スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

奥さんの解釈&物体の多様性

2017-12-04 19:15:21 | 歌・小説
 Kが「私は金がない」と言ったのは嫌味ではなかったと僕は解します。裕福な男と困窮した男という関係についてのKの自己意識の稀薄さと,に対するKの恋心を奥さんは知らなかったというのがその理由です。ですがテクストに書かれたこの記述から僕にもっと確かだと思われるのは,たとえKがそれを嫌味のつもりで言ったのだとしても,奥さんはそれを嫌味とは受け止めなかったということです。今度はその根拠を説明していきます。
                                     
 この部分は先生と奥さんの会話で成立しています。先生と静の結婚の決定を奥さんがKに告げたときのKの態度を,先生の方から質問しているのです。この背景からして,もしも奥さんがKのことばを嫌味として受け止めていたなら,奥さんはこのことを先生には伏せておいたろうと推定されます。ところが奥さんは包み隠さずにKのことばを先生に教えているのです。それは奥さんがそれを嫌味とは受け止めていなかったからだと僕は考えます。
 もしKのことばが嫌味となり得るなら,それは金のある先生は静と結婚できるけれども金のないKは結婚はおろかお祝いすることもできないという意味でなければなりません。要するに静は財産目当てで先生と結婚するのだし,奥さんは財産目当てで娘を先生と結婚させるのだということです。もし奥さんがこの意味を正確に把握したのなら,Kのことばをありのままに先生に伝えるのは,静の結婚は財産が目当てですと当事者の先生に伝えるようなものです。たとえ奥さんにそういう意図はなかったのだとしても,そういう嫌味として先生は解するかもしれないと奥さんは考える筈です。実際に先生は財産家なのですから,自分たちにとって不利益になるかもしれないそんなことまで教えるのは避けるのが普通でしょう。
 ところが奥さんはそのまま伝えました。これはそれを嫌味と解さなかったからです。そしてなぜそれを嫌味と解さなかったのかも考えることができます。

 第一部定理一六は,自然のうちに無限に多くのinfinita個物res singularisすなわち有限様態が発生しなければならないことを示しています。ただこの定理Propositioの意味は,無限に多くの仕方といういい方で,Deusの本性naturaを構成する無限に多くの属性attributumのそれぞれから,その属性に属する個物が無限に多く発生するということを意味しています。僕はこうしたものを総称してスピノザの哲学における自然と解しますが,ゲーテJohann Wolfgang von Goetheが自然学の対象としているものは延長の属性Extensionis attributumに属する個物すなわち物体corpusに限られるのであって,この定理だけでも自然界の多様性の肯定というゲーテとスピノザの親和性は示すことが可能ですが,もっとゲーテに寄り添った形で示しておきましょう。
 スピノザは延長の属性から無限に多くの個物が発生するといういい方はしません。これは当然で,第一部定理二一により神の絶対的本性から生起する様態modiは無限様態modus infinitusでなければならないからです。有限様態すなわち個物の場合には第一部定理二八の様式で存在existentiaと作用に決定されるのであり,このために延長の属性を原因としてある特定の物体が発生するといういい回しは相応しくはないのです。ただ,第一部定理二八は同時に,ある個物の原因はそれ以外の個物に変状した神であるという意味を含むので,その直後の備考Scholiumにあるように,神は個物に対しても絶対的な最近原因causa proximaです。このことは第一部定理二五からも明らかだといわなければならないと僕は考えます。
 一方,無限に多くの物体が発生することをスピノザが是認していることは,第一部定理三二系二から明らかです。そこでは延長の属性からとはいわれず,延長の属性の直接無限様態である運動motusと静止quiesからといわれていますが,これは物体は運動と静止の割合によって決定されるものであって,その運動と静止の割合は無限に多くあり得るからだと僕が解しているということは前に説明した通りです。しかしこの解釈の是非はここでは問う必要はありません。ゲーテは自然は原型とメタモルフォーゼの内的法則により無限に多くの物体を産出するといっているのであり,無限に多くの物体が生起するという点ではスピノザが認めているところと同一だということが分かれば十分です。
コメント
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