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自縄自縛日記

島村英紀『「地震予知」はウソだらけ』

2011-10-11 23:52:58 | 環境・自然

島村英紀『「地震予知」はウソだらけ』(講談社文庫、2008年)を読む。

ロバート・ゲラー『日本人は知らない「地震予知」の正体』と同様に、国策として科学を置いてけぼりにして進められた「地震予知」の経緯を明快に示してくれる書である。なお蛇足ながら、著者の島村氏は昔からの第一人者であり、例えば環境分野で喧しい「○○のウソ」本と同列に並べてはならない。

本書の主張は以下のような点である。

海溝型地震では長期的予知が可能である。しかし、実質的な予知ではありえない(何年後に起きるか統計的に有意でない)。
内陸直下型地震活断層で起きると言われることが多いが、その活断層というものはたまたま「見えた」ものに過ぎず、そのため、活断層が「ない」ところでも大地震は起きる。活断層だけに注意することは危険である。
○地震発生の確率などまったく当てにならない類のものである。
○地震の「前兆」はことごとく地震後に報告されたものであり、とても予知に利用できるようなものではない。観測器を設置できるのはごく浅いところであり、地震が起きる地殻の状態を代表しているわけではない上、地表近くは雨や地下水など影響要因が多すぎる。
○行政の縦割りによる組織的弊害が極めて大きい。そして生き残りのため、看板の掛け替えなどさまざまな策を弄してきた。
石橋克彦・東大助手(当時)の東海地震説(1976年)の衝撃は大きく、大規模地震対策特別措置法(大震法)が1978年に成立した。これは「地震は予知できる」ことを前提とした、戒厳令的な強い規制を伴う悪法であった。まるで有事立法の露払いであった。
○地震予知を錦の御旗として、政府予算はどんどん増えていった。
○東海地震が「予知」できるとするケースは非常に限られている。場合によっては「不意打ち」になってしまう。
○すぐにでも起きると思われた東海地震は30年間訪れず、これが「長期的予知」の不確かさを示している。逆に、連動型の超巨大地震が起きる可能性は残されている(他の場所と同様に)。
○地震予知のため、米国製のGPSを大量購入した。1996-2001年で総額100億円近くにもなった。これは米国追従に沿ったものになった。
原発建設時の基準として、最大の揺れを600ガルと想定している。しかし、近年の地震観測によれば、重力加速度をゆうに超える数千ガルの強い揺れ(つまり、岩が飛びあがる)が来ることは常識になっている。これは非常に怖ろしいことだ。
○起きた地震をいち早く知らせる「緊急地震速報」では、さほどの備える時間を稼ぐことができない。ここで地デジの2秒遅れはさらに致命的な要因になる。
○大地震からのP波・S波と異なる長周波地震動(酔うような揺れ)は、遠距離まで伝わる。実は高層ビルではこれで被害を受ける事例があり(新潟県中越地震では、六本木ヒルズのエレベーターのワイヤーが切れた)、予想を超えることがある。
○学会は「予知」の学問的なあり方や政治関与のあり方について議論を避けてきた。
○メディアは「大本営」発表を垂れ流すだけであり、批判的機能が働いていない。これが「地震予知」幻想を広める一因ともなった。

要は、地震はどこにでも起こりうるものであり、それを「いつ」「どこで」「どのように」などの予知の対象とすることはできない。ならば、弊害の多い体制を改め、超巨大地震が起きても被害が最小化されるような対策を取らなければならない、ということである。その意味では、原発の想定は非常に危なっかしいものに他ならないということになる。

●参照
ロバート・ゲラー『日本人は知らない「地震予知」の正体』
ジャズ的写真集(1) エルスケン『ジャズ』(島村氏はエルスケン愛用のライカM3を所有されている)


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