ドイツ・エッセン出身で30歳のフローリアン・ヴァルターが来日している。ちょうど興味深いセッションでもあり、入谷のなってるハウスに足を運んだ(2017/11/28)。
Florian Walter (as)
Hisaharu Teruuchi 照内央晴 (p)
Tomoko Katabami 方波見智子 (marimba, perc, voice)
Ayako Kato 加藤綾子 (vln, voice)
Nami Tanaka 田中奈美 (dance)
1. ヴァルター、方波見、加藤
ヴァルターが息を破裂させる。アルトとマリンバが同じ音を繰り返す中で、またアルトの倍音とマリンバの響きがアトモスフェアを作り出す中で、ヴァイオリンが滑空する。次にはアルトとヴァイオリンとが結合し、その雰囲気の中でマリンバが跳ねる。そして遊ぶように終わった。
2. 照内、加藤、ヴァルター
ピアノがペダルで残響を作り出し、ヴァイオリンが哀しい旋律を奏でる。ヴァルターはマウスピースを取り、横向きに吹いている。大きな流れは照内さんのピアノから湧き出しているように思える。ここでヴァルターがマウスピースを装着し、音に生命が吹き込まれた。加藤さんは激しくヴァイオリンを弾き、ひとかたまりのエネルギーが尽きた後はだらりと脱力、それはちょっと怖いものを感じさせる。ヴァルターはアルトを浅く咥えて吹き、息のみを増幅させた。
3. ヴァルター、田中
倍音、キーを叩く音、ダイナミックなグロウル。ここで田中さんがハコをもって参入し、コミカルにも感じられるように翻弄のふるまいを見せる。ヴァルターの倍音はまるで音叉のようなうなりを生じさせるものだが、さらに、声を吹き込み、また、古いマイクロカセットで先に自身で録音した音を発し、何重にもサウンドを分厚くしてゆく。田中さんは突然生命を失い、骸と化した。
4. 全員
ピアノの発する分散型のフラグメンツ。暗闇に佇み存在感を示すヴァイオリン。低音から跳ね上がり、また、手により摩擦を直に感じさせるマリンバ。エンジン音のようなアルト。すべてが並列になって共存していた。やがてピアノが轟音にシフトしてきて、また下降してフラグメンツを撒く。ここでのマリンバはトリックスターのようだ。
5. 方波見、加藤、田中
演奏がはじまりほどなくして、方波見さんが「とっぴんちゃんぴん、とっぴんちゃんぴん」と呟くように唄い始めた。加藤さんはうなりの声で呼応する。そして田中さんは蛇のようにマリンバにまとわりつき、明らかにサウンドとの相互作用を作り出した。加藤さんが弦をはじく一方で、方波見さんはスティックを自重で倒し、サウンドを鎮静化させた。
6. 照内、方波見、ヴァルター、田中、加藤
ヴァルターがこれまでとうってかわって管を鳴らす。照内さんは内部奏法に加えて鍵盤を手のひらで叩き、方波見さんは激しくマリンバを叩く。激化、一転し、静寂。方波見さんがパーカッションを使ううちに、田中さんと加藤さんが入ってきた。アルトとヴァイオリンとパーカッションの強弱の流れがまるで邦楽のように聴こえる。全員が楽器によって、振幅の世界と貫通の世界を往還している。ピアノとマリンバの響きの横で、田中さんは椅子の上でゆらぎを見せる。ここでふとヴァイオリンが入ってきたときにはぞくりとした。そしてアルトは息によって弦を擬態する。響きの時間には、方波見さんはトライアングルを使った。田中さんが、全員にゆっくりとからみついていった。
全員の個性が衒いなく発揮されて、とても良いセッションだった。
Fuji X-E2、XF35mmF1.4、XF60mmF2.4
●参照
ネッド・マックガウエン即興セッション@神保町試聴室(2017年)
照内央晴・松本ちはや《哀しみさえも星となりて》 CD発売記念コンサートツアー Final(JazzTokyo)(2017年)
照内央晴+松本ちはや、VOBトリオ@なってるハウス(2017年)
照内央晴・松本ちはや『哀しみさえも星となりて』@船橋きららホール(2017年)
照内央晴・松本ちはや『哀しみさえも星となりて』(JazzTokyo)(2016年)
照内央晴「九月に~即興演奏とダンスの夜 茶会記篇」@喫茶茶会記(JazzTokyo)(2016年)
田村夏樹+3人のピアニスト@なってるハウス(2016年)