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世界の異常気象(7)

2023年02月05日 | 文化・文明
世界の異常気象(7) 偏西風の蛇行
10年来の最強寒波襲来で日本列島は凍り付いてしまった。日本一寒い町と言われる北海道十勝の陸別町では2月9日に-31.8度を記録、(昨年7月32.4度の猛暑を記録)、又旭川市の郊外にある江丹別では同日朝7時-36.0度まで下がり、国内では19年ぶりの低温を記録した。北海道に止どまらず北陸・山陰に至る日本海側は強風・大雪で物流始め経済活動が麻痺してしまい物価高騰等社会生活に大きな支障を生じさせた。
凍り付いたのは日本だけでなく、世界各地を震え上がらせた異常寒波は先ずアメリカ、カナダを襲った。
ニューヨーク・タイムズに伝えたところによると、昨年12月22日米国中部と北部の一部地域で気温が急降下し強風と吹雪をともなう酷寒に見舞われた。クリスマスを控え米国に氷点下50度を超える寒波が吹き荒れ、あちこちで市民が厳しい寒さに耐えるため厚いふとんをかぶったまま外出する珍風景まで見られた。地域別ではイリノイ州シカゴが氷点下53度、テネシー州メンフィスが氷点下54度を記録した。モンタナ州エルクパークは気温が氷点下45度まで下がり、体感温度も氷点下59度まで落ち込み、米国気象庁も「生命を脅かす寒さ」として警告する程であった。
ニューヨーク市はホワイト・クリスマスとならなかったが、ナイヤガラのアメリカ側の観光基地でNY州第2の都市・バッファロウは昨年末、気圧が急降下して「爆弾低気圧」が発生、4日連続で100年間で最悪と言われる雪とハリケーン級の強風に見舞われ、少なくとも27人が死亡した。5大湖の一つ・エリー湖の水が吹き上げられ、湖岸の美しい家々は、かぶった波しぶきが一瞬にして凍り付き「氷の家」と化してこの世の物と思えぬ不気味な光景を現出した。ウィスコンシン州ギルズロック、こちらはミシガン湖に面していて同じ異様な光景が話題になっている。
「冬将軍」の語源を生み出した世界で最も寒い国ロシアの年末年始は記録的暖冬であったが、これが急変し強烈な寒波が襲った。1月9日にはロシア連邦サハ共和国オレニョークで-60.0度で54年ぶりのマイナス60度台を記録、北部各地で1月最低気温記録を塗り替えた。モスクワでは1月1日最高気温が3月下旬並みの6.2度まで上がり、観測史上もっとも暖かな元日だったが、8日朝には、モスクワで-23.0度まで気温が急降下、1週間で30度近くも気温を下げる異常事態となった。
此の寒気団が偏西風に押されて東へと移動、中央アジアやモンゴル、中国などに広がりを見せ、中国では1月22日には過去最低気温を記録した。中国北部にある黒竜江省の都市、漠河の気温は(‐53度)に低下、これまでの最低気温1969年の(‐52.3度)を超え、遂には日本列島に異常寒波が襲来したのである。
この様な異常気象は偏西風の(極端な蛇行)が一定期間継続することにより発生すると考えられているが、偏西風の極端な蛇行の原因は、南米沖海面水温の高・低が一定期間継続して起こる「エル・ニーニョ、ラ・ニーニャ」現象や、北極の温暖化によると言う研究結果が報告されている。
気象庁は11日、南米沖太平洋の海面水温が低くなる「ラニーニャ現象」が昨年9月頃から発生し12月も継続、ラニーニャ現象を規定する基準の6か月を超えたとの監視速報を発表した。これで3年連続のラニーニャ現象の現出である。 ラニーニャ現象は貿易風が平常時よりも強くなり、ペルー沖の暖かい海水がインドネシア方面に吹き寄せられ、その結果冷たい湧昇流が平常時より強まりペルー沖の海水温が低下する現象だが、この結果インドネシア赤道付近で暖かい海水がより厚く蓄積する為、この地域で空気の対流活動が活発になり、強い上昇気流・積乱雲が発生する等の影響で、上空を流れる偏西風が、インドやチベット付近で北へ、日本付近ではその反動で南へ蛇行し、それが一定期間継続する為、日本に北極圏の寒気団が流れ込み易くなったのである
もう一つ指摘されているのは北極圏の温暖化の影響である。
北極の平均気温は世界の他の地域に比べて2倍もの速さで毎年上昇している事が観測されている。
又南極は大陸に降った雪が凍って数千m規模の分厚い氷床に覆われた形になっているが、北極にはそのような大陸が存在せず、大部分は海水が凍って厚さ数mの海氷が海(北極海)に浮かぶ形になっている。(従って南極の氷は淡水、北極の氷は塩水である。)
地球温暖化により上昇した太平洋起源の海水はベーリング海峡から大陸棚上を経由した後、北極海の中央部にかけて海氷にとって一種(床暖房)のような暖かい層を作る様に流入し、北極の氷を解かす作用をしている。
アラスカ沖、北極海の海氷が観測史上最も少なくなっており、海氷に大穴が空いてその上空の気温が観測史上最高となっていることが確認された。
三重大学の気象学研究チームは、この「海氷の巨大な穴」を「暖穴(warm hole:ウォームホール)」と名付け、これが日本を含めたアジア地域の記録的寒波の遠因になったという説を提唱している。
北極海にできたこの暖かなスポットは、北極上空に高気圧を生み出す。すると偏西風がこの暖穴に引き込まれるように蛇行し、歯磨き粉のチューブの真ん中を押しつぶしたように、北極の寒気を両サイドへ押し出し、これによって北極の寒気団が(アジア地域)と(北アメリカ地域)において通常より南下し、2つの地域に強い寒波をもたらすというものである。
また北極海の暖穴は、南風を引き込むと同時に温かい南の海水を引き込んでしまうため、温かな状態を長期間維持するようになると述べている。
この三重大学の研究は北極海アラスカ沖の海氷激減が、中緯度の異常気象をもたらす可能性を示唆する仮説であるが、地球温暖化に伴い、更に北極の暖穴は拡大することが予想され、今後も日本や北米に今冬よりも強い寒波が襲来する可能性を残していることになる。。
ドイツの気候変動ポツダム研究所よれば、北極寒気気団は通常「極渦」と呼ばれる強力な気流の渦によって極地域に閉じ込められているが、この極渦が弱まると寒気が南下し始め、中緯度地域に異常な降雪や寒波をもたらすと主張している。更に偏西風の蛇行が寒気の南下を加速しているとも述べている。 研究所の説明によると、極渦を生じさせているのは、北極圏と中緯度地域の温度差で、以前はこの差が明確だったが、北極の気温は近年、世界平均の倍の上昇を示し、中緯度との温度差が不鮮明になって居り「極渦」による寒気団の閉じ込めが緩むことが多くなっているというのである。
一方偏西風の蛇行はヨーロッパ各国に大きな恩恵をもたらした。
元々ヨーロッパ北西部は高緯度に在りながら夏は左程気温が上がらず、冬も気温が左程下がらないという温暖な「西岸海洋性気候」に恵まれているが、これはヨーロッパ上空に一年中,西から強い偏西風が吹いて居り、大西洋の暖流上の温かい空気を大陸に運び気温や降水量の年較差を小さくする働きをしていたのである。
この偏西風が世界的な蛇行の影響を受け、欧州では北に押し上げられた為、記録的な暖冬となったのである。
ドイツ気象局は元旦の気温が16度と1月の過去最高気温の記録を更新したと発表した。又英BBC放送などによると、ポーランドのワルシャワは18.9度、ベラルーシでは16.4度と、1月の過去最高をそれぞれ4度と約4.5度上回ったという。スイスでは気温が20度まで上がり、スキー場の雪不足で人工雪でかろうじて営業を続けているが観光客の予約キャンセルに悲鳴を上げている。
(註:ドイツ・ベルリン、ワルシャワは北緯52度、米・アラスカ州、ロシア・樺太・カムチャッカ半島に匹敵する。)
スペイン南部マラガでは一月早々気温が20℃にも達し、季節外れの暖かさを楽しむ人達でビーチが賑わっており、更に北部のビルバオでは元日に25.1℃を観測、平年より10℃以上高く、7月の平均気温と同じぐらいだと報じられている。異例の暖冬はヨーロッパ各国で起こっていて、オランダやデンマークなど8カ国で1月の観測史上、最高気温を更新し、ウクライナでも気温の高い日が続いていて首都キーウ(キエフ)では1日の平均気温が10度を超え、1月としては記録的な暖かさとなった。地中海の都市には元日に夏日(25℃)となったところもある
此の暖冬はスイスのような事例を除き、欧州に大きな恵みをもたらした。天然ガス消費の抑制に繋がったのである。EU統計局によると、昨年10月におけるEUの天然ガスの域内消費量は、ロシアからの天然ガス供給絞り込み対応の為の消費節減努力の効果もあって、前年比23.2%減と、3カ月連続でマイナス幅を拡大させた。そこに暖冬により暖房の必要性が減ったことで消費実需減とガスの在庫枯渇の警戒感が和らぎ、ロシアによるウクライナ侵攻で高騰を続けていた天然ガスの価格が、昨年2月の侵攻開始前の水準まで急落したのである。欧州の天然ガス指標のオランダTTFは供給不足への懸念から8月には一時メガワット時あたり340ユーロ強まで上昇していたが、此処に来て約72ユーロと、ロシアのウクライナ侵攻前の水準(約84ユーロ)を下回った。
ウクライナでは国営の(電力網運営会社ウクレネルゴ)が、エネルギー消費量の減少を報告。同国政府のアントン・ゲラシェンコ内相顧問は1日のツイートで、「プーチンはウクライナの同盟諸国を凍えさせてウクライナを倒そうとしたが、気候もこちらの味方だ」とぶち上げ、プーチンは天候にも見放されていると気炎を上げている。
光熱費の上昇一服は、高止まりが続いた欧州のインフレが和らぐ可能性が出て来たと明るい兆しを好感する見方が増え始めている。
一方「貴重な収入源」を失ったロシアは大誤算で戦争継続にも疑問符が投げかけられている。
ロシアの国家財政は戦費急増で急速に悪化した。昨年10~12月期の連邦ベースの財政収支は▲3兆3608億ルーブルと、赤字幅は7~9月期(▲1兆3192億ルーブル)から1.5倍に増えた。前年比でも、昨年10~12月期の赤字幅は一昨年から2倍に膨らんでいる。これを克服する為ヨーロッパへのガス供給の再開を持ち掛けている。しかしEUはロシアの提案には乗らない公算が大きい。EUはこの間、天然ガスの使用量の削減に取り組むとともに、ロシア以外からの天然ガスの調達を増やしてきた。EUの天然ガスの脱ロシア化は、ロシアの想定以上のペースで進展しており、米国産を中心とする液化天然ガス(LNG)の輸入は、地中海や大西洋に面した国々を中心に、着実に増加しているのである。温暖化対策に注力するEUは、(脱炭素化)と(脱ロシア化)の両立を図り、謂わば「二兎を追う」戦略に出たわけだが、脱ロシア化の観点からすれば、少なくとも今年の冬に限っては温暖化がプラスの方向に働くという皮肉な結果となったわけである。

1月9日ロイター通信は、南半球、夏のオーストラリアでは年初から-「100年に1度」とされる大規模な洪水に見舞われ、西オーストラリア州キンバリーでは、数日のうちに1年分の降雨が観測され、被害が広がっていると伝えている。同じくニュージランドや南米ブラジルでも集中豪雨による洪水、地滑りで家屋が倒壊し、停電や断水等インフラも大きな被害を受けたと報じている。

偏西風の蛇行は高気圧や低気圧の移動速度を遅らせる「ブロッキング現象」を生み、天気の変化を遅くさせる。この為何時までも豪雨や寒波が去らない為、集中豪雨、異常寒波等の異常気象に繋がるのである。
只偏西風の蛇行形態も一つではなく、その発生原因も地球温暖化が影響している可能性が大きいが、明確に解明された訳ではない。我々が出来ることは温暖化をこれ以上エスカレートさせない様な努力が必要だと言う事だろう。
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