つむじ風

世の中のこと、あれこれ。
見たこと、聞いたこと、思ったこと。

舞え舞え蝸牛

2017年04月14日 13時36分20秒 | Review

―新・落窪物語―
田辺聖子/文春文庫

 1979年10月25日初版、1998年9月15日第20刷。「落窪物語」は王朝前期頃(10世紀末)の大衆小説で正確な年代、作者は不詳。「源氏物語」「枕草子」より古いらしい。そんな古いものでありながら、著者の筆技によって現代に「新」を付けて蘇る。読みやすく、完結明瞭、スッキリした作品になっている。テーマ(継子いじめ、シンデレラ物語)も含めて無理なく読めるところが不思議である。

 著者はあとがきで「一夫一婦の貞潔を貫く男女が主人公」であることが謎だと書いているが、考えてみれば現代とは生活に対する考え方も社会環境も全く異なる千年も昔のことである。無理なく読めることの方がおかしいのだが、男女の仲と喜怒哀楽、理想と現実の溝は千年の昔から変わらないということか。ちなみに当時の貴族社会は一夫多妻であったらしい。
 高貴だの雅だのには縁遠い俗書大好き人間にとっては「源氏物語」「枕草子」は読まなくても「落窪物語」は読んでおくべき立派な古典であると思う。

 それにしても、同じ恋愛小説であるにも関わらず、先日読んだ「見知らぬ橋」との違いはどうだ。とても同じ人間の感情だとは思えないが、これもまた一つの愛のカタチなのかと思う。百人いれば百通りの、DNAの数ほど「愛の在り方」はあるらしい。