大島渚の1969年作品『少年』を観た。
10年くらい前に、池袋にあったACTセイゲイ・シアターのオールナイト(大島渚特集)で観てから、ヴィデオを含め何度も観ている。今回、神保町の三省堂裏に「神保町シアター」ができて、『川本三郎編 映画の昭和雑貨店 こどもたちのいた風景』という企画の1本で『少年』をやっていたので、会社帰りに立ち寄った。ところが、前日で終わっていた(笑)。悔しいので、自宅でヴィデオを観た。本当は大画面がよかった。
何度観ても、逃げ場のない世界での少年の言動に動揺する。
各地を転々とし、両親に当たり屋を強いられている少年。ひとりで隠れん坊をしたり、家出をしてひとり海辺で「祖母の家に帰った」ふりをしたりするが、逃げ場はない。少年を囲っているのは、家族、さらには国家という「装置」である。
この奇妙な映画が何故まだ力を持つのか。手持ちの、大島渚についての本では
○『ナギサ・オオシマ』(ルイ・ダンヴェール、シャルル・タトムJr.、風媒社): 映画形式の向こうに現れる直接的な感情の領域、日本社会から離れるがゆえに日本社会の典型である「家族」、父親・社会・政治・軍隊・警察組織・天皇・教育という権力範囲への監禁と国境の存在、判断ではなく提示、少年の想像界での救済
○『大島渚のすべて』(樋口尚文、キネマ旬報): 映画イメージの具現化という恩寵、日の丸と家族制度の腐った墓場とのアナロジイ、日の丸と血とのアナロジイ
○『大島渚2000』(ユリイカ2000/1、青土社): 国家の被害者(傷痍軍人である父親)の自らの国家化(齊藤綾子)、素直に見るべき抑圧された少年のドラマ(森直人)
○『フィルムメーカーズ9 大島渚』(田中千世子編、キネマ旬報): 戦後の日本を象徴する奉仕と憐憫という父母像、情緒を排した孤独の悲哀感(品田雄吉)
といったところ。国家論とミニ国家論、純化されたセンチメンタリズムといった論旨が中心であるが、どれも十分でないような気がする。
その中で、前出の品田雄吉による指摘、感情の振幅に中間項がない大島渚の特色、ということが、個人的にはヒントになりそうだ。実際、中学生が極端で奇妙な言動をする違和感、それが国家と家族という監禁状態において現れることへの哀れみと怒り、こういったことが映画の隅々から観る者を刺激し続け、宙ぶらりんにさせるのではないか。
田村孟による脚本、戸田重昌による美術(なんで旅館の室内に大きな日の丸があるのか?)が素晴らしいと思う。
10年くらい前に、池袋にあったACTセイゲイ・シアターのオールナイト(大島渚特集)で観てから、ヴィデオを含め何度も観ている。今回、神保町の三省堂裏に「神保町シアター」ができて、『川本三郎編 映画の昭和雑貨店 こどもたちのいた風景』という企画の1本で『少年』をやっていたので、会社帰りに立ち寄った。ところが、前日で終わっていた(笑)。悔しいので、自宅でヴィデオを観た。本当は大画面がよかった。
何度観ても、逃げ場のない世界での少年の言動に動揺する。
各地を転々とし、両親に当たり屋を強いられている少年。ひとりで隠れん坊をしたり、家出をしてひとり海辺で「祖母の家に帰った」ふりをしたりするが、逃げ場はない。少年を囲っているのは、家族、さらには国家という「装置」である。
この奇妙な映画が何故まだ力を持つのか。手持ちの、大島渚についての本では
○『ナギサ・オオシマ』(ルイ・ダンヴェール、シャルル・タトムJr.、風媒社): 映画形式の向こうに現れる直接的な感情の領域、日本社会から離れるがゆえに日本社会の典型である「家族」、父親・社会・政治・軍隊・警察組織・天皇・教育という権力範囲への監禁と国境の存在、判断ではなく提示、少年の想像界での救済
○『大島渚のすべて』(樋口尚文、キネマ旬報): 映画イメージの具現化という恩寵、日の丸と家族制度の腐った墓場とのアナロジイ、日の丸と血とのアナロジイ
○『大島渚2000』(ユリイカ2000/1、青土社): 国家の被害者(傷痍軍人である父親)の自らの国家化(齊藤綾子)、素直に見るべき抑圧された少年のドラマ(森直人)
○『フィルムメーカーズ9 大島渚』(田中千世子編、キネマ旬報): 戦後の日本を象徴する奉仕と憐憫という父母像、情緒を排した孤独の悲哀感(品田雄吉)
といったところ。国家論とミニ国家論、純化されたセンチメンタリズムといった論旨が中心であるが、どれも十分でないような気がする。
その中で、前出の品田雄吉による指摘、感情の振幅に中間項がない大島渚の特色、ということが、個人的にはヒントになりそうだ。実際、中学生が極端で奇妙な言動をする違和感、それが国家と家族という監禁状態において現れることへの哀れみと怒り、こういったことが映画の隅々から観る者を刺激し続け、宙ぶらりんにさせるのではないか。
田村孟による脚本、戸田重昌による美術(なんで旅館の室内に大きな日の丸があるのか?)が素晴らしいと思う。