Sightsong

自縄自縛日記

北井一夫『いつか見た風景』、『過激派』

2012-12-08 08:45:48 | 写真

東京都写真美術館で開かれている北井一夫個展『いつか見た風景』に、足を運んだ。美術館での北井さんの個展ははじめてだということだ。最初期『抵抗』から、最近の『ライカで散歩』までをたどったものとなっている。

『抵抗』、『過激派』、『バリケード』は、1960年代末の学生運動・市民運動を捉えた作品群。意図して使われたという、フィルムや印画紙の傷・むらが、確かに効果を見せている。バリケード内の洗面台やヘルメットやトイレットペーパーなどを撮った写真は、今となってみれば、そういったモノの佇まいを見つめる北井写真の萌芽のようでもある。

クロノジカルに観ていくと、『三里塚』『村へ』の時期に、写真の肌理がじわじわと変貌していくようだ。攻撃的な硬いトーンから、グレートーンへ。肩から入る写真から、人や日常と向き合う写真へ。そこには柔らかいライカレンズの特質も貢献している。

『いつか見た風景』『村へ』にある日本の田舎を凝視していると、文字通り、胸がしめつけられる。自分も片田舎で育ったからかもしれない。こういった人や生活が田舎にはあった。また、『1990年代北京』の土埃がたゆたう風景は、自分のものではない。しかし、そこにも懐かしさが横溢している。その気持ちを共有できることに、写真という記憶の奥深さを感じざるを得ない。

マクロ撮影に凝ってすぐに飽きてしまったという『おてんき』を観るのははじめてだ。ああ、盤洲干潟も撮っている。さすがに巧い。

『境川の人々』、『フナバシストーリー』のプリントを観るのは久々である。浦安の境川はすぐ近くだが、あまり変わっていないところもある。ぜひ新たに印刷した写真集を出してほしい。

とにかく、期待を超える素晴らしさだった。

会場に置かれたノートには、元機動隊員が「三里塚で機動隊に参加していました」というもの(!)や、中国からの客が「徐勇さんが宜しくお伝えくださいとのことでした」というもの(!)もあった。

ところで、今回展示されている『神戸港湾労働者』(1965年)と『過激派』(1965-1968年)は、現在、別のギャラリーでも展示されている。六本木のZen Foto Galleryに立ち寄り、その『過激派』を観た。同じ写真もあるが、違う場所でじっくり集中して観ることができることは嬉しい。フィルムの傷というマチエールもまた凄い。

会場で販売されている写真集は正方形。奇妙にトリミングしてあり、やや黒のしまりが甘い。奇妙に思っていたが、写真美術館の図書館で、持っていない北井さんの写真集を閲覧していたのでわかった。『抵抗』の体裁やつくりに似せ、続編として出しているのだった。確かにサブタイトルにも「北井一夫作品集2」とある。

●参照 北井一夫
『神戸港湾労働者』(1965年)
『1973 中国』(1973年)
『遍路宿』(1976年)
『境川の人々』(1978年)
『西班牙の夜』(1978年)
『ロザムンデ』(1978年)
『ドイツ表現派1920年代の旅』(1979年)
『湯治場』(1970年代)
『新世界物語』(1981年)
『英雄伝説アントニオ猪木』(1982年)
『フナバシストーリー』(1989年)
『Walking with Leica』(2009年)
『Walking with Leica 2』(2009年)
『Walking with Leica 3』(2011年)
中里和人展「風景ノ境界 1983-2010」+北井一夫
豊里友行『沖縄1999-2010』


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