臨床研究とは >
今回のiPS細胞の他家移植の臨床研究は、「加齢黄斑変性」という重い目の病気の患者を他人の細胞から作製されたiPS細胞を使って治療するものです。
計画は、神戸市にある理化学研究所、神戸市立医療センター中央市民病院、京都大学、大阪大学の合わせて4つの研究機関や病院が共同で進めています。
対象となる加齢黄斑変性は、目の網膜が傷つく難病で、国内におよそ数十万人の患者がいると推計されています。
日本人では多くが進行の早いタイプだとされ、次第に視野がゆがんだり狭くなったりして、症状が進行すると視力が失われます。
3年前の平成26年には、理化学研究所などのグループが同じ加齢黄斑変性の患者本人の皮膚の細胞からiPS細胞を作り、網膜の組織に変化させて移植する、世界初の「自家移植」を行っています。
グループによりますと、手術から3年たっても、患者の視力の低下は止まり、症状の悪化が抑えられたとしていて、研究グループは手術は成功したと発表しています。
< なぜ他家移植なのか? >
3年前の自家移植は、世界で初めてiPS細胞由来の組織を人の体に移植する、非常に重要な手術でしたが、ただ、その際に改めて浮き彫りになった課題もありました。
自家移植では、移植のために患者本人から細胞を採取し、一からiPS細胞を作る必要があります。
このため少なくとも半年以上の期間や多大な費用がかかるのです。
実際に3年前の臨床研究では、患者が手術に同意してから実際に移植を行うまでに10か月の時間と、およそ1億円の費用がかかりました。
一方、他家移植では、あらかじめ作製されて保存されているiPS細胞が使われます。
グループによりますと、これにより今回の臨床研究は最短で1か月で移植手術が行えるということで、さらに、費用も1人あたり数百万円に抑えることが可能になるということです。
どうしてそんなことが可能なのか、秘密は京都大学が進めている「iPS細胞ストック」にあります。
< iPS細胞ストック >
iPS細胞ストックは、京都大学が4年前から始めているプロジェクトです。
日本赤十字社などを通じて、日本人の中にごくわずかにいる拒絶反応を起こしにくい特定のタイプの免疫を持つ人を探し出し、こうした人から提供された血液を使って作製したiPS細胞を保存しています。
おととし(2015年)8月からは、研究用としてiPS細胞の提供を始めています。
移植手術では自分自身の細胞以外を使う場合、拒絶反応が心配されますが、このiPS細胞は他人に移植しても拒絶反応を起こしにくいと考えられます。
ストックしたiPS細胞は、あらかじめ作る際に何度も品質のチェックが行われ、いつでも移植の準備に入れる状態で凍結保存されています。
このため新たに作るよりも大幅に期間を短縮できます。
また、iPS細胞は自在に増やすことができるため、いちどストック用の細胞を作製すればいくらでも使うことができるのです。
このため費用も大幅に削減できます。
< カバー率は17% >
ただし、ストックした細胞は、誰にでも移植できるわけではありません。
ストックされるiPS細胞で重要なのは細胞を提供してくれる人の白血球の型です。
「A型」「B型」といったよく聞く血液型と同じように白血球にも型があります。
こうした白血球の型は「HLA」と呼ばれ、遺伝によって決まりますが、偶然、型が完全に一致していなくても相手に拒絶反応を引き起こしにくいHLAを持つ人がいます。
それぞれのHLAの型により移植できる相手の範囲は異なっていて、現在、京都大学がストックしているiPS細胞は1種類、日本人のおよそ17%に移植できるタイプです。
京都大学によりますとことし4月頃には、新たに1種類の細胞を追加する予定で、これによりカバー率は25%近くまで高まるということです。
京都大学では今後、保管する細胞の種類をさらに増やし、日本人の大半の人をカバーできるようにしたいとしています。
< 他家移植 今後のスケジュールは >
今月、厚生労働省が研究計画を了承したことで、iPS細胞の他家移植は早ければことし前半にも1人目の手術が行われる見通しとなりました。
手術は、神戸市立医療センター中央市民病院と大阪大学附属病院で行われる予定で、2年間に5人を目標に手術を行う計画です。
実際の手術は、網膜の病気の部分に液体に混ぜた細胞を注射で移植する方法で行われるということで、手術後1年かけて安全性や効果を確認することになっています。
今月(2月6日)に神戸市で開かれた研究グループの記者会見では、3年前の自家移植の臨床研究も行った理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーが出席し、
「コストと症例の実績を重ね、効果を確定したい。iPS細胞を使った治療の、将来の在り方を決める重要な研究になるので、緊張感を持って進めたい」と意気込みを話しました。
グループではすでに研究に協力してくれる加齢黄斑変性の患者の募集を始めていて、詳しくは、神戸市立医療センター中央市民病院のホームページで公開されています。
< ほかにも応用が期待 >
iPS細胞の他家移植は将来的には網膜のほかの病気にも応用できると期待されています。
また、目だけでなく、パーキンソン病や脊椎損傷などの治療や、心臓病の治療などでも臨床研究や治験に向けた準備が進められています。
iPS細胞を使った再生医療が広く普及する技術になるのかどうか今回の他家移植の結果が注目されます
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