ロバート・バドロー『ブルーに生まれついて』(2015年)をDVDで観る。
チェット・ベイカーの伝記映画であり、クリント・イーストウッド『バード』のような行き過ぎた露出もミスキャストもなく(フォレスト・ウィティカーはどうみてもバードではない)、また、『グレン・ミラー物語』や『ベニー・グッドマン物語』のような予定調和のしょうもない作品とも異なる。
わたしはチェットの熱心なファンでもないので細かいことの真実性はわからないが、演出に関しては大人のものである。タイトル通り「ブルー」な感覚があって、いい映画だ。
もっとも、最初はイーサン・ホークの老け顔が、若くて溌剌としたプレイをしていた時代のチェットとはちょっとずれている。しかし、薬物に依存し、歯をすべて折られ、トランぺッターとしての人生を取り戻すべく地を這うような苦しみを味わったあとは、いい感じで重なってくる。むしろ、イーサン・ホークの物語のようにも見えてくる。ケヴィン・ターコットというプレイヤーが吹いているトランペットも、イーサン自身による歌も、悪くはない。晩年のプレイの深みは誰にも真似できないと思うものの……。
似ているかどうかということで言えば、ディジー・ガレスピーはともかく、マイルス・デイヴィス役のケダー・ブラウンがかなりのものだ(あまりにも違うので驚いた『MILES AHEAD』でもかれをマイルス役にすればよかった)。意地悪さもカッコよさもなかなかだ。チェットが若い頃に、ニューヨークのバードランドで対バンのマイルスに出逢ったとき(どんな対バンだ)、マイルスは、チェットに対して「Go back home to the beach, man. This ain't the place for you」と罵る。これは明らかに白人で甘い歌声を使い、若い女性たちが黄色い声で応援していることについての激しい怒りである。しかし、ロスでの雌伏のときを経て、ディジーの口利きでまたバードランドに戻ってきたとき、復帰1曲目を聴いてゆっくりと拍手をするのだった。
この映画の日本公開を機に、ブルース・ウェーバーによるチェットの傑作ドキュメンタリー『レッツ・ゲット・ロスト』も、改めて大画面で堪能したいところ。
●チェット・ベイカー
チェット・ベイカー+ポール・ブレイ『Diane』(1985年)