これまで、サン・ラという音楽家=パフォーマーを、何となく敬遠していた。持っていたCDやレコードも、ほとんど手放して手許にない。だって、よくわからないから。
ところが、『Sun Ra: A Joyful Noise』(WinStar、1980年)というサン・ラの中古DVDが1000円で売っていて、入手してしまった。
この1時間のフィルムを観ている間、呆然としていいのか、笑っていいのか、どうしたらいいのか悩ましい無重力空間に連れていかれてしまう。
いい歳をした太ったオッサンが、ヘンにサイケデリックなシャツを着て、顔を微妙に青くペイントして、頭には金網やオスマン兵士のヘルメットのようなものをかぶり、さらに針金をくっつけている。アーケストラのメンバーも、みんなイカレポンチだ。ヴォーカリストは、「宇宙はわたしの声のなかに~」といった宇宙的な歌詞を、実に愉しそうに歌う。サン・ラ自身は、カメラに向かって、やはり宇宙的な抽象論とも駄洒落とも判断できないことを厳かに語っている。何なんだもう。
しかし、演奏が本格的に始まると、これが奇妙にカッコ良い。サン・ラのピアノはブルージーで、オルガンは激しかったり、やはり宇宙的(笑)であったり。セロニアス・モンクの「'Round Midnight」なんて、仮にライヴハウスで聴いていたなら、トリップしていたに違いない。アルトサックスをギターのように叩きながら吹くマーシャル・アレンにも仰天である。
世界がこうあってくれたら、確かに素晴らしいかもしれないと思ってしまう解放感。百聞は一見にしかずとは、このことだ。
以前、新宿ピットインでのライヴ3枚組を持っていた(移転前か)。かれらはどんな様子で新宿を闊歩したのだろう。