追憶の彼方。

思いつくまま、思い出すままに、日々是好日。

戦争責任...(1)

2018年08月26日 | 国際政治
戦争責任
古今東西如何なる理由があろうとも侵略戦争に大義などある分けがなく,悪であることに変わりはない。そういった意味では多くの犠牲者を出した太平洋戦争は連合国が善で日本だけが悪だという事にはならない。
太平洋戦争は中華民国やオーストラリアを除く連合国と日本双方の覇権・膨張主義、植民地政策がぶっつかりあった侵略戦争であり両者の責任は極めて重い.

しかし戦争の発端は日本が仕掛けた満州事変であり、資源を求めてフランス領インドネシアへ日本が進駐したことなど、後発帝国主義国・日本が欧米列強のアジアにおける既得権益を侵犯するのを牽制する必要上、経済制裁としてアメリカが日本に対する石油禁輸措置に出た事にある。
日本は局面打開の為対米交渉を行ったが、軍部強硬派の東条英機が首相に就任した事もあって、日本の姿勢に疑いを抱いたアメリカは「中国・仏印からの全面撤退と三国同盟(独・伊)破棄」を通告してきた。この所謂ハル・ノートは以前には無かったような厳しい内容で、軍部を中心に到底受け入れられるような内容ではないとして、破れかぶれで勝算なき戦争に突入した。日本は宣戦布告もせず奇襲戦法を用いて真珠湾攻撃を行い自ら戦争の火蓋を切ったのである。理由の如何を問わず戦争を仕掛けたのは日本であることは間違いない。
明治政府成立6年後には早くも台湾に出兵し、以降太平洋戦争敗戦に至る凡そ70年間戦争の連続だった。国民の苦しみを無視して、なんと戦争好きな政治家の集まりだったのだろうか。(この点については後で触れたい。)

この戦争は日本が独立国として存続するための自衛戦争、あるいは西洋帝国主義諸国の植民地主義と戦って、過酷な支配の下にあったアジア植民地を欧米列強から解放するための戦争であったと主張し、戦争はアジア諸国の侵略を目的としてものではないとする意見が根強く存在する。 中曽根元首相が言い始めた言説だが、靖國派と称されるような主として日本会議を活動拠点とする自称保守の右派の面々がこれに飛びつき、今に尾を引き国際紛争、日本に対する不信感の種になっている。
では本当にそうだろうか。
そもそも日本はモンゴルの初代皇帝フビライが七百数十年前に日本征服を目論んで対馬・壱岐等に来襲した元寇以降太平洋戦争末期に至るまで侵略目的で仕掛けられた戦争など存在しない。侵略された経験もないのに侵略される恐れがあるとして、朝鮮半島や満州・モンゴルは北からの侵略を防ぐ日本の自存・自衛の防衛線であると勝手に決め込んでこれらの国に侵略したことを正当化するのであれば何でも自存自衛にすることができる。
北朝鮮や中国、ロシアが沖縄や九州をアメリカの侵略を防ぐ自存自衛の防衛線だと言って侵略するのと同じ様な暴論なのである。
戦時中、軍の圧力にも屈せず反軍演説で有名となった民政党の斉藤隆夫は「日本の大陸発展を以て帝国生存に絶対必要なる条件なりと言わんも、自国の生存の為には他国を侵略する事、可なりとする理屈は立たない。もしこれを正義とするならば切り取り強盗は悉く正義である」と述べてている。狂犬病を患ったような狂気の軍部を相手に命の危険も顧みず実に勇敢な正論である。

次にアジア開放のための戦争だったという侵略戦争正当化論である。
橋本龍太郎元首相は「中国に対しては侵略、朝鮮に対しては植民地主義と言われても仕方がない…しかし、第二次大戦の米英との戦いが侵略戦争かどうかは疑問」と多少潔い発言を行っている。日清戦争は朝鮮を植民地化する為の清国と日本の覇権争いであり、日露戦争は満州(中国北東部)と朝鮮の支配権を巡るロシアと日本の覇権争い、即ち双方からの侵略戦争であることを認めたのはコチコチの歴史修正主義者と異なっている。
しかし後段の米英との戦い云々の発言は不勉強なのか、或いは極東国際軍事裁判の結果を否定したい靖国派等の連中に配慮したのかわからない。
しかし1943年5月の御前会議で決定された「大東亜政略指導大綱」では領土的野心むき出しの内容になっている。満州・中国・タイ・仏印(フランス領インドシナ…ラオス、ベトナム、カンボジア)・ビルマ・フィリピン・その他の占領地域を日本の支配地域とし、そのうちマライ・スマトラ・ジャワ・ボルネオ・セレベスは「帝国領土と決定し、重要資源の供給地として極力これが開発並びに民心掌握に努む。」と決定している。欧米の植民地支配者に取って代わってアジアの支配者になろうとする醜い侵略者の姿そのままである。

東京裁判の中には誤りもあるが、日本はサンフランシスコ講和条約で軍事裁判判決を受諾して国際社会に復帰できた。それを忘れて『勝者の裁き』というのは誤りだ。
敗戦となる1945年8月までの凡そ70年間日本は戦争を繰り返し日本だけでも3百10万人に及ぶ犠牲者を出し、又原爆や空襲で国土を破壊し尽くした。
戦争は、災害が静まるように自然に終わったのではない。 正常な精神状態ならばとっくに降伏していたはずのところを、無謀な玉砕戦を1年近く引き延ばした挙げ句、万策尽きて無条件降伏したのである。
原爆投下や特攻隊は政治家・軍隊の戦争責任者の責任逃れの優柔不断が招いた結果である。彼等は真に卑怯で無能な人間の寄せ集めであった。
卑怯な人間の特徴は自らは安全な場所にいて率先して動くことをせず、身の安全を図るため卑劣な行為を行うのに罪悪感がない…色んな資料を読んだ正直な感想である。


戦争責任…(2)へ
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敗戦の日

2018年08月18日 | 政治・経済

1945年8月15日、疎開先の母の実家の狭い納屋の中、母と姉二人を交えた4人でラジオから流れる玉音放送を聞いた。国民学校一年生の身には全く理解できなかったが、母が ”戦争に負けたらしい、やっと終わった”と嘆息混じりに発した言葉だけは鮮明に記憶に残っている。
確かに一家を支え苦労の絶えなかった母にとっては,戦争に負けたことより戦争が終わったこと、敗戦より終戦の方がはるかに意味が大きかったというのはよく理解できる。

日本が連合軍にポツダム宣言を受け入れることを表明し、降伏したのが8月15日、従ってこの日が敗戦の日であり終戦の日でもある。(日本政府が「ポツダム宣言」の文書に調印したのが9月2日、アメリカ、イギリス、フランス、カナダ、ロシアなどの戦勝国では、一般的に9月2日を「戦勝記念日」と定めているが、どちらをとっても大きな意味はない。)

ポツダム宣言は「日本国民を欺瞞(ぎまん)し、之をして世界征服の挙に出づるの過誤を犯さしめたる者の権力及勢力は、永久に除去せられざるべからず」と明記した。
不正義の侵略戦争を断罪し、侵略戦争推進勢力の責任を鋭く追求したものであるが、日本はこれを受け入れたのである。
しかしこのポッダム宣言受諾にも拘わらず、日本の軍部や、政治家、内務省・外務省等の戦争責任者達は戦中・戦後を通じて、退却・撤退を「転戦」、全滅を「玉砕」・「散華(さんげ)」と言い募ったのと同様、敗戦を「終戦」と言って責任逃れをしようとし、それが今でも尾を引いて日本社会の無責任体制を作り出している。

私の母のように庶民感覚としては「終戦」でも一向に構わないが、 戦争責任を明らかにしたくない勢力にとっては当事者意識を覆い隠し、他人事のような響きを持つ「終戦」という言葉は責任の追求を逃れるための好都合な表現だ。

過去を真に反省し 周辺諸国から信頼される国になるためには「敗戦」であることを素直に表すべきだと思う。
わざわざ8月15日を選んで靖国神社に参拝する国会議員達には、何やら選挙目当て等の意図が透けて見え、非を素直に認める潔良さが欠落している点と重ね合わせ誠に醜い姿と言わざるを得ない。
彼等が一様に口にするのは…「お国のために」戦って「尊い犠牲」となられた「英霊」…という言葉である。
戦争で亡くなられた人の命は尊いけれどお国の為にはなっていないし、犠牲は悲惨・無慈悲で無駄であった。
お国の為という言葉は無知な国民を、必要のなかった戦争に駆り出す為の職業軍人達の便利な口説き文句、宣伝惹句に過ぎない。
戦争末期学徒動員等で駆り出された若者はお国のためではなく、自己の責任を回避しようと「戦争責任者が戦争を長引かせるために」利用された無駄な死であった。無理やり特攻隊や人間魚雷で死んだ彼等若者の「戦死」を尊い犠牲、英霊などと表現することなど許されるわけがない。これらの言葉はすべて終戦と同じペテン用語、志願し自己犠牲で死を選んだわけではない。戦後出版された「きけ、わだつみの声」を読んで見れば前途有為の優秀な学徒がどんな思いでいたかよく理解できる。

…「戦争責任」へ
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米朝首脳会談の行方

2018年08月12日 | 国際政治

板門店での南北首脳会談やシンガポールの米朝首脳会談の当事者たちが得たものは何だったのだろうか。
韓国の文大統領にとっては冬季オリンピックを利用して、北朝鮮を米対決姿勢から融和ムードに導き一触即発的な状況にあった偶発的な米朝戦争を回避した功労者であるという名声を得たこと、又それによって国内の政治的基盤が一段と安定したことだろう。

一方トランプにとって米朝会談は単なる一つの政治ショウ、オバマが出来なかった非核化への道を開いた偉大な大統領というアピールが出来れば、結果はどうでも良いという程度の話だろう。
事実アメリカが得たものは捕虜の釈放と遺骨の返還(DNA鑑定はしたのか疑問)だけで、その見返りとして相手の金正恩に与えたものはとてつもなく大きい。トランプが自慢するデイール外交とは所詮その程度のものなのである。

首脳会談の合意文書でトランプは北朝鮮に対して体制の保証を約束し、キム委員長は朝鮮半島の完全な非核化の決意を確認した。さらに板門店宣言を再確認までする念の入れようである
北朝鮮が約束したのは飽く迄、北朝鮮に限定したものではなく、朝鮮半島全体の非核化であって、当然韓国駐留米軍の非核化、更には米国による韓国への核の傘をも除去することが含まれる。板門店宣言では朝鮮半島での不戦、と両国の軍事的敵対行為の全面停止が盛り込まれている。この宣言が持つ意味合いは非常に大きい。この宣言により米国が同盟国である韓国の意向(=板門店宣言)を無視して北朝鮮を攻撃することは事実上不可能になった事を意味する。
米国は「斬首作戦」や「鼻血作戦」といった物騒な脅かしの手段を失ってしまったことになり、今後米朝間で亀裂が生じ非核化へのシナリオ実現が困難な情勢になっても米国が軍事オプションに訴えることは極めて困難となった。

残された切り札は国連を通じての経済制裁であるが国連敵視を声高に叫ぶトランプの影響で、時間の経過とともに、なし崩し的に制裁効果が無くなる可能性がある。
8月4日シンガポールでのASEAN地域フォーラム(ARF)でもASEAN10カ国の大多数と会談を重ね議長声明も北朝鮮の意向を忖度した内容になっている。中国・ロシアは色々理由をつけて制裁を反古にするような動きを見せている。
議事録もないTOP二人の会談で何が話し合われたのか、北朝鮮のアメリカへの対応は強気である。
7月初旬のポンペオ国務長官・金英哲労働党副委員長会談で「非核化の履行と検証の為の作業部会の設置」で合意したと報じられているが、ポンペオが会談は建設的だったと記者団に語ったのに対し、北朝鮮外務省報道官は「米国は一方的で強盗のような非核化要求を持ち出した」と非難し、更には李容浩外相や北朝鮮労働新聞は「完全な非核化が実現するまで制裁を続ける」と唱える米国の国務省、財務省、議会を批判し、制裁を緩めないのは「対話の相手に対する常識外れの非道な行為」「口先だけの関係改善を叫び、何も履行していない。」「大統領の意図と異なる米国内の試みは許されない。」等訴えている。
もはやトランプが当初叫んでいた「完全で検証可能、不可逆的な非核化(CVID)」は完全に遠のいた。トランプの弱腰が目立っている。
最近、北朝鮮はイランと接近する等アメリカの神経を逆撫でするような動きを見せている。
金正恩にとって核兵器は身の安全の為の最後の手段、自国憲法にも「核保有国」と明記しており、非核化のプロセス(核兵器の凍結、解体、査察、検証等)は極めて煩雑・複雑で長い年月が必要である。トランプの任期中に決着を付けることなど誰の目にも不可能なことが明らかである。
北朝鮮が盛んに求めている「戦争終戦宣言」はまさにそれである。戦争終結となれば制裁を続ける意味合いが大きく薄れる。

制裁緩和とその抜け道を探しながら時間を稼ぎ見せかけの核放棄でお茶を濁し、いずれかの時点で核保有国の仲間入りを果たす。
それを背景に朝鮮半島での南北統一や対日交渉でも主導権を取ろうとするだろう。
何をやっても成功しないトランプの責任は極めて重い。
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ロシアンゲート問題

2018年08月05日 | 国際政治

ニクソン元大統領が野党民主党へのスパイ活動に関わった事件で、ニクソン自身ががFBIに捜査の中止を命令するなどの関与が明確になり、辞任に追い込まれた所謂ウォーターゲート事件になぞらえ、トランプのケースをロシアンゲート事件と呼んでいる。

2016年アメリカ合衆国大統領選挙において共和党のトランプを勝利させるために、ロシアがサイバー攻撃やSNS等のプロパガンダの手段を使って行ったとされる一連の世論工作、選挙干渉等の事件捜査に関しトランプが妨害を行った疑いがあり弾劾裁判等ニクソン同様、大統領辞任につながる可能性があると言われる事件である。
2016年10月、アメリカ国土安全保障省が、大統領選挙においてサイバー攻撃による妨害が行なわれていたことを認める声明を出したが、大統領選は11月8日に投票が実施されトランプは僅差で当選を決めた。    同年12月9日、米紙『ワシントン・ポスト』は、アメリカ中央情報局 (CIA) の秘密評価報告書を引用し、「サイバー攻撃はロシア政府機関のハッカー集団によるもので、ドナルド・トランプ側の勝利を支援するものである」と報道した。

12月29日、オバマ大統領(当時)は、ロシア政府が米大統領選に干渉するためサイバー攻撃を仕掛けたとして、アメリカ駐在のロシア外交官35人を「 Persona non grata=好ましからざる人物」として国外退去処分、2つのロシア関連施設閉鎖など新たな制裁措置を発令した。
これに対してロシア政府は猛烈に反発し、トランプ陣営も「ロシアが攻撃した証拠はない」と表明し、翌年5月9日、ロシアの選挙介入とトランプ氏の選挙活動との共謀の可能性に関して捜査していたジェームズ・コミー連邦捜査局 (FBI) 長官を解任した。
後日、トランプは、解任理由として「コミーは目立ちたがり屋で、組織を混乱させていた」ことを挙げている。(これについては、コミーではなく自分のことだろうと揶揄する報道が多数あったと伝わって来ている。)

これに対しアメリカ司法省は司法の独立を死守すべく、その対抗手段として5月17日トランプ大統領の陣営がロシアによるサイバー攻撃などに関与したのではないかという疑惑に関連し、ロバート・ミュラー元連邦捜査局長官を特別検察官に任命した。  
2018年2月16日、ミュラー特別検察官はソーシャルメディア(TwitterやFacebook)でアメリカ人になりすましたアカウントを作り、世論工作を行った容疑でロシアの個人13人と企業3社を起訴したと発表した。容疑者達は政治集会やソーシャルメディアでフェイクニュースを流布するなど、トランプ政権に繋がりのある人物を複数回接触していたことが明らかとなっている。
7月26日、FBIはトランプ大統領の選挙対策本部長だったポール・マナフォートの自宅を家宅捜索し税金関連の書類や外国金融機関の取引記録からマネーロンダリングや脱税など12の罪で、又トランプ陣営で外交顧問だったジョージ・パパドプロスを偽証の罪でそれぞれ起訴した。
また、12月1日には、フリン前国家安全保障問題担当大統領補佐官を連邦捜査局に対する偽証の罪で起訴した。
大統領の長男ドナルド・トランプ・ジュニアらがロシア人弁護士と面会した問題を巡って大陪審を招集し長男本人に召喚状を出した。
6月8日、ミュラー特別検察官はマナフォート元選対本部長を自身のマネーロンダリングと銀行詐欺の公判における証人2人に対し政治コンサルタント・キリムニック被告を通じて接触し、偽証するよう働きかけた為司法妨害罪で追起訴し、政治コンサルタントを同罪で起訴した。
7月13日、ミュラー特別検察官は民主党関係施設などをサイバー攻撃を行ったとして、ロシア連邦軍参謀本部情報総局の情報当局者12人を起訴した。
以上の通りトランプ包囲網は急速に狭まりつつある。

トランプはプーチン大統領との会談で疑惑解消の為の証言を得る積りであったが全くの逆効果で国内から多くの批判が集まった。
堪りかかねたのか8月1日ツイッターで「これ以上米国を汚す前にこの不正に仕組まれた魔女狩りを今すぐやめるべきだ。」という子供じみた批判で多くの失笑を買っている。ミュラー特別検察官が自身への度重なる批判に対し司法妨害疑惑でトランプから事情聴取する意向があると聞き上記ツイートに繋がったらしいが司法妨害には妨害の意図を立証する必要があるが、今回のツイート自体がその証拠になる可能性すら指摘されている。すべてトランプがコミーFBI元長官を突如解任したことに端を発する、浅慮・短慮の自からが蒔いた種、身から出た錆である。

ロシアによる工作は、ヨーロッパ各国の選挙や政治でも指摘されている。
先日NHKBS1スペシャルで放映された「フェイクニュースを阻止せよ」の内容は凄まじい内容であった。
極右政党のル・ペンを誕生させEUを瓦解・大混乱に陥れようとマクロン現大統領陣営への攻撃は激烈・執拗を極めた。フェイスブック、ツイッター、インスタグラムといったSNSを駆使しマクロン氏に関し「アラブの資金」「米国の代理人」「同性愛」「隠し口座」等々…誹謗・中傷・でっち上げスキャンダルがフランス中を駆け巡った。
発信元に”ル・ソワール”と言うベルギーの新聞を使った場合もあるが「ル・ソワール」のデザインをまるごとコピーした偽物だったという手の込みようである。
マクロン陣営は数回に亘りサイバー攻撃を受け、多量の文書流出が発生したが、この調査を行ったセキュリティ会社「トレンドマイクロ」は、その手口から、米大統領選で民主党全国委員会などのサイバー攻撃を行ったロシア政府傘下のハッカー集団「ファンシーベア」によるものと認定している。アメリカの国家安全保障局(NSA)長官で米軍サイバー司令官のマイケル・ロジャーズ氏も、アメリカも米上院軍事委員会の公聴会で、フランス側にロシアによるサイバー攻撃について警告していたと証言している。

しかし選挙投票の得票率はマクロン氏66%、ルペン氏34%で略当初の予想通り、フェイクニュースやサイバー攻撃の影響は伺えなかった。
マクロン陣営のサイバー攻撃対策や、フランスの検察当局の迅速な動きに見られるように、米大統領選の混乱を目の当たりにして、かなりの分析と学習をしていたことは明らかだ。
NHKBS1の放送でも強調されたがフランス・メデイアの民主主義を守るための頑張りも大きかった。米大統領選でのフェイクニュースの氾濫を目の当たりにし、仏の大統領選に向けて対策に取り組んで来たのである。
ニューヨーク・タイムズはメディア環境の違いをあげる。フェイクニュースを阻止するために社を上げて闘ったフランスの新聞リベラシオン、その編集局長、ヨハン・ハフナゲル氏はこう述べている。フランスにはFOXニュースがないからだ。(FOXのように)幅広い視聴者とパーソナリティを持ち、(フェイクニュースなどの情報を)積み上げて、それを自身のアジェンダのために使おうとする放送局がないのだ。アメリカと違ってヨーロッパの民主主義は筋金入りであることが明白である。
サイバー攻撃の発信元は次の標的はドイツ・メルケルだと公言している。 この人物はトランプに近い米国の右派サイト「ディスオビディエント・メディア」や、トランプ支持で知られる米国の右派ライター、ジャック・ポソビエックと言われている。
只、米欧の超党派・官民が連携してこれに対応しようとする「Alliance for Securing Democracy」(ASD) というグループが活動を始めている。このうち2016年米大統領選問題は、在米ドイツ系財団GMF (German Marshall Fund of the United States) を拠点とする「ハミルトン68」が担当している。
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「トランプリスク」…世界貿易戦争への崖っぷち…(4)

2018年08月01日 | 国際政治


米国が仕掛けた貿易戦争の象徴的事件としてハーレイ・ダビットソンの海外移転が大きな話題となった。
「イージーライダー」を筆頭に多くの米映画の主役を演じ、アメリカ文化の象徴の一つでもあるハーレイが鉄鋼・アルミ関税への報復として欧州の25%の追加関税の狙い撃ちにあい、耐えきれ無いとしてミズリー州からタイへ工場を移転することを決めたというものである。
大統領就任直後、ハーレー幹部をわざわざホワイトハウスに招き、「アメリカのお手本企業だ」とべた褒めしていた相手が真っ先に白旗を掲げた、トランプのメンツ丸つぶれである。
慌てて口汚く罵り、脅かしたり、すかしたりて思い止まらせようとしたが、過去何度も倒産の危機を経験し、今も米国内販売が低迷、欧州の重要性が一段と高まっている状況では経営者としては当然の選択である。
金融・為替、国際分業・グローバリゼーション・サプライチェーンといった通商経済政策の理論的裏付け皆無のトランプや取り巻き連中にとって自らが仕掛けた貿易戦争が自分達にどのように跳ね返ってくるのか予想もしていなかったのではないだろうか。
要はトランプの後ろに控える強硬派の二人の人物、LBOを駆使し企業買収で財を成したロス商務長官や大統領選での政策アドバイザーで、筋金入りの中国脅威論者ピーター・ナバロ国家通商会議ディレクターの二人の楽観主義、見通しの甘さに加え、トランプが脅かせば世界は平伏すだろうという時代錯誤が招いた結果だろう。
ナバロ氏は鉄鋼アルミ関税をぶち上げた際「これは国家安全保障の問題であり、どの国も報復してくるとは思わない」と記者の質問に答えている。
しかしこけおどしのトランプ戦法はメキシコや北朝鮮との交渉経過から、すっかりその正体が見破られてしまい最早世界で通用しなくなっている。中国,EU、NAFTA加盟国カナダ・メキシコの報復、しかもハーレーやバーボン、大豆等の農産品といったトランプや共和党の票田である地域の製品が狙い撃ちにあった。
案の定米国経済界、自動車業界までもが関税引き上げに猛反対を唱えトランプは窮地に立って立往生していたが、救いの手を差し伸べたのがトランプが米国最大の敵とまで名指ししたEUである。
7月25日EUのユンケル欧州委員長がトランプを訪れ、自動車を除く工業製品に対する関税や政府補助金、非関税障壁といった貿易障壁の撤廃に向けて取り組むことで合意した。交渉を進める間は自動車関税の発動を控えることも示唆したと報じられている。
米国自動車工業会・部品工業会等は「逆効果の一方的行為は投資の削減、雇用の減少従業員賃金減少、経済成長阻害に繋がり、安全保障の保護に何の効果もない」と一刀両断である。
経済・外交共に素人の寄せ集め集団に過ぎないトランプ政権は当に世界のトラブル・メーカーであり、今回トラブル・シューターの役割をEUが演じてくれていなければ、それこそ1930年代アメリカの愚かなフーバー大統領が仕掛けた貿易戦争、これが世界恐慌・世界戦争の引き金になったのと全く同じ事態の再来はひとまず避けられたようだ。
貿易戦争第一弾はトランプの完全敗北、EUに大きな借りを作ったことになる。
恐らくトランプはこのデイ―ルさえも「自分の欧州に対する大きな勝利」だと捻じ曲げ、情報源は「Foxニュースとトランプのツイート」しか持たない愚かな選挙民・プアーホワイト達の前で誇らしげに叫ぶことだろう。
トランプの出現によりアメリカによる世界での発言力は益々低下する。中国の一帯一路構想は色々問題を抱えながらも徐々にその効果を発揮し東南アジアやアフリカにおける中国の影響力は一段と強くなった。
ここ30年中国の台頭で世界経済に占める新興・途上国の比率は4割に達した。中国を最大の市場とする国は30に上る。又電子商取引で世界でトップに立った中国は情報や通信分野での業界標準作りで主導権を握る水準に達しつつある。
米国が軸となって作った貿易のルールや多国間の枠組み・協定に背を向け壊すような孤立主義・自己中心主義を貫いている間に中国が世界経済の中心となり世界経済のルールを作る時代に近づきつつある。ルールではなく力で物事を決める中国の様な独裁国家が世界標準を決める様な事態は自由主義・民主主義の崩壊に繋がるものである。

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