追憶の彼方。

思いつくまま、思い出すままに、日々是好日。

地に落ちたアメリカ…(4)キリスト教の大罪

2018年03月31日 | 国際政治
旧約聖書は神の言葉ではない。創造神話、ノアの大洪水物語、唯一神信仰等ギリシャ、エジプト、シュメール等他民族の中で語り継がれて来た伝説、詩や歌の中から旧約聖書の記者・編集者が信仰的イメージに合うものをピックアップし纏めたものに過ぎない。
キリスト教の世界を遡れば旧約聖書に至るまで殺戮で血塗られた歴史であると言っても過言ではない。
アダムとイブ、その子供であるカインとアベル、人類が未だ4人しかいない時代に既に殺人が発生するような世界、殺人に対する拒否反応に乏しいのではないだろうか。
とりわけ聖書の神が自ら手を下し或いは指揮・命じた虐殺は大量虐殺で残虐極まりない。
…イスラエル人をエジプトから脱出させる為にエジプトに九つの災危を行ったが其の最後は神自身がエジプト中を駆け巡りファラオの、牢屋にいる捕虜の、更には家畜の初子をことごとく討ち果たしたと言うものである。(出エジプト記)…過越祭。
…約束の地カナンに向かう途中、ヨルダン川東岸では神の命を受けたモーゼが王国を次々と討ち滅ぼし女・子供を撃ち殺したとの記述が並ぶ(申命記)、更にヨルダン川を渡りアイ・エリコ・マケダその他の土地でヨシュアは神から皆殺しに至る段取りまで細かい指示・命令を受け虐殺を行っている。虐殺は33の王国で行われとある。(ヨシュア記)
この神は何故皆殺しに拘ったのか、その答えは(申命記7-2-5)に語られている。イスラエル人が生き残った住民に感化され自分以外の神を信仰するようになるのを恐れての事、神自らが告白している。この神は自分に対し如何に自信を持っていなかったか、懐の狭い神だったという事を如実に表している。
(民数記25-3-5)によれば他の神を拝んだだけでその民を自分の前で処刑し白日の下に晒せと命じ実行させたとある。
レビ記の記述によると些細の事で多くの民が死罪を申し渡され処刑されている。
この様な記述を読むと(マタイ5-4-18)の「天の父が完全であられるように、あなた方も完全なものとなりなさい」…マタイは旧約聖書を読んで居らず神の本当の姿を知らなかったのではないか、イエス・キリストも自分の父の本当の姿を知らなかったのではないかとの疑念が湧く。

キリスト教のあらゆる時代の倫理規定の規範でありチャールストン・ヘストン主役のスペクタクル映画にもなった「モーゼの10戒」、その一つ有名な「人を殺すなかれ」と言う戒律は一体何を意味するのか。カナンへの途中のモーゼによる大量虐殺はイスラエルの民にこの10戒が示された後のことである。
此処にキリスト教の問題が隠されている。「人を殺すなかれ」と言う戒律は同じキリスト教徒の中で守られるべきもの、多宗派、他民族は別だと解釈しているのではないだろうか。
この様な視点に立てば西欧キリスト教国が行ってきた他民族への侵略・戦争による残虐な行為を正当化する根拠として聖書が存在するのではないか,全ては「神の思し召し」だと考えているとしか思えない。
スペインの後ろ盾でコロンブスがカリブ海諸国で行ったインデイアンの虐殺・略奪、スペインがキリスト教普及を名目にメキシコ・ペルーで行った虐殺と略奪によって高度に栄えたアステカ文明、マヤ文明、インカ文明は消滅しこれら地域の南米諸国はその後遺症で未だに貧しさから抜け出せずもがき苦しんでいる。スペインのコンキスタドール・フランシスコピサロの全盛期にインカ帝国の人口が1600万人だといわれたのが、18世紀末のペルーでは108万人になったといえば、その殺戮の凄まじさが理解できるであろう
スペイン人が行った残虐行為の記録を読むと相手を人間とは見なしていないのが良く分かる。
イギリスから移住したピューリタンをはじめプロテスタントを中心とするキリスト教徒は西部開拓の名の下に銃を武器に先住民のインデイアンの土地や食料はおろか生命までをも奪って自分達のものにした。
原爆を搭載し広島に飛び立とうとした爆撃機エノラ・ゲイB29の飛行士に対しキリスト教の牧師が励ましの祈りを捧げたと言われている。アメリカの起こした戦争や武力行使にアメリカのキリスト教徒が大きく異を唱えたと言う話は殆ど聞こえてこない。
カソリックは中米・南米やアジアでプロテスタントは北米で悪行の限りを尽くし、略奪したものの一部を教会(欲深い神)に寄進しさえすれば免罪符になることが既に制度化されていたキリスト教世界である。
ドイツの自由神学者アードルフ・ハルナックは「19世紀以降旧約聖書を保存していることは宗教や教会の無気力の結果である」と述べている。

何時の時代も政治が宗教を利用するととんでもない方向に走り出す。
キリスト教は何時まで旧約聖書と言う重い荷物を引きずっていくのだろうか。欧米では若者を中心にキリスト教離れが静かに進行していると聞く。聖書を真面目に読めば当然ではあるが、残念な事である。

尚10戒はモーゼより以前に「ハムラビ法典」或いはエジプトの「死者の書」に書かれており、旧約聖書のオリジナリテイではないと言うのが通説である。

地に落ちたアメリカ…(5)キリスト教の大罪
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地に落ちたアメリカ…(3)キリスト教福音派…聖書の世界の大罪

2018年03月27日 | 国際政治

凡そ30数年前、必要に迫られて略一年半掛け苦労しながら聖書や解説書を読んだ。
聖書は直喩・誇張・婉曲等の修辞的表現や韻を踏んだ文章に満ちており非常に美しいし、示唆に富む話も数多いが、一方絶えず観念的・精神的と言う様な形而上的な視点を求められる難解な哲学書でもあった。
このことが聖書は気の遠くなるような年月をかけて多くの人に読み継がれ或いは研究されて西欧文明の思想・文化・芸術のバックボーンになって居り,未だに世界的なベストセラーとして生き続けていることが良く理解できる。
しかし聖書は科学の教科書ではない、学問上の知識と矛盾する場合には科学的知識を尊重し、象徴的・観念的に解釈する事が必要である。
聖書の至る所に散りばめられた人間にとって普遍的に道徳的な精神的指針・規範となり得る様な聖書の教え・メッセージを取り出し、これを保持して絶えずそこに立ち戻ると言うバランス感覚を持つことが重要であって、そのような考えをする立派なクリスチャンも多い。

しかし乍らアメリカのキリスト教徒はプロテスタント、中でも聖書の無誤・無謬を主張し五つの根本教義(ファンダメンタルズ)の堅持を訴える福音主義が中心勢力になっている。  プロテスタント教会は全聖書の66巻は、すべて神の霊感によって書かれた「誤りなき神のことば」であり、主イエス・キリストによる救いと生活の唯一の規範(正典)であると考える。
このアメリカ社会を支配する福音主義がアメリカ社会を間違った方向に向かわせている大きな要因であると言う事は間違いない。
薬も過ぎれば毒となり,使い方次第で害になるが、聖書も同じである。科学や考古学・地質学等学問上の理論・知識を否定・無視することは聖書其の物の価値を落とすことに繋がる恐れがある。
この矛盾・誤謬に満ち溢れた聖書の記述をキリスト教徒が心の内で無誤・無謬と信ずるのは自由であり、そこに信仰的意義があると考えることも理解出来ない事はないが、その聖書の記述を盾に他人に精神的・物質的な害を与える事など許されることではない。

トランプを大統領に仕立て上げたのはテキサス、カンザス、バージニア、フロリダ各州等、アメリカ合衆国の中西部から南東部に跨るバイブル・ベルト地帯の白人層であった。
トランプは強力な支持者である福音派を中心とするキリスト教徒の要望に応え「エルサレム首都宣言」の暴挙を行った。ペンス副大統領始め白人キリスト教徒の党と化した共和党は旧約聖書の記述を盾にパレスチナは聖書の神(旧約聖書の神)がイスラエルに与えた土地だからと言うのがその根拠である。
しかし旧約聖書の神の行為が全て真実であると言う前提に立てばキリスト教の主張は現在の人間社会の道徳観を全否定することになり愛を説くイエス・キリストの考えと真っ向から対立することになる。
旧約聖書を文字通り読めばそこに登場する神(ヤハウエ,イスラム教の呼称はアッラー)は嫉妬深く、狭量、猜疑心が強く、怒りっぽい、かと思えばすぐ反省もする。最大の問題は自ら或いはイスラエルの民を使って虐殺を繰返したことである。
ユダヤ教の過越祭やキリスト教のイースターの意味を考えれば旧約聖書に書かれている事は全て歴史的真実などとは口が裂けても言えないはずである。
聖書を真面目に読んでいるキリスト教徒は極めて少ないのではないだろうか。カルト宗教にはまっている人は教団や指導者の都合の良いように良いとこだけを取り出し或いは曲解した説教やパンフレットにしか接しないのが普通であるがアメリカの白人キリスト教徒も全く同じではないかと疑わざるを得ない。
アメリカのエルサレム首都宣言などあってはならないことである。

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トランプと地に落ちたアメリカ…(2)

2018年03月19日 | 国際政治

トランプの暴言や、国家の重要ポストを担う人材「コーン国家経済会議議長に続く、テイラーソン国務長官」の辞任・解任のニュースが後を絶たない。
愈々トランプのアメリカ・ファーストはアメリカ・ワーストへの坂道を転がり始めた感がある。世界中の誰もが自分の周りで何かが起こっても、アメリカよりまだましだと言い出しかねない状況が近付きつつあるのではなかろうか。
国務長官後任のポンペオCIA長官に対してトランプは「膨大なエネルギーと知性」があり「われわれは常に波長が合う」との見解を示して歓迎した。
ポンペオはトランプが支持していた水攻め拷問の張本人であり、イランとの核合意に反対するなど反オバマの急先鋒と言う点でもトランプと歩調が合うのだろう。
しかし私が問題だと思うのはこの人物が福音派クリスチャンの中でも右派に属し全米ライフル協会の永世メンバーだと言う点である。(ペンス副大統領も福音派、共和党支持層はWASP(プロテスタント)が中心である。)
アメリカは言うまでもなくキリスト教国家である。アメリカ人の78.4%がキリスト教徒、内51.7%がプロテスタント(30%が福音派)、23.9%がカトリックである。

トランプは2019年末迄としてきた在イスラエル米大使館のエルサレム移転を国連総会大多数の反対を押し切ってイスラエル建国70周年の今年5月に前倒しすると発表、遂に「イスラエルの首都はエルサレムである」と事実上の宣言を行った。
ロシアのように東エルサレムをパレスチナの為に残しておくと言うような配慮はしていない。何れシーア派とスンニ派の対立が落ち着けばエルサレム問題はアラブとの大きな地雷原になることは間違いない。
この様な危険な行動を敢えてとる背景にはペンス副大統領、ポンペオ新国務長官のようなキリスト教福音派が政権の中枢を占め、福音派その他の右寄りのプロテスタントが共和党を支持していることが大きく影響している。
アメリカのキリスト教福音派は、聖書の言葉を厳格に守ることを教えの柱としている。
その聖書にはイスラエルに関する記述が次のように書かれている。“主はアブラムと契約を結び、こう言った。『この地…カナンの地…をあなたの子孫に与える』”。  福音派はこの記述を“神がイスラエルの地を、アブラムの子孫、ユダヤ人に与えた”と解釈しパレスチナの地は元々イスラエルのものだと主張しているのである。
紛争の原因は聖書は無誤・無謬だと言う硬直的な考えから来ている。
トランプはベストセラーとなったトランプ政権内幕の暴露本「炎と怒り」の指摘に過敏に反応し「自分はビジネスマンとして非常に成功し、テレビのトップスターにもなった。初の試みで大統領にもなった。
賢いのではなく天才だ。非常に精神的にも安定した天才だ。」…、通常自己評価と客観評価の乖離は20%程度、こんなに差がある人物を支持する人間が40%近くもいるアメリカ社会、福音派が代表するキリスト教社会とは一体何だろう。

註1「無謬」:教理や道徳に関する聖書の言及において、誤って導くことがないこと。
  「無誤」:聖書の歴史的、科学的言及において、誤った内容のないこと。
註2 聖書によれば…神はアブラムにあなたのの子孫にカナンの地を与えると約束。
  アブラムの子イサク、イサクの子ヤコブは神からイスラエルと言う名を与えられた。。
   
地に落ちたアメリカ…(3)
キリスト教福音派…聖書の世界の大罪 に続く

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トランプと地に落ちたアメリカ

2018年03月10日 | 国際政治
トランプが大統領に就任した直後の昨年2月初めに書いたブログ「アメリカ白人社会の素顔」の中で次のような感想を記した。

「……トランプの支離滅裂・異常な言動に酔い痴れ熱狂的にサポートするアメリカ人が多数いることが分かってくると、今迄、心の片隅に多少の疑念を抱きながらもアメリカを中心とする欧米諸国を文明先進国と崇めてきた一種独特な思い入れが一挙にはげ落ちてしまったというのが正直な感情である。もはやアメリカは文明の鑑でも、世界の模範国・理想像でもなかったことを自ら明示してしまった様な気がする。……」

トランプの直情的な異常行動は大統領選中と何ら変わるところは無いが、その後ろに控えているペンス副大統領や共和党が否定はおろか嫌な顔もせず黙認している様子を見ていると,アメリカは理想の国、偉大な国であり続けて欲しいという微かな思いも完全に吹き飛んでしまって、今迄思い描いて姿は残念ながら矢張り全くの虚像であったということを改めておもい知らされたと言う他はない。

アメリカに蔓延する軽薄な大衆文化がトランプを大統領を生み出した一つの要因であると言っても過言ではない.メデイアリテラシーに乏しく軽薄大衆文化にどっぷり漬かったプアーホワイト達こそがトランプの強固な支持層であるが、その軽薄な大衆文化の蔓延に一役買っていたのが誰あろうトランプ自身だったというのは真に皮肉な話である。

トランプがホスト兼プロヂューサーを務め、「素人」を集め金を渡しビジネスをやらせて、無理難題を押し付ける、ダメとなると"You are fired! "といって脱落させていくという低俗極まりない有名なテレビ・リアリテイ番組、「アプレンティス」(「見習い」の意味)。
この番組こそがトランプ支持者をお茶の間にくぎ付けにし大統領への階段を作り上げたことは間違いない。

3月6日米経済政策の実質的な司令塔・コーン経済会議議長が鉄鋼製品などに高額関税をかけると言うトランプの方針に反対し辞任した。
過去1年役職を外れ、或いはホワイトハウスを去った幹部スタッフは38%(64人中24人)、異常な数字である。
トランプが一年間に発した嘘や誤解を生む主張は2000回を超えるとワシントンポストが報じている。誤りが証明された嘘まで何度も平然と繰り返すのも含まれている。
高額関税も例外は認めないと言った舌の根も乾かぬうちに友好国日本、オーストラリアは例外とするなど一貫性が無く、全くの支離滅裂。
具体策無しの大統領令を連発し結果責任は一切負わない。各論は各担当大臣に任せてある、という言葉がしょっちゅう出てくる。
メキシコ国境の壁の建設をメキシコの負担で行う、TPPから離脱すると高らかに宣言した案も具体策は無く最近ではTPP復帰の発言すら聞こえてくる。
要するに、理念・哲学などはなく、只々思い付きの、無理難題を自分の閣僚に押し付けておいて思い通りの結果がでないと、最終的には"You are fired! "と叫ぶ。これはまさにトランプが得意とする「アプレンティス」のホワイトハウス版ではなかろうか。
ロシア疑惑等トランプのスキャンダルに巻き込まれる危険性と併せ考えれば‘’やってられない‘’と自発的に身を引く人も後を絶たないだろう。


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