『Number』(文藝春秋)が、「秋のプロ野球名勝負 決選秘話。」と題した特集を組んでいる。何しろジャイアンツの桑田ファンであったから、1994年の「10・8」が表紙であれば買わないわけにはいかない。
珍しく感情を剥き出しにした「10・8」の落合博満、89年のラルフ・ブライアントのホームラン連発、軟らかい今中慎二のピッチング、88年「ロッテ近鉄戦」の阿波野秀幸、ライオンズ商売カラーなんぞに浸されてしまった清原和博、92年日本シリーズでの杉浦享のサヨナラ満塁ホームラン、翌年の日本シリーズで清原を見事に抑えた高津信吾、いちいち懐かしくて、そのころの自分のことも思い出したりして、身動きが取れなくなってしまう。ああ、プロ野球は面白かったんだなあ。
もちろん今でも凝視したい選手は何人もいる。ダルビッシュ有や林昌勇や杉内俊哉のキレ、和田毅のタメ、鳥谷敬のシャープな打撃、金城龍彦の規格外の動き、藤川球児の渾身の球、阿部慎之介の天才的な振り。
セパ交流戦やクライマックスシリーズは、確実に日本シリーズのかけがえのなさを奪ってしまったし、それがプロ野球の愉しさも減じてしまったような気がする。この雑誌にまるで神話であるかのように記された過去のドラマを反芻すると、なおさらそう思う。それに、西本聖や桑田真澄のような怨念の塊的な選手がいなくなってしまった。ジャイアンツの東野峻にあの怨念が少しでも乗り移ったなら凄い選手になると思うぞ。
でもWBCは楽しみだな。そのうち勝手なベストオーダーを作ろう。
●参照
○平出隆『ベースボールの詩学』、愛甲猛『球界の野良犬』
○パット・アダチ『Asahi: A Legend in Baseball』、テッド・Y・フルモト『バンクーバー朝日軍』
○2010年6月12日、イースタンのジャイアンツ
○WBCの不在に気付く来年の春
○山際淳司『ルーキー』 宇部商の選手たちはいま
○『Number』の清原特集、G+の清原特集番組、『番長日記』
○『Number』の野茂特集
○北京にあわせて『和田の130キロ台はなぜ打ちにくいか』
○野茂英雄の2冊の手記