5
生きてこの世の理をつくした魂なら、
死してあの世の謎も解けたであろうか。
今おのが身にいて何も解からないお前に、
あした身をはなれて何がわかろうか?
6
いつまで水の上に瓦を積んでおれようや!
仏教徒や拜火教徒の説にはもう飽きはてた。
またの世に地獄があるなどと言うのは誰か?
誰か地獄から帰って来たとでも言うのか?
7
創世の神秘は君もわれも知らない。
その謎は君やわれには解けない。
何を言い合おうと幕の外のこと、
その幕がおりたらわれわれは形もない。
8
この万象の海ほど不思議なものはない、
誰ひとりそのみなもとをつきとめたひとはいない。
あてずっぽにめいめい勝手なことを言ったが、
真相を明らかにすることは誰にもできない。
この詩は、11世紀ペルシャ(イラン)の詩人オマル・ハイヤームの詩集『ルバイヤート』の「解き得ぬ謎(1~15)」の中の5~8の印象深い部分です。
全体をあらわさなければ、その思想・哲学はわからないのは明らかですが、オマル・ハイヤームという人物を知る手が係りにはなると思います。
彼は、勿論イスラム教徒(ムスリム)で数学者、天文学者そして哲学者でもあります。この詩からも解かりますが絶対神であるアラーの神の姿は見えません。
さらにこの詩集から印象深い詩を数点紹介しましょう。
万物流転(35~56)
49
行山川を越えて来たこの旅路であった、
どこの地平のはてまでもめぐりめぐった。
だが、向こうから誰一人来るに会わず、
道はただ行く道、帰る旅人を見なかった。
50
われらは人形で人形使いは天さ。
それは比喩ではなく現実なんだ。
この席で一くさり演技(わざ)をすませば、
一つずつ無の手筥(てばこ)に入れられるのさ。
むなしさ(101~107)
101
九重の空のひろがりは虚無だ!
地の上の形もすべて虚無だ!
たのしもうよ、生滅の宿にいる身だ、
あゝ、一瞬のこの命とて虚無だ!
105
戸惑うわれらをのせてはめぐる宇宙は、
たとえて見れば幻の走馬灯だ。
日の灯火(よもしび)を中にしてめぐるは空の輪台、
われらはその上の走りすぎる影絵だ。
一瞬を生かせ(108~143)
120
はなびらに新春(ノールーズ)の風はたのしく、
草原の花の乙女の顔もたのしく、
過ぎ去ったことを思うはたのしくない。
過去をすて、今日この日だけすごせ、たのしく。
135
あしたのことは誰にだってわからない、
あしたのことを考えるのは憂鬱なだけ。
気がたしかならこの一瞬(ひととき)を無駄にするな、
二度とかえらぬ命、だがもうのこり少ない。
イスラム的には異端的な詩ですが、ペルシャ詩人には相異なく、不思議があります。