―イビス―
篠田節子/集英社文庫
1996年10月25日初版。著者の作品は初めて読む。読んでみて、女性でこのホラー、サスペンスかと驚嘆する。なかなかワイルドで荒々しくダイナミックだと思う。ホラーを書く女性作家は他にも居るが、この力強い描写は何なのか。その想像力はかなりリアルで詳細に見えているに違いない。篠田ワールドである。
遠目で見て、空を滑空する姿、自然界でのんびり餌を探して歩いている姿、その背景に溶け込むような姿は確かに美しい。しかし、近くでよくよくその顔を見ると、まるで無表情、冷酷で貪欲。思わず後ずさってしまう。鳥の眼にはそんな恐ろしさがある。そして、多くの鳥は肉食である。先を争ってあの長いクチバシを突き立て、頭を突っ込み、腸を引きずり出すシーンはさすがに冷える。
富沢集落のクライマックスを読んでいて思い出すのは、やはりA. J. Hitchcockの「鳥」であろう。映画の方は1963年発表で、「神鳥」より30年も以前の作品だが、著者はこれを参考にしたのだろうか。方や映像、方や文章では比較にならないが、映画「鳥」に負けず劣らずそのグロテスクな恐怖と迫力は凄まじいものがある。