Sightsong

自縄自縛日記

アントニオ・ネグリ『未来派左翼』

2008-04-08 23:59:02 | 政治

アントニオ・ネグリ『未来派左翼 グローバル民主主義の可能性をさぐる』(ラフ・バルボラ・シェルジ編、廣瀬純訳、NHK出版、2008年)は、先日、来日を事実上拒否されたアントニオ・ネグリによる語りをまとめたものである(いまのところ、上巻のみ邦訳)。原題は『Goodbye Mr. Socialism』であり、ネグリからみた伝統的で固陋ないわゆる「左翼」を批判し、あらたな解を見出そうとする思いが表されている。

あまりにも民主主義が形骸化し、市民自らが考えて参加することを放棄し、不平等で、一部の既得権層のみが利益を得る、そんな社会への刺激剤と来日がなり得ただけに、ネグリの発言は疑問をすくい上げてくれるものではなく、かなり刺々しいものだ。私は、一読して、共感以上に、かなりの違和感を抱いている。

ネグリは、社会主義は悪い思い出になってしまったが、コミュニズムを実現できる萌芽はあるのだと説く。その鍵となるのが、<共>を共同管理する枠組、時間労働から認知労働(時間やオカネ以外の付加価値による判断)への移行、<抵抗>するための枠組(暴力や戦争は、必ずしも否定されるものではなくなる)、そして<マルチチュード>のネットワーク化と組織化といったところのようだ。

違和感があるのは特に後者の2点だ。その両方とも、<マルチチュード>を謳いながらも、<個>の確立とボトムアップ的な連帯を信用に足るものとしていないことに起因しそうだと感じた。議会制間接民主主義がもはや死んだものであることは明白だと思うが、かと言って、別種の組織は、また権力構造と既成化を繰り返すものに過ぎないのではないかという印象である。<個>の経験と蓄積、その柔軟なネットワークのほうにこそ、ここでいう「未来派」がありそうに思えてならない。


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