中国の大地を走る列車の車窓から、風景を見つめる老夫婦が映しだされ、この老婦人の次の言葉が流れます。
本当に人の世は奇妙なもので・・・
人生は一つの出来事や・・・
一つの戦争・・・
あるいは小さな選択によって違うものになってしまう。
・・・・本当に想像できない。
例えば梁(リョウ)さんとの結婚
京劇女優になったこと
日本へ行くこと
前に進むときは、退路を断った。
・・・後ろは、振り向かなかった。
という中国語の言葉で番組が始まりました。NHKヒューマンドキュメンタリー「二人の旅路~日中 激動を生きた京劇夫婦~」という番組です。
3月に放送された番組で8月24日に再放送されました。録画をしたまま昨日まで観ずにいました。番組についての予備知識はないまま、この最初の言葉に何が織り込まれているのかと思いました。観終わると冒頭の言葉が、この二人のご夫婦の数奇な運命、人生を回想する老婦人の魂の語りのように感じました。
人は時代を選ぶことも出来なければ、両親を選ぶことができない。視点を変えれば逆にもいえるのですが、ある日突然気がついたときにはこの世にいた、生を受けていたことだけは事実ではないでしょうか。
人の人生、選択できない運命ですが、よく考えれば選択してきた運命ではなったとも言えるのではないのかとも考えさせる番組でした。
「本当に人の世は奇妙なもの」
NHKの番組紹介には次のように書かれていました。
<あらすじ>
日中 激動を生きた京劇夫婦。日本と中国、2つの国の激動の歴史に翻弄されながらも、一途な愛をつらぬいて生きてきた夫婦の物語。
日本と中国、2つの国の激動の歴史に翻弄されながらも、一途な愛をつらぬいて生きてきた夫婦の物語。かつて中国有数の京劇スターだったその夫婦には秘密があった。妻が日中戦争の日本人残留孤児だったのだ。
しかし、文革の時代に、秘密は発覚。妻は「侵略者の子」として非難の的となる。夫は妻を守るため、国家一級俳優の地位や豊かな生活を捨て、夫婦で日本に移住する決断をした。その後2人は日本で20年間、人知れず工場や食堂で懸命に働き、支え合って生きてきた。
そして、昨年の秋、夫婦は中国へ旅立った。人生最後の舞台として、夫婦の愛を描く京劇「覇王別姫(ハオウベッキ)」を演じるためだった。
番組は梁嘉禾(りょうかほ)さん(70)と真理さん(65)二人の旅に同行し、互いを想い合ってきた姿を通して、夫婦の絆と幸せをみつめる。
<以上サイト内容>
と、短い説明ですが「ヒューマンドキュメンタリー」という人々の生きる姿を描く番組です。
街の通りで出会えば何処にでもいるような仲の良い老夫婦・・・二人の数奇な縁と互いの慈愛の深さに感動しました。
残留孤児支援支給金という僅かな援護金で、今は静かに生きる二人。
真理さんは気づいたときには父は日本人で、母は中国人生まれて間もなく終戦となり、父は収容所へ、母は日本人と結婚していたという理由で迫害を受ける。
父は収容生活後日本へ帰国、そして南米へ・・・・。迫害を受けることを懸念した母は遠く離れた地で中国人男性と結婚し。日本名柴田真理を柴真理に変え新しい兄弟とともに暮らします。
真理さんはその後京劇の世界に入り、そして運命の出会いとなります。
父親が日本人であることによる迫害、文革時代は想像を絶するものがあります。努力家で才能もあるので、主役に選ばれれば嫉妬からの迫害が待っています。
妻を励ます夫。その二人は幸せの物語をどのように描き、どのように作り、そして今があるのか。
番組を観た私は、二人の人生を知った私は、そこから何を得なければならないのか・・・・・自分に問わなければならない、そんな思いが湧いてきました。
「大変でしたね」という軽率な言葉で素通りできないし、「だから戦争は絶対反対です」と平和論を主張する気の持なりませんでした。
おかれた運命、眼の前に現れる現実は避けようがありません。その中で何を選択しているか。
日本への帰国を希望する妻に、国家一級俳優で活躍する夫はともに日本へ行くことを決断し実行しました。
日本では別な意味の過酷な生活が待っています。パート生活をしながら料理を学び中華料理店をオープン・・・・・しかし妻の真理さんは過労で倒れ間もなく料理店も閉店してしまいました。
取材班から真理子さんへ次のような質問がなされました。
>真理さんは梁さんから京劇を奪ってしまったと悩みましたか?
【真理子さん】
悩みました・・・悩みました。時々思うのですが彼は中国にいれば、よい暮らしができてこんなに苦労をしなくて済んだはずです。
「自分さえいなければ」「死んだ方がましだ」と考えました。
【梁さん】
考えすぎだよ。そんな考えを持ってはいけない。
優しく梁さんは真理さんを諭します。
中国にいる京劇の友人がかつてご夫婦が活躍した劇場が取り壊しになるので、ぜひ最後の舞台を夫の梁さんにと依頼、そして20年ぶりに中国に戻ります。
20年ぶりに中国に戻り京劇を舞う梁さんの姿を見て、真理さんは次のように語ります。
【真理さん】
とても感動しました。私と日本に行ったことで、梁さんは京劇を捨てることになりました。でも梁さんは奇跡を起こしました。
20年間舞台に上がっていないのに・・・・私は梁さんを誇りに思います。
昔のことはもう・・・どうでもいいと感じられるようになりました。
梁さんが舞った「覇王別姫」、翌日取り壊される舞台で二人で舞います。
なぜ真理さんはみんなの前で、梁さんと一緒に踊らなかったのか、
【真理さん】
覇王別姫は、とても良い芝居ですが最後は夫婦の悲しい分かれ・・・若い時には気にしなかったけど、
今はお互いの健康や命が心配なの・・・お芝居とはいえ夫婦で演じたくなかったの・・・。
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人それぞれに避けようのない、己にのしかかってくる人生に直面します。それは運命と呼ばれ、その時に何を選び、何を捨てるか・・・・それによって今があります。
番組の最後にもう一度、最初のまりさんの言葉が流れます。
本当に人の世は奇妙なもので・・・
人生は一つの出来事や・・・
一つの戦争・・・
あるいは小さな選択によって違うものになってしまう。
・・・・本当に想像できない。
例えば梁(リョウ)さんとの結婚
京劇女優になったこと
日本へ行くこと。
前に進むときは、退路を断った。
・・・後ろは、振り向かなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
眼の前に立ち現れる事象、それぞれの物語を描き道をつける。性格が悪い、無知であるなどを論する事態ではなく、選ばなくてはならない。
その時にもっとも最適と思う選択、
さすがNHK! 善い番組を制作します。感謝です。
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