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映画・演劇のレビュー

『臍帯』

2014-02-28 22:48:10 | 映画
 始まってから15分間まるでセリフがない。そのほとんどは、少女がある家を外からずっと見ているだけの描写。彼女が何者でなぜそんなことをしているのか、わからない。遠くからみつめる。家の中の会話がかすかに聞こえるシーンもあるけど、ことさらそれを聞かせる気はない。特に重要なことを話しているわけでもない。ただの、日常会話だ。彼女は雨の日も、風の日も(あっ、これは慣用句のようなものね)、もちろん天気のいい日も、木陰から様子を窺う。

 彼女の視線に曝される家族は父親と、母親、中学生くらいの娘の3人暮らし。幸せそうな風景が垣間見える。ただ、母親だけはなんとなく、誰かの視線を感じているようで、時々、外を窺う。見つめている少女の表情には感情が見えない。少女といっても、20歳前くらいか。ようやく話が動き出すのは、登校途中のその家の娘に彼女が声をかけるところからだ。学生服を着た彼女が娘を連れだす。そして、拉致する。映画はここから始まる。

 拉致された娘を監禁する。彼女が壊れていくまで、何もしないで放置する。なぜ、こんなことをするのか、一切知らさない。ただ、そこに置き、食料も水も与えない。5日間で、衰弱し、意識を失う。そこで、ようやく、解放する。その間、誘拐犯である彼女もまた、同じように食料も水も飲まない。

 説明(ここでも、一切セリフはない)は、始まって1時間くらいのところで、描かれる。これはもしかしたら実話をモデルにした映画なのか。ドキュメンタリータッチの描写がそんなふうにも思わせる。でも、この話には説得力はない。説明しないことが原因ではない。でも、「衝撃のラスト」も含めてあまり説得力がない。観念的な映画ではない。だが、リアルでもない。作者の意図がどのへんにあるのか、それが定まらないのだ。

 主人公の痛みをあのラストは集約しない。2度も母親から殺される少女がそれでも母親の愛を求める痛ましいシーンを見ながら、ウソだろ、としか思えないのがつらい。独自の文体で作品全体のトーンを貫く橋本直樹監督の美意識は伝わるけど、それが作品の力にはなりきらないのが惜しい。108分間緊張は貫かれた。でも、それだけでは、せっかく映画を見たのに、しんどかっただけ。


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