発掘盤として突然登場した、デレク・ベイリー『New Sights, Old Sounds』(Incus、1978年)。2枚組であり、1枚目は東京でのスタジオ録音、2枚目は名古屋と町田でのライヴ録音。
Derek Bailey (g)
この人の演奏は書き言葉での説明を拒否するようなところがある。その一方で、ギターでの即興言語のみによって、この人が作りだす宇宙空間に、いつまでもオリジナルなまま存在している。やはり、デレク・ベイリーは埴谷雄高である。他人には真似しえない独自言語は、無限の想像の種となる。
東京での録音を聴いていて、いままで聴いたベイリーと違う印象を覚えた。金属音を無音空間に響かせているような音の作り方だ。
名古屋でのライヴでは、さらに別のイディオムを披露する。そしてハウリングの中での即興演奏は、まるで宇宙空間における生命の誕生のようでもある。改めて、怖ろしい存在だったのだと思う。
この時代のソロ演奏では、『Aida』(Incus、1980年)をよく聴いた。タイトル通り、間章に捧げた盤であり、「Niigata Snow」という演奏も収録されていることから、つい今の今まで、日本でのライヴだと思い込んでいた。実際には、パリとロンドンにおける演奏だった。
Derek Bailey (g)
ここでは、『New Sights, Old Sounds』とは随分異なり(いや、それが『Aida』とは異なっている)、構成要素たる音を積みかさねて、デレク・ベイリーというひとつのジャンルを提示しているようだ。どちらの演奏も素晴らしく、何度聴いても飽きないのだが、いまは、『New Sights, Old Sounds』のスリリングさに魅かれる。
『New Sights, Old Sounds』では、名古屋での演奏中、ギターのピックが落ちたとおぼしき音と、拾った観客に礼を言う声が記録されている。『Aida』では、誰かの腕時計ででもあろうか、アラーム音で演奏が一時中断し、すぐに意に介さぬように再開し、ほどなく終了する。観客の笑い声から言って、ベイリーが何かユーモラスな仕草を示したのだろう。
宇宙空間だからといって、抽象を駆使する演奏ではなく、あくまで人間の行為としての演奏だったと言えるに違いない。本当に、ライヴに接することができなかったのが悔しくてならない。
●参照
○デレク・ベイリー+ジョン・ブッチャー+ジノ・ロベール『Scrutables』
○ウィレム・ブロイカーが亡くなったので、デレク・ベイリー『Playing for Friends on 5th Street』を観る
○デレク・ベイリーvs.サンプリング音源
○田中泯+デレク・ベイリー『Mountain Stage』
○トニー・ウィリアムス+デレク・ベイリー+ビル・ラズウェル『アルカーナ』
○デレク・ベイリー『Standards』
○1988年、ベルリンのセシル・テイラー(ベイリー参加)