Sightsong

自縄自縛日記

J・K・ユイスマンス『さかしま』

2010-03-14 23:20:29 | 思想・文学

J・K・ユイスマンスは19世紀の変態作家であり、オスカー・ワイルドなどに影響を与えたと言われている。『さかしま』(河出文庫、原著1884年)は初期の作品である。

主人公デ・ゼッサンは、神経質ながら放蕩の限りを尽くした揚句、郊外の一軒家に引き籠る。それは、知識も趣味も低俗なブルジョアたちの挙動を目にするのさえ嫌になったからであった。彼は家を改造し、ただひたすらに自分の精神に良い影響を与えるような世界を構築した。内壁と外壁との間を水で満たし、色で染めることにより、室内に射す光を調整する。オルガンの鍵盤と酒樽の蛇口とを連動させ、酒の雰囲気に合った音を出すと注がれるようにする。亀の甲羅を宝石で埋め尽くす。

それは自分にとって快適な空間に改造するというものではなかった。明らかに、外界の現実をも取り込んだヴァーチャルな宇宙だった。その中では、文学のこと、宗教のこと、快楽のことについて自らのためだけに批評する。そしてデ・ゼッサンは老いていき、病んでいき、外界と触れることなく外界との接触に絶望する。

デ・ゼッサンの思考過程の説明が延々と続き、文学作品としては著しくバランスを欠いている。しかもどうでもいい話である。はっきり言って私には関係がない。しかし、単独者の中だけの世界構築と、脆いその世界の崩壊の描写が異様な迫力を持っていて、うるさい、うるさいと思いつつ読んでしまった。高校生の頃にでも読んでいれば、多少の影響でも受けたかもね。

こういう人は、現代こそいくらでもいる。私もあなたも無縁ではない。もっとも、そんな読まれ方はユイスマンスの意図したところではないのだろうけど。


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