追憶の彼方。

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グリニッチセンター世界地図の勧め(3)

2023年12月27日 | 文化・文明

グリニッチセンター世界地図の勧め(3) 航路開拓に名を借りた白人の悪行 

1520年11月末、マゼラン達は荒れ狂うマゼラン海峡を1か月も要してやっとの思いで通り抜けた。新しい海は平穏な大海原、太平洋と名付けたが、出くわすのは無人の岩礁のみ、食料補給基地も見当たらず、食料不足による飢餓と壊血病等に悩まされ20人超の死者を出す地獄の航海となった。餓死寸前の状態で大海を彷徨った艦隊は赤道付近の貿易風のお陰で152136日グアム島10日後にはフィリピン諸島に辿り着いた。  フィリピンではスペインの領有権を主張、キリスト教の布教に努めたが、不用意に部族間の紛争に介入し、4月末敢え無く戦死してしまった。この戦闘で大幅に人員が減り、1隻を破棄し残り2隻で迷走しながらも11月8日香料諸島(インドネシア、マラッカ)に辿り着き、諸島では王の厚遇により大量の香料(グローブ)を得て、帰路に就くが1隻がポルトガル官憲に拘束され、結局エルカーノを船長とする1隻、乗員60人だけで香料諸島を出発する。ポルトガルの勢力圏内で途中の港に立ち寄れない為、壊血病と栄養失調で多くの死者を出しながらも152296日スペインに帰国する。スペイン帰国時の乗組員は21名、内3人は途中で乗せたマレー人で、出発時約270人の乗組員のうち世界周航を達成できたのはエルカーノや艦隊の記録を書いたピガフェッタ18人だけであった。世界1周出来たのはマゼランではなく、彼の船団の一部であった。3年に亙るその航海距離は6万マイル(9万6千キロ)、地球を2.4周したことになる。 

15世紀末、イスラム勢力を追い出しキリスト教徒の土地・イベリア半島を取り戻そうと、ポルトガル王国やカステイリャ王国等のスペインによって「レコンキスタ=再征服」が展開され、グラナダ陥落で完了した。  

それを契機として地中海を中心としたヨーロッパ内の紛争に影響される事が比較的少なかった事が幸いし、ポルトガルによる外界への膨張が一気に加速し、西洋史上始めてアジア、アフリカ、アメリカ(南米)に跨る海洋帝国を形成した。  僅か150万人程度の小国ポルトガルが大航海時代の先鞭を切った背景には、ヨーロッパの南西端で大西洋に臨み、北アフリカに近い地理的利点が大きかった事と、レコンキスタに培われたカトリックの聖戦意識が南下膨張を正当化したのである。ローマ教皇から非キリスト教世界の「征服=コンキスタ」と貿易の独占権の勅書を得ていたポルトガルは、アフリカ・喜望峰廻りでインドを商業拡大の目的地に据えたのに対し、スペインは西回りでのインド到達をコロンブスに託した事が幸いし、アメリカに到達した。

非キリストの異教世界はカトリックの布教予定地で、同時にイベリア両国の潜在的領有地となり、これらの土地を領土とするために武力征服をすることはローマ教皇が認可する正当な行為であった。当時教皇から「布教保護権」を与えられたのがスペイン・ポルトガルのみだったことから、両国は未知の世界に航海し、武力で奪い取った地を植民地として支配し、そこで貿易などを行う独占的権利を主張した。両国は海外での衝突回避の為、1494年6月にトルデシリヤㇲ条約を締結、大西洋の真ん中に境界線を設定し、東側をポルトガルが、西側をスペインが領有することに決めた。その後、教皇ユリウス2世は1508年に大勅書を両国の国王に発して、布教保護権を恒久的に付与した。その結果ブラジルはポルトガル領、それ以外のアメリカはスペイン領となった。

この様な背景のもとに、コロンブス、バスコダガマ、マゼラン等の探検家が活躍し、両国繁栄の財をもたらして、本国では英雄視されたが、彼等が領土や航路確保の為に重火器を用いて行った先住民への脅迫、蛮行,人命、人権無視の等の非道な行動は殆ど語られていない。

上の写真はプンタアレナスの公園にあるマゼラン銅像であるが、大砲に足を掛けたマゼランの下に先住民がそれを支える構図に成って居り、近年人権意識の高まりで評判が良くないと報じられている。又フィリピンではマゼランを戦死させた人物「ラプ・ラプ」は抵抗と誇りの象徴として国民的英雄となり、ラプラプ市には銅像が、又マゼラン到着500週年記念行事の一環として戦闘の様子を示すモニュメントが建てられている。

 

グリニッチセンター世界地図の勧め(4) 航路開拓に名を借りた白人の悪行…… に続く

 

 

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