追憶の彼方。

思いつくまま、思い出すままに、日々是好日。

世界の異常気象(4)

2022年11月20日 | 文化・文明
世界の異常気象(4) 水戦争・雲戦争 
「ローマの休日」「ベンハー」等の作品で知られる巨匠・ウイリアム・ワイラー監督の「大いなる西部」、グレゴリーペック、チャールストンヘストン、ジーンズシモンズ、キャサリンベーカー等の豪華スターを集めたこの作品、未だにテレビで再放映される西部劇の名作だが、この作品のテーマこそ「水の紛争」であった。1890年頃西部開拓華やかな時代、ワイオミング州ジョンソン郡で起こった畜産会社と牧場主・農民との土地と水の争奪に、殺し屋ガンマンや騎兵隊迄巻き込んだ壮烈なジョンソン郡戦争、パウダーリバー戦争が発生し,のちのちインデイアンも登場させて西部劇に豊富な材料を提供することになった。アメリカの中西部・南西部8州にまたがる大平原は、全体的に降水量が少なく、河川や湖沼などの地表水が少なかった為、水を巡る紛争が絶えなかったが、この地域の地下に存在する日本国土のほぼ1.2倍に相当する浅層地下水層(帯水層)の活用が行われるようになり、 揚水・灌漑技術の進歩もあってこの地域は在来の畜産に加え、小麦をはじめ大豆やとうもろこしの一大産地として、(Breadbasket of America=アメリカのパン籠)と呼ばれる程の全米有数の穀倉・畜産地帯となった。しかし近年大規模灌漑により水位低下が著しく、灌漑規模の縮小、段々畑や休耕畑の導入等の措置が取られ始めている。グランドキャニオンで名高いコロラド川流域の地下水層は既に深刻な状況に陥って居り、頼みはコロラド川の流水とその水を貯水する全米1,2位のミード湖、パウエル湖であるが何れもその貯水率が30%強まで下がり危機的状況となった為、8月16日アメリカ連邦政府はコロラド川の水不足を宣言した。コロラド川から飲料水や灌漑用水の供給を受けているアリゾナ州、ネバダ州、カリフォルニア州、メキシコに来年の減水を義務付けた。カリフォルニア州は2年連続で旱魃に見舞われ、今年は観測史上3番目、昨年は9番目の乾燥で山火事が住宅街迄押し寄せるニュースが連日報じられた。長期的な乾燥化に見舞われたコロラド川流域は、アメリカ西部の水の未来を占う「炭鉱のカナリア」(危険予知)と言われている。現地では水使用量の多い「米を栽培すべきでない」という声も上がり始めている。カリフォルニア州のサクラメント・バレーには、約50万エーカーの水田があり、農家は収穫した米の約半分を日本や韓国などに輸出している。日本では77万トンの米を輸入するが、そのうちの38万トンが米国からのものである。今後、世界的に水不足、食料不足が懸念されており、食料ナショナリズムが広がっていくだろう。日本も減反政策等の農業政策の早急な見直しが求められる。
前回ブログで触れた仮想水、日本の2005年輸入量は804億t、世界最大の仮想水輸入国であるが、その輸入先はアメリカ-60%、オーストラリアー14、カナダー8、ブラジル-4、中国-3%となっている。日本の実際の水使用量は800億t、日本が水不足に左程深刻でない理由は此処に存在するのである。
水を巡る国家化の争いは人口が増加し干ばつの影響を受けやすいサハラ砂漠以南のアフリカ、中東、南アジアが特に多い。
イスラム過激派テロに悩まされる東アフリカのソマリアでは降雨不足が4年継続し、今年の雨季も降雨量が平均に届かない恐れが警告されて居り、ロシアのウクライナ侵攻で世界的な穀物・油価格の高騰により、人口の約半分に当たる710万人が深刻な食料不足状態に陥り、栄養失調と飢餓で生命が危険にさらされ治安悪化に拍車をかけている。
砂漠地帯では水不足が住民の生命・財産に大きな影響を与えるため、各国の政権にとって常に内政上の課題であり、時に大きな外交問題にも発展する。
イラクでは2014年から台頭した過激派組織「イスラム国」(IS)との戦闘が昨年ほぼ終結し、荒廃した国土の復興にようやく乗り出したが、今年5月の国会の総選挙後、各勢力の連立交渉が難航し新政権は4カ月以上も発足せず、停電や断水が頻発し公共サービスは停滞、南部では汚染された水道水を飲んだ住民が多数入院しているという。旱魃で耕地が減少し離村者が相次いでいるとも報道されている。
エジプトではナイル川の水問題が外交問題に発展している。ナイル上流のエチオピアが2010年建設を始めた巨大ダムがその発端である。ダムが完成すれば下流への水量が減少する。2017年ウガンダで開催されたナイル川流域国による国際会議に於いて、エジプト大統領が「エジプトは人口も増え水不足が始まっている。流域国は水資源確保の為に協調すべきだ」と訴えたが、エチオピアは下流への影響は無いと一蹴し協議は難航している。エジプトが訴える背景にあるのは危機的状況にある国内の人口問題である。2020年2月11日昼食時小さな村で記念すべき女子が誕生した。人口が1億人を突破した瞬間である。エジプトで人々が暮らせる緑地帯はアイルランドの半分、砂漠を縫うように流れるナイル沿岸から、河口部のナイルデルタ地帯のみである。僅か4%の居住地に95%の人間が暮らしている現状から、エジプト政府は人口激増がテロと同様に国家の安全保障上の脅威であるとして、人口激増に対する「非常事態」を発表したが、地方では「大家族こそ神の恵み」の言葉が浸透して居て人口増の勢いは止まらない。一人当たり年間水消費量は2013年には663立方メートルまで減少し、国連が「絶対的な水不足」のラインとする500立方メートルも近付いている。中東はまさに、水資源を巡る争いの「最前線」になっている。
1967年の第3次中東戦争は、ヨルダン川の水を巡るシリアとイスラエルとの間での対立が大きな要因であったことはよく知られている。イスラエルはその後も長年に亙りゴラン高原と西岸・ガザの軍事占領を継続し、一方的にパレスチナの水資源を国際法に反して支配し続けている。占領地の地下にある滞水層から、その利用可能水量の8割以上を奪い、イスラエル領内および入植地で消費する一方、パレスチナ人は、ヨルダン川の水の利用を禁止され、また、井戸を掘るのにもイスラエルの許可が必要とされる。その結果、被占領地のパレスチナ人は、一人当たりの年間水消費量で比べると、イスラエル人のわずか5分の1の水しか得られず、恒常的な水不足に悩まされている。93年のオスロ合意も、この状況を打開するために何ら効力を持つことはなかった。近年、ガザの地下にある滞水層は過剰取水によって水位が低下し、塩水化が進んでいるが、浅い井戸からの取水しか認められていないガザ住民は、塩分濃度の高い水しか得ることができない。ガザで水道水をなめてみると、明らかに塩気があるのが分かると言われている。しかし、その一方、入植地では、水泳プールが整備され、あるいは灌漑用水としてふんだんに水が消費されているのである。
この様に旱魃による水不足が深刻な中東諸国で人口増雨に注目が集まり、雲を巡る争いが起こっている。
雨が降る仕組みは、低温の雲の中で氷の結晶が発生し、周囲の水蒸気を吸収しつつ雪のかけらとなって、雲の中を落下する間に成長し地上に近ずくにつれ溶けて雨となるというものだが、今や世界では自国上空で雲の中に結晶を作り雨を降らせようというcloud seeding(気象種まき)の開発に躍起となって居る。この手法はヨウ化銀の粒子を雲に打ち込み、雲の中で雨のもととなる雪の結晶を生成されるのを促進するというもので、世界気象機関(WMO)による2017年の調査では、50カ国以上が挑戦していると報じている。
中国はこの分野で先行しており2012年06月時点で、人工増雨による雨量は年間約500億立方メートルに達するが、快晴の日に人工的に雨を降らすのは不可能、又旱魃の季節に人工増雨に適した天候条件がそろうことは実は少ない。中国大陸では毎年6.1兆立方メートルの雨が降り、人工増雨で増える雨量は10%-15%程度と述べている。又生態環境への影響は軽微であるとしている。更に今年は極端な旱魃・熱波に襲われ効果は殆ど無かったとも伝えている。
一方中東での旱魃は中国より深刻で僅かな水でも確保しようと気象種蒔きに真剣で、イスラエルとUAE(アラブ首長国連邦)が開発の先端を走っている。UAEは(雲が無ければ雨は降らせられない)として空軍が24時間出動態勢を取り、雨雲も見つけると緊急発進し、雲が厚く「降雨の見込みが大きい」と判断した時には、空軍機を追加発進させ降水量を増やす試みを行う、さながら戦時体制の行動をとっている。
イスラエルはここ数年冬季12月、1月に集中豪雨が増え洪水被害の心配も出て居り、ガリラヤ湖の水位が戻った上、海水の淡水化技術や排水再利用技術の進歩で真水確保の問題は縮小したとして、60年に及ぶ人口降雨作業を中断した。オマーン、サウジ等UAE周辺国も人口降雨と海水淡水化が国家の大きなテーマとなっている。雲は移動するので、ある国が人口降雨技術を使うと近隣国は雨のチャンスが無くなる。雲獲得競争が軍拡競争の様相を見せ始めているとの報道がなされている。
イランの水不足も深刻だ。飲料水不足に政府・自治体に対する抗議デモも殺気立って居り。聖職者が暴徒に殴られると言う過去には無かったことも起こり始めており、「水よこせデモ」で昨年就任したライシ大統領に「ライシ死ね」の罵声迄飛び出すほどエスカレートしている。イラン政府は「イスラエルが雲を奪っているから雨が降らないのだ」と目を外に向けさせようとしているが、全くの逆効果で国民に政府の無策を印象づけてしまった。イランも国土の3分のⅠで人口降雨を試みているが、ほとんど効果が無く、逆に高コストへの非難が高まる一方で八方塞がりの状況である。国連の最新統計では一人当たり水資源賦存量はイスラエルが世界172位で84立方メートルしかないのにイランは111位で18倍程あり、イランが遥かに恵まれているのに利用できる水量では大差をつけられて居り行政の不味さを浮き彫りにした形になっている。
イランは治水事業に過剰に力を注ぎ日本以上に作り過ぎたダムが水の合理的配分を妨げているとの指摘もある。温暖化の影響で生命の源である水の取り扱いが益々難しくなりつつある。

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世界の異常気象(3)

2022年11月15日 | 文化・文明
世界の異常気象(3)

水不足問題
「自国にとって最も重要な資源は何か」と問われた時、即座に「水」だと答える日本人は少ない。しかし世界保健機関(WHO)のデータによると、世界に住む人の3人に1人は自宅で水道へのアクセスがなく、住宅から離れている井戸や源・川・湖などから水を手に入れる。さらに、約20億人が排水に汚染されている飲料水を使用して居り、これらの国の人々は間違いなく「水」こそが最も重要な資源と答えるだろう。
日本はアジア・モンスーンのお陰で、豊富な降雨・降雪があり、豊かな水量に恵まれて来た為、多くの日本人には水に対する切迫感が乏しい。名著『日本人とユダヤ人』の著者・イザヤ・ベンダサン氏が「日本は水と安全がタダ」の世界的に珍しい国と評した様に、レストランで水がタダで振舞われる事に日本人は何の疑問も抱かなかったが、そのような時代も過ぎ去る気配が見え始めている。
 「水の惑星」と呼ばれる地球、その表面の3分の2は水で覆われており、約14億立方キロメートルの水があると言われている。一見、潤沢にみえる水資源だが、最近では希少資源として呼ばれるようになって来た。地球上の水の多くは塩分を含む海水で、その割合は97%。残りの淡水も、多くは氷雪、氷河の形態で存在しており、残りの液体状の水のうち、ほとんどは地下水として地中深くに浸透しており、人間が利用可能な淡水は僅か0.01%しか無いのが実情である。この0.01%しかない貴重な水資源も、近年汚染が進行し、利用範囲が狭まりつつある。これが、「水の惑星」地球で、水不足が発生する基本構造であるが、加えて近年世界的な人口増加と地球温暖化が水不足に拍車をかける状況になっている。
日本は人口減少が社会問題化しているが、アジアではインド・パキスタン、アフリカではナイジェリア等を中心にアジア・アフリカで人口が急増しており、世界の人口は2015年-73、2022年-80、2030年-85、2050年には97億人に達すると予測されている。人口増加と人間の水利用量の間には高い相関関係があり、1950年には860億tだった使用量は、2025年には3,104億tまで3.6倍に拡大する見通しである。
歴史を振り返ると、人間は様々な水資源を巡り紛争が絶えず、古今東西を問わず人類史における大きな課題であった。それが近年人口増加と地球温暖化により水不足状態はさらに悪化し、紛争を多発させる原因となっている。とりわけ国境をまたぐ国際河川は、国家間の紛争の源になることが多く、例えばチベット高地の源流から6カ国を流れ、東シナ海に注ぐ(全長約4800Kmのメコン川)では、源流部の中国がチベットで大型ダムを建設した為、下流のタイ・ラオス国境地帯での漁獲量の減少やタイの穀倉地帯での水不足の深刻化、そして最下流ベトナム・カンボジアでの水不足や河口付近で海水の河川への逆流による淡水養殖魚の大量死といった問題が生じた。南シナ海の領有権が長年の懸案だったが、最近ではメコン川の管理が争いの火種になり、アメリカを巻き込み大きな紛争に繋がっている。
島国の日本では,国際河川の他国との共有によるトラブルを実感する様な事は先ず無いが,世界中には2つ以上の国が流域を共通している国際河川・湖沼が270程も存在しており,その国際流域は世界の陸域面積の約半分を占め,世界人口の約6割が国際流域に住んでいる.これら世界の6割に上る人々にとっては, 水資源に関わる安全保障が国家経済、国民の生命に直結する切実な問題になっている。
2000年から2019年までの20年間、水を巡る紛争や暴力事件は合計676件記録しているが。その約3分の2(466件)が2010年以降に発生しており、温暖化による旱魃が水資源紛争問題の悪化を加速させている事は明らかである。
エジプトで開かれている第27回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP27)で、途上国側は先進国が温室効果ガスを大量排出して経済発展を遂げた結果、地球温暖化が進み、各地で気候災害を齎しているが、その被害は社会基盤の脆弱(ぜいじゃく)な途上国で甚大であると途上国の国々が次々に窮状を訴えた。 ケニアの大統領は、アフリカ東部で大干ばつによる飢餓が深刻化している問題を挙げ、「『損失と損害』はアフリカの人々にとっての日常的な悪夢だ」と演説。今夏の豪雨で国土の3分の1が冠水したパキスタンの首相も「我々の排出量は非常に少ないのに、何の関係もない人災の犠牲になった」と先進国側を非難した。パキスタンの洪水は6月中旬からの異例の降水量に加え、北部山岳地帯に殆んど解けない氷河の一部が温暖化の影響で氷解しインダス川に流入したことが影響したが、国内で上流・下流間の民族間の水の争奪戦が、治水の為のダム建設に障害となったのも影響した。
こうした状況の中、11月9日(cop27)で、日本は国際環境NGOネットワークから不名誉な「本日の化石賞」を受賞した。気候変動対策に対して最も後ろ向きで、石炭火力発電の継続とその設備の輸出、脱石炭や温室効果ガス削減にも消極的と言うのが受賞理由である。日本が世界の水不足の原因に加担してしまっていると言われているのである。
加えて水量豊富な日本が多量の水を海外から輸入している点が注目され始めている。先ず水資源の代表選手「飲料水」の場合、国内のミネラルウォーター市場は、2006年の健康ブーム、2011年の東日本大震災で安全な水への行動変容でミネラルウォーターの需要が急増し、
国産ではニーズに対応できず、不足量はエビアン、ボルビック等の輸入品で補われている。しかしその輸入シェア―は10数%でさほど高くない。日本が大量に輸入している水資源は(飲料水)ではなく、間接的且つ目に見えない形で利用される(仮想水=バーチャルウォーター)である。この概念は、食料輸入国が、その輸入食料を自国で生産するとしたら、どの程度の水が必要かを推定したものであり、環境省の説明では、例えば1kg のトウモロコシを生産するには、灌漑用水として1,800 リットルの水が必要であり、牛はこうした穀物を大量に消費しながら育つため、牛肉1kg を生産するには、その約20,000 倍もの水が必要になると言われている。つまり、日本は海外から食料を輸入することによって、その生産に必要な分だけ自国の水を使わないで済んでいることになる。食料の輸入は形を変えて水を輸入していると言っても過言ではないのである。日本は食料自給率(カロリーベース)が低く、農林水産省のデータでは、1960年には79%もあった食糧自給率は、日本の人口増加、農家や農業従事者の減少、小麦や肉など海外の安価な食材の輸入などが増加等が原因で、2018年で37%と半分以下にまで落ち込んで居り、他国の水問題に深く関与している事を常に念頭に置いておく必要がある。

世界の異常気象(4)
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世界の異常気象(2)

2022年11月05日 | 文化・文明
「世界的な異常気象によるトラブル」(1)
(温暖化に苦しむ地中海諸国)
古代ギリシャ文明やローマ帝国を育み、今尚ヨーロッパ、アジア、アフリカ大陸を繋ぐ世界の海上交通の要衝の一つである地中海。夏は乾燥し、冬には湿潤な地中海気候がオリーブやブドウ等の樹木性作物の栽培の為の適地や、太陽を求めて世界各地から人を惹き付けるヨーロッパ屈指の観光地、仏のニース、伊のカプリ島,マルタ等の観光資源を提供して来た地中海が急速に進む温暖化の被害に苦しめられている。
元々海は地球温暖化の進行をやわらげる重要な役割を担って来た。 例えば、1971年から2010年までの40年間に地球全体で蓄積された熱エネルギーの9割以上は海洋に吸収され、 又地球温暖化の原因である人間活動によって放出された二酸化炭素の約3割を海洋が吸収して、大気中の二酸化炭素の濃度の上昇を抑えて来たという調査報告がある。しかし海洋の熱エネルギー等の吸収力も限界に達し海水温上昇が見え始めたことで、これがさまざまな地球規模の気候変動の発生頻度を高め、変動幅を更に大きくしていると見られている。深刻な被害を起こしている異常気象の正体は海水温の上昇に依る処が大きく、最早、海は(冷却水・冷却装置)ではなく、(湯たんぽ・温風器)に変わる危険性を孕んでいる。大気の温暖化に加えて、海が放つ熱が重なり気候変動をより激しくするようになったという事実が判明したのである。
そう言った状況の中、地中海平均の深さは1千5百メートルで、太平洋(4千200m)や大西洋(3千700m)に比べて可なり浅い。其の為海水温の上昇がより顕著となり易く、海水温の上昇は世界最速ペース、地球の海洋全体の20%も早く進んでいる。今年は海水面の温度が例年より4~5度高く、イタリア沖などで30度を記録し、地中海を囲む国々に深刻な熱波、旱魃、集中豪雨をもたらし、最悪の形で地球温暖化の影響を体感させることとなった。2017年に公表された英・仏・蘭3国の共同研究で海水温が上昇すれば沿岸各地の気温が上昇し、地上での水の蒸発が加速し旱魃に繋がる事が解明された。
今年度、地中海沿岸で極端な気象現象が相次いだ。スペインでは7月、アンダルシア地方で46度を記録、北部ガリシア地方でも44度を記録した。7月全土の平均気温はこれ迄の最高記録を2.7度も上回り25.6度、観測史上最高となった。日本で言う「熱帯夜」の状態が全土で1か月続いたことになる。ヨーロッパ・アルプスの観光も大きな被害を受けた。イタリアの世界遺産ドロミテとチロルの山小屋を巡るトレッキングで永久凍土と見られていた氷河が気温10度で崩落し11人の死者を出した。フランスとの国境にある欧州最高の名峰「モンブラン」は今夏一般客の登山が禁止され、フランス側では登山希望者には捜索費用等保証金200万円強の預託を義務付ける事態となった。フランス南部、世界有数のワインの産地・「ボルドー」周辺では連日あちこちで森林火災が発生し8月前半だけで被害は数千ヘクタールに及んだ。ボルドーと対峙する銘醸地帯・「ブルゴーニュ」では水不足でブドウの粒が小さくなり、ワイン生産に黒い影を投げかけた。他方コルシカや地中海沿岸のブドウ畑は豪雨に見舞われ水浸しの被害を被った。
エジプトのカイロ近郊では冬場の夜間気温が17度を超え(5~7度上昇)オリーブの収穫量が例年の90%減と壊滅的な被害を受けたと報じられている。
海水温上昇で海洋生物にも大きな影響を与えた。近年、ふ化したウミガメの子供の殆どがメスだったという調査結果が報告された。ビーチの巣の温度が30度を超えるとメスになり、34度を超えると死滅すると言われている。オーストラリア・グレートバリアリーフ北部で生まれた300匹以上の性別は99%以上がメスだったという結果も報告されている。
奈良時代、シルクロードを経て正倉院に辿り着いた地中海の赤サンゴ、今も名産品の宝石として日本でも馴染みの深い赤サンゴが大きな被害を受けている。サンゴは熱波によって、高温に晒されると其の儘死滅するか、或いはサンゴの体内に生息する共生藻を放出して栄養を断たれ、白化現象を起こして死に至る。スペイン・バレンシア州、イベリア半島49km沖合に位置するコルンブレテス諸島周辺の海底を覆うサンゴは、猛暑による熱ストレスを受けて全体の4分の1が失われた。サンゴ礁は「海の熱帯林」、「海のオアシス」と呼ばれ、一酸化炭素を吸収、酸素を供給し、更にはさまざまな生き物の住み家や産卵場所を提供し、海洋生態系の中で重要な役割を担って居る事が良く知られて居り、地中海諸国はサンゴ礁の保護・回復の研究に力を入れ始めた。
地中海はスエズ運河を通じ、紅海を経由しインド洋に繋がっているが、2015年の運河拡張工事と地中海の温度上昇によって熱帯・亜熱帯の魚が大挙して現れた。海洋生物学者の推計では1300種の外来種が生息し、生態系が崩れていると述べている。猛毒のセンニンフグや恐ろし気なカサゴ(日本では高級魚)にイタリアやクロアチア海浜の住民を震え上がらせている。
地中海に面していない国々でも旱魃と熱波は深刻だった。ドイツでは極端な干ばつで川や湖の水が大きく下がり交通や産業に影響が出た。河川交通の大動脈、ライン川が水位低下で麻痺状態、8月半ば一部で水深が30センチ、河川交通に必要な1.5メートルを大きく下回った。英国では7月、イングランド南東部のコニグスピー村で43度の最高気温を記録した。同国で40度超えは観測史上初めて、人気の観光地コーンウオール地方は普段の穏やかな景色が猛暑で一変、あちこちの湖が干上がり、地元メデイアは「この世の終わりの様な風景」と伝えた。
温暖だった西欧は豊富な水資源を生かした文明を築いてきた為、水不足対策は全くできていない。EUは節水を呼び掛ける程度で「渇水」と言う新たな危機に直面している。
この夏、熱波に襲われたヨーロッパでは各地で山火事が発生し、7月23日までの集計で2022年のヨーロッパ全土の森林焼失面積は欧州森林火災情報システム(EFFIS)によると、51.5万ヘクタールを超えた。この数字は2006~2021年の同期間平均の約4倍にあたる。
イギリスでは40度を超える暑さに襲われ、各地で山火事が発生。フランスは7月だけでも南西部のジロンド県の山火事だけで約2万ヘクタールの森林が焼失し、3.7万人の住民が避難を余儀なくされた。スペイン、ポルトガルでも最高気温が40度前後を記録し、ポルトガルでは250カ所を超える山火事による森林焼失面積が2017年以降最大となった。スペインでは熱波による死者は1000人を超えている。
ドイツも各地で40度超えの記録的な暑さに見舞われ、7月25日ごろから東部ブランデンブルク州のチェコとの国境沿いで両国にまたがって大規模な森林火災が発生した。本格的な消火活動が空と陸から行われたが、完全な鎮火には「数週間かかる」と当局は述べている。とくに乾燥した松林に覆われた同地域では、第2次世界大戦で残された不発弾などの弾薬が地中に多く埋まっていることから消火が難航し、住民も避難を強いられた。
猛暑は山火事や作物への影響だけでなく、経済活動や人間の日常生活そのものにも深刻な影響を与えている。大半の世帯が冷房装置のない欧州では熱帯夜で眠れない夜が続いて居り、一般家庭でも冷房機の設置が不可欠になりつつある。


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