思考の部屋

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ハーバード白熱教室・Lecture8「社会に入る同意」(2)

2010年04月29日 | 哲学

 ハーバード白熱教室・Lecture8「社会に入る同意」の後半部分の内容です。
 
 リバタリアンは、私有財産権を基本的な人権として最も重視する立場から、多くのものを公有財産として独占支配し、人々の経済活動に様々な規制をかける国家否定します。その論拠となる思想がロックの思想です。

 マイケル・サンデル教授は、「富を均等に分けるためにマイケル・ジョーダンやビル・ゲイツに課税するのは反対だという人がいた。では富を多くの人に分けるために、少数派に課税することがなぜいけないのか、ということについて、ロックは説明していると思う人は、」と学生に意見を述べさせます。

     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

男子学生が指名され、以下のように述べていきます。

ベン もし多数派が課税するべきと定めたとしても、少数派は支払う必要はないと思います。それは自然権の一つである所有権を侵害することになるからです。

サンデル教授 なるほど。つまりもし多数派が少数派に対して、同意を得ることなく特別な課税法に基づいて課税したとすれば、それは無断で所有権を取り上げるのと同じだから、ロックはそれなは反対すると君は思うんだね。

 君の意見を文章で裏付けようと思うのだがどうだろう。
 
ベン いいですね。

サンデル教授 君がそういうと思ってもってきたんだ。テキストの138節を見て欲しい。

最高権力は、本人の同意なく
人の財産を一部たりとも
奪うことはできない。

なぜなら所有権を守ることが
政府の目的であり
そのために人は社会に入るのだから
財産をもつことが必然的に想定され
要請されているからである。
(ジョン・ロック)

 私たちが社会に入るのは、財産権を守るのにほかならない。

 そしてロックが、この財産権という言葉を使うとき、そこには生命、自由、財産の自然権が含まれている。

 この138節の冒頭を読む限り、ベンの見解は正しいように思える。しかし
果たして続きを読んみても、同じことが言えるだろうか?

人は社会において所有権を
持っており、物に対する権利は
コミュニティの法律により
彼らのものとなる。
(ジョン・ロック)

「コミュニティの法律により」ここが重要だ。だから誰も同意なしに人から財産を奪うことはできない。さらにこう続く。

ゆえに、最高権、立法権によって
人々の財産を意のままに処分したり
欲しいままに取り上げたりすることが
できると考えるのは間違いである。
(ジョン・ロック)

ここが難しいところだ。一方でロックは、政府は本人の同意なしには政府は財産を取り上げることはできないと、はっきり言っている。

 財産の自然権があるからだ。しかし彼は、コミュニティの法律によりそれらは彼らのものになる、とも言っている。
 
 そこからは所有権は自然のものではなく、政府が手にするものだと受け取れる。そしてさらに読み進めると益々わからなくなる。

政府は大きな負担なしに
支えられるものではない。
政府の保護を享受する者は皆
その維持にための割り当てを
自分の財産から支払うべきである。
(ジョン・ロック)

 ここからが重要だ。

しかし、そこには本人たち、または彼らに
選ばれた代表によって与えられた
本人の同意、すなわち多数派の同意が
なければならない。
(ジョン・ロック)

「本人の同意、すなわち多数派の同意がなければならない。」これはどういうことか。財産はある意味では自然のものであるが、別の意味では協定によるものである。

 自然なものというのは、私たちが不可譲の基本的権利を持っていても、そこにはそこのは財産権も含まれるということを、政府は尊重しているからである。
 
 だから財産を、恣意的(思いつきで物事を判断するさま)に取り上げるのは、自然法の侵害であり、違法である。しかし更なる問題がある。財産の協定的な側面だ。
 
 何をもって財産とするか? 何をもって財産を取り上げたとみなすか?

 そういったことを定義するのは、政府なのだ。
 
 ここで最初の質問に戻るわけだが、同意はどんな働きをするのだろうか?

 同意がなければ合法的に税金を課すことができない。それは税金を支払う本人、ビルゲイツ本人の同意ではない。

 私たちが自然状態を抜け出し、最初に政府を作った時に、社会の中にいる私たちが全員が与えた同意だ。

 これは集合的な同意なのだ。この解釈によれば、同意の果たす役割はかなり大きく、同意によって作られた政府は、それほど制限されていないように思える。
 
 これに対して意見や疑問がある人はいるかな?

ニコラ 政府が既に機能している場合、政府のある所に生れた人たちは、そこを出て自然状態に戻ることは可能なのでしょうか、その点いついてロックはどう考えていたのか、疑問に思います。それには言及していなかったと思うので。

サンデル教授 君はどう思う?

ニコラ 習慣があるので政府を離れるのは、とても難しいと思います。なぜならもう誰も自然状態では暮らしていないからです。今では誰もが、立法機関に統治されています。

サンデル教授 ニコラ例えば君は、市民社会から去りたいと思っているとする。
自分の同意を撤回して自然状態に戻りたいと。

ニコラ 実際同意したとは思っていません。私はそこに生れただけで、参加したのは祖先です。

サンデル教授 そうか、君は社会契約にサインしていない。私もしていない。ではロックはなんと言っているだろう。

男子学生 ロックはサインが必要だとはいっていないと思います。これは暗黙の同意で、政府のサービスを受けるのは政府に何かを奪われることに同意したのと同じことです。

サンデル教授 なるほど、暗黙の同意という意見が出た。暗黙の同意は有効などういだと思っている人もいるだろう。ニコラ君も首を振っていたね。君の理由を聞かせて欲しい。

ニコラ ただ、単に政府のさまざまな資源を利用しているとだけで、必ずしも政府の作られたやり方に同意しているということにはならないと思いますし、それが社会契約に参加することに同意したことを示唆するとは思いません。

サンデル教授 暗黙の同意に、政府に従う義務を生じさせるほどの力はないと思うんだね。

ニコラ はい、そう思います。

サンデル教授 ニコラ君は、捕まらないとしても税金を払う。

ニコラ 多分払わないでしょう。(笑い) 個人的には一様に何でも支援するのではなく、私が支援したい部門だけ、お金を払うことのできるシステムがあったらいいと思います。

サンデル教授 確定申告の時は自然状態にいたほうがいいね。(笑い) 私が聞きたいのは、実際に何かに同意したわけではないから、何の義務も負っていないのか、ということだ。しかし君は、良識的な理由で法律には従っているね。

ニコラ その通りです。

男子学生 たとえそう考えたとしても他の誰かのものを奪ってはならないというロックの統治理論における社会契約を侵害しています。

 自然状態で中で生きたいのなら、政府のサービスを受けない代わりに、自分も何も渡さないという姿勢でかまわないと思います。でも政府からなに得ることは出来ません。
 
 政府のサービスを受けるためには、税金を払わなければいけないからです。

サンデル教授 自然状態状態に帰るのは自由だが、道路を利用することは、できないということだね。

男子学生 そうです。

サンデル教授 では道路を使うことや税金を徴収することよりも、もっと重い問題について話し合いをしよう。

 命はどうだろう。徴兵制はどうだろう。

エリック 人を戦争に送ることは必ずしも彼らが死ぬことを意味しているわけではありません。生き残る可能性を高めていないことは明らかですが、それは死刑ではありません。

 だから徴兵制が人々命の権利を抑圧しているかどうかの議論することは正しいアプローチとはいえないと思います。

 ここでの本当の問題は、ロックの同意と自然権に関する見解です。私たちは自然権を放棄することも許されていません。
 
 では税金や徴兵制について考えるときにをロックは命の放棄や財産権の放棄に同意することをどう捉えていたのでしょうか。

 ロックは、自殺には反対していたと思いますが、それも各個人が同意の上で行うことです。

サンデル教授 ありがとう。エリックは、ロックを読み始めてからずっと格闘してきた疑問に引き戻してくれた。

 私たちは生命、自由、財産に対する不可譲の権利を持っているが、それらを放棄する権利はもっていない。

 政府が制限されているのはそのためであって、私たちが制限することに同意したからではない。
 
 私たちは同意する際に、権利を放棄することができないから、政府は制限される。
 
 それが正統な政府に関するロックの真髄だ。

 しかし、今エリックの言っているのは、こういうことだ。
 
 もし自殺や財産の放棄が許されないのなら、どうして命の犠牲や財産の放棄を強制する多数派に縛られることに同意できるだろうか。
 
 ロックはこれに対する答えを持っているのか、それとも不可譲の権利を主張しながらも、基本的に全権をもっている政府を認めるのだろうか?
 
 誰かロックを弁護できる人はいないだろうか。あるいは自分なりに理解して解決策を見つけられる人は。
 
ゴクル 個人がもっている生存権と政府が一人の個人の生存権を奪うことができないという事実の間に、一般的な区別がつけられるべきだと思います。

 徴兵制が、「政府が特定の個人を戦争で戦わせるために指名するようなものだ。」とすれば、それは彼らの生命に対する自然権の侵害になるでしょう。

 一方徴兵制にたとえば、くじ引きがあるとすれば、全住民が自分達を守るために彼らの代表を選ぶとみなすでしょう。
 
 住民全員が送られたら、財産権を守ることができないので基本的に無作為に彼らの代表を選ぶという考え方です。
 
 そして選ばれた代表が出征して、人々の権利のために戦うのです。それは僕の意見では、選ばれた政府と同じように機能すると思います。
 
サンデル教授 選ばれた政府は、コミュニティを守るために市民を徴兵できる、ということだね。それで人々は権利を享受できるのだろうか?

ゴクル できると思います。それは立法府の代表を選ぶ手順と、とても似ているように思います。

サンデル教授 しかし、それでは政府が徴兵という形で特定の市民を選び、全体のために死なせるようなものだ。

 それは自由に対する自然権を尊重することと一致しているだろうか?

ゴクル 僕が、言おうとしているのは、特定の個人を選ぶことと、無作為に選ぶこととの間には違いがあるということです。

サンデル教授 個人を選ぶということについて確認させて欲しい。ゴクルは、命を犠牲にするために個人を選び出すのと、一般的な法律をもつことの間には違いがあると言っている。実際これはロックが出すだろう答えだと思う。

 ロックは、恣意的な政府には反対している。イラクでの戦費をまかなう為に、ビルゲイツを選び出すようなことに反対しているし、戦地で戦わせるために、特定の市民やグループを選び出すことにも反対している。
 
 しかし、一般的な法のもとで政府が選択したものや多数派が行ったことであれば、それは人々の基本的な権利を侵害することには、ならない、と彼は考えている。
 
 恣意的に人々の権利を奪うのは侵害行為だ。それは基本的にすべての人に法の支配や所有権の制度は存在しない。と言っていっていることになるからだ。
 
 それでは王様の気まぐれや議会の気まぐれで、私たちや君達を名指しして、所有権を放棄させたり、あるいは命を放棄させたりするようになってしまう。
 
 しかし恣意的でない法の支配のもとでそれをするのであれば、許される。

 君は、それでは、制限された政府ではないと思うかもしれない。リバタリアンは、「ロックは、結局は素晴らしい見方ではなっかた。」というかも知れない。
 
 彼らは二つの理由でロックに失望する。
 
 第一に、権利は不可譲だから結局自分自身を本当に所有していることにはならない。自分の権利を侵害するようなやり方で、生命や自由や財産を放棄することは出来ない。これが一つ目の理由だ。
 
 第二に、一度同意に基づいた正統な政府が誕生したら、ロックが考えるのは、生命や自由、財産を恣意的に取り上げるのを制限することだけだ。しかし過半数の決定によって一般的に適用できる法律が公布され、それが公正な手続きによって正式に選ばれたものなら、課税であろうと、徴兵であろうと権利の侵害にはあたらない。
 
 ロックが、国王の絶対的な力を懸念していたのは、明らかだ。

 しかしもう一つ確かなことがある。これはロックの影の側面だが、この同意の偉大な理論家が、同意の必要のない私有財産の理論を思いついたのは、前回ロシェルが指摘してくれたように、ロックの二つめの懸念、アメリカと関係があったかも知れないのだ。
 
 自然状態について話すとき、彼は想像上の場所について語っていたわけではない。すべてアメリカについて話していたのだ。
 
 アメリカでは何が起きていたか。
 
 入植者は、土地を囲い込み、ネイティブ・アメリカンと戦っていた。
 
 植民地の管理者だったロックは、同意なく土地を囲み、耕作することを通じて、私有財産を正当化することに関心があったかも知れない

 それと同時に彼は、君主や恣意的な支配者の力が制限された、同意に基づく政府の理論を発展させることにも関心があった。

 今回答の出なかった、根本的な疑問は、

 同意はどのような働きをするか?。ということだ。

 その道徳的な力は何なのか?

 同意の限界とは何なのか?

 同意は政府にとってだけだはなく、市場にとっても重要なものだ。

 次回は物をを売買する時に生じる同意の限界の問題を取り上げる。

授業終了

     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ロックの思想は、共和制という共同社会・市民社会・政治社会・政治体の思想で、それは社会であって国家を念頭に置いた思想ではありませんでしたが、アメリカ大陸の植民地化とアメリカ合衆国成立という過程において、重要な役割を果たし、現在の民主主義の基本となる思想となっています。それは日本を含めた憲法の中に脈打つ思想でもあります。
 
 現代社会において、リバタリアンという考え方の台頭の中で、そのロックの思想は彼らの主張の正当化す根拠にもなっていますが、サンデル先生は、鮮やかにその誤りをしていきます。

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